超巨大プラモデルの美学 BORDER BREAK マーケター・西村ケンサク

 セガの人気アーケードゲーム『ボーダーブレイク(BORDER BREAK)』。稼働開始から9年経った今も尚、「ボーダー」と呼ばれるプレイヤーが日々対戦を楽しむロボットシューティングゲームだ。そして、その人気を最前線で支えてきたマーケター・西村ケンサク。

 生粋の“セガっ子”が描いた夢は、高さ5メートルの超巨大プラモデルのロボットだった。その奇想天外なアイディアは海を越え、世界的な広告賞「THE ONE SHOW」のMERIT賞を受賞。「カスタマイズの美学を伝えたい」。初めて語られる、彼のマーケティング哲学。

 

西村ケンサク
株式会社セガ・インタラクティブ AM戦略本部 AMマーケティング部 第1プロモーションチーム所属。ゲーム雑誌の編集者としてキャリアをスタートし、2001年にセガ入社。現在はPS4®版『BORDER BREAK』シリーズの宣伝・マーケティング担当。

 

 

元芸人、元バンドマン、元ゲーム雑誌編集者

 僕は1975年生まれなので、もうファミコン世代ど真ん中。小学生だった僕は、喉から手が出るほどファミコンが欲しくてたまりませんでした。でも、近所の玩具店ではどこもファミコンが品切れで、なかなか買えずにいたんです。あの頃はファミコンを持っている子をずっと羨ましく思っていました。

 ところがある日、ついに兄がゲーム機を買ってきてくれたんですよ。それはもう嬉しかったのなんのって! ただ、兄が手にしていたゲーム機は、あのお馴染みの赤と白のカラーリングじゃなかった。横長のシンプルな筐体に青色のロゴ――そう、セガのSG-1000だったんです。

 

▲「ゲームパソコン」SC-3000からキーボードを切り離し価格を抑えることに成功した、セガの家庭用ゲーム機第1号。1983年7月15日発売、価格は15,000円。当初本体ラベルは黒色だった(写真はセガハード大百科より)

 「これでゲーセンのゲームも遊べるんだぞ」って、兄が得意顔で話していたのを今でもよく覚えています。本当はファミコンが欲しかったはずなのにね(笑)。ですが、それこそがセガとの出会いであり、僕の人生が決まった瞬間でもありました。

 その後、僕は生粋の“セガっ子”として育っていきました。小学校の作文で「大人になったらセガで働きたい」と書くくらい(笑)。だから、今こうしてセガにいることを誇りに思いますし、“セガっ子”の名に恥じない仕事をしなくては、という気持ちはいつも持ち続けています。

 セガに入社したのは2001年、25歳の時です。新卒で入社したわけではないんですよ。その前は、お笑い芸人を目指したり、バンドを組んだり、俳優として映画に出演していたこともありました。そうやってフラフラ過ごしていた時期に、偶然にもローリング内沢さん(ゲーム批評家・元「週刊ファミ通」編集者)にお会いする機会があったんです。

 お互い好きなカルチャーが共通するものも多く、すぐ意気投合して、アスキーで一緒に仕事をさせていただくことになりました。それが1997年、セガに入社する3~4年前のことです。つまり、僕のキャリアはゲーム雑誌の編集者からスタートした、ということになります。

 当時の編集部では動画を活用した企画を模索していて、その試みとして「月刊ファミ通Wave」というCD-ROM付きのゲーム雑誌が創刊されました。僕は創刊の準備段階から携わっていて、動画を編集したり、企画を考えたり、とにかく色々なことに挑戦しましたね。動画でゲームの実況や攻略を行うというのは、今でこそ当たり前になっていますが、動画共有サービスなんて無かった時代でしたから、最先端の取り組みだったと言えるのではないでしょうか。

 ファミ通での経験は、現在のプロモーションとパブリシティに対する僕の考え方のベースになっています。ゲーム系の(マス)メディアにとって良い記事が、メーカーやユーザーにとっては必ずしも有益で面白い内容とは限らないんですよね。

 その逆も然りで、企業がいくらPRしても、ニュースとしての価値が乏しければ、なかなかメディアに取り上げてもらえません。ユーザー、メディア、ゲーム会社の三者はそれぞれ視点が異なっていて、見え方にズレがある。そして、そのズレは僕たちが思っている以上に大きいのではないか。編集員だった頃はそれほど意識していませんでしたが、今の僕にとっては、考え続けるべき大切な問いになっています。

 こういう問題意識を持つようになったのは、セガに入社した後からですね。セガが広報の担当者を募集しているらしいと聞きつけたのがきっかけで、思い切って応募してみることにしました。やっぱりセガで仕事をするという夢があったし、今度は企業の視点からゲーム業界を見てみたいと思ったからです。

 今だからお話しできますが、採用面接の時に小口さん(小口久雄 現セガサミークリエイション社長)がこっそり開発ルームを見せてくださったんですよ。部屋の中にはバラックの筐体が設置してあって、カードを置くと画面にキャラクターが出てくるようになっていました。

 後に、『WORLD CLUB Champion Football』(セガ, アーケード, 2002年)、『甲虫王者ムシキング』(セガ, アーケード, 2003年)、『三国志大戦』(セガ, アーケード, 2005年)といったアーケードの大ヒットタイトルの原型が、そこにもうあったわけです。

 それを目の当たりにして、“セガっ子”の僕は震えるくらい感動しましたね。「常に先進的なゲームを作っているセガはやっぱりすごい!」と、決意を新たにしました。だから、採用の連絡をもらった時は本当に嬉しかったですよ。あれからもう20年近く経つのか……。自分で言うのもアレですが、随分長くセガにいるんだなぁ(笑)。

 

伝説の迷作『セガガガ』

 セガに入社して、すぐに配属されたのがヒットメーカー(※)というグループ会社です。

 ※ヒットメーカー……セガ社内の第3AM研究開発部を母体とした子会社。アーケードゲームを中心に数々のヒット作を生み出した。

 そこで最初にお手伝いしたのが『セガガガ』(セガ, ドリームキャスト, 2001年)の広報アシスタントでした。『セガガガ』は、ドリームキャストが売れなくて経営不振に陥ったセガを立て直すっていう自虐ネタのゲームなんですよ(笑)。セガの過去作やゲーム機がバンバン登場するし、当時のサブカル事情をネタにしたパロディが満載の、いろんな意味で尖った内容でした。

 

▲『セガガガ』パッケージ
▲『セガガガ』ゲーム画面

 しかも、プロモーション予算はたったの3万円! 実は、『セガガガ』は当初通信販売のみで、店頭では売っていない商品でした。つまり、誰でもすぐに買えるゲームではないということで、極端な低予算が設定されたようです。

 『セガガガ』の時代背景はちょっと複雑で、リリース直前にセガはゲーム機開発を断念して事業撤退(※)を発表することになります。だから、『セガガガ』は一見悪ノリしているようですが、セガと“セガっ子”たちの最後の儚いロマンを背負っている面があって、ゲームビジネスへの皮肉も多分に含まれています。

 ※家庭用ハード事業の撤退……2000年末商戦の結果を受けて、2001年1月31日にセガは「構造改革プラン説明会」を開催しドリームキャストの製造中止を発表。家庭用ハード事業から撤退を宣言。

 そういう内容だったからこそ、ネタそのものはコアなファンにしかわからなくても、『セガガガ』の存在自体が業界への問題提起になるのではないか、と思いました。それならば、広報としての僕の役割は、ゲームの売り込みではなく、ゲームファンの間に論ずるべきアジェンダを投じることにあるはず。しかも、そのメッセージは、ゲーム雑誌にとっても、ジャーナリズムを発揮できる重要な記事として扱ってもらえるだろう、と考えたわけです。

 そこで、各社の編集部にコンタクトしたところ、多くの記者が取材に訪れてくれました。中には、何ページも割いて特集記事を掲載してくれた雑誌もあったほどです。取材にお金は一切かけていませんでしたが、それでも『セガガガ』は瞬く間に知れ渡り、リリースして数ヶ月後には店頭販売へと販路を拡大することが出来ました。

 ちなみに、予算の3万円は、ディレクターのゾルゲール哲氏が身につける特注マスクの制作費に使用しました。でも、結果的に予算はそれで十分足りてしまった。もちろん、予算はあればあるほど都合が良いものです。しかし、派手な広告だけでブランドをつくることはできません。広報、そしてマーケターとして本当に大切なことを、『セガガガ』は教えてくれたように思います。

 

超巨大プラモデルの製作過程

 『ボーダーブレイク』は、僕が最も長く関わってきたタイトルです。お陰様で、アーケード版は今年で10周年を迎えます。また、2018年8月にはPlayStation®4にも移植され、その際のプロモーション企画「『BORDER BREAK』1/1プラモデルプロジェクト」はアメリカ・ニューヨークの広告賞「THE ONE SHOW」のPrint & Outdoor部門でMERIT賞に選出されました

 世界的に名誉ある賞をいただけたのは、長年応援してくださっているファンの皆さん、関係各社の方々、そしてプロジェクトチーム全員の協力があったからこそです。ただただ感謝しかありません。本当にありがとうございます。

 「1/1プラモデルプロジェクト」は、『BORDER BREAK』に登場するロボット「ブラスト・ランナー」を原寸大に再現し、巨大なプラモデルとして組み上げるという企画でした。設計・製作はピア21さん、監修は日本有数のプラモデルメーカー、壽屋(コトブキヤ)さんです。

 今回作っていただいたのはブラスト・ランナーのひとつ「輝星・空式(きせい・くうしき)」という機種なんですが、なにせ原寸大ですからね(笑)、高さ約5メートル、パーツの数はおよそ1,000個にのぼりました。壽屋さんにとってもこれまでで最大のプラモデルだったそうです。

 規格外の大きさではありますが、プラモデルはプラモデルです。だから、まずはランナー(枠)からパーツを切り離すところから始まります。ランナーは東京・新宿駅のメトロプロムナードに掲出され、専門スタッフ立ち会いの下、その場で切り出し作業が行われました。

▲東京・新宿駅のメトロプロムナードに掲出された巨大パーツ
▲パーツを切り取る様子。その瞬間を一目見るために多くのファンも駆け付けた

 カットする時はゲート(枠とパーツのつなぎ目)をちゃんと残しておかないとダメなんですよ。仕上がりを綺麗にするためのコツですね。そのあたりも普通のプラモデルと変わりません。ただ、ワイヤーカッターで断ち切るたびに、パンッ!と、すごい音が構内中に響くんですよ。

 それで自然に人が集まり始めて、「何やらすごいものを作っているらしい」と、SNSでも話題がどんどん広がっていって……。作業期間中は予想以上に大勢の方にお立ち寄りいただき、一時は警備員が出動するほどの盛り上がりとなりました。

 その後、プロフェッショナルの手によって塗装が施され、徐々に組み上げられていきました。そして、構想から1年半、PlayStation®4版の発売記念イベントで遂に完成品がお披露目となりました。完成した「輝星・空式」はもう文句なしの格好良さでしたね。表面はあえてピカピカにせず、土汚れや錆が入っていて歴戦の一機であることを窺わせます。この超巨大プラモデル完成のニュースは海外にも波及し、ワールドワイドで365の媒体に取り上げられました。

 

カスタマイズの美学

 今回のプロジェクトで僕がこだわったのは「プラモデル」というポイントです。

 原寸大の立像を作るだけなら、もっと少ないコストで済んだでしょう。でも、そうじゃないな、と思いました。だって、もうガンダムはお台場の地に立ってしまったし、レイバー(アニメ『機動警察パトレイバー』に登場するロボット)もあちこちでデッキアップされていますから。しかも、どちらも世界的な名作アニメです。同じことをやって二番煎じ、三番煎じになってしまうのは悔しいじゃないですか。そこで、プラモデルならば、もっと『BORDER BREAK』らしい表現ができるんじゃないかと考えました。

 『BORDER BREAK』の特長といえば、何をおいても、兵装のカスタマイズ性です。ブラスト・ランナーには4つのタイプがあり、装備できる武器も様々です。さらに、機体の4箇所にパーツが取り付けられ、特別なチップを搭載すれば更なる強化を図ることもできます。パーツ1つで操作感は大きく変わりますから、無限の組み合わせの中から、慎重に、時に大胆に、自分なりの兵装を設計していかなくてはなりません。その奥深さが、もうたまらなく面白いんですよ。

 兵装を見れば、その人が何を重んじ、どんな戦い方で活躍したいのかが見えてきます。つまり、兵装は「自分の思う“格好良さ”とは何か」が問われるんです。それは、自機を育て上げる中で見出される価値観、言わば、カスタマイズの美学です。僕が原寸大プラモデルにこだわった理由も正にそこにあります。

 設計から組み上げに至るまでの壮大な製作過程を通して、『BORDER BREAK』の根幹である、カスタマイズの美学を伝えたい。それが「1/1プラモデルプロジェクト」に託した僕の思いです。

 たかだかゲームで美学を語るなんて、人によっては滑稽な話に聞こえるかもしれません。それでも、新宿駅という日本で最も人がごった返す場所で、あのランナーを見てわざわざ立ち止まってくれる人なら、きっと伝わる。そう確信していました。

 それに、あの駅広告にはもうひとつ仕掛けがあって、パーツを外すと背景のメッセージが見えるようになるんですよ。すべてボーダー(プレイヤー)から直接寄せられた声です。「重装甲こそ正義」という人もいれば、「性能より大事なのはカッコよさだろ!」という人もいます。パーツの向こう側に、戦場だからこそ語れる哲学がある。語り合える仲間がいる。

 全くプレイしたことのない人でも、あの一言一言を目にすれば、『BORDER BREAK』の魅力がズバッとわかってしまうんです。長年アーケードで愛されてきたタイトルだからこそできた施策だし、説得力をもって伝えられたのだと思います。

 

0.1%の人に選ばれる広告

 昨今のゲーム業界はデジタルマーケティングが主流で、どの顧客層にどれだけの広告効果があったのかが、瞬時にデータで表示されるようになりました。テクノロジーの進歩は凄まじく、こんなことまでわかってしまうのかと驚きの連続です。

 その一方で、僕たちマーケター自身も、広告と同じようにデータで評価されるようになっています。有り体に言えば、いかに少ないコストで売上を高められるか、インストール数を稼げるか、そういう数的な成果によってある程度評価が決まってしまう。マーケターという仕事には、そういう厳しい一面があるのも事実です。

 だけど、僕はバズが欲しくて「1/1プラモデルプロジェクト」を始めたわけではありません。むしろ逆なんです。

 『ボーダーブレイク』はアーケード版の初出からずいぶん時間が経ちましたし、アクションが複雑で、専門用語も多くて、通好みといえば聞こえは良いですが、実際はかなり人を選ぶところがあります。だから、TVCMのようなマス広告をガンガン打ち出しても、大した効果は得られないんですよ。マーケター泣かせでしょ、ホントに(笑)。

 そういう性質のゲームですから、PlayStation®4版のプロモーションにあたっては、ターゲット層をかなり絞り込まなくてはいけなかったし、リーチするのも簡単ではないだろうと思っていました。

 そこで、発想を変えてみることにしたんですね。ターゲットを選び出すのではなく、これからボーダーになってくれそうな人にだけ選ばれる広告を出せばいい。5メートルのプラモデルを作るなんて元々与太話みたいな企画なんですから、99.9%の人が素通りしたって構わない。でも、その無茶なチャレンジを本気で信じてくれる0.1%の人は、このプロジェクトを絶対に無視できないはずなんです。

 つまり、ターゲットの絞り込みが自然に最適化され、リーチすべき人にはしっかりリーチできる。「1/1プラモデルプロジェクト」はそういう理に適った施策でもあったわけです。

 

ロマンにも数字にも飛びついてはいけない

 マーケターは常にロジカルであるべきだと思います。僕は“セガっ子”として人生の多くを捧げるほど、セガにロマンを感じていますが、だからこそ、ロマンだけで何とかなるような仕事ではないことを知っています。

 一方で、マーケターは数字に飛びついてもいけない。KPIがどんなに良い値を示していたとしても、その広告の費用対効果が優れていたということであって、見た人がその広告にどんな印象を持ったかはわからない。

 逆に、インストールや購入には至らずとも、大会やイベントでの触れ合いを心から楽しんでもらえたり、時には誰かの思い出になるということだってあります。なのに、コスパが悪いというだけで切り捨ててしまうのは結構もったいないですよ。それじゃあ、策士策におぼれるというやつです。

 ロマンもデータも、正解をくれるわけではありません。両方を組み合わせて、自分でロジックを組まなくちゃ。自分の目で見て、肌で感じて、頭で考えない限り、答えは見つからないし、問題がどこにあるのかさえわからない。だから、マーケターはどんな些細なことも真面目すぎるくらいに受け止めて、常に考え続けなくてはならないんですね。

 でも、考え続ければ、その分だけ成長できるし、もっと多くのことが見えるようになります。そして、セガはそういう努力を決して無碍(むげ)にはしません。だから、僕はいろんな人と一緒に考えたいし、僕にまだ足りていないところがあったらビシビシ言ってほしい。自分のこと、まだ全然伸び盛りだと思ってますからね(笑)。それに、僕はこれからやりたいことがいっぱいあるんです。

 

これまでの10年、これからの10年

 先日、シリーズプロデューサーの青木(青木盛治 氏)からもお話しさせていただきましたとおり、2019年9月9日をもってアーケード版『ボーダーブレイク』はサービスを終了することとなりました。長期運営タイトルということもあり、筐体やICカード等のハード面での老朽化が進み、これ以上の維持・供給が難しくなったことが主な理由です。PlayStation 4®版は今後も鋭意運営を続けてまいりますので、どうぞ安心して下さい。

 「1/1プラモデルプロジェクト」で唯一予想外だったのは、PlayStation®4版の発売をきっかけに、数年ぶりに復帰してくださったボーダーが非常に多かったことです。年月が経てば、中学生だった子も、立派な社会人になっているでしょう。生活の変化で、ゲームセンターから足が遠のいていた方も案外多かったのかもしれません。その点、PlayStation 4®版なら電源入れてすぐに戦場に行けますからね。もう心ゆくまでバトルを楽しんでいただきたいです。

 また、新たにボーダーとなった方のために、初心者向けの攻略動画やWikiを更新していただき、本当にありがとうございます。『BORDER BREAK』シリーズはボーダーの皆さんの応援と共創があってこそのゲームです。開発・運営チーム一同、次の10年に向けて屈伸しながら走っていきますので、これからもどうぞよろしくお願いします!

 

 

取材・執筆:神谷美恵、取材・企画:原孝則
編集協力:森口拓海、撮影:岸波崇

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