設立から上場まで急成長したゲーム会社のエンジニア組織戦略。『魔法使いの約束』等の開発会社colyの事例

 2021年8月24日(火)から26日(木)までの3日間、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2021」(CEDEC=セデック:Computer  Entertainment Developers Conference 主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会、略称CESA)が開催。昨年に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大を防止する観点から本年もオンラインで開催された。

 本稿では、8月24日(火)に開催されたセッション「高速で成長するゲームベンチャーにおけるエンジニアの役割と組織戦略」の模様をレポートしていく。

【講演者】

山沢 佑希
株式会社coly 技術部 サーバーセクションリーダー。横浜国立大学へ進学し、情報学に触れる。エンジニアとしてゲーム関係企業を経たのち2016年に株式会社coly入社。『スタンドマイヒーローズ』、『魔法使いの約束』を始めとした女性向けゲームアプリにおけるサーバーサイド構築やエンジニアの組織管理、社内システムの整備など、組織拡大する中での技術分野を担当。

 

 

 

フラットかつフレキシブルな最小単位としての組織

 本講演では、株式会社colyの急成長の流れを3つのフェーズに分け、会社が短期間で成長するにあたってエンジニアに求められるタスクや役割はどういったものなのか、山沢氏とcolyのエンジニアチームが重要視してきたことや、どんなことが課題となったのかを、ケーススタディとして紹介している。

 colyは、2014年2月に設立されたゲーム会社。主に女性をターゲットに据えたスマートフォン向けゲームを事業としている。主力タイトルは、パズルRPG『スタンドマイヒーローズ』や育成ゲーム『魔法使いの約束』など。2021年2月26日にマザーズ上場を果たした。

 同社の立ち上げ期は、エンジニアが3人の状態から始まった。今では、従業員の総数が270人を超え、エンジニアも50人以上が在籍している。

 ここまでの急成長を遂げるまでに、社内ではフェーズに合わせた体制変更や、意識改革が何度も行われていたとのこと。山沢氏は、変化していく会社のなかで、エンジニアはどう動くべきなのかを解説。

 山沢氏は、まず会社設立から初期のサービスの立ち上げ、運営をしていく時期を立ち上げ期として解説を始める。設立当初、colyのエンジニアチームには3名が在籍し、アルバイトや外注も交えながらプロダクトを進行していた。

 Unityを使ったパズルゲームアプリの開発が行われ、クライアントサイドのエンジニアは、アルバイトも交えながらゲームの開発、Live2Dの導入といった作業をこなしていき、サーバーサイドは外注も活用しながら、開発の基盤やAPIの開発とインフラ構築に力を入れていた。

 この時点のエンジニアの役割は、プロダクトをより良く構築しながらも、安定的に提供することが何よりも求められる。これらを山沢氏は「技術力のようなもの」としてまとめた。そこに、ゲーム運営に積極的であること、不測の事態に対処するための柔軟性もあるといいと付け加えた。

 この段階における組織構造は、個々の能力を重視したフラットな体制になっていた。まだ人数も少ないため、各部署に数名が在籍していた程度になる。お互いに意見を言いやすく、それぞれがものづくりに対して前向きな検討をできるような環境が理想的だという。

 こうしたフラットな組織は、明確な役職がなく、個々のスキルにある程度依存できるため、みんなが色々なことを実行できる環境であり、「やれる人がやる」というフレキシブルな状況になる。ちょっと頑張ればできそうというレベルでも、挑戦する機会に溢れているため、多様な経験を積める。

 しかし、タスクや責任の所在が明確にならないために、曖昧な部分が多いというのがデメリットになる。新しい機能追加や、新しい企画案があっても、動けるメンバーが少ないために保留となってしまう案件も多い。

 こうしたデメリットの対策として、小さなタスクを見える化し、担当者を決めることでプロジェクトに昇華させていくことが重要であると山沢氏は言及した。

 立ち上げ期のまとめとして山沢氏は、試行錯誤をしながら、個人が受け持ったタスクに徹底的にこだわり、プロダクトへの興味と積極性を失わないことが重要であることを、再度提言した。

 また、ユーザーファーストで妥協せずに、さらに抜け目ないプロダクトを提供するという心意気も必要であることを付け足しつつ、フラットな組織であるからこそ、ひとりひとりの信頼関係を築くことも忘れてはいけないとまとめた。

 

チームワークの効率化を推し進める成長期

 次に山沢氏は、事業規模を拡大して複数タイトルの開発、運営を始める段階を成長期と称し、組織体制は個人よりもチームワークの効率化を重視すべき段階であるとした。そのため、チームワークで作業を進めることに長けた人材の重要度が上がってくる。

 これまでは、プレイヤーでもよかった人がリーダーになっていくが、プレイヤーとリーダーの適正の違いで悩むことも多い。他社の事例を参考にしながら、組織としての開発手法や企業文化の形成について積極的に取り組んでいくのがいいと山沢氏は言う。

 開発体制を組織化するにあたり、着目したのは意思決定の裁量とのこと。

 既存のプロダクトにおいて、バグのFIX、アップデート、機能追加まで多数のタスクがあり、そのすべてをスピーディーに進めることが求められる。そのためには、ゴーサインを出せる人間を決めておき、着工までをスムーズにしなくてはならない。

 また、チームマネジメントのタスクが発生するのもこの頃からだと言う。開発や運営のなかで得たノウハウを共有し、チーム内のスキルを平坦化していくことに課題が移っていく。

 リーダーとメンバーの間で方向性がバラつくのを防ぐために、組織の意志を統一するためのビジョンやバリューの明確化も必要となる。個人のスキルアップだけを考えずに、プロダクトを大きくするためにはどうすべきかという視点を持つために、こうしたビジョンやバリューを用意すべきとのことだ。

 組織の構造は、プロジェクト型に移行していく。タイトルごとにトップとなるプロデューサーがつき、職権ごとのリーダーがその下でチームを構成していく。

 人数が多くなると、組織の階層化が進み、個人の意見がプロダクトに反映されにくくなる。また、チームが分かれたことで色々な観点からの意見が飛び交うようになる。これを解決する方法は、前述したように決定権や裁量を明確にしておくことである。

 山沢氏が特に注目していたのは、ノウハウ共有を社内全体の課題として認識するという点だ。これに関して、colyでは入社してからの時間が浅い人や、若手であってもリーダー職を任せることで裁量ある立場を経験させていたそうだ。

 世間的にはリーダー不足の声が多いが、それは非常に良くない状況であると山沢氏は主張する。そういった状況を避けるためにも、若手にリーダーを経験させ、成長を促していかなくてはいけないという見解を述べた。

 また、採用段階からビジョンやバリューを意識することの重要性にも触れている。この時期に入った会社は、エンジニアとしてのスキルだけを見るのではなく、会社のビジョンにマッチしているか、チームワークとしての作業適性があるのかを見ていかなくてはいけないとのこと。

 

株式上場を視野に入れ始める安定期

 いよいよエンジニアチームだけでも30名を超える規模になってきた段階を、山沢氏は安定期と呼称した。

 ここからは、株式上場を視野に入れながら、会社としてさらなる成長を遂げるためのステップとしている。話は内部だけでは完結せず、株式上場の監査を視野に入れて、自社は外部からみたときに魅力的な会社なのか、信頼できる会社なのかという点も意識しなくてはならない。

 組織体制は、職能ごとにさらに細分化を進めていき、それぞれの職能に集中し、よりハイクオリティな仕事に取り組める環境を作っていくことになる。具体的な評価制度を運用することで、より納得感を持って業務に当たれる環境が理想的だとしている。

 立ち上げ期のエンジニアは、個人のスキルアップを考え、成長期においてはチームワークを重視していた。この安定期では、再びスキルアップに集中することを推奨しているが、これはチームとしての業務ができるようになったうえで、より特化していくことを指している。

 組織体制は、プロジェクト型からマトリクス型へとシフトしていく。これまでタイトルごとの縦のつながりで構成されていたが、横軸として職能事のリーダーが配置される。これまで通りタイトルごとにチームを分けつつ、プランナーはプランナーとしてタイトルを超えたチームを形成している。

 チームをまとめるプロデューサーだけでなく、職能ごとのトップが必要になるため、プロフェッショナルを目指すのか、それとも職能をまとめるリーダーしてのマネジメントに進んでいくのか、新たな可能性を提示できる環境づくりも必要になる。

 

エンジニアとしての成長と未来像

 フェーズごとの組織体制の話を終え、次に山沢氏が提示した話題は、エンジニアとして活躍できる人材と、エンジニアにとって理想的な環境であったり成長できる環境は、どういった状態なのかといった内容だ。 

 そもそも、colyが目指しているエンジニア像とは一体どのようなものなのか。これについて山沢氏は、一通りの業務をハイレベルでこなせる、かつ自身の得意分野を掘り下げていけるかどうかだと言う。

 最初は、業務を狭い範囲に絞ることなく、エンジニアとしてあらゆる業務を経験させる。これにより、エンジニアとして一通りの業務をハイレベルで行えるような人材に育て上げていく。

 業務の幅を広げることで、アサインの自由度は格段に上がる。エンジニアとしても、様々なキャリアプランを視野に入れられるため、将来性が担保される。こうした基盤を作ったうえで、専門知識を磨く環境を与えることにより、自分の得意分野を深堀りしていくといった流れが最適解であると山沢氏は語った。

 また、労働環境におけるニーズとして、近年のトレンドが心理的安全性にあるのではないかと、山沢氏は提唱している。

 人間は環境によってモチベーションを左右されやすい。人間関係は良好か、スキルアップできる環境はあるか、仕事はやりがいのあるものかどうかなど、労働環境の整備を進めていくことを推奨しながら、良質な人材と環境を揃えることで、プロダクトや組織のレベルが向上していくとまとめている。

 最後に、情報化社会の進行によって、今後エンジニアリングの可能性が広がっていくと山沢氏は予想した。

 近年は、デジタルトランスフォーメーション、効率化、共通化といったことが注目され、そこにはエンジニアリングのスキルを活かす機会があふれている。

 エンジニアが得意とする、分析、調査、提案、構築の力は、システムだけでなく、制度やプロダクト、さらには人間関係に至るまで、幅広く応用できるものだと山沢氏は考えている。

 ビジネスに基づくエンジニアリングの例を紹介しながら、自分で思考し続け、どのような環境においてもエンジニアとしての力を発揮する能力を身に付けていくことが、これから先も変化を続ける事業環境に適応できるエンジニアになると締めくくった。

 

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有馬 史也(Fumiya Arima)
ライター。ゲーム、アニメに関連した書籍やWEBメディアで、取材から記事執筆までを担当。2011年からフリーランスとして活動を継続し、主にインタビューやレビュー記事を制作。

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