ゲーム音楽プロ交響楽団JAGMOが ユーザーとゲーム音楽の新しい関係を築く

ゲーム音楽は、音が鳴るという意味では1970年代頃から、場面転換や表現のための楽曲としては1980年代頃に登場しました。それから三十数年を経た今、ゲーム音楽はさらなる進化を迎えようとしています。そして、その最たるものがゲーム音楽のクラシックコンサートです。最新作のテーマ曲もファミコン音源の曲も、オーケストラの演奏によって時代を超えて体験することができるようになりました。クラシックというと、曲が始まって3分もしないうちに眠気に襲われたりする縁遠い存在だと思われがちですが、ゲーム音楽史においてクラシックコンサートは大きな転換をもたらしつつあります。

ゲームとクラシック音楽のビジネス的接点

国内音楽市場におけるクラシック音楽のシェアは3.3%と極めて低く、主流のJ-POPとは比べるべくもありません。
市場規模はわずか320億円、データを見る限りはビジネスチャンスがあるとはとても思えないジャンルです。しかし、その市場成長率は前年比10%以上であり、急激に拡大しています。この市場成長を牽引している要素のひとつが、ゲーム音楽のクラシックコンサートなのです。

ゲーム音楽のコンサートは、2010年から2014年の間では平均で年間68回開催されていましたが、2015年には102回、2016年には152回と大きく増加しています。

件数が増えた背景には、人気ソーシャルゲームが現実(リアル)を巻き込んだ体験型のプロモーション施策に乗り出したという経緯があります。コンサートの件数が増加した2015年といえば、8月に『モンスターストライク』が初の大型リアルイベント「モンフェス2015」を開催し、9月には『グランブルーファンタジー』が当時最大規模の小間数でTGSに出展した年です。同作に登場する騎空挺「グランサイファー」の展示は大変話題になり、印象に残っている方も多いことでしょう。このような施策によって、実際にある場所に集まって楽しみをシェアするという面白さが改めて見直された重要なタイミングだったのではないでしょうか。そして、この転機に先駆けて同年2月にはJAGMOが初のフルオーケストラ公演「伝説の交響楽団」を開催しています。

JAGMOの衝撃

JAGMO(Japan Game Music Orchestra)は「ゲーム音楽を音楽史に残る文化にする」というビジョンを掲げ、日本初のゲーム音楽プロ交響楽団として2014年にスタートしました。以降、名作RPGのゲーム音楽を中心に公演を重ね、徐々にファンを増やしていきます。

私がJAGMOと初めて出会ったのは2015年10月に開催された「伝説の音楽祭 – 勇者たちの饗宴 -」でした。その頃は40代前後の男性が比較的多く来場しており、古参のゲームファンが中心だったように思います。その後、昨年10月には公開収録の模様がTVで放送され、Twitterではトレンド入りを果たしました。これをきっかけにファンが爆発的に増え、現在では若い女性や海外の方にまで親しまれるようになっています。

コンサートはサントリーホール、東京オペラシティなど、東京都内を中心に本格的なコンサートホールで開催されてきました。豪華で洗練されたエントランスに、スマホを手にしたカジュアルな服装の若者が溢れ、JAGMOくん(JAGMOのマスコットキャラクター)のピンバッジが出てくるガチャガチャがずらりと並びます。一見、不似合いのようですが、これもゲーム音楽を専門とするJAGMOと、それをバックアップする面白法人カヤックのタッグならではの取り組みでしょう。会場の光景ひとつをとってみても、JAGMOがゲーム音楽、ゲームファン、そしてクラシック音楽界隈へと大きなインパクトを与えているのが感じられます。

ゲーム音楽“プロ”交響楽団

ゲーム音楽は、ゲームを構成する他の要素(ストーリー、キャラクター、操作性など)に比べると随分おざなりにされがちでした。というのも、ゲームは視覚的な表現がメインであって、リズムゲームなど特定のジャンル以外において音楽は副次的な要素に過ぎなかったためです。格闘ゲームのように操作が忙しかったりすると、そのBGMを集中して聴くのはなかなか難しいものがあります。

その後、ゲームハードの性能向上によって豊かな表現が可能となり、次第に名曲と呼ばれる作品が生まれるようになりました。ゲーム音楽のオーケストラコンサートは1980年代に始まったといわれています。その頃はまだアマチュア奏者による公演が多く、音楽的な完成度よりも、演奏を通してそのタイトルの思い出をシェアすることを目的に親しまれてきました。私もそういったコンサートを聞きに行ったことがあるのですが、アットホームで、こじんまりとしたオンリーイベントの一種という雰囲気だったように思います。有名な楽団がゲーム音楽を演奏してくれることもありましたが、せいぜいプログラム中の息抜きだったり、1年に数回程度のイベント公演という扱いで、結局それは主流とはなりませんでした。

このような変遷を振り返ってみると、「ゲーム音楽プロ交響楽団」と名乗るJAGMOがいかに異色の存在かがわかります。JAGMOのメンバーは毎回オーディションで選出され、国内トップレベルの若き音楽エリートたちが集結しています。その圧巻の演奏に聴衆は拍手喝采、「ブラボー!」という声と共に涙を浮かべる人もいるほどです。聴衆は、クラシック音楽にはあまり馴染みがなさそうな若い人たちです。にもかかわらず、聴いた人をこれほどまでに夢中にさせるのは一体何なのでしょうか。JAGMOのコンサートしか味わえない、あの深い感動は、決して高度な演奏技術だけによるものではない。そう思えてなりません。

ゲームを「聴く」

ゲームは基本的に視覚を通じて遊ぶものです。RPGのようにテキストによる表現を多用しているものもあります。一方、音楽は聴覚で楽しみ、目を閉じても聴くことができます。この違いを踏まえた上で、JAGMOは音楽(聴覚)でゲームをプレイするという全く新しい体験を聴衆にもたらします。JAGMOのコンサートでは、『FF』、『ポケモン』、『ゼルダの伝説』、『モンスターハンター』、『大神』といった名作が、テレビ画面ではなく、オーケストラの演奏という形で映し出され、聴衆は目ではなく、耳を使ってプレイしていくのです。

たとえば、公演で高い人気を誇る『クロノ・トリガー』では、剣士カエルの曲「カエルのテーマ」と、魔王との戦いに流れる「魔王決戦」という曲が一連の繋がりをもって編曲されています。これは親友の敵を討つために旅を続けるカエルと、古代から悲しい過去を背負ってきた魔王、二人の因縁がダイナミックに表現されたもので、原作となるゲームを尊重するJAGMOならではの粋なアレンジです。このような工夫は編曲・演奏の随所に見られ、特に戦闘曲は緊張感のある演奏で私たちがコントローラーを握りしめて戦った激闘を再現してくれます。クラシックに疎くても、その演奏に誰もが夢中になるのは当然なのかもしれません。聴衆は皆、クラシック音楽のことは知らなくても、ゲームを遊ぶことは大好きな人たちなのですから。

原作のゲームを知らなくても、コンサートは十分楽しむことができます。主人公が草原を駆け抜けているシーン、荒野をさまよっているところ、緊張のボス戦、そして、大勝利。言葉やキャラクターが出てこなくとも、演奏を聴けば、どんなストーリーなのか、何をテーマにした作品なのかが、心からよくわかるからです。演奏が終わった瞬間、まるでエンディングのスタッフロールまで見終わったような満足感でいっぱいになります。これが、音楽でゲームをプレイするという体験なのです。

ゲームのBGMを、ただ豪華にアレンジしただけのコンサートは眠くなるばかりです。特定のゲームファンしかわからないような部外者お断りの演奏会もそれほど楽しいものではありません。しかし、JAGMOは、これまでのオーケストラ公演にはなかった新しいゲーム体験を音楽で実現させました。その意味では、彼らを楽器を持ったゲームクリエイターと呼べるのかもしれません。

JAGMOとわたしたちのこれから

JAGMOにはパトロネージュプログラムというファン向けのプログラムがあります。年会費を支払うことで、芸術の支援者パトロネージュ(パトロン)としてJAGMOの活動を支えるメンバーになることができます。始めに書いたとおり、クラシック音楽は収益化の難しい分野です。しかし、パトロネージュ・プログラムのようにファンが音楽家を直接支援できるようになれば、状況は変わっていくのかもしれません。また、会場では、当日のコンサートを録画した映像をオンラインで閲覧できる「テイクアウトライブカード」も販売されるようになりました。動画配信に慣れている若い世代に向けたサービスです。

ゲーム音楽はもう、単なるゲームの副産物ではありません。多くの作曲家とJAGMOによって新しい芸術として確立され、ゲーム業界全体を支える柱となりつつあります。JAGMOは現在、面白法人カヤックの支援を受けて活動を続けていますが、ゲーム業界各社の協力がまだまだ必要です。そのひとつに、楽曲提供における手続きの整備が挙げられます。楽曲の中には、ファンに愛されつつも、著作権の所在が不明なままで演奏することができない作品もあるのです。作曲者と連絡が取れなくなってしまったり、権利を保有していた法人が業界再編によって消滅してしまったことが原因なのですが、提供時の価格や楽曲の取り扱いにおける制度について業界全体での標準化が望まれています。

ゲームは今、テレビ画面、あるいはスマートフォンの枠を飛び越えていこうとしています。メディアミックス、リアルイベント、演劇やミュージカル、ファッション、そして音楽。どれも、ゲームの思い出を再生するだけの単純な装置ではありません。そこには、芸術家の価値観の発露があり、新しい体験があります。芸術がゲームの世界をどんどん広げていく。一人のゲームファンとして、これほどワクワクすることはありません。

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