世界71ヵ国で同時運営を実現…WFSの社内ローカライズ組織の立ち上げと運営手法【CEDEC2021】

 2021年8月24日(火)から26日(木)までの3日間、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2021」(CEDEC=セデック:Computer  Entertainment Developers Conference 主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会、略称CESA)が開催。昨年に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大を防止する観点から本年もオンラインで開催された。

 本稿では、8月26日(木)に開催されたショートセッション「ローカライズから支える世界同時運営の実現 〜高品質かつ爆速で翻訳するためのローカライズ組織のあり方〜」の模様をレポートしていく。

【講演者】

チョン ジェヒ
株式会社WFS Studio本部 / WorldWide Operations グループ シニアマネージャー (Senior Manager)。2015年グリー入社。QA、CS部門を経て、大型IPゲームタイトルのゲーム設計ディレクター歴任。その後、WFSの海外展開の立ち上げに参画し、複数のゲームタイトルの海外開発 / 運営PMを担当。現在はWFSの海外プロダクトの開発 / ローカライズ / 運営の責任者としての役割を担う。

 

 

 

多くの海外ユーザーによる“同時配信“を求める声

 本セッションでは、WFS社のローカライズ組織の立ち上げから、世界の71の国と地域で同時運営を行うまでの経験をもとに、社内にローカライズ組織を置くことの利点や課題、改善について総合的に紹介。

 前提として、WFSが海外展開を準備していた2016年当時はちょうど世界のモバイルゲーム市場が伸び始めている時期で、業界が全体的に海外展開を視野を入れ始めるタイミング。

 そこで海外の市場を調査した結果、多くの海外ユーザーは日本のコンテンツを日本で配信されるのと同じタイミングで遊びたいという声が大きかったという。

 「いち早くゲーム体験をしたい」というのももちろんあるが、英語のコンテンツの場合、多くの国で読めるユーザーが多いため、同時展開を望む声はそこまで大きくないのに対し、日本のコンテンツの場合、日本語を読めるユーザーは海外ではあまり多くない。

 そのため、同時配信を求める声が大きいといった事情もあるようだ。

 加えて、海外同時展開の方が運営側としてもスケジュールやアセットの管理がやりやすく、その分コストも安く済むなど、多くのメリットが存在する。

 そうした事情を踏まえて、WFSではスピード・品質・流動性の3つが揃ったローカライズ組織の立ち上げに集中することに。なお、ここでのローカライズチームとは、ゲーム開発チームとは別に、翻訳・翻訳データ入稿・進捗管理・翻訳品質管理を行う所を指す。

 各ポイントについてまとめると、モバイルゲームの性質上、ユーザーのコンテンツ消費スピードは非常に速いため、まずはその速さで歩幅を合わせられる「スピード」感が重要になる。

 また、優良誤認のリスクをおさえ、ユーザーのやる気を削がないためにも誤訳をせず、適格で「品質」の高い翻訳が求められる。

 そして、KPIやユーザーの意見に合わせて突発的な施策の追加にも「流動」的に対応できる仕組みがないと、海外同時展開は成り立たない、というわけだ。

 

海外運営PMを中央に据えたローカライズ組織体制と機能

 そうして作られた組織の体制を紹介。人員は「海外運営PM」「翻訳者」「LQA(翻訳QA)」の3種類を配置。人数については、「海外運営PM」が1~2人。「翻訳者」と「LQA」は対応言語数や文字数の規模、施策の数に応じて調整される形。

 それぞれの職種について、「海外運営PM」はローカライズに関わる翻訳スケジュールの管理や翻訳者への翻訳依頼、そして仕様把握や翻訳データの実装などを受け持つ。海外版運営に必要な進行管理のあらゆる業務を統括する立場となる。

 「翻訳者」「LQA」は、翻訳の実務と翻訳の検証に集中する役割で、その分対応スピードと品質の担保を担う体制となっている。

▲開発チームとローカライズチームの業務フロー

 また、開発チームとローカライズチームのやり取りは、海外運営PMが間に入る仕組み。海外運営PMが両チームのブリッジの役割を果たすことで、海外運営がスムーズな体制となる。

 やり取りを海外運営PMに集中させた理由としては、複数言語でローカライズする都合上、それぞれの言語のチームから同じ内容の質問が五月雨式に飛ぶことがあるためだ。同じ内容の質問に毎度開発チームが対応することで開発の遅延につながるのを避けるため、こういった体制が採られている。

 中央に海外運営PMを置くことで、まずはスピードと流動性の2点を実現することができたという。開発チームとしては海外運営PMとコミュニケーションを取るだけで済むことがスムーズな開発につながり、ローカライズチームとしても、翻訳を担当するスタッフが自身の業務に集中することができたのがスピーディーかつ流動性のある対応を実現したようだ。

 

世界同時運営における課題を改善するための4つの試み

 しかし、もうひとつのポイントである「品質」の確保がどうしても厳しいという問題が浮上。

 開発チームや海外運営PMには主に日本人が多いことから、日本語の細かい間違いには気づけても、韓国語など他の言語ではネイティブレベルで不自然な点には気づけなかったという。

 そこでWFSでは、改善策として4つの試みを展開。翻訳の整合性を確保し、無駄な工数を削減することで品質、スピードの両面で効果が見込めるツールを導入。自社開発ツールも含めて活用し、ゲーム固有の単語や商品名なども多言語で記憶することで表記ブレなどを防げる。

 また、ヒューマン・リソースを割くことで品質向上を図るほか、月に2~3回ペースで翻訳ディレクターを中心とした勉強会を開き、人材育成による継続的な組織改善も行われている。

翻訳マスタの自動化
翻訳CATツールの導入/活用
各言語で翻訳ディレクターの配置
機械的LQA

 これらの体制を整えることにより、「スピード」「品質」「流動性」の3つを担保したうえで、モバイルゲームの世界同時運営を行えるようになったという。

 『アナザーエデン』や『消滅都市』を始めとしたモバイルゲームの開発・運営を行う同社だが、グローバル展開の裏ではこうした取り組みがあったようだ。

 

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森口 拓海(Takumi Moriguchi)
雑誌やWEBメディアを中心に記事を執筆。ゲームは雑食で多様なジャンルを好み、業務の延長でアプリ分析も得意。恩のあるゲーム業界に貢献すべく日々情報を発信。

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