「IP」とは何か…『グランブルーファンタジー』に学ぶIPマネジメント戦略

IPとしての『グランブルーファンタジー』

『グランブルーファンタジー』は2014年3月にサービスを開始しました。今思えば、その頃からコンセプトは非常に明快でした。「君と紡ぐ、空の物語」というキャッチフレーズに、西洋風の甲冑に身を包み、剣を手にした主人公と騎空挺のビジュアル。古き良き時代のファンタジー作品であることは一目瞭然だったのです。

さらに、キャラクターデザインには皆葉英夫氏、音楽は植松伸夫氏が起用されたことも注目されました。言うまでもなく、両氏ともに『FF』シリーズに深く関わってきた有名クリエイターです。二人の名を聞いたとき、当時のゲームファンならば、誰しもこう思ったはずです。「『FF』に匹敵するRPGが、遂にスマホに来たぞ」と。

結果としては、『グランブルーファンタジー』は、その期待を裏切らない出来映えでした。メインストーリーだけでもかなりの量ですが、個々のキャラクターにもみっちりと物語が書き込まれています。また、キャラクターの多くがフルボイスで感情豊かに話し、とても魅力的です。ゲームシステム自体は典型的なソーシャルゲームではありますが、ストーリー重視という点においては、『FF』をはじめとする、名作RPGに比肩する随一のスマホタイトルと言っても過言ではないでしょう。

『グランブルーファンタジー』が今の地位を得た最大のきっかけは、2015年の東京ゲームショウでした。当時最大小間数のブースを構え、騎空挺「グランサイファー」の巨大な展示はファンの度肝を抜く完成度でした。(驚くことに、グランサイファーは実際に来場者を乗せることができたのです。) また、現在放映中のアニメ版は、この時に制作発表が行われ、ファンの熱狂はまさに最高潮に達したのでした。

更に、来年はシリーズ新作『Project Re:Link』がプレイステーション4で展開される予定です。アクションゲームを得意とするプラチナゲームズが開発を担当するということもあり、ファンの期待度はますます上がり続けています。

 

IP育成における5つのエッセンス

このように怒濤の3年間を経てきたわけですが、IPを強化するためのポイントをしっかり押さえながら展開されていたように思います。もちろん、これほどのIPが短期間で形成されることは非常に稀なのですが、そのエッセンスだけでも、私たちが学ぶべき点があるのではないでしょうか。

1.明確で強烈なビジョンがターゲット層に伝わっている

前段で書いたとおり、本作はコンセプトが明確で、ゲームファンには「『FF』に匹敵する王道RPGをスマートフォンで提供する」という強烈なメッセージとして伝わりました。ストーリー重視のRPGは他にあったものの、この強力な意思表示の前に、早々に立ち消えてしまった感じがあります。その結果、「スマートフォン向けの正統派RPG」という認知に結びつけられ、早い段階で競合タイトルの遙か上を行くことができたのです。

2.ビジョンを実現するための組織、技術、計画を示している

いくら崇高なビジョンを打ち出しても、それが実現できそうになければ、ただの売り文句だと思われてしまいます。その点では、皆葉氏・植松氏の参加は、ビジョンを強力にエンドースするものとなりました。ユーザーにとって、新規IPは未知数で高リスクです。(企業にとってもそうですが) しかし、ビジョンがハッタリではないことを証明するエンドースメントがあれば、不安を一挙に期待へと変換することができます。

3.ビジョンが、ユーザーの希求に応えるものである

これは単にニーズを満たすという話ではありません。社会情勢や世代によって、ゲームとの関わり方は細かく異なります。たとえば、東浩紀氏が指摘したように、ゼロ年代以降はデータベース(非物語の集積)消費という受容のされ方が顕著です。一方で、今でもゲームに物語を求める人は相当数いて、「世界観に没頭したい」「キャラクターに隠された設定をもっと知りたい」という希求が置き去りにされていたのではないでしょうか。この希求に対して、『グランブルーファンタジー』は見事に応じました。ソーシャル型のゲームシステムに、膨大な物語が格納された世界観を融合させることで、現代のコンテンツ受容に即したゲームとなったのです。

4. あらゆる接点で、ビジョンが徹底されている

ゲームはもう、それだけでは完結できないものとなりました。メディアミックス、リアルイベント、マーチャンダイジングといった様々な方面へ、画面の枠を越えていく時代なのです。『グランブルーファンタジー』にはアニメ版、小説版、マンガ版がありますが、世界観も話の大筋もほぼ同じです。安易な変更をせず、物語に矛盾が生じないように配慮された結果でしょう。ファンは、作品の至るところを読もうとします。ですから、どこに触れられても、必ずファンとの約束を守れるように、ビジョンや世界観が貫通していなければならないのです。

5. 熱狂を生み出し続けている

ファン(fan)は狂信者を意味する「fanatic」の略であることをご存じでしょうか。IPには、まさに熱狂が不可欠です。活気が不足すると、知名度・連想・ロイヤルティの全てが薄まってしまうからです。IPは常に、クリエイティブで、情熱的で、業界を驚かせ、心惹かれるものであり続けなければなりません。その点では、『グランブルーファンタジー』にとって、2015年のTGS出展は非常に意味深いものでした。テーマカラーである青色を基調とした広大なブースは、巨大な騎空挺「グランサイファー」を中心に、まさに物語の世界を再現しており、感動的ですらありました。どう考えても採算度外視の内容に、Cygamesの並々ならぬ情熱を誰もが感じ取ったことでしょう。

その後も、「1000万円プレゼントキャンペーン」やオーケストラコンサート、コンシューマーゲームへの展開など、ファンの期待を超えた施策を次々と打ち出しています。

重要なのは、このステップは、その前の4つを全て満たしていることが前提だということです。ビジョンもメッセージも信憑性もないのに、ただ人を集めて騒いでいるだけでは何の効果もありません。最近はインフルエンサーマーケティングなどというバズワードもありますが、PVや来場者数のスパイクをむやみに作ったところで、ユーザーのロイヤルティが高まることはないのです。

一丸となって理解し、守り、育てる

優れたIPの持つ力は絶大です。にも関わらず、その価値に対する理解はあまり進んでいないように思います。その原因は、IPは目に見えないもので、その効用をなかなか数値で示せないという点でしょう。しかも、育成にはかなりの手間と時間がかかります。確かに、投資対効果を考えると、なかなか注力しづらいのも無理はありません。

これまでは、プロモーションやマーケティングの担当者が、その良心でIPをマネジメントしてきました。しかし、担当者レベルでできることは限界がありますし、定量的な成果を報告できなければ、自身の評価に繋がらないかもしれません。むしろ、手っ取り早く効果を測定できる施策ばかりに目が行ってしまい、IPを理解し、守り、育てるという大事な役割が放棄されてしまうことすらあります。

放置されたIPでは、ユーザーとの約束を守ることはできません。そして、一度でも約束を違えてしまうと、どれほど著名なIPでも転げ落ちるように、その力を失います。IPとはとてもデリケートな資産なのです。だからこそ、担当者に管理を丸投げするのではなく、組織と階級を越えて共通の理解をもち、協力して育てていくことが重要です。







ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ。立教大学 社会学部 卒業後、富士通マーケティングに新卒で入社。その後、ITインフラ・クラウド事業を行う企業でサービス企画、 プロジェクトマネージャーに従事。趣味はガンダム研究とゲーム全般。(illust 黒川依)