『ワンダープロジェクトJ』過去資料がゲーム開発者の有用な資産に。スクエニが「ゲーム開発資料発掘プロジェクト」の成果を発表【CEDEC2021】

 2021年8月24日(火)から26日(木)までの3日間、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2021」(CEDEC=セデック:Computer  Entertainment Developers Conference 主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会、略称CESA)が開催。昨年に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大を防止する観点から本年もオンラインで開催された。

 本稿では、8月24日(火)に実施された講演「資料を資産へ、スクウェア・エニックスにおけるゲーム開発資料発掘プロジェクト」[Wonder Project J編]の模様をレポートしていく。

【講演者】

三宅 陽一郎
スクウェア・エニックステクノロジー推進部リードAIリサーチャー。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。スクウェア・エニックス・AI&アーツ・アルケミーCTO、立教大学大学院人工知能科学研究科特任教授、九州大学客員教授、東京大学客員研究員。人工知能学会理事・シニア編集委員、日本デジタルゲーム学会理事、芸術科学会理事、IGDA日本ゲームAI専門部会チェア。
藤本 広貴
スクウェア・エニックス第四開発事業本部ディビジョン1(プロデュース&制作)、シニアマネージャー/プロデューサー。1992年に現在のSQUARE ENIXの前身であるENIXに入社。『ワンダープロジェクトJ』『ワンダープロジェクトJ2』『常勝麻雀天牌』『オレが監督だ!激闘ペナントレース』『いただきストリート3』その他、約10年間家庭用ゲームの制作を行う。

 

 

スクエニ倉庫に眠る資料、もとい”宝の山”を管理するために…

 スクウェア・エニックスの過去資料のサルベージを目的としたプロジェクト「SAVE」。テクノロジー推進部の三宅氏によると、プロジェクトメンバーは現在3名で、スクウェア・エニックスグループである「SQUARE、ENIX」「TAITO」「QUEST」「SQUARE ENIX」の約70年分の資料の分類を行っているという。

 SAVE立ち上げのきっかけは、2019年夏、研究に必要な技術資料を探すために旧エニックスのデータ調査を行ったときのこと。

 スクウェア・エニックス社内デジタルライブラリで管理されていなかった資料を取り寄せた際に、作品の開発資料や設計資料など、開発者にとって思わぬ“宝の山”を発見できたことから「(過去資料を)体系的に管理する必要がある」と思い至ったそうだ。

 それから2019年冬。管理フォーマットと作業マニュアルを作成、予算を算定し、プロジェクト「SAVE」を正式に発足。2020年冬、全社に対して業務を行う総務部との連携が取れたことで、他の各部の情報が入るようになり、各部や個人からのSAVEへ資料の回収依頼が加速。2021年夏には、旧エニックス全資料のデータ化・インデックス化に成功したそうだ。

▲倉庫管理表には大まかな情報があったが、段ボールの中身は不明だった。倉庫に山積みになっている資料について三宅氏は、「旧エニックス地下倉庫でホコリが積もる状態で管理していたものを、旧エニックス本社ビルを畳む際に、そのまま段ボールに詰めて移動したもの」だと推測している。
▲倉庫に1万箱以上あり、それぞれの資料についてフォーマットも徹底されていなかったため、管理開始時期や前後の内容から検討をつけていく必要があった。箱の中身についてのインデックスを作ることで、検索・取り寄せが容易にできるように。
▲段ボールの中には、大量の未開封のゲームやグッズが入っていたそうだ。

 

知られざる『ワンダープロジェクトJ』の誕生秘話

 続いて、藤本氏がプロジェクトの成功例として、『ワンダープロジェクトJ 機械の少年ピーノ』(以下、ワンダープロジェクトJ)を取り上げて説明する。

 『ワンダープロジェクトJ』は、スーパーファミコンにて1994年にリリース。ギジン(人型機械)であるピーノとコミュニケーションを取りながら、様々なアドベンチャーに挑戦していく作品だ。アニメーションの作画監督を飯田馬之助氏、キャラクターデザインを川本利浩氏、ピーノのボイスを日高のり子さんが担当している。

 『ワンダープロジェクトJ』の企画は、Macintosh(マッキントッシュ)の“画面の中の犬に芸を教える”ゲームから着想を得たという。最初は「コンペット」というゲームタイトルで、デジタルペットを自由に育成していく内容を考えたそうだ。

 バーチャルペットをお世話する作品といえば、バンダイより1996年に『たまごっち』が、1997年には『デジタルモンスター』が小型ゲーム機としてリリースされているが、90年代の始めでは「コンペット」のアイディアは画期的なものだった。企画会議にて作品の斬新さは評価してもらえたものの、ゲームの面白さを伝えることには難航したという。

 プレゼンのため、藤本氏はゲーム性や操作方法、キャラクターのパラメータ設定、ストーリーなど100ページにも及ぶ企画書を作成。修正を重ねていくうち、ゲーム内にペットがいることではなく、“ゲーム内のキャラクターとコミュニケーションが取れる”部分に焦点を当て、『ワンダープロジェクトJ』の元となる「ジェッペットの息子」というタイトルを企画していくことになる。

▲「ジェッペットの息子」では、キャラクターの発言内容や動作についてユーザーに違和感を与えないようにするため、人間ではなく木の人形がキャラクターモチーフとなっている。

 「ジェッペットの息子」のセールスポイントは「スーパーファミコン初の育てゲー」。それからキャラクターモーションのアニメーション表現やキャラクターの行動に対して褒める・叱るといった反応を繰り返して学習させていく要素などが加えられ、『ワンダープロジェクトJ』の原型が完成していく。

▲キャラクターのモーションについて、企画の段階で156パターンが想定されていた。
▲キャラクターのモーションについて
▲キャラクターのモーションについて
▲イベントやマップ、エンディングの画面についても企画の段階からも想定されており、企画書は133ページにも及んだという。

 企画会議で藤本氏は、ゲームの仕組みだけでなく、プレイヤーがゲームからどのような体験ができるかを伝えるため、ゲームスタートからプレイヤーが行う一連の流れについてのコンテを“部屋の壁一面に貼って”説明。その熱意が通じたからか、企画の承認が得られ、ゲーム開発を始めることができたとふり返った。

 

開発チームとデバッガーによる当時のやり取りも資料で発見

 そうして始まった『ワンダープロジェクトJ』の開発だが、そのデバッグ作業中には、デバッガーがシートに文章とともにイラストを描いてくれることもあったという。藤本氏は、デバッグ作業にひと手間加えてくれたことでチームに連帯感が生まれたとし、「クリエイティブに必要なものは効率だけではない」と説明した。

▲「キャラクターの足が浮いてしまうというバグ」では、棒人間のイラストでも伝わるところを、キャラクターのイラスト付きで表現されている。当時のデバッガーによる丁寧な仕事ぶりも、こうした資料から振り返ることができる。
▲開発チームが、デバッガーに対して感謝のメッセージを送ったこともあったそうだ。

 SAVEプロジェクトを通じて、三宅氏は「今も昔も面白いものを作りたいというゲームクリエイターの思いは変わらないことが分かった」と振り返る。

 最後に、「倉庫に眠っている過去の資料をアーカイブ化して資料を資産化して有効に活用することで、今いる開発者にとって非常に有用な資産を与えることに繋がっていく」と話し、セミナーのまとめとした。

 

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島中 一郎(Ichiro Shimanaka)https://www.foriio.com/16shimanaka
ライター。ゲーム・アニメ業界を中心にニュース記事の執筆、インタビュー、セミナー取材などマルチに担当。ボードゲームが趣味であり、作品のレビューや体験会のレポートを手掛けるほか、私生活で会を催すことも。無類のホラー好き。

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