書評:『大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる』阿部誠

東大教授が教えるマーケティング理論

ゲームは、クリエイターの作品であると同時に、市場でユーザーと取引されるサービスでもあります。企業とユーザーとのインタラクションによってサービスの価値が共創されるようになった今、マーケティングの理論的背景なしにはゲームの面白さは語れないでしょう。TVCM、デジタル広告、ファンイベントなど様々な施策が飛び交う時代だからこそ、バズに振り回されないためにサイエンスとしてのマーケティングが重要性を増しています。

本書は、累計50万部突破のベストセラー『10時間でざっと学べる』シリーズの一冊です。著者は東京大学で20年間マーケティングの教壇に立ってきた阿部誠教授。長年の指導経験は本書にも十分活かされており、STP、SWOTといったおなじみのセオリーから、価格弾力性とプロモーション弾力性を用いた広告予算の最適な配分の算出方法など、MBAコースで扱われるような高度な学説まで、2ページ見開きでわかりやすく図解されています。また、随所で身近なマーケティング事例にも触れ、誰もが「なるほど」と膝を打つ内容です。
 

理論と実務のギャップ

マーケティングの実務は、いつも理屈通りにいくわけではありません。精度の高いデータが常に準備されているとは限らないし、判断に十分な時間が与えられない場合もあるでしょう。現場では何事もやりくりが求められます。しかし、そのやりくりに気を取られるあまり、成功の因果関係を経験や単純な相関だけで判断しがちです。意外に思われるかもしれませんが、ベテランのマーケターでさえ、理論の面で初歩的な判断ミスをすることがあります。

最近のゲーム業界では、ファン作りが注目されるようになってきました。毎日膨大な数の新作がリリースされる中で、自社のタイトルを率先して選び、プレイし続けてくれるファンをどれだけ増やせるかが、収益を大きく左右するようになったからです。他社の製品とほとんど比較せずに購入を決めてしまうことをブランド選好といいますが、ファン作りには、消費者のブランド選択行動への理解が不可欠です。

マーケティングの理論において、選好は消費者の知覚(どのような品質・性能だと思われたか)と態度(好ましいかどうか)から形成され、さらに、その知覚と態度は、消費者のライフスタイルや心理的要素から影響を受ける、とされています。ところが、これが実務レベルになると、ファンの生活や心理はあまり探求されず、性別や年齢ばかりを基準にしてプランニングが始まってしまいます。理論上、デモグラフィック属性はブランド選択から最も離れた位置にあったはずです。にもかかわらず、「実務」の名の下、直感に拠った判断でかえって遠回りしてしまうというのは案外よくある失敗ではないでしょうか。
 

マーケティングは愛である

本書はマーケティングの原理・原則がコンパクトにまとめられています。しかし、著者は決して理論一辺倒ではありません。むしろ、マーケティングにはサイエンスとアートの両方が必要であると主張しています。印象的なのは、“「マーケティング」とは「愛」である”というタイトルで最初の章が始まることです。

マーケティングは企業が儲けるためのテクニック集だと考えている人もいるかもしれません。買うか、買わないかを消費者に突きつけ、ゼロサムゲームを続けている企業もあります。しかし、顧客(ユーザー)に学び続ける仕組み作りこそがマーケティングの本質であり、だからこそ、著者はそれを「愛」と表現しているのです。マーケティングの初学者はもちろん、現役のマーケターにとっても、顧客に寄り添う「愛」について、その理論的な美しさを楽しむことのできる一冊になっています。
 

書籍情報

『大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる』
著者: 阿部誠
出版社:KADOKAWA / 中経出版



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