『白猫』シリーズ復活の鍵はどこにあるのか マーケティングのアンチパターンに学ぶ

8月2日にコロプラの2017年9月期第3四半期の決算が発表されました。前年同期比で大幅な減収減益となり、投資家やゲーム業界人のみならず、ユーザーの間でも心配と不安が広がっています。業績悪化の原因はやはり『白猫プロジェクト』『白猫テニス』の不振です。これまでも低迷が続いていましたが、未だスランプから抜け出せずにいるようです。

コロプラ 2017年9月期第3四半期決算説明会資料より抜粋

決算資料によれば、「FY2014」タイトル(主に『白猫プロジェクト』)は昨年度第3四半期(2016年4~6月)から急激に売上が減少し、1年間で半分ほどにまで縮小してしまいました。そして、ユーザー数も減っています。ユーザーの減少は、既存ユーザーのエンゲージメントと新規ユーザーの獲得力(集客力)の低下を表しています。課金率は施策次第でかなり変動しますが、ユーザー数は一度下がるとなかなか回復が難しいのが一般的です。

コロプラ 2017年9月期第3四半期決算説明会資料より抜粋

『白猫』シリーズの不振については、昨年5月の新キャラクターの追加がきっかけだという声も挙がっています。当時、サプライズで追加された新キャラクター「パルメ」があまりに強力だったためにユーザー間で不公平感が生じ、ゲームをやめてしまう人が相次いだという出来事です。そのキャラクターを揶揄して「パルメショック」とも呼ばれています。しかし、それが業績悪化の直接的な原因かというと、なかなかそうとも言い切れません。ガチャやゲームバランスの問題は他社の運営型ゲームでもしばしば発生しています。もちろん、それはそれで問題なのですが、そういったトラブルがセールスへ与える影響は一時的であることがほとんどです。少なくとも、人気絶頂だったタイトルが1年間で半分以下にまで縮退するようなケースは寡聞にして知りません。『白猫』シリーズに一体何が起きているのでしょうか。

『白猫』シリーズはこれまでプロモーションに積極的な投資を行ってきました。TVCMでは桜井日奈子さんを起用し、学校で友達と楽しくゲームを遊ぶという爽やかな印象のシーンで訴求しています。多いときは年間10パターン以上が制作され、いずれも充実した学生生活を想起させる内容です。そこには一人で黙々とプレイを続けるようなヘビーゲーマーのイメージはなく、年齢の若いライトユーザーを取り込もうとしているのがわかります。

ですが、これほど大規模なプロモーションを展開しても『白猫』シリーズはユーザー数の減少に歯止めがかかりません。これは何とも不思議な話だと思いませんか。仮に、運営に不満があって離脱するユーザーが多かったとしても、それ以上に新規ユーザーを獲得できていればユーザー数の減少をある程度食い止めることができるはずです。新規ユーザーの獲得では認知度の低さがネックになるものですが、『白猫』シリーズは既に抜群の認知度を誇っていますから問題にはならないでしょう。にもかかわらず、ユーザーは日に日に減り続けているのです。

マーケティングのアンチパターン

マーケター向けのニュースメディアには毎日いろいろな業界の成功事例が掲載されています。なぜマーケターが他社の成功事例を知りたがるのかといえば、彼らはいつも手詰まりだからです。ゲーム業界だけを見ても実に多種多様なマーケティングが行われてきました。しかし、どのゲーム会社もさすがに企画を打ち尽くしてしまっていて、斬新な施策というのもそう思いつくものではありません。他社の成功事例をヒントに何とかアイディアをひねり出そうとして、マーケターはあちらこちらの成功事例を見て回っているというわけです。

けれども、いかにも美しくてわかりやすい成功事例ほど、その裏には挑戦と失敗の積み重ねがあります。「失敗は成功の母」という言葉のとおり、誰かの思いつきがいきなり成功に結びついたのではなく、失敗しない方法を学び続けたからこそ成功に至ったのです。ということは、私たちは手詰まりの時こそ、成功事例ではなく、失敗事例に学ぶべきではないでしょうか。興味深いことに、いくら成功事例を並べてもなかなか必勝パターンは見えてこないのに対し、失敗事例はどれもパターンがよく似ています。たとえば、ここ最近で話題になった失敗事例にもダメなパターン(アンチパターン)を見出すことができます。

アンチパターン1.プロダクトがニーズに応えていない

「顧客の求めるものを作る・売る」というのがマーケティングの基本的な考え方(マーケティング・コンセプト)ですが、時には一体誰が買うのだろうかと、こちらが頭を抱えたくなるような商品が開発されてしまうこともあります。有名なところでは、赤城乳業の「ガリガリ君ナポリタン味」が挙げられるかもしれません。意外に美味しい(?)という意見も一部ではあるようですが、3億円もの赤字を出したといいますから、やはり氷菓にナポリタンの味わいは求められていなかったのでしょう。

アンチパターン2.魅力が伝わっていない

ガリガリ君ナポリタン味は製品そのものに問題がありましたが、かといって良質な製品が必ずヒットするとも限りません。大事なのは、その製品の価値や魅力をできるだけ多くの人に伝え、十分な納得の上で購入してもらうことです。しかし、強く訴求しようと頑張りすぎてしまうと、広告やパッケージをひねりすぎてしまい、かえって製品の良さを上手く伝えることができません。そんなふうに失敗してしまったのが日清食品の「黒歴史トリオ」でした。

「黒歴史トリオ」は日清食品によるキャンペーンで、過去に大失敗に終わった3つの商品をあえて復刻するという施策です。(キャンペーンサイトはこちら
黒歴史とはいえ、どれも味は良く、それだけに当時の迷走ぶりが目立ちます。キャンペーンサイトでは発売時の企画書が一部公開されており、自らの失敗をブラックユーモアたっぷりに振り返っています。トリオの中では「どん兵衛 だし天茶うどん」が私のお気に入りなのですが、蓋の部分には「天ぷら茶づけ風」という言葉の横に「うどん」と書いてあり、かなりこんがらがった印象を与えます。せっかくの美味しさも、このパッケージではさぞかし想像しづらかったことでしょう。

どん兵衛 だし天茶うどんのパッケージ
アンチパターン3.シナジーの生まれない組み合わせ

シャープの複合機にはプラズマクラスターイオン発生装置というオプション製品があります。空気をきれいにしてオフィスをより快適にできると謳っていますが、複合機に空気清浄機の性能を期待するかと言われれば、ちょっとよくわかりません。Twitterでは「そんなことをやっているから経営が傾くんだ」などと呆れる声も挙がっていましたが、このオプション製品の問題点は、複合機に期待される性能と空気をきれいにする技術が全く結びついていないところにあります。空気をきれいにしたところで、印字速度が上がるわけでもないのですから、ちっとも相乗効果(シナジー)が生まれないのです。

もっとひどい組み合わせではシナジーどころか、互いに邪魔をしあうことすらあります。たとえば、2014年にはモスバーガーとミスタードーナツが合体した店舗「MOSDO」が発表されましたが、結局この試みは上手くいきませんでした。当時のプレスリリースによれば、モスバーガーとミスタードーナツのメニューを合体させ、食事からスイーツまで幅広くカバーすることで来店者を増やそうという戦略だったようです。しかし、モスバーガーには既にスイーツメニューがありましたし、ミスタードーナツは何年も前から食事メニューの「ミスター飲茶」を取り扱っています。両社は異なる分野で展開してきたように見えますが、実はラインナップが重複している部分も大きく、むしろ互いに浸食しあう関係でもあったのです。この不都合のために、MOSDOではモスバーガーのスイーツメニューが削減され、ミスタードーナツの飲茶メニューも販売されませんでした。さらに悪いことに、共同で開発されたMOSDO限定メニューは「甘くないドーナツ」とか「ふにゃふにゃのバンズ」という中途半端な印象を与え、MOSDOは両社の“悪いとこ取り”のブランドとなってしまいました。

さて、ここで話をコロプラに戻しましょう。同社の業績不振は『白猫プロジェクト』『白猫テニス』の不調によるものとされていますが、どちらもゲームとしてはとてもよく出来ています。独自の「ぷにコン」で高い操作性を実現し、キャラクターも丁寧にデザインされています。思い出せば、数年前までは『パズル&ドラゴンズ』や『モンスターストライク』とトップを争っていたのですから、高いポテンシャルを秘めたタイトルであることは間違いないでしょう。したがって、不振の原因はゲームや運営そのものではなく、プロモーションと組み合わせ(ポートフォリオ)戦略にあると考えられます。

『白猫プロジェクト』のユーザーが減少し始めたのはパルメショック(2016年5月)ではなく、2016年9月期第4四半期(2016年7月~9月)でした。これは『白猫テニス』のリリースと時期がちょうど重なります。つまり、どちらも確かに面白いゲームなのに、並び立とうとすると何故か上手くいかないという現象が起きていたのです。よく考えると、なんだかMOSDOの失敗パターンに似ていると思いませんか。業績不振の本当の原因は、『白猫テニス』の登場によってプロダクト同士の位置関係がこじれ、市場への訴求力(メッセージ性)とシナジーが失われてしまったからではないか、と私は考えています。

スピンアウトタイトルは“究極の難題”

ブランドマネジメントの理論をまとめた経営学者デイヴィッド・アーカー(David Allen Aaker)は、著書『ブランド論』の中でポートフォリオ戦略についてこんなふうに言っています。

効果的なブランド・ポートフォリオ戦略の策定は、常に究極の難題である。

――デイヴィッド・アーカー 『ブランド論』

今や多くのゲーム会社が、複数のタイトルを異なるプラットフォームで販売・運営するようになりました。運営タイトルが増えるほど、そして展開するプラットフォームが多いほど、適切な組み合わせ(ポートフォリオ)を発見するのが難しくなります。組み合わせを誤れば、MOSDOのようにお互いに浸食してしまう(カニバリゼーションといいます)こともありますから、マーケターはプロダクトの位置関係を慎重に慎重を重ねて判断しなくてはなりません。だからこそ、アーカーはポートフォリオを「究極の難題」と言っているのです。

コロプラににとって『白猫プロジェクト』は大事な看板タイトルです。一方、『白猫テニス』は『白猫プロジェクト』のスピンアウトタイトルとして位置付けられています。

看板タイトルは文字通り、「この会社といえば、これでしょ!」と言ってもらえるような稼ぎ頭のタイトルで、メディアミックスでも薄まらないほどの厚みと熱狂を備えていなくてはなりません。スマートフォン向けゲームでいえば、ミクシィ・XFLAGスタジオの『モンスターストライク』、Cygamesの『グランブルーファンタジー』、女性に人気のタイトルではHappy Elementsの『あんさんぶるスターズ!』などが挙げられます。

これに対し、スピンアウトタイトルとは、看板タイトルに軌道修正を加えたものを指します。その目的は、看板タイトルでは手の届かなかったユーザー層にリーチすることです。スピンアウトタイトルとして最大の成功を収めたのはおそらく『ポケモンGO』でしょう。2016年7月にファミ通が行った調査では、『ポケモンGO』ユーザーの57.5%が「これまでに『ポケモン』をプレイしたことがない」と回答しており、正に狙い通りの結果をもたらしています。

しかしながら、スピンアウトタイトルは扱いが難しいポジションでもあります。そこには2つの大きなリスクがあるためです。

まずひとつは、看板タイトルにそれほど貢献しないかもしれない、というリスクです。エイリムの運営する『ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス(以下、FFBE)』はファイナルファンタジーのスピンアウトタイトルであり、歴代ナンバリングタイトルのキャラクターがクロスオーバーして登場します。このケースでは、FFシリーズのナンバリングタイトルが『FFBE』の存在感を強化していますが、逆方向の強化はほとんど働いていないでしょう。ナンバリングタイトルを通してFFシリーズのファンになった人が『FFBE』をプレイしている可能性が高いからです。

もうひとつのリスクは、スピンアウトタイトルが看板タイトルの人気を浸食するかもしれないという点です。看板タイトルとスピンアウトタイトルには緩やかな繋がりと類似点があります。そのため、看板タイトルのユーザーが新しくリリースされたスピンアウトタイトルへと流出してしまうことがあるのです。『ポケモンGO』の場合は、従来の『ポケモン』とは全く異なるハードとゲームシステムに仕上げることで、このリスクを上手く回避しています。

ところが、コロプラの『白猫テニス』は、この2つのリスクを解消しきれませんでした。『ポケモンGO』がそうであったように、本来であれば、看板タイトルとスピンアウトタイトルはある程度の距離を保って配置されなくてはなりません。しかし、『白猫テニス』は『白猫プロジェクト』と共通のキャラクターが多数登場する上、同じ顧客層に向けて似たようなクリエイティブのプロモーションを繰り返してしまいました。その結果、『白猫プロジェクト』の「王道アクションRPG」という元々の訴求ポイントが希釈され、個性がどんどん埋没していったのです。

両タイトルの境界が曖昧になったことで、『白猫』シリーズは、何となく繋がりのある似たような感じの2つのアクションゲーム、という並び方になってしまいました。もちろん、本当はゲーム性も違いますし、それぞれ色々な楽しみ方があります。両方ともせっせと遊ぶコアなファンもいなくはないでしょう。しかし、『白猫』シリーズが主としてきた若年層のライトユーザーではなかなか考えづらい行動であり、ユーザーの間ではむしろ「『白猫』はどちらかひとつ、ありさえすれば十分」と受け止められているのではないでしょうか。もしそうならば、『白猫』シリーズが共倒れとなったことにも説明がつきます。一見、『白猫プロジェクト』と『白猫テニス』は互いに補完関係にあるようでいながら、実はその間でユーザーはスイッチング(乗り換え)を起こしており、人気を浸食しあったために両方とも急速に人気を失っていったのです。

コロプラの驚くべき自浄作用

コロプラの四半期決算は大幅な減収減益に終わりました。しかし、決算資料で最も注目すべきなのは「6月下旬から白猫PJが復調」という記載です。今、同社は急速に体制を立て直しつつあります。

コロプラ 2017年9月期第3四半期決算説明会資料より抜粋

看板タイトルである『白猫プロジェクト』の人気回復はコロプラにとって最重要課題でした。これまでは苦戦を強いられてきましたが、現時点での復調は大きな転機となり得るでしょう。方針の修正は直近の施策にも表れています。『白猫テニス』では7月31日に1周年記念イベントを開始し、ガチャピン・ムック、江戸川コナン、ハローキティなど国民的キャラクターとのコラボレーションを行っています。普段ゲームを遊ばない人たちにもよく知られたキャラクターを起用することで、スピンアウトタイトルとしての本来の役割を果たそうとしています。

一方、『白猫プロジェクト』も3周年を迎え、「ゼロ・クロニクル~始まりの罪~」という新ストーリーを追加しました。主人公とヒロインの秘密に関わる悲恋の物語で、正に「王道アクションRPG」に相応しい原点回帰です。PVも壮大な世界観を感じさせる内容で、賑やかでライトな雰囲気の『白猫テニス』とは距離を置くことが出来ています。

この力強い軌道修正はコロプラがまだまだ大きな創作力を秘めている証拠と言えるのではないでしょうか。今後も『Project : Pani Pani(仮称)』『アリス・ギア・アイギス』といった新作が控えています。ひとりのファンとして、トップタイトルが再びコロプラから生まれることを願ってやみません。

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