エンゲージメントの死角と消極的なニーズ 『アナザーエデン』と『ファイトリーグ』を結ぶ共通点

2017年6月22日(火)に開幕宣言イベントで初公開となった『ファイトリーグ』。ミクシィ・XFLAGスタジオの新作ゲームアプリです。もうすっかりハマってしまったという人もいるかもしれません。

事前登録が始まった頃は、開幕宣言の日にゲームシステムやキャラクターといった情報が公開になるのかしらとのんびり構えていましたが、当日に正式リリースが発表され、ゲームファンには嬉しいサプライズとなりました。正に、XFLAGスタジオが掲げる「サプライズファースト」の実践だと言えるでしょう。

ゲームが成長できるのはたった25週間

XFLAGスタジオといえば、何と言っても『モンスターストライク』です。2014年5月、App Storeのゲームセールスランキングで、かの『パズル&ドラゴンズ』を逆転して初の1位を獲得しました。当時ずいぶん話題となりましたが、それも遠い記憶となってしまうほど、今や不動の人気を誇っています。

『モンスターストライク』がリリースされた2013年と比べると、スマートフォン向けゲームタイトルの寿命はかなり短くなってしまいました。App Annieの調査では、スマホゲームのタイトルが成熟するまでにかかった時間は、2013年ではだいたい100週間(約2年間)だったのに対し、2015年は25週間(約6ヶ月)まで短縮しています。ここでいう「成熟」とは、そのスマホゲームタイトルの累計ダウンロード数が、市場の潜在的な需要の推計値の90%に達した段階を指しており、つまり、これ以上新規ユーザーを獲得するのは難しい、というような状況です。2012年以降、「成熟」するまでの時間は急激に短くなっており、今ではさらに短くなっているのかもしれません。

成熟期間の短縮は、スマートフォン向けゲームタイトルを抱える業界各社を大いに悩ませています。なにせ、新作をローンチしても、6ヶ月後には新規ユーザーの獲得が難しくなり、プロダクトの成長曲線はすぐに右肩下がりに陥ってしまうのです。収益を拡大するためには、次々と新作をリリースし続けなくてはならず、開発コストが高騰する中で常に複数のパイプラインを維持せざるを得ないという難題がつきまといます。

さらに困ったことに、各社が新作をどんどんリリースするので、競争はますます激化し、成熟期間の短縮に拍車を掛けています。市場規模は順調に拡大しているのにも関わらず、「ユーザーが増えない」「離脱が減らない」という運営側の嘆きが聞こえてくるのは、こういった負のスパイラルが原因なのかもしれません。

「協力」×「競争」=エンゲージメント

しかしながら、このレッドオーシャンをしぶとく生き残ってきた長寿タイトルが出現していることもまた事実です。そのひとつに、サムザップの『戦国炎舞 -KIZNA-』があります。同作は『モンスターストライク』と同じ2013年にサービスを開始し、メディアミックスのような派手な動きはないものの、ゲーム内施策をしっかり行うことで人気を維持し、今でもセールストップ10にランクインすることは珍しくありません。

長寿タイトルには、ユーザー間の協力と競争を生み出す仕組みが、よく機能しているという特徴があります。協力プレイは『モンスターストライク』の“ワイワイ”遊ぶというコンセプトそのものですし、『戦国炎舞 -KIZNA-』はタイトルにもあるようにギルドを介したコミュニティ(絆)とバトルを主軸としたゲームです。

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長寿タイトルで培われたノウハウは、最近のタイトルでも活用されています。先日リリースされたポケラボの『SINoALICE(シノアリス)』では、他のプレイヤーとの共闘やチャット、あるいはギルドへの加入を促す施策が成されており、鬱々としたストーリーとは裏腹に、コミュニケーションと協力を重視した設計となっています。ギルドバトル「コロシアム」も実装が予定されており、今後はユーザー同士の競争を生み出す施策を講じていくことになるのでしょう。

競争を生み出すためのゲームシステムは年々進化を続け、e-sports(競技)としての楽しみ方を重視したタイトルが増えてきています。たとえば、DeNAの『逆転オセロニア』は、オセロをモチーフとしたPvPの対戦ゲームです。ルールは簡単ですが、戦略性は高く、強いキャラクターを揃えるだけでは勝つことのできない難しさが肝となっています。また、「オセロニアン道場」という比較的小規模なオフラインイベントを頻繁に開催しており、実際に会って一緒に遊ぶという体験を提供し、コミュニティの形成を促進しています。

ユーザー同士の協力と競争は、そのゲームタイトルに対してもっと遊ぼう、もっと積極的に関わろうという「やる気」を高めます。ギルドに参加すれば、やはりギルドバトルに参加しなくちゃ、という気持ちになりますし、対戦で勝ちたいと思えば、お金を払って強いキャラクターや武器を手に入れようとするかもしれません。このようなユーザーの心の動きは、離脱率の減少、ARPUの上昇というかたちで表れます。これがいわゆる「エンゲージメント」というもので、タイトルへの愛着をいかにしてロックインするかということが、マーケティング担当者にとって最近の関心事となっています。

「自分にはムリ」という体験

6月14日(水)から16日(金)にかけて開催されたE3で、ガンホー社長の森下一喜氏は、競争激化の一途を辿るスマートフォンゲーム市場を「ブラックオーシャン」だと言い、新しい遊び方をいくら提案しても激しい市場の波にあっという間に飲まれてしまう状況であることに言及しました。

 「スマートフォン市場はブラックオーシャンです」と森下氏は語る。「ですので,もしあなたが小石か黒い石を投げ入れたとしても,水に入るとすぐにそれはどこにあるのか分からなくなってしまいます。あなたには見えません。それがモバイルゲームにとってのスマートフォン市場です。 出典:gamesindustry.biz japan edition (2017/06/23)

そのような環境下で生き残るには、各社とも安定した収益基盤の構築が最重要課題であり、日夜ユーザーのエンゲージメント向上のため、施策に勤しむこととなるわけです。

エンゲージメントの向上は、マーケティングとしてはもちろん重要です。が、ここでちょっとした疑問が生じます。それは、「エンゲージメントとトレードオフとなるものはあるか」ということです。エンゲージメントを高めることができれば、ユーザーはそのゲームタイトルに定着し、長く遊んでもらうことで継続的な収益を得ることができるでしょう。ですが、本当にそれだけでしょうか。ユーザーのエンゲージメントを獲得した一方で、何某かの損失をしてはいないでしょうか。

エンゲージメントを求めるということは、ユーザー側からみれば多かれ少なかれ「エンゲージさせられる」ことに他なりません。ユーザー同士でワイワイ遊んでもらおうという施策は一見楽しそうではありますが、「コミュニケーションはできれば避けたい」と思っているユーザーにとってはありがた迷惑でしかないのです。

ギルドバトルや対戦といった競争要素も、ユーザーが限界を感じる瞬間があります。これまでは時間やお金をかければゴリ押しできた部分もありますが、e-sportsのような、より競技的なバトル制度ではそれも難しくなります。動体視力、記憶力、判断力といった個人の能力がゲーム内での実績に色濃く反映されるので、ゲームがあまり上手ではない人はすぐに壁に突き当たることになるからです。

ユーザー同士の協力と競争は、それぞれの仕組みがきちんとかみ合えば、そのゲームに対するユーザーのエンゲージメントをそれなりに高めます。一方、ユーザーが少しでも「自分にはムリ」と思えば、どれほど施策を講じても、エンゲージメントは確実にゼロになります。そうなれば、ユーザーは何の躊躇もなく、そのアプリを削除してしまうでしょう。みんなは盛り上がっているのに、自分だけ強くなれないなんて、ストレス以外の何者でもないのですから。

極めて消極的な“はぐれた”ニーズ

同じような状況は、たとえば、宴会やパーティでも起こりえます。アルコールは嫌いではないけれど、大勢の(特に見知らぬ)人が参加する宴会やパーティは苦手、という人もいるかもしれません。実は、私もそのひとりです。

さっさと欠席できれば楽なのですが、どうしても断りづらい宴会やパーティはやはりあるものです。そういう時は渋々参加し、会場の隅で極力目立たないように過ごすのですが、残念ながら楽しい時間ではありません。周りは盛り上がっているのに自分だけ輪には入れず、頑張ったところで、隣の人と途切れ途切れの会話をするのがせいぜいなのです。まさに「自分にはムリ」という状況です。さらに、全員参加のレクリエーションが始まるようなことがあれば、それはもう最悪です。幹事の人は、もっと交流が深まるようにと工夫してくれたのでしょうが、私のパーティに対するエンゲージメントは、ゼロどころかマイナスになってしまいます。

キャンペーンもファンイベントも動画配信も、行き過ぎた施策はユーザーにとってストレスにしかなりません。運営が想定するような理想的なユーザーが大多数かもしれませんが、「ゲームを楽しみたいという気持ちはあるけれど、コミュニケーションも競争もあまり得意ではなく、かといって、人並み以上に練習したり、お金をかけたいとは思わないし、できれば放っておいてほしい」という、私のような極めて消極的なユーザーもそれなりにいるのではないでしょうか。大多数のユーザー層から少しはぐれた人たちです。

エンゲージメントを高める施策は、この“はぐれた”ユーザーたちを十把一絡げにして行われてきました。運営やマーケティングの担当者たちはKPIが好ましい結果になって満足しているかもしれませんが、彼らは私たちにエンゲージメントを求めるわりには、「気が向いたときだけ遊びたい」「自分のペースで進めたい」「ひとりでゲームの物語に没頭したい」というはぐれたニーズには、ちっともエンゲージしてはくれないのです。





ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ。立教大学 社会学部 卒業後、富士通マーケティングに新卒で入社。その後、ITインフラ・クラウド事業を行う企業でサービス企画、 プロジェクトマネージャーに従事。趣味はガンダム研究とゲーム全般。(illust 黒川依)