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ゲーム音楽プロ交響楽団「JAGMO」の衝撃 – ゲーム音楽の転換点になるのか

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■JAGMOがもたらしたものは何か

▲公式Twitterより

ゲーム音楽は、ゲームを構成する他の要素(ストーリー、キャラクター、操作性など)に比べると、評価はおざなりにされがちでした。というのも、ゲームは視覚的表現が中心で、リズムゲームなど特定のジャンルを除き、音楽は副次的な要素に過ぎなかったためです。特に、格闘ゲームのように操作が忙しかったり、言語による表現の多いRPGでは、そのBGMを能動的に集中して聴くということは、なかなか難しいのではないでしょうか。

しかしながら、ゲームハードの性能向上によって豊かな表現ができるようになり、次第に名曲と呼ばれる作品が生まれるようになりました。(余談ですが、ゲームハードと音楽の歴史については、『ゲーム音楽史 スーパーマリオとドラクエを始点とするゲーム・ミュージックの歴史』という本で詳しく解説されており、興味のある方にはおすすめです。)

ゲーム音楽のオーケストラコンサートは1980年代に始まったといわれています。その頃はまだ、アマチュア奏者によるオーケストラが多く、音楽的な完成度というより、演奏を通してそのタイトルの思い出をシェアすることを目的に親しまれてきました。

私自身、そういったコンサートに行ったこともありますが、アットホームな雰囲気で、こじんまりとしたオンリーイベントの一種という感じだったように思います。有名なオーケストラがゲーム音楽を演奏してくれることもありましたが、せいぜいプログラム中の息抜きだったり、1年に数回程度のイベント公演という扱いで、結局、それは主流とはなりませんでした。

こういった変遷を鑑みると、「ゲーム音楽プロ交響楽団」と名乗るJAGMOが、いかに異色の存在かということがわかるかと思います。しかも、メンバーは毎回オーディションで選ばれており、国内トップレベルの若き音楽エリートたちが集結しています。

その圧巻の演奏に聴衆は拍手喝采、「ブラボー!」という声と共に涙を浮かべる人もいるほどです。聴衆は、クラシック音楽にはあまり馴染みがなさそうな若い人たちです。にも関わらず、聴いた人をこれほどまでに夢中にさせるのは、一体何なのでしょうか。JAGMOのコンサートしか味わえない、あの深い感動は、決して、高度な演奏技術だけによるものではない。そう思えてならないのです。

 

■ゲームを聴く、という新しい体験

▲JAGMO プレスリリースより「演奏シーン」

一般的に、ゲームは視覚を通じて遊ぶものです。特に、RPGは多数の言語表現も含まれます。一方、音楽は聴覚で楽しみ、目を閉じても聴くことができます。この違いを踏まえた上で、JAGMOは、音楽(聴覚)でゲームをプレイするという全く新しい体験を聴衆にもたらします。

JAGMOのコンサートでは、『FF』、『ポケモン』、『ゼルダの伝説』、『モンスターハンター』、『大神』といった名作が、テレビ画面ではなく、オーケストラの演奏というかたちで映し出され、聴衆は目ではなく、耳を使って“プレイ”していくのです。

たとえば、公演で高い人気を誇る『クロノ・トリガー』では、剣士カエルの曲「カエルのテーマ」と、魔王との戦いに流れる「魔王決戦」という曲が一連の繋がりをもって編曲されています。これは、親友の敵を討とうとするカエルと、古代から悲しい過去を背負ってきた魔王という、二人の因縁がダイナミックに表現されたもので、原作ゲームを尊重するJAGMOならではの粋なアレンジです。

このような工夫は編曲・演奏の随所に見られ、特に戦闘曲は緊張感のある演奏で、私たちがコントローラーを握りしめて戦った激闘を再現してくれます。クラシックに疎くても、その演奏に誰もが夢中になるのは当然なのかもしれません。聴衆は皆、クラシック音楽のことは知らなくても、ゲームを遊ぶことは大好きな人たちなのですから。

原作となるゲームを知らなくても、コンサートは十分楽しむことができます。主人公が草原を駆け抜けているシーン、荒野をさまよっているところ、緊張のボス戦、そして、大勝利。言葉やキャラクターが出てこなくとも、演奏を聴けば、どんなストーリーなのか、何をテーマにした作品なのかが、心からよくわかるからです。演奏が終わった瞬間、まるでエンディングのスタッフロールまで見終わったような満足感でいっぱいになります。これが、音楽でゲームをプレイするという体験なのです。

ゲームのBGMを、ただ豪華にアレンジしただけのコンサートは眠くなるばかりです。特定のゲームファンしかわからないような閉じられた演奏会もそれほど楽しいものではありません。しかし、JAGMOは、これまでのオーケストラ公演にはなかった、全く新しいゲーム体験を音楽で実現させました。その意味では、彼らを“楽器を持ったゲームクリエイター”と言っても過言ではないでしょう。

 

■JAGMOとわたしたちのこれから

JAGMOには、パトロネージュプログラムというファン向けのプログラムがあることをご存じでしょうか。年会費を支払うと、芸術の支援者パトロネージュ(パトロン)として、JAGMOの活動を支えるメンバーになることができます。本稿の始めに書いたとおり、クラシック音楽は収益化が非常に難しい分野ですが、ファンが音楽家を直接支援できれば、少しずつ状況が変わっていくのかもしれません。

収益という点では、物販も充実してきたようです。最近では、当日のコンサートを録画した映像をオンラインで閲覧できる「テイクアウトライブカード」が販売されるようになりました。動画配信に慣れている世代に向けたサービスですね。また、パンフレットは、アーティストの紹介と共に、びっしりと解説が書かれるようになりました。

ただ、その内容は原作ゲームの紹介に終始しており、わざわざ会場で買い求めるほどのものではありませんでした。(ゲームのことが知りたければ、wikiや実況動画を見れば十分です) ゲーム作品の解説も多少は必要だとは思いますが、音楽による新しいゲーム体験こそが、JAGMOをJAGMOたらしめているのですから、選曲理由、技術的な解説や、専門の批評家によるライナーノーツといったコンテンツのほうが相応しいのではないでしょうか。和楽器や虫笛など珍しい楽器が使われることもあるのですが、パンフレットには解説がないため、演奏後も疑問が残ってしまうということもありました。

かつて、ゲーム音楽は、ゲーム自体の添え物であり副産物でしかありませんでした。それが今や、ゲームから生まれた新しい芸術にまで昇華されたのです。これは、ぜひともゲーム業界全体で支えていってほしいと思います。

現在、JAGMOは面白法人カヤックの支援を受けてはいますが、ゲーム業界各社の協力がまだまだ必要です。そのひとつに、楽曲提供における手続きの整備が挙げられます。楽曲の中には、ファンに愛されつつも、著作権の所在が不明なままで、演奏することができないものもあるのです。作曲者と連絡が取れなくなってしまったり、権利を保有していた法人が業界再編によって消滅してしまったことが原因なのですが、提供時の価格や楽曲の取り扱いにおける制度について、業界全体での標準化が望まれています。

ゲームは今、テレビ画面、あるいはスマートフォンの枠を飛び越えていこうとしています。メディアミックス、リアルイベント、演劇やミュージカル、ファッション、そして音楽。どれも、ゲームの思い出を再生するだけの単純な装置ではありません。そこには、芸術家の価値観の発露があり、新しい体験があります。芸術が、ゲームの世界をどんどん広げていく。一人のゲームファンとして、これほどワクワクすることはありません。

 

 

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神谷美恵

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1984年生まれ。立教大学 社会学部 卒業後、富士通マーケティングに新卒で入社。その後、ITインフラ・クラウド事業を行う企業でサービス企画、 プロジェクトマネージャーに従事。趣味はガンダム研究とゲーム全般。(illust 黒川依)

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