ゲーム業界における男性の育休取得事情。リモートワークと育児の両立は可能なのか【CEDEC2021】

 2021年8月24日(火)から26日(木)までの3日間、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2021」(CEDEC=セデック:Computer  Entertainment Developers Conference 主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会、略称CESA)が開催。昨年に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大を防止する観点から本年もオンラインで開催された。

 本稿では、8月24日(火)に開催されたセッション「ゲーム業界の男性育児休業~職場復帰の実態。リモートワークでの育児両立の難しさと働き方。3社事例紹介。」の模様をレポートしていく。

【講演者】

茂呂 真由美
セガサミーホールディングス株式会社 総務本部 コミュニケーションサービス部 コミュニケーション推進課。セガにデザイナーとして新卒入社。CSタイトル、Web、アプリ、SNS、インナーコミュニケーション活動等、幅広く従事。現在はセガサミーホールディングス にて、グループ会社全体のコミュニケーション推進活動を企画、実践中。
増田 亮
株式会社セガ ゲームコンテンツ&サービス事業本部 第3事業部 第3開発1部 第3プログラムセクション リードプログラマー。2009年 セガ入社。『Phantasy Star Online 2』でUI、サウンド、クラウド、ツール周りを担当。
竹内 公紀
株式会社セガ ゲームコンテンツ&サービス事業本部第4事業部戦略支援部ビジネス&データ分析2課 データアナリスト/課長代行。モバイルビジネスのプロモーション、企画、運営などを経験した後、2014年に株式会社セガに入社。主にスマートフォン向けゲームのデータ分析を担当し、社内のデータと分析の標準化活動にも力を入れる。
渡邉 吉治
株式会社セガ ゲームコンテンツ&サービス事業本部第4事業部第4開発2部第一ソフト開発セクション リードプログラマー。プログラマとして、2008年に新卒で(株)セガに入社。主に携帯ゲーム機向けのゲーム開発を経て、2012年発売の「サムライ&ドラゴンズ」からサーバーサイドの開発が主業務に。以降、サーバーサイドのアプリケーション開発担当としてスマホゲームに携わる。直近の主な開発タイトルは「D×2 真・女神転生リベレーション」。
佐々木 瞬
株式会社ヒストリア 代表取締役。コンシューマータイトルのディレクター・リードエンジニアを経て、2013年にUnreal Engine専門のゲームデベロッパー、株式会社ヒストリアを設立。プロデューサー・ディレクターとして家庭用ゲーム、アーケードゲーム、VRコンテンツ、ノンゲームコンテンツの開発を中心に活動中。ミニコンテスト「UE4ぷちコン」やセミナーイベント「出張ヒストリア! UE4勉強会」をはじめとする開発者コミュニティ活動にも力を入れる。
安部 拓也
株式会社ヒストリア ゲームエンジニア。コンシューマゲームの開発、ツール開発などを経験した後、2018年に株式会社ヒストリアに入社。「ジョジョの奇妙な冒険 ラストサバイバー」運営リードエンジニアなどを担当。現在2度目の育児休暇取得中。
澤田 唯
株式会社スクウェア・エニックス 第一開発事業本部ディビジョン1 ゲームデザイナー。2010年にスクウェア・エニックスへ新卒入社。『ライトニングリターンズ FFXIII』『メビウスFF』の両作でリードプランナーを担当した後、2017年からは『FINAL FANTASY VII REMAKE』の開発に従事。
▲セッションは茂呂氏が進行し、佐々木氏は経営者視点で見た育休制度について語る。そこに育休取得経験のある5名が加わり、「男性育児休業の実態」と、「リモートワークでの育児両立の難しさと働き方」をテーマに事例を紹介する。

 

 

 

男性にとって育休は取りにくい?

 2020年より、ゲーム業界でもリモートワークが恒常化。その中で、ワーキングペアレントの働き方はどのように変わってきたのだろうか。今回のセッションでは、事前に「CEDEC2021 男性育休アンケート」を実施。419件の回答から、男性の育休事情が明らかになった。

 勤務先規模は、渡邊氏が属するセガと、澤田氏のスクウェア・エニックス等の大企業が、「1000人以上」の分類で、佐々木氏と安部氏が所属するヒストリアは「20~99人」に分類される。

 回答した男性の職種はディレクタ・プロデューサ職をはじめ、エンジニアやゲームデザイナー、そして開発職以外の人員も参加している。

 以降、アンケートの結果を踏まえながら、ディスカッションが進行する。

 育休取得率の数字を見ていくと、企業規模に関わらず、全体的に取得できる割合が多いことがわかる。比較するのであれば、「100~299人」の中規模企業はすこし少なめという結果に。

 これについて佐々木氏は、「大きい会社は社会的責任も大きいので、育休などの制度に対応する部署が用意されやすく、逆に小規模の会社は責任者の一存で舵が取りやすい。これらに対して中規模の会社はどちらとも取れないため、一番ハンドリングの難しいところなのではないか」と分析した。

 また、職種別の取得率については、エンジニアやマーケティング・営業が5割を超えているのに対し、ディレクタ・プロデューサといったリーダー職は低い数値に。ゲームデザイナーやアーティストに関しても、やや低くなっていた。

 これに関して、澤田さんは「意外だ」とコメントしながらも、リーダー職は中心に立つため引継ぎが難しく、デザイナーもその人ならではのクリエイティブが発揮される職種のため、取りにくい状況が多いのではと推察。現在ではリモートワークの導入が進んできたことから、この差は埋めていくのではないか、と続けた。

 育休を取らなかった理由としては、

・収入が減ってしまうから
・仕事を休めなかったから
・プロジェクトやリーダーを離れることになるから

 と、収入やキャリアへの影響を懸念する声が目立った。育休取得者は、これらの懸念に対してどのように向き合ったのだろうか。

 「どれくらい収入が減るかを計算してみた」とは増田氏。実際に計算してみたところ、8割くらいの収入減だったため、共働きという状況もあり「なんとかなる」と判断したという。加えて、自分が育休を取ることで、妻のキャリアも応援できるというのも判断材料になったそうだ

 澤田氏は、育休ではなく、残っていた有給を活用して短期間の休暇を取得。収入減を心配する必要もなく、手続きも育休に比べて容易であることが利点だという。長く休むことはできないが、産後の大変な時期に1~2ヶ月くらいの短期間は休むことができるため、「育休だけが休む手段ではない」ということを提示した形だ。

 また、澤田氏は短期間で職場復帰が可能だった理由について尋ねられると、パートナーと話し合ったうえで、共に早期に復帰することを望んでいた点と、認可保育園の制度としても早めの復帰が入園するのに有利だった点をあげた。いわゆる“保活”を行い、サポートを最大限受けられる環境を整えたことで、短期間の職場復帰を実現したようだ。

 なお、取得しなかった理由の中に、「育休を取りにくい雰囲気があった」という回答の割合がかなり少ないことから、業界的に育休の取得に対して、理解のある環境が形成されているといえる。

 育休取得に対する理解度を裏付けるデータとしても、「育休取得の旨を伝えたときの反応」は、「快諾」が66%、「普通」が32%と、合計98%の人が肯定的という結果に。

 また、育休取得を伝えるタイミングが「3~6ヶ月以上前」と比べると、「1~2ヶ月前」の場合は「快諾」の割合が減少していることがわかる。やはり休業の連絡は早めに行った方が、周りとしても受け入れやすいということだろう。

 経営者目線で語る佐々木氏によると、「おめでとう」という気持ちがある反面、「仕事の穴をどう埋めるか」を考える側面もあるとのこと。仕事の穴を外部委託で埋める場合、募集から引き継ぎまでに要する期間を考えると、「5か月前から伝えてくれるとありがたい」との見解を示した。

 取得を伝えるタイミングについて、育休取得経験者の面々は口を揃えて、「妻が安定期に入ったとき」を目安にしていたという。だいたい5~6ヶ月前に伝わる形だ。しかし中には、「どう伝えるか」で悩み、想定のタイミングよりも少し遅れて伝えることになってしまうケースも見られた。

 また、安部氏の場合はプロジェクトの山場と出産が重なりそうになったこともあり、まずパートナーが里帰り出産をする旨を伝え、その後に調整して育休が取得できるよう、段階的に相談を詰めていく方法をとったという。

 

育休は取るべきか?

 続いて、育休取得者の上司・同僚を対象にしたアンケート結果を用いた話題に移行。

 男性育休について「本人が望めば使用していいと思う」「積極的に取るべきだと思う」といった肯定的な意見がほとんどを占める結果に。

 佐々木氏は「業界の倫理感がしっかりしていて安心した」とコメント。ベースとしての倫理観が業界の中にしっかりと根付いているため、少数ながらもアンケート結果に見られたネガティブな回答に対しても、改善に向けて前向きに取り組める環境にあるといえる。

 ここで、実際に育休を取る際に気を付けることについてアドバイスを求められた安部氏は、自身のふたり目の子どもが出産予定日より3週間早かったことを例に挙げ、「出産は実際の想定とズレてしまうときがあるので、それを考えた相談も大事」と答えた。

 

育休中の男性は何をしているのか?

 3つ目のテーマは「男性の育休について」。パートナーとの役割分担など、育休中の行動についてディスカッションが進んだ。

 育休中について、食事作りや洗濯、掃除といった家事と、子育て全般を担当するなど、積極的に家事・育児に勤しむ男性が多い回答結果に。

 また、育休の取得月数別を見ていくと、「1ヶ月未満」などの短期間では子育てに関してサポート程度の参加度合いに留まり、長期間である方が子育てへの参加度合いが高かった。

 実際の役割分担について、竹内氏は「前もって家事などの練習をして備えていた」と語る。パートナーの体調がすぐれない場合にも自分がすぐに家事・育児の対応ができるように、状況に応じた分担をしていたとのこと。

 渡邊氏も、自分とパートナーの両方が同じように家事・育児に取り組めるよう準備していたほか、特に「産後うつ」のケアを意識して取り組んだそうだ。寝かしつけなどが大変なときはすぐに交代し、パートナーの睡眠時間を確保することにも気をつかっていたという。

 

育休を取得した男性の満足度は?

 続いて、男性の育休取得期間と、満足度の関係についてデータが明かされた。

 全体的に、取得期間が長いほど満足度は上がる傾向にあるが、同時に出世への影響を感じる傾向も高まっていた。しかし、育休を取ったことに対して後悔する人はほとんどいなかったようだ。

 データ上で7ヶ月以降の育休期間を取得した人が少なくなっていることについては、安部氏が「育児休業給付金が減るからだろう」と捕捉。育休取得から6ヶ月を境に給付金の金額がさがるため、ひとつの目安になっているのだという。安部氏自身も、6ヶ月を目安に保育園を探し、無事に入園できたことで職場に復帰したとのこと。

 育休の満足度について聞かれた増田氏は、「育休について満足度がある一方、出世への影響を感じることもある」とコメント。時短勤務についても、バグが発生した際など、残業が必要な場面では他の人に任せる必要があるため、出世への影響は考えてしまうそうだ。

 渡邊氏は時短勤務について、短い時間の中で工数を削減し、パフォーマンスを上げないといけないため、やはりその分の苦労があるという。また上長からは「育休や時短勤務を他の社員にも知ってほしい」との志を伝えられているため、こうした働き方をまわりに示せるように頑張っていくとのことだった。

 

リモートワークがあれば育休はいらない?

 リモートワークの導入が進んできた2020年以降、「家にいられるのであれば、育休はいらないのでは?」と質問されることがよくあるという。こうした質問に対して、意見が交わされた。

 竹内氏はまず「育休で何を実現したいかによる」とコメント。パートナーの体調が不安定なタイミングだった竹内氏の場合で当てはめてみると、育休中はどうしてもひとりで家事と育児を担う必要がある。

 そして実際に家事・育児をやってみると、工数的には「1.4人月」くらいの感覚なのだとか。「ひとりで残業をすごく頑張ればなんとかなる」ぐらいの忙しさなため、時短勤務をしつつ家事・育児をこなすことは難しいのではないか、との見解を示した。

 また、増田氏は自宅勤務で、子どもが泣いている状況で普段通りプログラミングをすることが難しかったという経験を語った。澤田氏も、自宅から参加する会議の時間と子どもがいる時間がブッキングしたときに、仕事にならなかったという。

 育児に関しては仕事との両立がどうにもならないという意見が多い一方で、家事全般はかなり効率よく回せるようになったとも振り返った。家事に関しては空いた時間にフレキシブルな対応ができるとあって、リモートとの相性は良好なようだ。

 

リモートワーク+育児のタイムスケジュール

 登壇者の面々が育休から復帰した現在、リモートワークをしながらの育児をする日常についても共有された。実際に竹内氏、増田氏、渡邊氏の3名が過ごしているタイムスケジュールが公開。

 働き方について、フルタイムでリモートワークの竹内氏に、時短勤務で出社をしている増田氏、時短勤務かつリモートワークの渡辺氏と3者3様となっている。家事・育児について大きく差異があるのはやはり18時以降の、子どもが帰ってきた後だろうか。

 18時以降、状況に応じて自分かパートナーの空いている方が受け持つようにしている、とは竹内氏。また、なるべく保育園の送り迎えは一緒にやれるように努力しているとのこと。これには、リモートワークであまりにも家にいる時間が長いため、健康面に気を配る意図もあり、近くの公園に寄って夫婦でラジオ体操をして帰るなどの日課も行っているそうだ。

 増田氏も同様に、夫婦どちらも家事・育児全般ができるようにしているという。ただ、お互いの得意・不得意も考慮して、分担を行っているそうだ。渡邊氏はお互いの時間を効率的に使うように意識しているそうで、それぞれの家庭で工夫がなされている様子だった。

 安部氏からは「育児介護レギュレーション」という、ヒストリアが独自に採用している働き方が紹介された。毎週末に翌週のスケジュールを共有することで、通常以上にフレキシブルな対応ができるシステムとなる。

 このヒストリア独自の制度を設けた佐々木氏は、「どんな制度を設けるときも、不平不満がでにくいように考えている」と説明。育児をする人に関してレギュレーションを明確に変えておくことで、育児をする人に向けた施策が打ちやすくなるという。

 

育休制度について

 最後に、育休制度について紹介。今年、現行の育休制度に加えて、新制度が追加されることが発表。育休の分割取得や、労働者の合意した範囲で休業中に就業することが可能になる。

育児・介護休業法 改正ポイントのご案内

 育児の忙しさにも波があるので、分割取得ができるのはありがたいと竹内氏。また、安部氏は育休中の就業について、引継ぎコストが高いものだけは自分がやってしまえたり、ミーティングに顔を出せたりするのは嬉しいと語った。

 事業者としては、「研修や相談窓口の設置」、「個別の周知・意向確認の措置」といった義務が生じる。「いつ育休取りますか?」「分割でも取れますよ」と事業者側から確認する義務のため、シャイな会社員にはありがたい制度のようだ。

 経営者の佐々木氏にとってはやはり労力が増える仕組みのため、「制度が増えると中小企業は大変ですが、みなさんで頑張りましょう」と、これからの苦労がうかがえた。

 なお、男性の育休取得率について、政府目標は2025年までの取得率30%を掲げている。企業の努力はもちろん、今後さらに育休が取りやすくなる制度の配備が待たれる。

 

社内のワーキングペアレントコミュニティ事例

 現在、セガでは社内のワーキングペアレントコミュニティとして「ママパパコミュニティ」が存在。Microsoft Teamsを活用したコミュニティで、育児についての質問ができる環境だという。渡邊氏、竹内氏も参加し、曰くオンライン上で「パパランチ会」なども催されている様子。

 スクウェア・エニックスでは、Slakが導入されているため、そこにワーキングペアレントのチャンネルが用意されているそうだ。チャンネル内では、育児の話題で盛り上がっているとのことだ。

 両社のような大企業では、やはり育児を支援する仕組みが整えられているようで、ワーキングペアレントコミュニティはそのひとつと言える。

 なお、CEDECも企業の垣根を越えたワーキングペアレントコミュニティを運営中。過去にはバーベキュー交流会なども行われており、現在はSlackに移行し、2021年は9月にオンラインでランチ会を予定している。

 これまでのまとめとして、「育児はワンチームで行うもの」とは渡邊氏。澤田氏は「さまざまな育休の形があると思うので、夫婦に合った分担の仕方を話し合っていただければ」とコメント。安部氏と増田氏は、「育休を取ったことが、その後の仕事に生かされている」と振り返り、育休中に培った経験が、短い時間での効率的な作業や、周りの育児に関する手助けにも活用できるようになった様子だった。

 竹内氏は「子どもが生まれると生活のリズムが変わるので、それに慣れる期間としても育休が必要」と改めて必要性を説き、最後に佐々木氏は「経営者としては、本人も周りも納得できる形で育休を取れるようにしたい。気持ち良くお互いにコミュニケーションが取れる環境を、制度とソフトウェアの両面で作っていきたい」と前向きな姿勢を示して、セッションは締めくくられた。

 なお、本セッションは「CEDECチャンネルYoutube版」で無料公開されている。

 

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森口 拓海(Takumi Moriguchi)
雑誌やWEBメディアを中心に記事を執筆。ゲームは雑食で多様なジャンルを好み、業務の延長でアプリ分析も得意。恩のあるゲーム業界に貢献すべく日々情報を発信。

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