『DEEMO』映画化を機に考える、“物語”がリズムゲームに与える影響

 劇場版長編アニメ『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』が、2022年2月25日より上映開始となる。本作は、台湾のゲーム開発会社「Rayark」(レイアーク)が2013年にリリースしたスマートフォン用音楽ゲーム『DEEMO』を原作とする作品。

 プレイヤーの心に響く美しいピアノ楽曲と、作品が持つ独特な世界観が人気を博し、全世界累計2,800万ダウンロードを達成している。劇場版アニメは『進撃の巨人』を世界的ヒットへと導いたポニーキャニオンと、Production I.Gグループが共同制作で手掛けている。

 『DEEMO』の劇場版アニメの製作が発表されたのは、2019年、ニューヨークで開催されたイベント「ANIME-NYC 2019」でのこと。

 Production I.G代表取締役社長の石川光久氏はイベントにて「ミンヤンさん(Rayark代表取締役社長であるMing-Yang Yu氏のこと)の世界観が素晴らしい。ミンヤンさんの世界観には美術と音楽、この2つがすごい重要で、まず(それに)合うスタッフを集めた」とコメントしており、『DEEMO』について音楽はもちろん、世界観がいかに重要な役割を持っているか語っている(参考動画:2分21秒頃)。

 音楽ゲームのメインとなるのは、もちろんリズムに合わせてボタンを押すといったパートになる。何度も練習を積み重ねてプレイヤーの腕を磨いていくストイックなゲーム性に対して、作品の世界観やストーリーの介入が大きすぎるとテンポの悪さに繋がりかねない。

 『DEEMO』はいかにして、独自の世界観と音楽ゲームの融合に成功できたのか。音楽ゲームの元祖として広く知られる『パラッパラッパー』を例に取り上げなら考察していく。

 

音楽ゲームの基礎を築いた『パラッパラッパー』

 まずは『パラッパラッパー』について、軽くおさらいしておこう。本作は1996年12月6日、ミュージシャンの松浦雅也氏によってプレイステーション向けにリリースされたタイトル。リズムに合わせて6つのボタンを押してくという、現在の音楽ゲームの基礎を築いた作品だ。

▲2017年にはPS4より『パラッパラッパー』のHDリメイク版がリリースされた。

 音楽パートでは、各ステージの先生と呼ばれるキャラクターとのラップバトルが展開。最初に先生がお手本としてラップを披露し、主人公兼生徒役のパラッパがアンサーを返す

 「キック、パンチ」のキャッチーなフレーズでステージを盛り上げるタマネギ先生や、ラップバトルの厳しさを骨の髄まで叩き込んでくれるニワトリ先生など、印象的なキャラクターも多い。イラストもカートゥーン調で手に取りやすく、発売から25年が経った今でも、思わずプレイしたくなってしまうようなキャッチーさを感じさせてくれる。

 音楽パートの前後にはストーリームービーが差し込まれ、主にパラッパとその想い人であるサニー・ファニーとのやり取りを中心とした物語が進んでいく。サニーから興味を持ってもらえるような一人前の男になれるよう、道場や自動車教習所、料理スタジオといった様々なステージに挑戦していくパラッパ。

 言葉が飛び交うラップバトルをテーマとしているためテキスト量は多めだが、歌詞が音楽ゲームの爽快感と世界観の深堀りのどちらにも寄与しており、プレイフィールを損なわせない。

 ラストステージではヒロインの前でラップのライブを披露するといった場面もある。ゲームプレイを通してキャラクターの成長が体感できるようになっているという、まさに音楽ゲームとストーリーの融合に成功した、お手本のようなタイトルになっていると言える。

 ちなみに、本作は2001年から2002年までアニメ版が放送。アニメーション制作を、 『DEEMO』 と同じく Production I.G が担当(制作協力)している。

▲先生のお手本を無視して自由にラップできる「アドリブ」というシステムも用意されていた。

 

プレイヤーの想像力を掻き立てる『DEEMO』の世界観

 前述した『パラッパラッパー』に対し、『DEEMO』はまた違ったアプローチを試みている。

 本作のストーリーパートは主にイラストによって進行し、アドベンチャーパート以外ではテキストは特に用意されていない(2015年にリリースされた『DEEMO~ラスト・リサイタル~』、2019年にリリースされた『DEEMO -Reborn-』ではキャラクターボイスが追加されている)。

 幻想的で奥行きのある世界観を提供しつつも、ストーリーについてあえて語り過ぎず、プレイヤーの想像力を掻き立てるように仕向けているのだ。

 楽曲のクリア状況に応じてストーリーが解禁されていくため、先の展開が気になりプレイを続けてしまうといった、ゲームを続けるモチベーションにも上手く繋がっている。

 本作のタイトルにもなっているメインキャラクター・Deemoは、全身が黒ずくめのミステリアスな存在。城の高窓から落ちてきた謎の女の子・アリスを元の世界へと返してあげるため、ピアノの音色による不思議な力で木を大きく成長させるシーンからスタートする(正確には、音楽パートを複数回クリア後にイベントが進行する)。

 楽曲ごとに用意されたソングイラストやアドベンチャーパートにて物語のカギとなるようなヒントが散りばめられており、能動的に物語を読み解いていく楽しさがある。

 時には物悲しげな、時にはパッション溢れるピアノ演奏がゲームを盛り上げ、さらには物語への想像力を膨らませてくれている。

 本作のストーリーについて、プレイヤー自身で想像できるからこそ様々な解釈が生まれ、いつまでも記憶に残る作品となっているのだろう。

 また、キャラクター・世界観それぞれが優しさに溢れており、ストーリーに安心して身を委ねることができることも、本作の人気に繋がっているように感じる。世界観を何より大切にしてきた『DEEMO』だからこそ、今回の映画化にまで発展することができたのだ。

 『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』は、2022年2月25日の上映を予定している。上映に先駆け、YouTubeの「ぽにきゃん-Anime PONY CANYON」チャンネルでは、クリエイターや声優からの最新インタビューをもとに映画の最新情報が公開されている。作品について興味のある方は、ぜひこちらも合わせてチェックしてほしい。

 

作品情報

作品名:DEEMO サクラノオト~あなたの奏でた音が、今も響く~
出演:竹達彩奈 丹生明里(日向坂46) / 鬼頭明里 佐倉綾音
濱田岳 渡辺直美 イッセー尾形 松下洸平 / 山寺宏一


<ストーリー>
謎の生物・Deemoが孤独にピアノを奏でている城。 そこにある日、 記憶を失った少女が空から舞い降りてくる。 Deemoと少女、 そして城の不思議な住人たちや、 ピアノの音色で成長する木によって、 優しくて切ない、 愛の物語が紡がれていく。

<スタッフ>
原作:Rayark Inc.「DEEMO」
脚本:藤咲淳一・藤沢文翁

総監督:藤咲淳一
監督:松下周平
副監督:平峯義大
キャラクターデザイン:めばち
イメージボード:吉田ヨシツギ
美術:小倉宏昌
美術設定:吉田大洋
色彩設計:片山由美子
CGディレクター:三階直史
CGI:レイルズ
撮影監督 :江面久
グレーディング:齋藤瑛
編集 :村上義典
音響監督 :明田川仁
音響制作 :マジックカプセル
主題歌制作:梶浦由記
制作:SIGNAL.MD
Production I.G
製作:ポニーキャニオン

<キャスト>
女の子・アリス:竹達彩奈
仮面の少女:丹生明里(日向坂46)
サニア:鬼頭明里
ロザリア:佐倉綾音
ミライ:濱田岳
匂い袋:渡辺直美
くるみ割り:イッセー尾形
ハンス:松下洸平
バレンスキー:山寺宏一


オフィシャルサイト: https://deemomovie.jp/
オフィシャルTwitter: https://twitter.com/DeemoMovie

(C)2021 Rayark Inc./「DEEMO THE MOVIE」製作委員会

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島中 一郎(Ichiro Shimanaka)
島中 一郎(Ichiro Shimanaka)https://www.foriio.com/16shimanaka
ライター。ゲーム・アニメ業界を中心にニュース記事の執筆、インタビュー、セミナー取材などマルチに担当。ボードゲームが趣味であり、作品のレビューや体験会のレポートを手掛けるほか、私生活で会を催すことも。無類のホラー好き。

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