エンゲージメントの死角と消極的なニーズ 『アナザーエデン』と『ファイトリーグ』を結ぶ共通点

過去最高に消極的な運営姿勢

こういった“はぐれた”ユーザーがゲーム運営者の目に留まらないのは、数字のインパクトをもたらさないからでしょうか。しかし、それがそうでもないのです。

実は、消極的なニーズに応えつつ、収益をきちんと生み出しているタイトルがあります。Wright Flyer Studiosの『アナザーエデン』です。

『アナザーエデン』は、2015年の東京ゲームショウでプロデューサー兼ディレクターの高大輔氏が「ソーシャルゲームをやめてみた」と発言していたとおり、シングルプレイ専用のRPGです。ギルドもフレンドもランキングもなく、最後までプレイヤーひとりで遊ぶことができます。これだけでも革新的な作品ですが、本稿で注目したいのは、エンゲージメントを求めない運営方針です。

『アナザーエデン』にはホーム画面がありません。アプリを起動すると、タイトル画面が表示され、すぐにアクション可能なプレイ画面へ切り替わります。その間、ゲーム内キャンペーンや「クロノスの石」(有償通貨)のセール情報は全く表示されません。イベント告知はメニュー画面のお知らせボタンに「!」マークが表示されるだけですし、月に一度「クロノスの石」が割安となるセールもゲーム内で特に通知はありません。一般的なスマートフォンゲームなら全力でポップアップしてきそうな情報でも、『アナザーエデン』ではメニュー画面の片隅に置かれ、決してプレイの邪魔にならないように設計されています。これは「お知らせに興味が無いので見たくない」という消極的なニーズに対する配慮にほかなりません。

レビューで「運営大丈夫なの?」と心配の声が挙がるほど静かな運営ですが、4月12日にリリースされて以来、App Storeゲームカテゴリでセールスランキング最高9位を獲得しています。最近でも普段は40~70位前後をキープしており、キャラクターやストーリーが追加されると10位前後まで浮上してきます。

なぜ『アナザーエデン』は、派手な施策をしていないのに人気を維持できているのでしょうか。その理由のひとつは、同作が消極的なプレイヤーに優しいゲームだからなのかもしれません。競争も協力も発生せず、毎日ログインさせることもしないので、安心して自分のペースでストーリーを進めることができます。外伝が追加された時は、面白そうなら遊べばいいですし、期間限定ではないので、今すぐ遊ばなくても何も損をすることはありません。

加えて、ゲーム内で課金をすると、きちんとお礼のメッセージが表示されることも、同作の特長です。

「みなさまに愛される最高のゲームにしていきます。」
普段はちょっと影の薄い運営(スタッフ)ですが、このメッセージだけは明確にユーザーへ伝えようという意図が読み取れます。『アナザーエデン』は、ユーザーにエンゲージメントを求めるのではなく、ユーザーにエンゲージしようと取り組んでいるのです。

ユーザーのストレスにならないよう、可能な限り自由に遊んでもらう。その運営姿勢は、それまで散々エンゲージメントを求められてきた消極的なユーザーに、心のオアシスとなるようなゲームを与えてくれました。そして、“はぐれた”ニーズを抱くユーザーは思いのほか層が厚く、同作の人気を押し上げているのではないでしょうか。もしそうならば、“はぐれ層”は十分に収益をもたらす、非常に重要な顧客層ということになります。エンゲージメント施策の死角にひっそりと佇んでいたユーザーたちが、ヒットの鍵を握っているのかもしれないのです。

なぜ『ファイトリーグ』はタッグ(2人)プレイなのか

“はぐれ層”の存在に気付いたのは、『アナザーエデン』だけではありません。意外に思われるかもしれませんが、ミクシィ・XFLAGスタジオの新作『ファイトリーグ』は、明らかに消極的なユーザーを意識しています。

XFLAGスタジオは、発行するプレスリリースに必ず「友だちや家族とワイワイ楽しめる”アドレナリン全開”のバトルエンターテインメントを提供してまいります。」と書き添えるほど、ワイワイ遊ぶことにこだわりを持っています。一見、わかりやすい盛り上がりを求めるパリピ(Party People)のようですが、『ファイトリーグ』には、“ワイワイ”の実現のためにあらゆるノウハウが注ぎ込まれています。

XFLAGスタジオのオリジナルタイトルは、これまで『モンスターストライク』、『ブラックナイトストライカーズ』(既にサービスは終了)があり、『ファイトリーグ』は3作目にあたります。どれもマルチプレイができるゲームですが、プレイヤー数は『モンスターストライク』が4人、『ブラックナイトストライカーズ』は3人、『ファイトリーグ』は2人と、作品を経るたびに少なくなっています。

みんなで遊ぶことを追求するなら、50vs50のような大人数バトルでも良さそうな気がします。にも関わらず、『ファイトリーグ』に至ってはマルチプレイとしては最少人数にまでなってしまいました。

マルチプレイはゲームを面白くする要素ですが、消極的なユーザーにとっては、一緒にプレイする人を誘うだけでもストレスになり得ます。4人プレイなら、他の3人にわざわざ時間を作ってもらわなくてはなりませんし、それぞれ好きな戦い方があったり、プレイヤースキルにバラつきがあったりして、ちゃんと協力できるのかしら、などと心配になってしまうのです。

その点、『ファイトリーグ』は自分と、もうひとりいるだけでマルチプレイが可能です。『ファイトリーグ』にはチャット機能はなく、バトルは将棋の早指しのように持ち時間が1手番あたり十数秒しかありません。ですから、実際に隣り合った状態でタッグバトルを遊ぶのが自然なシーンとなります。タッグを組む相手は、大抵の場合、友達や家族といったよく見知った人物でしょうから、知らない人とのコミュニケーションに比べれば、ストレスはかなり小さくて済みます。一緒に遊ぶという行為に至るまでのハードルを極限まで下げた結果が、この「タッグバトル」なのです。

『モンスターストライク』のようなステージ方式では、難易度は直線的に上昇します。次のステージは前のステージに比べて何倍か難しく、その先のステージはさらに数倍難しい、という具合です。一方、『ファイトリーグ』はPvP対戦が基本です。その名の通り、リーグ制が採用され、熟練度に応じてリーグが分かれているので自分と同程度のスキルを持ったプレイヤーとマッチングが行われます。ステージ方式と異なり、自分の上達具合に応じて難易度(相手の強さ)が変化するので、ステージ方式と比べ、挫折を感じづらく、競争のつらさを軽減しています。また、どうしても勝てない時は、YouTubeの公式チャンネルで既に解説番組が始まっているので、そちらで学習することもできるようになっています。

YouTubeの『ファイトリーグ』公式チャンネル(6月22日公開)

こう見ると、『ファイトリーグ』には、ユーザーが「自分にはムリ」と追い込まれないようにするための工夫が随所にちりばめられていることがわかります。

華々しい開幕宣言イベントは大いに盛り上がりましたが、盛り上がれる人だけ盛り上がれば良いという姿勢ではありません。「オマエと一緒に頂点へ」というキャッチフレーズの「オマエ」には、盛り上がりたい大多数とははぐれてしまったユーザーも、きちんと含まれています。極めて消極的なユーザーにも、平等に“ワイワイ”を提供できるような設計がなされているのです。

エンゲージメントに「熱量」は必要か

ターゲット層のエンゲージメントを高めようとした時、トレードオフとなるものは、また別のユーザーからのエンゲージメントです。キャンペーンや広告でスパイクを作るほど、砂のようにこぼれ落ちていくエンゲージメントがあるのです。もちろん、どれほど優秀な運営チームでも、全てのニーズに応えることはできないでしょう。ですが、施策にこだわりすぎた結果、こぼしてしまったユーザーとエンゲージメントは決して小さいものではありません。

こういう話をすると、多くのゲーム業界人は「熱量を生み出さなくては」とか、「熱量を上げていく」とか、そんな言い方をします。ですが、正直に言えば、私はあまり納得がいかないのです。はたして、広告やキャンペーンぐらいで本当にユーザーの気持ちをコントロールできるのでしょうか。可能だったとしても、ユーザーにとって、そのゲームを愛しているのは自分自身の気持ちなのか、マーケティングによってコントロールされたアウトプットなのかはいまいち判別がつかず、結局は素直に楽しめなくなってしまいます。

エンゲージメントを重要視するようになったのは、もともとは、安定した収益基盤の構築のためだったはずです。毎日ログインしてもらい、長く遊んでもらえるような関係を作ろうという取り組みを指していたのではなかったでしょうか。

長く愛されているものは、その多くが日常に溶け込んでいます。お気に入りのペンやノートはデスクのいつもの場所にあり、使う人がいちいち意識しなくとも、毎日自然に使っていることでしょう。

ゲームだって同じはずです。なのに、多くのゲームタイトルでは、ファンイベントやらメディアミックスやらで表面的な盛り上がりを生み出す施策ばかりを講じています。確かに時には熱狂も必要ですが、非日常的な感動はそう長くは続きません。それよりも、ユーザーの生活に溶け込んでいくような工夫も重要ではないでしょうか。

ユーザーの日常を邪魔しないこと

『アナザーエデン』と『ファイトリーグ』は、一見、正反対のゲームです。しかし、その根底には、「ユーザーに極力ストレスをかけない」という考えのもとで徹底された工夫が施されています。そして、どちらも奥深い面白さを備えたゲームです。日常の邪魔にならず、気が向いたときに遊んでみると確かに面白い。そんなゲームなら、多くの人が遊びたいと思うはずですし、煩わしさのせいで離脱することもないでしょう。エンゲージメントの本当の効果はこういうことではないでしょうか。

エンゲージメント(engagement)は、婚約という意味もあります。婚約をした後は正式に結婚し、夫婦は生活を共にしていくことになりますが、平穏な結婚生活には「邪魔をしない」「干渉しない」ことが大事なのだそうです。ユーザーと末永く幸せな“結婚生活”を続けるために、今一度、施策の計画を見直してもいいのかもしれません。







ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ。立教大学 社会学部 卒業後、富士通マーケティングに新卒で入社。その後、ITインフラ・クラウド事業を行う企業でサービス企画、 プロジェクトマネージャーに従事。趣味はガンダム研究とゲーム全般。(illust 黒川依)