韓国大手ゲーム企業“3N”。明暗が分かれる事業状況と企業戦略を分析

 韓国には”3N”という言葉が存在する。

 これはNCSOFT、NEXON(ネクソン)、Netmarble(ネットマーブル)を示す言葉で、韓国最大手ゲーム企業である3社の頭文字が共通的にNで始まるから3Nと呼ぶわけだ。3Nの売り上げ規模は、それぞれ年間で数千億円を超えるほどで、世界的にも大手ゲーム企業に分類される規模である。

 3Nは当然ながら、幾つかのタイトルが連続で大ヒットを記録し、今の地位まで成長できた。しかし、一企業として、さらに成長するためには、新規タイトルの開発以外に、もっと巧妙な戦略が必要になるだろう。本稿では、3Nの現状と共に各会社が考えるこれからの戦略について、筆者なりに分析してみた。

 

「リネージュ」に集中するNCSOFT
しかし株価は暴落、3Nの中では今後が最も不透明

 前回の記事でお伝えした通り、NCSOFTは『リネージュM』と『リネージュ2M』の成功で確立した 「リネージュ型課金モデル」に執着している模様だ。『トリックスターM』は、グラフィックスこそは可愛いが中身は完全に『リネージュM』という評価で、さらに、2021年8月26にリリースした『ブレイドアンドソウル2』も完全に同じ評価だ。

【関連記事】
韓国で独走するNCSOFTの悩み。無限競争とPKを軸にする「リネージュ型課金モデル」の功罪

 特に『ブレイドアンドソウル2』は、リリースと同時に悪評が続き、NCSOFTの株価にも大きく影響を与えた。

 『ブレイドアンドソウル2』のリリース前まではNCSOFTの1株84万5,000ウォンだったが、リリース日である8月26日に77万6,000ウォンと一気に15.29%が下落し、その後も下落が続いた。最終的には9月29日には56万1,000ウォンまで下落し、1カ月で約33.6%が暴落した。

 『ブレイドアンドソウル2』のGoogle Playセールスランキングを見ると、リリース初期は11位スタートだったが、8月30日からは3~4位を維持している。売り上げ的には好調というわけだが、株価が暴落している理由は、NCSOFTの未来が期待できないからだ。

 NCSOFTは年間売り上げが2兆4,162億ウォンで、時価総額が一時期は20兆ウォンを超える企業だ。それぐらいの規模のゲーム企業が、ゲーム性の発展は無く、過去の成功に頼っただけのビジネスモデルだけを繰り返している。投資家たちからすると、全く面白くない話だ。

 株価の暴落によりオーナーであるキム・テクジン氏はNCSOFTを根本的に変えると宣言し、11月4日にリリースを予定している新作『リネージュW』の2回目のショーケースを9月30日に開催した。その影響で株価が60万8,000ウォンまでと増加したが、ユーザーたちの評価は依然として悪いままだ。

 近年では「EGS投資」(Environment<環境>・Social<社会>・Governance<ガバナンス>の略)という言葉があるように、企業のモラルや顧客との関係性などが重要になっている時代だ。その時代の流れの中で、NCSOFTは最もリスクの大きいゲーム企業と評価されている。今後、NCSOFTがこの難関をどう乗り越えていくか気になるところである。

▲NCSOFTの2021年の株価推移(出所:Naver Financial)
▲『リネージュM』では、変身スキルに「唯一」クラスが初めて実装された。「伝説」クラスを4枚合成して製作するもので、およそ20億ウォンは掛かると言われている。このシステムは11月4日にリリースする『リネージュW』でもそのまま登場する予定だという。出所:『リネージュM』のスクリーンショット

 

売却失敗から自社IPの強化に力を入れるネクソン
親会社NXCの再売却の噂も…

 ネクソンは2019年に売却しようとする動きがあった。当時、グローバルPEF社であるKRRや、韓国最大のPEF社MBKパートナーズ、Kakao、ネットマーブルなどが参加したが、最終的な価格交渉で失敗し、売却を撤回した。

 その後、ネクソンは開発が長引く自社の開発プロジェクトを多数打ち切りにした。開発期間9年、開発費800億ウォンが投資された『ぺリア・クロニクル』がこの時に打ち切りになり、大きな話題となった。

 現在は、開発体制を改めてマルチプラットフォームで様々なジャンルの新作を準備している。2021年8月5日には発表会を開催し、新作10タイトル以上に関する情報を公開した。

▲出所:ネクソンのプレスリリースより(関連ページ

 また、自社のIPをもっと成長させるために、2021年7月にはThe Walt Disney CompanyのSVPだったNick van Dyk氏をCSO(Chief Strategy Officer)として任命。

 Nick氏は今後、ネクソンのグローバル戦略とM&A、IP管理とパートナーシップ、さらに自社IPの映像化を担当する「Nexon Film and Television」組織を総括するという。2020年11月にもThe Walt Disney CompanyのCSO、Tik TokのCEOの経歴を持つKevin A. Mayer氏を社外取締役に任命した。

 一方、自社IP強化とは別でネクソンの親会社でオーナーであるキム・ジョンジュ氏が率いるNXCは、仮想通貨の投資に力を入れている。2017年に韓国初の仮想通貨取引所「KORBIT」を買収し、2018年にはヨーロッパの仮想通貨取引所「Bitstamp」を買収した。また、NEXON JAPANは4月にBITCOIN1,717個を1,130億ウォンで購入し、約50%の損失になった。

 ネクソンは売却失敗からバリューを上げるための戦略に集中している様子だ。単なるゲーム会社ではなく、The Walt Disney Companyのような総合的なエンターテイメント会社を目指すというビジョンを示している。

▲ネクソンの新任CSOのNick Van Dyk氏(出所:ネクソンのプレスリリース)
▲ネクソンのオーナーであるキム・ジョンジュ氏(出所:NXNのプレスリリース)

 

ゲーム事業好調。M&Aにも没頭するネットマーブル

 ネットマーブルは3Nの中で最もゲーム事業が安泰だと言われている。

 というのも、NCSOFTは『リネージュM』シリーズによる韓国売上、ネクソンは『アラド戦記』の中国売上に偏ったポートフォリオになっているが、ネットマーブルはひとつのタイトルに偏らず、さらに海外の売上が72%にも及ぶなど事業的なバランスの良さが強みだ。

 海外でもひとつの国に偏らず、日本、北米、ヨーロッパとバランスよく売上を構成している。さらに、新作も好調で『二ノ国:Cross Worlds』が国内をはじめアジア圏で大ヒットを記録し、続く『Marvel Future Revolution』もヒットした。

 また、ゲーム事業以外にもM&Aと投資の実績も好調だ。

 まず、2015年にNCSOFTと約3,800億ウォン規模で株を交換したが、その後にNCSOFTの株価は爆増し1兆ウォン以上になった。NCSOFTが保有するネットマーブルの株価は現在6,000億ウォンぐらいだ。

 2016年にはKakao Bankに916億ウォンを投資したが、Kakao Bankは2021年にIPOに成功し、ネットマーブルは2021年8月10日に保有する株の半分である1.8%を4,301億ウォンで売却した。まだ保有している株を考えると約10以上の投資実績である。

 また、2018年にはKakao Gamesに500億ウォンを投資し、同社の2021年IPO後に2,536億ウォンで全て売却した。同じく2018年には、アイドルグループ「BTS」の芸能事務所として有名なHIVEに2,014億ウォンを投資。現在は2兆1,000億ウォンの価値だ。なお、ネットマーブルのオーナーであるバン・ジュンヒョック氏は、HIVEのオーナーのバン・シヒョック氏と従兄弟の関係だ。

 2020年には浄水器メーカーでレンタル事業を行うCowayを1兆7,400億ウォンで買収。さらに、2021年8月にはソーシャルカジノ世界3位の会社SpinX Gamesを21億9,000ドルで100%買収した。他にもネットマーブルの子会社であるJamcityは、カナダのカジュアルゲームデベロッパーであるLudiaを1,925億ウォンで買収した。

 このようにネットマーブルはゲーム事業と同等もしくはそれ以上に投資に集中している様子だ。

 コロナ過で世界的に量的金融緩和政策(Quantitative Easing)が進み、資産のバリューが爆増している現在では正しい選択かもしれないが、具体的な成長のモメンタムが分からないというシグナルで 、ネットマーブルの株価はあまり変動がないままである。

▲ネットマーブルの3年間の株価推移(出所:Naver Financial)

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Finley
ゲーム会社を経営する傍ら、アジアのゲーム業界を中心とした調査・分析・執筆を行う。各国の政治概況や業界ネットワーク、技術トレンド、ユーザー動向など、ゲーム開発者としての知見を持つ。現在は、主に韓国・中国のゲーム市場の動向を調査。

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