韓国『メイプルストーリー』、排出率公開を発端に大炎上へ 本問題を解説

 『メイプルストーリー』は、韓国でネクソンが2003年4月から17年間サービスを続いているPCオンラインゲームだ。その人気は、PCオンラインゲーム界隈でも17年間トップを維持するほどで、ネクソンを代表するゲームのひとつである。しかし、最近では『メイプルストーリー』でとある事件が勃発し、ユーザーから非難の声があがっている。

 その原因は、韓国における「確率型アイテム規制法案」が発議されたことからだ。確率型アイテム、いわゆるガチャに対する規制の声が高まり、法律立案が予想される中、ネクソンは立案が実現すると違法になると予想される個所のアップデートを行った。

 その過程で、今まであまりにも不合理的な内容がユーザーたちに発覚されてしまったのである。ユーザーたちは韓国ネクソン社前にトラックを送り大々的なデモ活動に行っている事態だ。

 本稿では、韓国『メイプルストーリー』に起きた事件について、一体何が起こり、何が問題になったのかを紹介したい。

 

『メイプルストーリー』とは

▲日本でもサービスしている『メイプルストーリー』

 前述したとおり、『メイプルストーリー』は韓国で2003年4月にサービスを開始し、17年が過ぎた今でもネットカフェのシェア率TOP10に入るほどの人気オンラインゲームだ。韓国以外でも日本をはじめ、全世界110カ国で1億8,000万人の会員を持つネクソンの代表作である。

 今回の事態は幾つかの問題が重なって起きたものだが、その中でも一番問題となっているが、2010年5月13日に実装された強化システム「潜在能力」と、2012年12月6日に実装された強化システム「追加オプション」の排出率に関する問題だ。

 「潜在能力」と「追加オプション」は基本的には同じような強化システムで、装備アイテムにある基本能力値とは別に、追加で付与できる能力値のこと。装備アイテムに複数の追加能力値を付与することができるが、各能力値の排出率は非公開のままだった。

 非公開といってもユーザーたちはゲームプレイを通じて、どのぐらいの確率になっているのかを逆算してみていたので、ある程度予想はしていた。その排出率が毎回変わるという話はあったが、確実な証拠はなかったので、ひとつの風聞でしかなかった。

 

韓国内で本格的にガチャ規制の法案が始動

 韓国では、今までガチャに対する規制が殆どなく、「韓国ゲーム産業協会」によるガチャの排出率を公開の活動を自発的に行っているだけだった。しかし、排出率を公開しているのは「ダイヤ」や「ジェム」といった課金石を直接使って回すメインガチャのみで、ランダム要素が入るすべてのコンテンツに対しては排出率の公開は無かった。

 問題なのは排出率を公開していないランダム要素の多さとそれが結局は課金に繋がっていて、ユーザーたちが被害を受けているということだった。直接、課金石は使ってはいないが、素材として必要な材料アイテムが課金石か課金でしか手に入らないものを使ったコンテンツに関しては、排出率を公開していなかった。「追加オプション」もそういう排出率を公開していないコンテンツのひとつだった。

▲『リネージュM』では、神話武器を作るためには「神話制作秘法書」が必要だが、また秘法書を作るためには「歴史書」を1から10まで集める必要がある。これは日本では禁止となったコンプリートガチャのようなシステムで、日本版では変更された。

 こういった韓国ゲーム企業の動きに不満を抱くユーザーは多く規制の声を出し始めた。これまでガチャに関する規制法案を立案しようとする動きはあったのだが、「ゲーム産業協会」による自発的な確率公開などの対応があり、なかなか支持されず法案の発議は進まなかった。

 しかし、ユーザーたちの支持の下で、2020年12月にイ・サンホン議員ら、国会議員17人によるゲーム産業振興法の全部改訂案、つまり「確率型アイテム規制法案」が発議された。「確率型アイテム規制法案」の内容は全てのランダム要素に対して排出率を公開することを義務化することと、コンプリートガチャを禁止することだ。

 韓国ゲーム企業は法案の発議に対して「確率は営業機密」だという反対の意見も出したが、ユーザーたちは「もっと規制が必要だ」という意見が多く、世論はゲーム企業に不利な方向に進んでいた。さらに、Netmarbleが韓国でサービスしている『Fate/Grand Order』において、イベント開催の取り消しとその対応が問題となり、世間とゲームユーザーたちはゲーム企業の動きに敏感な状況だった。

 

10年間非公開だった排出率の公開
その反響はネクソンの想定外だった

 『メイプルストーリー』において本格的に炎上し始めたのは、2021年2月にテストサーバー向けのアップデートとそのお知らせからだ。そのお知らせの内容は「追加オプションでの能力値の排出率をすべて同じ確率になるように修正しました」というもの。

 今まで「追加オプション」にはランダムに能力値を付与するという説明だけで、排出率に関してはデータの公開は全くなかった。ユーザーたちは実際に回してみて、感づいてはいたものだが、実際に運営側からそのことが公式的に認められて、『メイプルストーリー』のコミュニティー内で炎上し始めた。

 普通だったら不満はあるものの、ここまで話題にはならなかったのではないかと思うが、「確率型アイテム規制法案」をめぐる世論の影響や、『Fate/Grand Order』から始まったユーザーたちのゲーム企業での不信が高まっている状況だったので、問題はより大きく拡大していた。

 さらに、ユーザーたちはただ能力値ごと排出率が違うのではなく、排出率が変動していると疑問があった。「排出率を操作している」という世論が広まり、『メイプルストーリー』のディレクターは全ての排出率を公開するという約束をした。

▲韓国ネクソン社と国会議事堂前には、デモ用のトラックが数台送られた。韓国ではゲームユーザーのデモ活動に、このトラックを送ることがひとつのカルチャーになっている。画像出所:ニューストマトの記事、Ruliwebのユーザーの書き込み

 事態がもっと悪化したのはここからだ。先述した「潜在能力」の排出率が問題だった。

 「潜在能力」は最大3つの追加能力値を付与でき、同じ能力値で重複して付与することもできる。その中で、「ボスモンスターを攻撃時にダメージ+%」という能力値を最高と言われており、この能力値を3つ重複して持つのが究極と言われていた。「潜在能力」が実装された2010年5月から、10年以上にユーザーたちは究極の能力値を目指して、ガチャを回したのである。

 しかし、排出率の公開のお知らせにより明らかになったのは、「ボスモンスターを攻撃時にダメージ+%」という能力値は2つまでしか重複できず、3つは0%だったことが明らかになった。今までユーザーたちはその疑問を持っていたが、確実な証拠はなく、ネクソンもそのことを一切公開していないため、ユーザーたちは10年間課金し続いていたのだ。

▲「ボスモンスターを攻撃時にダメージ+%」能力値の3重複はイベントアイテムを使うと運よく出るケースはあった。しかし、そのイベントアイテムは1回きりだった。一応、ゲーム内には3重複のアイテムは存在したので、ユーザーたちは3重複が出ると信じていた。

 ユーザーのコミュニティーからは、「最初から排出率を公開していれば、無意味な課金はしていなかった。これは詐欺だ。」という声が一気に広まった。ネクソン本社前には連日デモが行われ、韓国事情派のマスコミにまで報道されるようになったのだ。もちろん、海外でも同様だ。

 さらに、ネクソンは2021年2月10日に全社員の年俸を800万ウォン(約80万円)引き上げることを発表し、ゲーム企業たちの年俸の引き上げラッシュのスタートを切っている。ゲーム産業の待遇の改善と優秀な開発者を確保するための施策だったが、ユーザーたちは「俺たちを騙して稼げたお金で給料上げるな。」という批判も上げていた。

 『メイプルストーリー』のユーザーたちはデモだけに止まらずネクソンに対して詐欺の疑いで団体的な告訴まで準備しているという。

 一方ネクソンは、2021年4月11日に「ユーザー懇談会」を開催(関連動画)。当日は、『メイプルストーリー』のディラクターら数名の開発者、そして10人のユーザー代表が同席し、懇談会は8時間以上にも及んだ。

 今回の件に関して、ネクソン側は謝罪。今後は、半年ごとに懇談会を設けて、ユーザーの意見に耳を傾けることを約束した。しかし、肝心な「ボスモンスターを攻撃時にダメージ+%」能力値の3重複に対するコメントはきちんとした回答ができず、ネクソンへ不満を言うユーザーの声はまだ続いている。

「ユーザー懇談会」動画のスクリーンショットより

 事態は沈静化の一途を辿っているようにも思えるが、韓国ユーザーのショックは計り知れない。今後、ネクソン側がユーザーの信頼を取り戻すには、険しい道が待っていることだろう。

Finley
ゲーム会社を経営する傍ら、アジアのゲーム業界を中心とした調査・分析・執筆を行う。各国の政治概況や業界ネットワーク、技術トレンド、ユーザー動向など、ゲーム開発者としての知見を持つ。現在は、主に韓国・中国のゲーム市場の動向を調査。

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