グッズは体験と共に ー『駅メモ!』が『ポケモンGO』に負けない本当の理由

マーチャンダイジング戦略のマトリクス

マーチャンダイジング(グッズ展開)は、主にアニメなどでは古くから積極的かつ戦略的に展開されてきました。「ガンプラ」はその最たるもののひとつでしょう。しかしながら、ゲームビジネスでは、マーチャンダイジングが戦略の中核となるケースはこれまであまり多くはありませんでした。企画はグッズ製作会社に任せきりで、ライセンスアウトと最終的な監修をする程度の薄い関わりに過ぎなかったのです。現在でもその傾向は少なからずあるのではないでしょうか。

その一方で、グッズを全体戦略の中心に位置付け、新たな取り組みを始めている企業もあります。前段で紹介した『駅メモ!』もそうですが、コンシューマータイトルではレベルファイブの『妖怪ウォッチ』『スナックワールド』もその好例です。いずれもIPの力でグッズを売り込むのではなく、ゲームシステムやIPの成長度合いに応じて最適なアイテムを投入することで、タイトルの認知度とユーザーのエンゲージメントを高め、大きな成功を収めています。つまり、戦略性の高いマーチャンダイジングこそがマーケティングの次の一手となり得るのです。

マーチャンダイジングを考えたとき、キャラクターやアイテムの造型ばかりに目が行きがちですが、まず把握すべきなのは「タイトルがIPとしてどれくらい確立できているか」ということです。リリースから既に数年が経過して認知もそこそこ浸透しているのか、それとも、リリース直後でほとんど知られていないのか。ユーザーは定着しているか、ストーリーやキャラクターは十分な質と量を揃えているか、といった観点が重要となります。また、グッズを通してタイトルのどのような魅力を際立たせたいのか、ということも検討しなくてはなりません。アイテムのラインナップを決めていくのはその後で構いません。IPとしての魅力の度合いと、伝えたい面白さの方向性、そしてアイテムのラインナップの関係を図に表すと、以下のようなマトリクスになります。

横軸はタイトルがIPとしてどれくらい魅力的かを示しています。あまり知られていなかったり、ストーリーやキャラクターの厚みが不足している場合は左寄りになりますし、熱心なファンがしっかり定着しているのであれば右寄りのセルを検討することになります。対して、縦軸はユーザー(グッズの購入者)にもたらす効果の方向性を表現しています。ゲームの世界観やキャラクターに興味を持ってほしい、あるいは、作品に深く没入して楽しんでもらいたい時は下側の施策が有効です。上側には、「理想的な自分になりたい、そう見られたい」という自己表現、または誰かと繋がったり、コミュニティに所属するといったソーシャルな楽しみをもたらすためのラインナップが示されています。

では、このマトリクスの使い方を『駅メモ!』を例に解説したいと思います。まずは横軸(IPの成長)ですが、『駅メモ!』はキャラクター(でんこ)はみんな個性的ではあるものの、まだまだ知る人ぞ知るタイトルなのでマトリクス上では左側に属します。今度は縦軸(グッズでもたらしたい効果・楽しさ)で考えてみましょう。前段でも書いたように、同作は鉄道旅を愛好するライフスタイルに根ざしたゲームですから、ユーザーには上寄り(自己表現的・社会的)の楽しさを提供した方が喜ばれそうです。

したがって、『駅メモ!』のマーチャンダイジング戦略は左上にプロットされることとなり、「体験の証」というコンセプトが決まります。まさに、O2O施策で配布されるご当地グッズがこれに当たり、『駅メモ!』がいかに整合性のとれたマーチャンダイジング戦略を展開しているかがわかります。ただし、記念品には収益性がありません。グッズ販売による収益を狙うなら、ゆくゆくは左下(キャラクター推しのグッズ)に進出するか、IPの強化と並行して右側にシフトしていく必要のあることが、マトリクスから見てとれます。

グッズが能動的な行動を引き起こす

戦略的マーチャンダイジングの成功例は『駅メモ!』だけではありません。注目すべきケースとして、ひとつはリベル・エンタテインメント『A3!』、もうひとつはミクシィ・XFLAGスタジオがオープンした常設実店舗「XFLAG STORE」が挙げられます。

『A3!』は女性向けスマートフォンゲームで、プレイヤーはとある小劇団の総監督としてイケメン劇団員を育成するというものです。アイドル育成ゲームとしてはオーソドックスな造りですが、今年1月27日にリリースされて以来、App Storeゲームカテゴリのセールスランキングで度々トップ10入りするほどの高い人気を誇っています。

女性向けスマホゲームタイトルは今や群雄割拠の様相を呈しています。直近では、8月28日にファン待望の『うたのプリンスさまっ Shining Live』(KLab)がサービスを開始し、リリース当日にApp Storeのダウンロードランキングで1位を獲得、翌日には同ゲームカテゴリのセールスランキング11位に飛び込み、爆発的な人気を見せつけました。さらに、8月30日には『アイドルマスター SideM LIVE ON ST@GE!』(バンダイナムコエンターテインメント)がリリースされ、こちらも翌日に同ダウンロードランキングで1位となり、熾烈な競争が続いています。

さて、『A3!』のケースにおいて重要なのは、同作が完全新規IPタイトルだという点です。もし、シリーズ作品やメディアミックスを前提としたタイトルだったなら、十分にエンゲージメントが高まったタイミングでリリースできたかもしれません。しかし、ゲームが初出の新規IPタイトルだった『A3!』はそうもいきませんでした。そこで突破口となったのが、リリース3ヶ月前から開始したグッズ中心のプロモーションです。中でも、ピールオフ広告はグッズの特性を上手く活用した施策でした。

ピールオフ広告とは、その名の通り、剥がせる広告のことです。池袋駅と大阪駅に掲出された巨大ポスターは缶バッジが貼付されており、それを剥がして持ち帰ることができるというものでした。

池袋駅のピールオフ広告(公式Twitterアカウントより)

この施策の肝となっているのは、「缶バッジを剥がして持って帰る」という能動的な行動を生み出した点です。偶然もらったのではなく、わざわざ立ち止まって缶バッジを手にした時こそ、『A3!』のファンが生まれた瞬間であり、その人自身に極めて情緒的な体験をもたらしているからです。缶バッジはその体験を証明するものとして機能しており、この構図はまさに『駅メモ!』とぴったり重なります。

さらに、缶バッジが剥がされた跡を見れば、自分以外にもファンが沢山いることに気付くでしょう。リリース前でありながら、既に“ファン同士”という繋がり、コミュニティを潜在的に形成することにも成功しているのです。体験と繋がりをもたらした缶バッジは、もはや一般的なキャラクターグッズとは全く異なる意味合いを持ちます。缶バッジを眺めながら、ファンは一日千秋の思いでリリースを待っていたはずです。リリース3ヶ月前という異例の早さで実施されたのも、舞台の幕開けを待つドキドキ感を演出し、日に日にエンゲージメントを高めていくためだったのかもしれません。

『モンスト』という友人

体験とグッズの関係をさらに推し進めたのが、『モンスターストライク』(以下『モンスト』)のXFLAGスタジオが運営する東京・渋谷の常設店舗「XFLAG STORE」です。同店は「プレイする新感覚ストア」をコンセプトとしており、まさにグッズ・体験・IPを結びつける役割を担っています。

先日、私もやっと予約を取ってお店に遊びに行きましたが、とてもお洒落で楽しい場所でした。巨大ディスプレイではオラゴン(マスコットキャラクター)が可愛らしく動き回り、自分のスマートフォンをかざすと、『モンスト』のプレイ状況によって特別な演出が表示されます。行ったのが夏休み中だったこともあり、貝殻や砂を使った夏らしい飾りと共にグッズが陳列されていて、つい色々と買い込んでしまいそうになりました。タンブラーやスマホケースなどの定番グッズから2万円の高級フィギュアまであり、『モンスト』ファンの心に応える品揃えです。その中でも、特長的だったのがアパレル商品でした。

『モンスト』のアパレルグッズ

一見、シンプルなパーカーとTシャツのように見えますが、全て「MONSTER STRIKE」という文字がひそかにデザインされています。正直、言われなければ『モンスト』グッズであることに気付かないかもしれません。

よく考えると、このアイテムは実に不可解です。XFLAG STOREに来る人はほとんどが熱心な『モンスト』ファンのはずです。ましてや旗艦店で販売しているグッズなのですから、オラゴンや人気キャラクターを全面にプリントしたデザインの方が良さそうな気もします。

一般的な商品と大した相違が無いにも関わらず、これらがファンにとって特別なグッズとして成立しているのは、『モンスト』というIPがついに「パーソナリティ」を内包しつつあることの表れのように思います。友達同士で遊ぶスタイルを前提としたゲームシステム、TVCMなどで感じる勢いのあるユーモア、それらひとつひとつの要素が「クラスの人気者」「愉快で刺激的な仲間」というような擬人化されたイメージを形成し、IPの構成要素になっているのです。マーチャンダイジング戦略のマトリクスで表せば、『モンスト』はかなり右上にポジショニングしており、競合他社のいないフロンティアを開拓し続けていることがわかります。

多くの人は、個性的で魅力的な友人に関わりたいと思うでしょうし、自分もそうでありたいと願うものです。その希求に『モンスト』は深く根を下ろし、もはや細かいキャラクター設定やストーリーを越えてファンと強く結びついています。そう考えれば、あのパーカーとTシャツの持つ大きな意味も実感できるのではないでしょうか。

グッズがマーケティングを広げる

これまでゲームビジネスにおけるマーチャンダイジングはマトリクスの下側に属するラインナップがほとんどでした。なぜなら、グッズはキャラクター設定やメインストーリーの副産物でしかなかったからです。ですが、本稿で挙げたタイトルはマトリクスの上側の戦略を採ることで、よりダイレクトに、より早く、より深く、ファンの希求に応え、大きな成功を手にしました。

もちろん、下側の戦略が劣っているというわけではありません。しかし、コンシューマーでもモバイルでも強豪タイトルがひしめく中、突出したストーリーとキャラクターを作り続けるのは非常に困難でしょう。また、最近ではe-sports的要素を含んだゲームも増えており、RPGのように必ずしも長大なストーリーが求められるとは言えなくなってきました。

さらに、特筆すべきなのは、マーチャンダイジングがメディアミックスやTVCMに比べ、コストパフォーマンスに優れる施策だということです。競争の激しいゲームビジネスで手詰まりを感じているマーケターは、是非ともマーチャンダイジングという手法を見直してみてはいかがでしょうか。まだまだアイディアのフロンティアが広がっているかもしれません。







ABOUTこの記事をかいた人

1984年生まれ。立教大学 社会学部 卒業後、富士通マーケティングに新卒で入社。その後、ITインフラ・クラウド事業を行う企業でサービス企画、 プロジェクトマネージャーに従事。趣味はガンダム研究とゲーム全般。(illust 黒川依)