グッズは体験と共に ー『駅メモ!』が『ポケモンGO』に負けない本当の理由

夏休みも終わり、9月に入りました。すっかり秋めいてきましたが、いかがお過ごしでしょうか。下半期は東京ゲームショウを皮切りにハロウィン、クリスマス、年末年始までイベントが目白押しで、ゲーム業界のマーケターにとってはますます忙しい日々となりそうです。

さて、JTBの調査によると今夏の国内旅行者数は7,460万人(前年比0.7%増)、海外旅行者数273万人(同3.4%増)に上ったと推計されており、旅行ブームの再燃を示す結果となりました。FacebookやInstagramでも実に様々な旅行の写真が投稿されています。実家に帰省してゆっくり過ごした人もいれば、山や海で遊ぶ子供連れの一家がいたり、中には海外の高級リゾートに滞在した人もいて、何ともうらやましい限りです。

旅行写真が面白いのは、何の気無しに撮影されたのにも関わらず、その人自身のライフスタイルや価値観がよく映し出されていることです。少なくとも、夜中タイムラインに何故か流れてくるラーメンや焼き肉の写真より余程表現力があるでしょう。家族旅行の写真からは愛情の深さが伝わってきますし、友人同士の弾丸ツアーには人間関係も時間も大事にしたいという価値観が垣間見えます。海外のブティックやカフェを巡る旅はいかにもお洒落でファッションにこだわりがありそうな感じです。

旅行のスタイルには旅行者自身の価値観、興味、あるいは「こうありたい」という希求が色濃く反映されています。そして、この希求を上手く取り込んだゲームがあります。モバイルファクトリーのスマートフォン向けタイトル『ステーションメモリーズ!』(通称『駅メモ!』)です。

『駅メモ!』は全国約9,100ヵ所にある鉄道駅の位置情報を収集するゲームです。スマートフォンのGPS機能を利用し、今いる駅で「チェックイン」を行うと、ゲーム内ではその駅に「でんこ」というキャラクターがリンク(配備)され、自分の拠点として登録することができます。他のユーザーが既にでんこを配備していた場合はバトルが発生し、拠点の争奪が行われます。ユーザーは様々な駅に実際に立ち寄ってチェックインを行うことで、でんこを育てたり、特別なエピソードを見たりして、ゲームを楽しめるようになっています。

同作は今年6月に3周年を迎えました。遊び方は『ポケモンGO』と類似する部分もありますが、『ポケモンGO』より2年も前から位置情報ゲームとして運営を続けており、アプリストアのセールスランキングは現在もなお安定的に推移しています。

『駅メモ!』はリリース以来、3年間安定したランキング推移を見せている

『駅メモ!』と『ポケモンGO』の違い

『駅メモ!』を開発・運営するモバイルファクトリーはゲームを通じた地方創生に力を入れています。同社はこれまで地方自治体や鉄道会社と共に『駅メモ!』を主軸としたO2O(Online to Offline)施策を実施し、昨年はのべ17万人の送客に成功、実施地域にもたらした経済効果は15億円に上りました。同様の取り組みは『ポケモンGO』でも始まっていますが、不思議なことに、『駅メモ!』からユーザーが流出した様子はありません。それどころか、『駅メモ!』の担当者・松本祐輔氏は最近のインタビューで「『ポケモンGO』のインパクトは我々には良い影響を及ぼしている」と発言しており、むしろ追い風として捉えているようです。

「O2Oでユーザーの熱量を高める」…位置ゲーム×マーケティングの最新事例と成果をモバイルファクトリー社に訊いた – https://media.a-sonar.jp/2017/09/choisaki-mobilefactory-ekimemo/

これは非常に興味深いケースと言えます。両タイトルともよく似たゲームシステムであり、一方は『ポケモン』という絶大な人気を誇るIPタイトルです。普通に考えれば、『駅メモ!』があっという間に駆逐されてもおかしくありません。にも関わらず、『駅メモ!』がユーザーのエンゲージメントを維持し、人気タイトルと共存できているのは一体何故なのでしょうか。

『駅メモ!』と『ポケモンGO』の違いは、目的地までの交通手段にあります。『ポケモンGO』では拠点(ジム)やポケモンが出現する地点に“到達”することが求められますが、その経路は徒歩でも自動車でも何ら違いはありません。他方、『駅メモ!』は当然ながら、鉄道を利用した移動を前提としています。実は、この違いが先ほどの「旅に対する希求」に繋がっているのです。

旅行のスタイルには「鉄道旅」というちょっとニッチな楽しみ方があります。普段使わない路線を利用してみたり、観光用の特別列車に乗ったりするような“乗車”そのものを楽しむ旅行スタイルで、根っからの鉄道ファンでなくとも、たとえばTV番組「ぶらり途中下車の旅」のような小旅行に憧れる人も意外に多いのではないでしょうか。鉄道旅の背景には、観光地への到達よりも、道中の思いがけない小さな体験を大切にしたいという価値観や、自由・気楽さへの憧れがあるように思います。『駅メモ!』は鉄道旅にフォーカスすることで、このようなニッチな希求に密接にリンクしているのです。この点において、IPの力でランドマークへの到達を促す『ポケモンGO』とは大きく差別化されており、棲み分けを可能としている最大の要因でもあります。

旅の思い出と一緒に

『駅メモ!』にはもうひとつ注目すべきポイントがあります。それはグッズと体験を組み合わせたマーケティング手法です。

同作のO2Oキャンペーンでは駅や観光地を巡るスタンプラリーが開催され、ゴールすると、その地域ならではの様々な“ご当地グッズ”をもらうことができます。たとえば、昨年開催された愛知県蒲郡(がまごおり)市でのキャンペーンでは、市内の温泉施設に立ち寄ったユーザーに、でんこがプリントされたオリジナルの手ぬぐいが配布されました。

手ぬぐいのデザイン

直近では奈良県で同様のキャンペーンが展開されており、県内の博物館などでは、オリジナルのしおりと「古事記かるた」「日本書紀すごろく」といった奈良県の歴史を感じるお土産が用意されています。(キャンペーンサイトはこちら

ここで多くのマーケターがカン違いしがちなのは、ユーザーがグッズの希少性につられて旅行をしているわけではないということです。配布されるグッズは数量限定ではありますが、入手困難というわけでもなく、スタンプラリーを完了すれば大抵はもらえるようになっています。バリエーションもだいたい1種類ですから何度も挑戦してコンプリートする必要もなく、ブラインドパッケージでもありません。(グッズのデザインは事前に公開されています)

O2Oキャンペーンで主眼が置かれているのは、あくまでも鉄道旅です。車窓から臨む風景に感動したり、地域の文化を知ることも醍醐味でしょう。そういった様々な体験を重ねた先で手元に渡されるものこそ、キャンペーン特典のご当地グッズなのです。

オリジナルのしおりも手ぬぐいも、それだけではキャラクターグッズ専門店に並んでいたら見逃してしまいそうなアイテムです。ですが、鉄道旅という体験に紐付くことで、グッズは「思い出の品」になることができます。世界中で知られているIPでなくても、豪華でレアなアイテムでなくても、特別で価値あるモノとしてずっと大切にしてもらえるようになるのです。それはゲームとユーザーの関係を確実に深めるでしょう。加えて、もらったグッズの写真をSNSで投稿することもユーザーにとって自然な行動となるはずです。位置情報ゲームはその特性ゆえにゲーム実況には不向きで拡散されづらいという弱点がありますが、ユーザー自身に写真を投稿してもらうことで、この弱点を上手く克服しています。







ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ。立教大学 社会学部 卒業後、富士通マーケティングに新卒で入社。その後、ITインフラ・クラウド事業を行う企業でサービス企画、 プロジェクトマネージャーに従事。趣味はガンダム研究とゲーム全般。(illust 黒川依)