FFファンの思い出と植松氏の思想を尊重した『FF ピクセルリマスター』アレンジ楽曲の制作過程【CEDEC2021】

 2021年8月24日(火)から26日(木)までの3日間、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2021」(CEDEC=セデック:Computer  Entertainment Developers Conference 主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会、略称CESA)が開催。昨年に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大を防止する観点から本年もオンラインで開催された。

 本稿では、8月25日(水)に開催されたセッション「新しいのに懐かしい - FINAL FANTASY PIXEL REMASTER- ~「思い出」を色鮮やかに蘇らせる楽曲アレンジ術~」の模様をレポートしていく。

【講演者】

宮永 英典 氏。株式会社スクウェア・エニックス サウンド部 サウンドディレクター。1998年デベロッパー入社。サウンドデザイナー・コンポーザー・ディレクター・マネージャーとして様々なクライアントの案件を担当。2017年スクウェア・エニックス入社。大阪サウンド部でサウンドディレクションを担当。
小林 征夢 氏。株式会社スクウェア・エニックス サウンド部 プロジェクトマネージャー。2018年スクウェア・エニックス入社。サウンド部でプロジェクトマネジメントを担当。
村松 健 氏。株式会社オクタヴィア・レコード 音楽制作事業本部 部長 サウンド・エンジニア。1999年株式会社オクタヴィア・レコード創立メンバー。音楽制作事業本部部長サウンド・エンジニア。

 

 

 

FFシリーズの往年の名作(1~6)が色鮮やかに蘇る

 セッションでは、リメイク作品に携わっているサウンドクリエイター、プロデューサー、ディレクター向けに、ファミコン・スーパーファミコン時代の楽曲をリメイクする際のノウハウが紹介された。

 事例となる『FINAL FANTASY PIXEL REMASTER』(ファイナルファンタジー ピクセルリマスター)では、『FF1』~『FF6』の全楽曲がアレンジされて収録。なお現在、ピクセルリマスター版はFF1~3までが発売され、『FF4』が9月9日(木)に発売予定(『FF5』、『FF6』に関しては未定)。

 当時、発音数やメモリなど厳しい制約があった中で作られた原曲の数々に対して、どのようなアプローチでアレンジがなされたのかがセッションの要点となる。

 また、コロナ禍でのレコーディングにおける東京一極化集中の回避についても手法を紹介。

▲シリーズの原点ともいえる『FF1』から『FF6』までのを今の時代に合わせてリマスターした作品集。より遊びやすくするために、システムの統一化、オートバトルの実装、ダッシュの追加。ゲームバランスの見直しなどが施されている。
▲グラフィック面に関しても、原作に携わったドットクリエイターの渋谷員子氏によってフルリマスターされている。

 

リメイク作品における“楽曲アレンジ“の難しさ

 本作の楽曲は、原曲を手掛けた植松伸夫氏の監修のもと、すべてアレンジして収録。その結果、総曲数は300を超えるという事態に。さらに、制作期間中に新型コロナ感染拡大の問題を受け、環境が激変するなど大変な状況の中での取り組みとなった。

 さて、楽曲のアレンジとなると、どうしても原作愛の強いファンからは賛否の声が分かれてしまうことが多い。制作陣には、そこが大きな懸念点となって立ちはだかった。

 また、監修の植松氏から作曲当時のエピソードとして「一曲をもっと長くしたかったが、メモリの制約で出来なかった」ことや、今改めて聴くと「テンポが速すぎる」と感じる曲があることなど、さまざまな思いが明かされたという。その思いに応えることを大切にし、植松氏が本来、頭の中で思い描いていたものを再現していくことに。

 また、30年以上続くシリーズだからこそ、ファンにとって原曲への気持ちは“思い出”によって強くなっているもの。そこに寄り添い、原曲を大きく崩さない形でより色鮮やかに蘇らせる方針となったようだ。この「植松氏の“思い”を大切にすること」と、「ファンの“思い出”も大切にする」という二軸が今回のコンセプトとなった。

▲サウンドディレクターの宮永氏によると、スライド内の「復元」という表現は例えるなら、モノクロ写真をカラー化するイメージ。そして、原曲を崩さないことでファンが「そうそう、これだよ!」と求める形を目指している。

 セッション内では、実際に『FF2』の「反乱軍のテーマ」を流す形で例示。原曲を崩さず、かつ植松氏の思いに応えるように2コーラス目や楽器の追加がなされている。

▲流されたトラックでは、原曲からアレンジ曲への切り替わりが違和感なく、原曲が崩されていないことがわかった。ちなみに、セッション内で流されたのはSteam版の購入特典で、オリジナル版の楽曲が今回のリマスター版のアレンジ楽曲へと徐々に変化する内容(タイムラプス・リミックス)。※画像は配信をキャプチャーしたもの。
▲文字だけでは想像が付きにくいかもしれないが、『FF2』のPVで「反乱軍のテーマ」を一部聴くことができる。原作をプレイしていればわかる通り、原曲のイメージから離れることなくアレンジされている。

 

300曲オーバーの制作フロー。アレンジャーは14名起用

 さて300を超える曲の制作フローは、まずは徹底的な耳コピから始め、その後アレンジ方針を1曲ずつ明文化していく流れ。曲の使用場面を考慮しつつ設計図を作り上げていったという。

 たとえば「反乱軍のテーマ」なら、反乱軍がバックボーンに持つ悲哀を鑑み、派手や勇ましい方向性ではなく、物悲しさを強調するアレンジ案を作成するといった形。また同楽曲に関しては、反乱軍のリーダーが女性のヒルダであることから、フルートやハープなどの楽器で少し女性的な印象を付けているそうだ。

▲制作フローのstep1~3(★が付いている箇所)は、植松氏の監修がある部分。単純計算で300×3回もの監修作業があったが、宮永氏曰く「高い熱量で監修していただけた」とのこと。
▲全体的な方向性として、なんでもフルオーケストラにするのは避けたという。重厚な曲が続くと、長時間遊ぶRPG作品では“聴き疲れ”てしまう。そのためゲームの流れに沿って、緩急を意識した設計となっている。

 そして、300以上の曲数があることから、アレンジャー(編曲家)は14名とかなり多い人数が関わっている。

▲「FF愛」の強いクリエイターを多数起用。それぞれの得意とする音楽に合わせて担当を決めている。特に思い入れの強い楽曲がある場合には、自薦で担当を願い出たケースもあるのだとか。

 これだけの大人数ともなると、やり方にも個性が出てバラバラになってしまうため、曲に統一感を出すのが難しくなってしまう。そこで、MIX(録音された音源をひとつの楽曲にまとめる作業)はエンジニアの村松氏に一任するなど、さまざまな工夫を行ったそうだ。

 

コロナ禍におけるオーケストラ収録

 本作の音楽は、打ち込みだけでなく、一部楽曲で生音での収録を実施。これまでは東京のスタジオに集まって収録することがほとんどだったそうだが、新型コロナ感染拡大の問題を受けて、大阪でのオーケストラ収録を行うことに。

 これにはもちろん、東京に人員が一極化することを避ける意味合いもあるが、関西の名プレイヤーを発掘する目的もあったという。

 そこで協力をお願いしたのが、「日本センチュリー交響楽団」となる。今回収録する楽曲で宮永氏が求めていた、クラシック音楽的なサウンドに合致する楽団であったことと、ゲーム愛に溢れ、新しいチャレンジに前向きなメンバーがそろっていたことが決め手になった。

▲楽団が持つ練習場の構造や音響が、宮永氏の求めるサウンドにピッタリの環境だったことも理由に挙げた。東京のスタジオは切れ味の鋭い、ソリッドな音を得意としているが、今回の楽団が持つ練習場は暖かみのある音が収録できる環境となっていた。求めるサウンドによって、適したスタジオを使い分けることが重要になる。
▲収録スケジュールを手配した小林氏によると、スタジオミュージシャンを起用する場合と、楽団を起用する場合では、契約形態や事前準備に違いがあるという。特に収録の際のタイムテーブルは、楽団の場合コンサートに当てはめた形で進めるため、勝手が変わってくる。
▲オーケストラ楽団のタイムテーブル例。
▲なお、今回かかったコストはスタジオ収録とほぼ変わらなかったそうだ。

 さらに、各楽曲のMIXは、リモートで行われた。村松氏がMIXした音源を宮永氏に送りつつ、やり取りはZoomを使用。コロナ対策としては万全であることに加え、スケジュールに融通がきくことや、移動時間、出張費用が掛からないことなど、さまざまなメリットを挙げた。特に、自宅の慣れた環境で取り組めることが一番の利点になったという。

 宮永氏は最後に「創意工夫があればコロナ禍でもレコーディングはできる」と語り、エンジニアとのツーカーの関係を築くことの大切さを説いてセッションを締めくくった。

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森口 拓海(Takumi Moriguchi)
雑誌やWEBメディアを中心に記事を執筆。ゲームは雑食で多様なジャンルを好み、業務の延長でアプリ分析も得意。恩のあるゲーム業界に貢献すべく日々情報を発信。

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