『FF7 リメイク インターグレード』 状況に応じて曲の展開・テンポが変化するBGMの裏側【CEDEC2021】

 2021年8月24日(火)から26日(木)までの3日間、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2021」(CEDEC=セデック:Computer  Entertainment Developers Conference 主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会、略称CESA)が開催。昨年に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大を防止する観点から本年もオンラインで開催された。

 本稿では、8月25日(水)に開催されたセッション「コール&レスポンス!- FINAL FANTASY VII REMAKE インターグレード – 生ライブでプレイしてるかのような音楽演出と日英2言語対応プロセス」の模様をレポートしていく。

【講演者】

鈴木 光人
株式会社スクウェア・エニックス サウンド部 コンポーザー。『ファイナルファンタジー VII リメイク』、『スクールガールストライカーズ』などを担当。近年ではゲームのみならず、TVアニメの楽曲制作、音楽専門誌での機材レビュー執筆や舞台音楽の制作にも携わっており、多方面で才能を発揮している。CEDECはじめ、GDC、AES(日本学生支部)、パイオニア、NATIVE INSTRUMENTS、学校など国内外で登壇多数。
河盛 慶次
株式会社スクウェア・エニックス サウンド部 ミュージックディレクター。スクウェア・エニックス入社後、ファイナルファンタジーシリーズを初めとする各タイトルでシンセサイザー・オペレーターとして活動後、現在では音楽ディレクションも手がけるなど活躍の場を広げている。『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE』ではミュージック・スーパーバイザーを務め、選曲&発注スキルは社内外問わず厚い信頼と安定感がある。近年の担当タイトルは『FINAL FANTASY VII REMAKE』、『KINGDOM HEARTS III』など。
土岐 望
株式会社スクウェア・エニックス サウンド部 プロジェクトマネージャー。サウンド部でプロジェクトマネジメントを担当。音楽的知識と語学力を活かしたワークフローが特徴。主な参加タイトルは『FINAL FANTASY VII REMAKE』『FINAL FANTASY XIV』『FINAL FANTASY CRYSTAL CHRONICLES Remastered Edition』など。『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE』ではマネジメントに加え譜面作成からメロディメイクまで多岐に渡り担当。CEDECは2020年に続き2度目の登壇となる。

 

 

 

インタラクティブミュージックの実装例とは

 本セッションの内容は主に、インタラクティブミュージックの実装事例と、ボーカル曲「かめ道楽」の日英2言語制作のプロセスについて紹介するものとなった。

 昨今のインタラクティブなゲームプレイとBGMの関係性は切り離せない演出ひとつ。状況に応じて曲の展開やテンポなどがリアルタイムで切り替わっていく「インタラクティブミュージック」は近年のさまざまなゲームに採用されており、ゲームサウンドにおける最先端といえる。

 セッションの冒頭、河盛氏からは『FF7 リメイク インターグレード』におけるインタラクティブミュージックの実装例が紹介された。

本作は、PS4版『FF7リメイク』に追加要素を搭載したタイトル。2021年6月10日にPS5で発売された。ユフィを主人公とした新規エピソードなどを収録。

 近年の「FF」シリーズもそうだが、本作ではフィールド探索とバトルがシームレスに移行する、インタラクティブ性の高いシステムが採られている。そのため、場面ごとのBGMにもシームレスな切り替わりが適しているというわけだ。

本作の楽曲は主に、

  • 1.フィールド~カットシーン
  • 2.フィールド~バトル~フィールド
  • 3.ダンジョン進行、状況に合わせて

 という3パターンでインタラクティブミュージックが使用されている。ゲームの進行に合わせて、途切れることなくBGMが遷移していくのが特徴。

▲「1.フィールド~カットシーン」の事例では、フィールドBGM「忍びの末裔」が、カットシーンに入ると共に同曲のカットシーン用のアレンジバージョンに遷移。
▲「2.フィールド~バトル~フィールド」でも、バトルに移行するとカットシーンと同じようにメロディを引き継ぎつつBGMが遷移。同曲のバトル用アレンジが流れるのだが、テンションアップのために意図してボリュームを上げる調整にもなっている。

 しかしバトル演出に関しては、ただシームレスに遷移すれば良いというわけではない。河盛氏によると、インタラクティブミュージックの弱点として「バトルに入るときのインパクトが減ってしまう」ときがあるため、それを軽減するために攻撃のHIT音や効果音など、印象に残る音を足す場合があるという。

▲曲をイントロから再生する従来の手法は流れにメリハリも付くため、シチュエーションに合わせた再生方法を考える必要がある。
▲余談だが、ここまでの事例で使用されている「忍びの末裔」という曲は、オリジナル版『FF7』でもユフィのテーマ曲。本作で追加されたユフィのエピソードでは同曲のさまざまなアレンジを聴けるため、ファンにとっては感激モノだ。

 また、ボスとの戦闘ではフェーズごとにカットシーンが挿入され、BGMが切り替わることで音でもフェーズが変わったことを印象付けている。カットシーン部分の楽曲は、前フェーズのBGMのどの部分からでも違和感なく入れるように意識して制作されているという。

 BGMの切り替えで進行度が変わったことを印象付ける手法は、ダンジョンでも活用されている。背景の似ているロケーションは、パーティメンバーの会話やギミックなどを挟むことで進行をあらわしているが、BGMをインタラクティブに変えることでもそれを支えているようだ。

▲地下下水道のマップ。背景があまり変わらず迷ってしまいそうだが、BGMを切り替えることで、進んでいることが感覚的にわかるようになっている。

 河盛氏曰く、これら紹介された事例を含めて「インタラクティブミュージックは特別なことではなくなってきている」という。多くのゲームサウンドでインタラクティブミュージックが使われているからこそ、BGMをどう切り替えていくのかは、作曲家の個性やスキルがより重要になってくるそうだ。

 

プレイヤーに連動した楽曲の制作法

 続いて、実際にプレイヤーの連動に合わせた楽曲の制作方法について鈴木氏から説明が加えられた。

 具体的には「TRACK&シーケンス」「EXPORT」「編集&プラグイン」という3つのカテゴリで解説。なお、鈴木氏が普段使用するDAW※ソフト「Nuendo」上でデモが行われた。

※DAW……デジタルでオーディオの録音、打ち込みや編集、ミックスなど一連の作業が可能なシステム

 実例として紹介されたのは作中に登場する「ピラーダンジョン」。ここでは、開発チームから「ステージ中のBGMを切れ目なく、ジャズテイストで流し続けたい」というオーダーがあったのだそう。

▲鈴木氏はBGMの方向性について「ライブ会場でゲームをプレイしているような感じ」とイメージを説明。

 制作にあたって、フィールド・バトル・カットシーンの全てでジャズの要素を取り入れるとなると、テンポ感が非常に重要になってくるため、使用するテンポの割り出しに一番時間をかけたという。

 試行錯誤の結果、ダンジョン内で流れる楽曲のBPM(テンポの速さ)をすべて135に固定して制作。テンポを変えず流れるトラックを切り替えることで、ゲームプレイ時のスピード感を損なうことなく変化のあるBGMを実現している。この場面は「ジージェを追いかける」というシチュエーションのため、スピード感が途切れない作りがマッチしていることがうかがえる。

▲画像中部の赤いファイルがフルトラック。上部の黄色のトラックはメロディを抜いた“カラオケ”ファイルになる。バトルが開始するとメロディ入りのフルトラック(赤)が再生され、終了するとメロディのないカラオケトラック(黄)が流れる仕組み。

 また、カットシーンへスムーズにつなげるためにドラムのみのフィルトラック(上画像の灰色部分)も用意。バトルから直接カットシーンに移行する際も、1~2小節単位でドラムフィルトラックを挟むことで、オンタイムで切り替えることができる。

 また例に漏れず、ピラーダンジョンにおいてもダンジョンの進行度に応じたBGM変化が行われている。前・中・後編に分けて徐々に盛り上がるように設計され、カットシーンなどにも専用のBGMが用意。

▲「ジージェが逃げ始める」「リフト穴をおりたところ」「メインピラーを目視後」など、切り替わるシーンはさまざま。前述の通り、テンポを保ったまま遷移する。

 鈴木氏は楽曲制作の手法として、各トラックを楽器ごとにまとめ、ミュートによる抜き差しを行いながらアレンジの構成を考えているのだそうだ(曰く、「遊んでいる」状態)。ドラムソロで聴いたときのグルーヴ感がよく、そのままゲーム内に採用したこともあるという。

▲セッション内では、別々の曲のトラック同士を張り付け、手動で位置を変えながら再生するというデモを行った。楽曲自体にジャズの要素を取り入れていることもあり、実際にジャズセッションを聴いているかのような感覚になるものだった。「テンポが同じでもかなり表情がつけられるので、かなり未来は明るい。」と鈴木氏は語った。

 

ボーカル曲の日英2言語ローカライズの制作ワークフロー

 本作では、インスト曲だけでなく歌唱曲も多数収録。その制作ワークフローについては、土岐氏から作中に登場する「かめ道楽」シリーズを例に解説が行われた。

 「かめ道楽」は7曲のボーカル曲に加え、歌入りジングルの2曲を入れた合計9曲が日英2バージョンで収録。基本的にバックオケは共通となる。

▲フローとしては、まず開発チームが日本語版の歌詞を作成し、サウンドチームが曲に落とし込む。次にローカライズチームが英訳を行い、サウンドチームが再び曲に落とし込んでいく流れ。

 順番としては日本語版のデモ制作→英語版のデモ制作となり、その後各収録へ移る。この際ポイントとなるのは、サウンドチームが軸となって翻訳を進めているということ。歌詞のメロディへのハマりを先にチェックすることで、あらかじめ曲に落とし込みにくい英訳になっていないかをスクリーニングできる仕組みだ。

▲ローカライズチームが翻訳を担当することで、歌詞に世界観を反映しやすいのが利点。だが一方で、ローカライズとサウンドの繁忙期が重なることも多く、メロディに合わせた歌詞の修正を何度も行うことが難しいという点もある。そのため、言語の特徴に合わせてサウンド側でもメロディを微調整することで、効率よく制作を進められる。

 言語の特徴に合わせて、実際に変更を行った例が紹介された。まず、日本語と英語の特徴の違いとは大きく「リズム」と「アクセント」のふたつが挙げられる。

▲日本語において、「はし」と発音した場合、どの部分を高く読むかで、「箸」なのか、あるいは「橋」なのかを判断する(高低差アクセント)。一方、英語はどの部分を強く読むかによって、単語を認識する(強弱アクセント)。
▲また、日本語はカナひとつを同じながさで発音するモーラ拍と呼ばれる単調なリズムで発せられる。英語は強勢拍が一定の間隔で繰り返されるリズム。「I eat ramen」は3つの強勢拍が入るが、そこに未来を表すwillが入ったとしても「I‘ll eat ramen」となり、Iとwillがひとつの強勢拍にまとめられるため、リズムに変化が起きないのが特徴。

 上記ふたつの違いに加え、音楽にも「強拍・弱拍」という基本リズムの概念があることから、日本語用のメロディにそのまま英語歌詞を当てはめても、メロディが持つ拍と、英語の強勢拍にズレが生じて、不自然になってしまうことがある。

 そのため、土岐氏は英語歌詞を当て込む際に3つのポイントに注意したという。

▲歌い出し、高低差、音価(=音の長さ)を意識して調整。

■実例①歌い出しを調整

 実際の例を紹介。「かめ道楽の歌」では、「すてきなひととき」という歌詞は英語だと「Everyone loves our ambience」となる。しかし、日本語と同じメロディに当てはめたままでは、歌いにくくなってしまう。

▲メロディにおける「強拍」と、英語本来の「強く読む部分(アクセント)」の部分がバラバラになってしまっている。

 そこで、英語歌詞では歌い出しを後ろにずらし、もともとは休符になっていた3拍目も歌詞のメロディに当てはめることで強拍とアクセントを揃え、歌いやすく調整する形に。こうすることで、日英で統一感をもたせつつも歌いやすいメロディにすることが可能になるようだ。

■実例②収録当日に歌い方を変更

 メロディの調整は、実際に収録が始まってからも変更することがあるそうだ。「ゆっくりがっつりかめ道楽」という曲では、「ゆっくり がっつり」という歌詞が登場し、英語歌詞では「You‘n me,nice and easy」となる。

 これを収録していたところ、担当のボーカリストが歌いにくそうにしていたため、その場でリズムを変更することに。

 具体的には「You」の部分と「nice」の部分を長めに発音できるように音価を長く調整することで、強く読む部分を歌いやすくする形だ。こういった調整には、日本語とのバランスも考えながら、曲のジャンルやボーカリストの個性に合わせてしていくという。今回の場合は、ゆったりとしたポップス調の曲であったことからも、音価を長くする微調整がとられたそうだ。

 なお、英語歌詞の細かい調整について、河盛氏は「なんとなく把握はしていたが、ここまで細かくやっているのは初めて聞きました」と驚いた様子。鈴木氏は「メロディの微調整によって、少しアレンジが効いているのが面白い」とコメント。

 制作現場では主に「格好良ければすべてよし」の方針で制作しているそうで、ただの替え歌ではなく自由に、かつ英語の特徴に合わせてローカライズされていることがうかがえた。

 最後に、楽曲のリモート収録の事例を紹介。

 「かめ道楽音頭」では、曲中で多重コーラス(鈴木氏曰く「ガヤ」の役割)が必要になったのだが、新型コロナ感染拡大の影響を受けて大人数でスタジオに入れない状況のため、リモート収録を実施。

 しかしリモートであれば集まらずに収録できるものの、各自の環境で録音するためノイズが発生してしまうのが難点となる。当然ノイズを取り除く作業が必要になるが、そこで活躍するのがオーディオ・リペア・ツールである「iZotope RX8」だ。現在、同ツールは音楽関係者にはマストになりつつある。

 そうしたツールでノイズが除去されたコーラスのファイルは全部で26トラックにおよび、完成形の曲は多数のコーラスが重なる賑やかな楽曲となった。

▲10人ほどの人数が参加し、ひとりで3パターン収録する積極的なスタッフもいたそうだ。

 そして、リモートでのレコーディングはチームの一体感を出すことにも一役買ったようで、極めて楽しい取り組みとなったそうだ。結果、かめコーラス隊のスタッフたちは他の曲でも参加することになったのだとか。

 講演の締めくくりに、河盛氏は「ユーザーの操作や状況(コール)に対して柔軟に音楽を変化(レスポンス)させるインタラクティブミュージックは一般的になってきました。今後はさらに、偶然性なども取り入れていければと思います」とまとめた。

 土岐氏は日英2言語対応ボーカル曲のワークフローを振り返り、「言語の特徴に寄り添ったメロディーメイクで違和感を取り去り、よりノリの良い楽曲を仕上げました」とコメント。

 最後に、鈴木氏は「まだプレイされていない方はぜひ遊んでいただき、すでにプレイされている方は今回の内容と照らし合わせて楽しんでいただけると幸いです」と総括した。

 

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森口 拓海(Takumi Moriguchi)
雑誌やWEBメディアを中心に記事を執筆。ゲームは雑食で多様なジャンルを好み、業務の延長でアプリ分析も得意。恩のあるゲーム業界に貢献すべく日々情報を発信。

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