ゲームで性愛をもたらすことはできるか 女性向けゲームの動向と新作ADVアプリ『誰ソ彼ホテル』

もう2月になってしまい、今更という感もありますが、昨年を改めて振り返ってみると、やはり「IP」と「女性向けゲーム」がトレンドを牽引した年だったように思います。

Pick UPs!では、年末にゲームアプリ市場専門のマーケティングリサーチ会社であるスパイスマートと協力し、セールスランキング推移から2017年の市場動向を総括したレポートを4Gamerで掲載しました。レポートでは昨年の市場トレンドのひとつとして「女性向けゲーム」を挙げています。

しかし、市場全体では確かに女性向けゲームが特に盛り上がったものの、個々のタイトルではセールスランキングの順位を維持するのに案外苦戦していることも事実です。データを見ると、『アイドルマスター SideM LIVE ON ST@GE』(バンダイナムコエンターテインメント)、『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』(KLab)、『新テニスの王子様 RisingBeat』(アカツキ)あたりに、その兆候が表れています。

昨年リリースされた上位タイトルの平均ランキング順位推移

とはいえ、これらのタイトルで運営や施策に大きな問題があるようには見えません。ゲームも十分な出来映えですし、施策においても『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』は事前登録の段階から登録者数が100万人を突破、『アイドルマスター SideM LIVE ON ST@GE』では昨年10~12月にTVアニメを放送するなど、SNSやメディアミックスをフル活用したマーケティングが展開されています。にも関わらず、実際はセールスランキングの月間平均順位は高くても15位前後、時には50位を大きく下回る月もあるのです。順位から推測すると、売上規模はおそらく月商1~3億円程度ですから決して不採算タイトルではありません。が、原作が元々持っていた圧倒的な熱量を考えると、何か物足りないような、伸び悩みを感じさせる結果ではないでしょうか。

もちろん、シンプルに激しい市場競争のせいにすることもできるでしょう。ですが、私を含め、ゲーム業界人はこれまでずっと「ニーズに応じた運営と施策を続けていれば、きっとトップタイトルになれる」と信じてきました。ならば今回のケースはどう理解すればいいのか。もしかすると、私たちは女性向けゲームについて何か重大な見誤りをしているのかもしれません。

女性のコントロール欲求に合致したゲームシステム

新作の女性向けゲームが苦戦する一方、『あんさんぶるスターズ!』(Happy Elements)『A3!』(リベル・エンタテインメント)などは安定的にヒットしており、1月よりTVアニメ放送中の『アイドリッシュセブン』(バンダイナムコエンターテインメント)も話題です。個人的には『オトメ勇者』(レベルファイブ)と、1月25日にリリースされたばかりの『LibraryCross∞(ライブラリークロスインフィニット)』が気になっていて、この原稿を終えたら是非プレイしてみようと密かに楽しみにしていたりします。

それにしても、最近の女性向けゲームはどれも面白そうで目移りしそうなほどです。どのタイトルも育成要素、リズムアクション、パズル、楽曲、ストーリー、圧巻の3D表現などなど様々な特長が付与されており、ついそちらへ目をやってしまいがちですが、実は共通点もあることにお気づきでしょうか。女性向けゲームにおいて、ユーザーはプロデューサー、監督、マネージャー、果ては勇者など色々な立場が設定されていますが、キャラクターを「コントロールする」役割を必ずあてがわれているのです。

ユーザーが男性キャラクターを管理・育成するというゲームシステムがいつから始まったのかは定かではありませんが、むしろ気になるのは、このゲームシステムが何故これほど広く女性に受け入れられたのかという点です。

その一因について、私は、ユーザーのメサイア・コンプレックスをくすぐるからではないかと考えています。メサイア・コンプレックスとは相手を助けずにはいられない共依存的な心理のことで、自分が満足するために困っている人や問題を抱えている人を求めてしまうというものです。特に、主人公(ユーザー)が男性キャラクターと恋愛関係にはならず、且つ、育成要素の強いゲームで顕著に見られ、多くの場合、男性キャラクターが自分の弱みを主人公(ユーザー)の前で吐露し、その克服のために主人公(ユーザー)があれこれと指示・支援する(ゲーム中で何らかのアチーブメントを獲得する)という形式になっています。

共依存に組み込まれた当人(ユーザー)は、このコンプレックスを男性キャラクターへの恋愛感情と錯覚しがちです。しかし、その根底にあるのは「私のケアだけを受け入れてほしい、私の思い通りに育ってほしい」という水槽の中の金魚を愛でるようなコントロール欲求であり、そのために男性キャラクターはいつも好意的にコントロールされ、皆仲良くミッションをコンプリートして、常にユーザーの期待通りに振る舞います。決して、プレイヤーを騙したり、裏切ったり、蔑視したりすることはないのです。さらに、こういったゲームでは男性キャラクターがどれほど成長しようとも、卒業や退団はありません。なぜなら、彼らはユーザーから永遠に世話を焼き続けられるように求められているからです。

おそらく、女性向けゲーム、中でも『あんさんぶるスターズ!』や『A3!』といったアイドルゲームが、ほぼこの形式に適合するのではないでしょうか。女性向けゲームは男性キャラクターへの恋愛感情で駆動していると誤解されがちですが、そうではなく、女性のメサイア・コンプレックスで駆動し、偽装された恋愛感情で消費を促すというのが市場トレンドの実態なのです。

メサイア・コンプレックスに限らず、コンプレックスとは心の癖のようなもので、無意識にその人の志向を決定づけます。そして、自分でも理由はうまく説明できないけれど、何度もその行動を繰り返してしまう――すなわち、フェチ(神経症的固着)を引き起こします。フェチというと異常性欲とか病的な印象がありますが、フェチ的性癖は誰でも持っているものですし、巨乳も制服もBLもショタも、何であれフェチの一種に過ぎません。さらに言えば、女性向けゲームにおいてフェチとは、マーケターがよく言っている「ニーズ」と大体同じ意味です。「イケメンなのにピュア」とか「メガネでドSなお兄さん」というのは、そういうニーズがあるから生まれたキャラクターであり、まさにユーザーのフェティシズムが反映されています。

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フェチのサイロ化

ゲーム開発に限らず、ニーズに応じてプロダクトを改善することは基本中の基本だとされています。しかし、こと女性向けゲームに限ってはそうとも言い切れないのです。順を追って説明しましょう。

女性向けゲームが本格的に制作されるようになったのは、コーエーのネオロマンスシリーズあたりが始まりです。1994年に第1作目の『アンジェリーク』が発売され、当時のファンはいちいちキャラクターに様付けをして呼んだりするほど熱狂していました。その後、オトメイトなど様々なブランドからコンシューマー向けに「乙女ゲーム」としてリリースされるようになります。そして、近年ではスマートフォン向けゲームにも進出し、新たな熱狂を生み出しているのです。

と言っても、数年前は、まだゲームアプリ市場にはそれほどタイトルが出揃っていなかったため、ユーザーはとりあえず自分の趣味に近いプロダクトを選んで満足するしかありませんでした。まだまだ「こんなもんでしょ」というレベルだったのです。ところが、事業者側がユーザーのニーズをどんどん吸い上げるようになり、ニーズをがっちり掴んだプロダクトが人気を博すようになります。そうして何度もブラッシュアップされ、ユーザビリティとエンタテインメント性が格段に向上し、熱狂はますます高まっています。さて、問題はここからです。

一般的に、ゲームビジネスにおいてニーズは最大公約数的に取り扱われてきました。全てのニーズを実現することは不可能だから、要望する人が多いものから順に対応しよう、という考え方です。言い換えれば、寄せられる要望の中からユーザーの最大幸福を探ることが、ゲーム運営におけるミッションということになります。ところが、このやり方は女性向けゲーム市場では逆効果です。むしろ、ニーズを追いかければ追いかけるほど、ユーザーの最小幸福しか実現できなくなっていきます。

その原因は、やはり女性向けゲームがユーザー個々人のフェチに根ざしているという特徴にあります。女性向けゲームにおいてニーズはフェチだと言いましたが、もっと正確に言えば、メサイア・コンプレックスのコントロール欲求から生まれる「~じゃないとイヤ」という否定形の強いこだわりです。決して、「~がしたい」「~してほしい」という形式ではありません。これが厄介なのは、運営側がニーズに追随するほど、ユーザーがこだわりを更に強め、自分のフェティシズムに完全一致したものだけを採り入れようとしてしまうところです。

このことに私が気付いたのは、『アイドルマスター SideM』のファンである友人との会話がきっかけでした。彼女は、TVアニメ化が発表された当時は小躍りするほど喜んでいたのですが、結局「自分の好きなキャラクターがほとんど出演しない」という理由で一度も視聴しなかったのです。このエピソードからわかるのは、言葉だけ拾えば「アニメ化希望」という要望であっても、本当は「アニメ化希望(だけど、私の好きなキャラクターが活躍していないとイヤ)」という強い否定形のこだわり(=フェチ)が込められていて、そこから少しでもズレると全く興味が持てなくなってしまうというファン心理です。同じような理由で、ファンだけど見ない、ファンだけど参加しないというパターンは意外に多く見られるのではないでしょうか。さらに、フェチが多種多様であるように、この否定形のこだわりは無限に多様化し、同時に孤立を深めていきます。そうしてフェチのサイロがいくつも並び立って市場が断片化を起こし、やがては施策も効果が薄くなり、最終的にゲームの収益性を低下させてしまうのです。それを示すように、TVアニメ版『アイドルマスター SideM』のゲーム本体(『アイドルマスター SideM』および『アイドルマスター SideM LIVE ON ST@GE』)への寄与はあまり見られず、セールスランキングにもほとんど影響を与えていません。

アイドルマスター SideM LIVE ON ST@GE!ランキング推移(App Annie) ※青色部分はTVアニメ放送期間

振り返ってみれば、『アイドルマスター SideM』のリリースは2014年、『うたの☆プリンスさまっ♪』がPSPで発売されたのは2010年、『テニスの王子様』の連載開始は1999年まで遡ります。いずれも絶大な人気を誇る作品であり、ファンの多さと熱心さが評価されて新作ゲームがスマートフォン向けにリリースされたわけですが、既に様々なメディアミックスが何度も展開されており、相当に断片化が進んだIPとも言えるでしょう。人気ぶりを示す数字(興行実績、販売数、観客動員数など)は確かに経済圏の大きさを表しているようですが、そこにはフェチのサイロが無数に建ち並んでいて、完璧なマーケティングを以てしても、やはりユーザーへの効果は最小化されてしまいました。これが私の感じた、過熱する女性向けゲーム市場の奇妙な“熱狂不足”の正体ではないかと思うのです。

では、フェチのサイロ化について業界各社どのように対応しているのでしょうか。

まずは、特定のフェチを狙い撃ちするという対策があります。どの層にどういうフェチのサイロがあるのかを完全に把握して正確に撃ち抜くことができれば、断片化が進んでも収益性の低下を防げるだろうという考え方です。この戦略で最も成功しているのが『あんさんぶるスターズ!』なのですが、非常に精緻なディレクションを要すため、他社がこれを模倣するのはほぼ不可能でしょう。だからこそ、『あんさんぶるスターズ!』が不動のトップタイトルであり続けられるのです。同じ構図の成功例としては『刀剣乱舞-ONLINE-』があります。配信元はDMM GAMESですが、ディレクションは多数のヒット作を生み出してきたニトロプラスが担当しており、同社のニーズ(フェチ)に対する高い考察力が窺い知れます。

量産体制を敷くことで乗り越えようとする企業もあります。『イケメンシリーズ』のサイバード、『恋愛ドラマアプリ』などのボルテージ、『夢王国と眠れる100人の王子様』のジークレストなどは、タイトルやキャラクターを量産することでフェチを浅く広くカバーしようという戦略です。このやり方はなかなか効果的で、各タイトル(またはキャラクター)を並列的に扱うことによって、「~でもいい」というスタンスを成立させ、フェチのサイロ化を抑えることに成功しています。反面、エンゲージメントは育ちにくいため、常に新鮮なラインナップを揃え、新規ユーザーを獲得し続けなくてはありません。

サイバード『イケメン』シリーズ 公式サイト

そして、最も多くのタイトルで採用されている戦略が多角化(IP化)です。(自社)コンテンツをメディアミックス展開し、あらゆる経路から新規ユーザーを取り込もうとします。しかし、このやり方では先ほど説明したとおり、断片化を加速させてしまいます。そこで、莫大な予算をつぎ込んで、断片化が進んでもある程度の収益が見込めるほどに全体の規模(つまり、ファンの数)を大きくするという力押しをするわけです。いかにもゲーム業界らしい豪快なお金の使い方ですが、とはいえ、コストは無視できない規模になります。また、施策の効果を予測することが難しく、結局は伸るか反るかのギャンブルになりがちです。これでは収益が安定しませんから、実質的には体力のある大手企業しか実行できない戦略と言えるでしょう。

こうしてみると、結局どれも一長一短で根本的な解決には至っていません。はたしてフェチのサイロ化を回避することは可能なのでしょうか。この疑問は、女性向けゲームにおいてニーズ(フェチ)に因らないアプローチは成立するか、とも言い換えられます。

※ここから先は、SEECのゲームアプリ『誰ソ彼ホテル』の結末に関わる内容が含まれています。プレイ済みの方のみご覧下さい。