本連載記事「Game App Compass」では、新作ゲームアプリの近況をゲームエイジ総研の「iGage(アイゲージ)」と、スパイスマートの「LIVEOPSIS(ライブオプシス)」のふたつのツールを活用して可視化。定量・定性、双方の視点から現状の課題と今後の取り組みを提示していく。
今回の「Game App Compass」は、2021年2月18日にリリースされたスマートフォン向けRPG『NieR Re[in]carnation(ニーア リィンカーネーション)』の“現在地とその行く先”を分析していく。
セルラン1位・1,000万DL突破の「ニーア」シリーズ最新作
本作はスクウェア・エニックスの人気アクションRPG「ニーア」シリーズを題材にしたスマートフォン向けゲーム。開発は、『ブレイドエクスロード』や『ジョーカー~ギャングロード~』などのスマッシュヒット作を持つアプリボットが担当している。
「ニーア」シリーズといえば、壮大な世界観や悲しくも美しいストーリーなどで根強い人気を持つRPGだ。これまでコンシューマを中心に、『ニーア レプリカント/ゲシュタルト』、『ニーア オートマタ』など、複数タイトルをリリース。いずれも癖の強い登場人物、派手なバトルシステム、周回で変化する物語など、個性的なゲーム体験が話題を呼び、国内外で高い評価を得ている。
本作『ニーア リィンカーネーション(以下、リィンカネ)』は、もともとシリーズの10周年記念生放送において、『ニーア レプリカント』のバージョンアップ作品である『ニーア レプリカント ver.1.22474487139…』と併せて発表された。
事前登録者数100万人超えの注目度をそのままに、リリース後にはわずか1日で100万ダウンロードを突破、App Storeセールスランキングでは1位を獲得、さらに2021年3月4日には1,000万ダウンロードという、短期間で破格の数値を叩き出した。
物語の舞台は、巨大な石の塔「檻(ケージ)」。その中を歩く謎の「白い少女」は、謎の生き物「ママ」に導かれ、失ったものを取り戻すために、武器の記憶に干渉する「黒い敵」との戦いに身を投じていく。
本作は、これまでの「ニーア」シリーズや、同じ開発陣が手掛けた「ドラックオンドラグーン」シリーズにも存在した、武器が持つ物語「ウェポンストーリー」に焦点を当てた構成。さまざまな武器の記憶をたどっていくオムニバス形式で進行し、武器に関係のある人物の悲劇的で数奇な人生が、メインの物語を盛り上げていく。
ストーリーを進めるために、白い少女などの登場人物を操作して、探索を進めていくのも本作の大きな特徴。進むごとにその様相を大きく変えていく檻(ケージ)を冒険し、この先どうなるのかというワクワクや不安感を味わえる構成になっている。
バトルは、基本的にオートで進行。ユーザーが操作するのは各スキル(キャラスキル・ウェポンスキル・オトモスキルなど)の使用時のみ。敵や味方はターン制で行動し、キャラは自身のターンが回ってくるごとに、通常攻撃を繰り出して敵を攻撃する。
各スキルは、敵の攻撃を食らわずに連続でヒットさせるとコンボが成立し、攻撃した回数が多いほど攻撃力が増加(最大20コンボでダメージが200%に増加)。スキルの発動を自動化するオートモードや、バトルの時間を早める機能もあり、周回しやすいようになっている。
従来のスマホ向けRPGとは明らかに趣が異なり、唯一無二のタイトルとして異彩を放っている本作。実際に『リィンカネ』でも高い評価を得ているが、リリースから間もなく半年を迎える本作は、現在どういう状況なのだろうか。「iGage」と「LIVEOPSIS」を用いて紐解いていく。
直近の平均アクティブユーザー数は44.49万人/週
まず『リィンカネ』における、アクティブユーザー数の推移を覗いてみよう。
リリース週となる2021年2月15日週では、大台を超える108.35万人を記録。そして、現在(調査時点)のユーザー数は18.23万人となっている。リリースから調査時点の6月14日週までの平均アクティブユーザー数は44.49万人/週となる。
アクティブユーザー数が大幅に減少しているが、これはゲームのみならず一般的な運営型の(オンライン)サービスではよく見る光景のひとつ。
初動は多くのユーザーが「一度は遊んでみよう」と思い、大きな流入に繋がりゲーム内は活気づくもの。しかし、継続的にユーザーを遊ばせて、さらに新規を上乗せするのは至難の業、次第にユーザー数も落ち着きを見せていくのは当然といえよう。
とはいえ、スロースタートで口コミから広がり、徐々に右肩上がりで推移するタイトルも少なからず存在する。本作はリリース直前の期待値が高かっただけにその反動が如実に表れている印象だ。
また、アクティブユーザー数の減少について、同時期に注目度の高い新作がリリースしたことも挙げられる。それが、Cygamesの『ウマ娘 プリティーダービー』(2021年2月24日)。『リィンカネ』のわずか1週間後に登場した本作は、後述する流出先データにおいても、その影響力の高さが数値で出ている。
アクティブユーザー数について、セールスランキングの推移とも合わせて確認してみた。
リリース週の2月15日週ではセールスランキング1位を獲得。その週の平均セールスランキングは5.8位だった。
その後は、アクティブユーザー数の減少とともに、平均セールスランキングも右肩下がりとなるが、30万人前後においてもTOP50・TOP100圏内を捉えているのがわかる。リリース2ヵ月後のため、まだまだ新規性や新作特需などの恩恵があるほか、後述するコラボイベントなどが寄与したことがうかがえる。
ただ、調査時点の6月14日週のアクティブユーザー数が20万人を切っていることから、まだまだ底が分からない状態だ。そういう意味では、2021年8月頃に行うであろう、半周年施策やコラボ施策などを通して早期の休眠復帰施策が求められる。
平均プレイ時間は50分前後。女性比率も高い
次にデモグラフィック(人口統計学的属性)を調査。
男女比では、一般的なスマートフォン向けRPGのなかでは女性比率が高い印象だ。また、年齢別では20代が男女合わせて43.9%という半数近く占める数値に。
シリーズの初代にあたる『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』は2010年4月、続編で大ヒットを記録した『ニーア オートマタ』は2017年2月にそれぞれ発売されている。
「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」のように国民的RPGとまではいかないが、スクウェア・エニックスの新規IPとして成功を収めたシリーズであり、ここ10年で成長した20代のユーザー層は“ニーア世代”として同シリーズの認知度が高いのかもしれない。次いで30代が26.2%、10代が17.7%となった。
地域別のユーザー層については、関東地方がもっとも多いという、ほかのタイトルと同様の結果となった。
平均プレイ時間は、リリース(2月15日週)から調査時点の6月14日週までで52.3分/日だった。なお、平均プレイ時間は「20分未満」「20分以上」「60分以上」「120分以上」「180分以上」という5つのセグメントで区切っている。
期間中の平均アクティブユーザー数44.49万人/週のなかで、「20分未満」が21.44万人/週、「20分以上」が8.80万人/週、「60分以上」が7.21万人/週、「120分以上」が3.93万人/週、「180分以上」が3.11万人/週に。
下記のグラフでは各週の平均プレイ時間も記している。
平均プレイ時間は50分前後でおおむね横ばいになっている。前述しているようにアクティブユーザー数の推移は減少しているものの、継続的にゲームを遊ぶコア層がきちんと残っているため、20分以上の割合が多く占めるようになった。
なかでも4月12日週から5月3日週まで右肩上がりで平均プレイ時間は上昇。5月3日週には、リリース当時に迫る69.5分/週を記録した。これは、後述するゲーム内施策が寄与したことが考えられる。
シリーズ作品コラボで休眠復帰を狙うが
期間中のユーザーのプレイステイタスも覗いてみよう。
プレイステイタスの平均は、リリース(2月15日週)から調査時点の6月14日週までで「継続」が34.11万人/週、「新規」が7.47万人/週、「復帰」が2.90万人/週、「離脱」が9.14万人/週、「休眠」が71.59万人/週となった。
『リィンカネ』に一度でも遊んだことのあるユーザーは、だいたい120万人規模にも及ぶ。その8割近くが休眠ユーザーではあるが、それと同時に休眠復帰施策を通して呼び戻すなど、一定のポテンシャルを持ち合わせているのも事実。
リリースから約1ヵ月後の2021年3月31日には、初のコラボとして4月に発売されたコンシューマタイトル『NieR Replicant ver.1.22474487139…』の施策を実施した。同作は、初代『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』のリメイク版にあたり、コンシューマタイトルの発売という盛り上がりに合わせて展開。
その後、5月8日には一部世界観が「ニーア」シリーズにも関連している『ドラッグオンドラグーン3』とのコラボ施策も実施した。
一方でプレイステイタスの「復帰」の値がもっとも多い箇所として、4月26日週を注目したい。ここのタイミングにおいて、ゲーム内ではいったいなにを実施していたのか。スパイスマートが提供する、アプリストアのセールスランキング推移とゲーム内施策を一覧で閲覧できる「イベントカレンダー」で調べてみた。
ゲーム内では、4月28日~5月9日の期間中に、「ニーアの日ゴールデンウィーク(GW)特別版」と題した大型キャンペーンを実施していた。キャンペーンの内容は下記の通り。
・10連無料ガチャ開催
期間中、1回限定で10連無料ガチャを利用できた。
〈開催期間:4月28日11:00~5月9日10:59〉
・ログインボーナス開催
期間中毎日ログインすることで最大「ジェム×1000」がもらえるログインボーナスを開催。
〈開催期間:4月29日00:00~5月9日23:59〉
・限定パネルミッション開催
パネルミッションをクリアすることで、限定シナリオを読むことができるイベント「挿話:星」を開催。報酬として、限定★★★★武器を入手できた。
〈開催期間:4月28日11:00~5月9日10:59〉
・特別クエスト開催
期間中、1日1回クエストをクリアすることで、豪華報酬を獲得できる特別なクエストを開催。
〈開催期間:4月28日11:00~5月9日10:59〉
・その他お得なキャンペーン開催
期間中、クエストでの消費スタミナが1/2になるほか、強化大成功確率が2倍、メインクエストで獲得できるゴールドが3倍、曜日クエストでの進化素材のドロップ確率が2倍になるキャンペーンも開催。
〈開催期間:4月28日11:00~5月9日10:59〉
大型連休のタイミングにゲームプレイを促進させるさまざまなキャンペーンを実施していた。なかでも休眠復帰ユーザーに寄与したのは、1回限定の10連無料ガチャではないだろうか。また、1日100ジェム(有償アイテム)が10日連続(合計1000ジェム – 1,000円相当)もらえるログインボーナスも寄与したと思う。
前述した平均プレイ時間のなかで、「5月3日週はリリース当時に迫る69.5分/週を記録」というデータもここに起因する。消費スタミナ1/2や獲得ゴールド3倍など、ゲームプレイを促進する施策が矢継ぎ早に展開され、いつも以上にプレイ時間が長くなったことが考えられる。
そのほか、お得にジェムやアイテムを獲得できる期間限定パックの販売で売上に繋げていた。
ゲーム外のアプローチとしては、「ゴールデンママウィークキャンペーン」と題したTwitter施策を展開。事前登録者数100万人達成報酬である「純金ママ」をはじめ、ゴールドモチーフのさまざまなオリジナルグッズが当たる内容だった。
参加方法は、定番のフォロー&リツイートではなく、ツイート&フォロー後にゲーム内のお知らせからキャンペーンサイトにアクセスするというやや参加ハードルが高め。
ただ、結果的にその奇をてらったキャンペーンは話題を呼び、リツイート(拡散)にも繋がった。Twitterキャンペーンといえば、フォロー&リツイートの参加方法で、賞品はギフトカード(App Store/Google Play/Amazon)などが定番だが、あくまでもこの方法は事前登録やリリース前の拡散・認知向上を目的としたもので利用される。
すでにリリースから2ヵ月を経過(実施時)している本作であれば、『リィンカネ』のユーザー(休眠含め)のエンゲージメントをいかに高めるかが鍵となるため、お世話になったナビ役のママをあしらった(縁起のいい)金色グッズを用意したことがうかがえる。
流出先でもっとも多かったのは『ウマ娘』
最後に流入元・流出先を調査。
流入元(ほかのゲームアプリから『リィンカネ』に流入したユーザー)でもっとも多かったのは、『オクトパストラベラー 大陸の覇者』の0.46万人だった。
同作から流入した背景についてはうかがいしれないが、共通点を挙げるのであれば、同じスクウェア・エニックスのタイトル、原作はコンシューマゲーム、硬派なRPG作品、重厚なシナリオや世界観などだろうか。
そのほか、リリース当時に配信された準新作の流入元が見受けられた。
一方で流出先はどうなっているのだろうか。
流出先(『リィンカネ』からほかのゲームアプリに流出したユーザー)でもっとも多かったのは、『ウマ娘 プリティーダービー』の2.06万人だった。
前述しているように、『ウマ娘 プリティーダービー』は『リィンカネ』のわずか1週間後の2021年2月24日にリリースされた。社会現象を巻き起こした同作は、セールスランキングの首位独走やSNSの話題も席巻。
ゲーム内容は異なるものの、リリースした時点でゲームとしての目新しさは鮮度を落とし、新作アプリに流出してしまうのは市場の流れだ。実際に『リィンカネ』の流入元も準新作からの流出したユーザーでもある。
次に『リィンカネ』のクロスプレイ状況(同時プレイアプリ)を見てみよう。
1位は『Fate/Grand Order』、2位は『ウマ娘 プリティーダービー』、3位は『モンスターストライク』だった。
なお、調査期間における『リィンカネ』の同時プレイアプリ数は1台あたり3.53アプリ。同時プレイ率では、大ヒットゲームアプリのほかに、『ディズニー ツイステッドワンダーランド』が4位にランクインしているところを見ると、ユーザー層の女性比率の高さが合わせて理解できる。
爽快感と自動化の葛藤
データを通して『リィンカネ』の現状を紐解いてきたが、まもなくリリース半周年を迎えるなかで、本作は岐路に立たされている印象だ。リリース当時はセールスランキング1位、1,000万ダウンロード突破など、景気のいい話題も飛び交っていたが、今後はユーザー数減の歯止めをかけることに加えて、約70万人規模の休眠ユーザーに復帰を訴求したいところ。
『リィンカネ』では”「ニーア」シリーズらしさ”をゲーム内の随所で感じられるだけではなく、オムニバス形式のストーリー展開、戦略的かつド派手なバトル、神秘的かつ美しい音楽など、ゲームの要素としてどれをとっても評価が高い。
一方で、「育成のために(クエストの)周回を余儀なくされる」「バトルはオート機能で何もすることがない」「キャラクターのバリエーションが少ない」「ガチャの天井がない(現在実装済み)」など、Free to Play特有の不満を挙げるユーザーも見受けられた。
ちなみにガチャの天井は、2021年6月24日のアップデートで実装。ガチャを引いた際に「ガチャの欠片」という交換素材を獲得できるようになり、専用の交換所にて対象のキャラクター・武器と交換できるようになった。ガチャで目当てのものが排出されない救済策として今後機能していくことだろう。
また、本作のストーリーを進めるためには、白い少女などの登場人物を操作して、ダンジョン・フィールド内を進行するのだが、「自由に動かせるわりには探索要素も乏しく、基本的には一本道。移動も何もかもオートで対応している」という声もあった。
もともと「ニーア」シリーズは、”アクション“RPGである。単調でユーザーが関与する要素が少ないバトルシステムやゲーム進行に関しては、一部ユーザーからは賛否両論があるようだ。
とはいえ、本作の魅力は多種多様だ。そのひとつがメインストーリー(クエスト)の進行だろう。謎に包まれている不思議な世界の真相を探るだけではなく、新たな発見や刺激、出会い、成長などを味わえるメインクエストは、毎月一章ずつのペースで追加されており、7月には十二章が追加された。
他方、2021年7月29日には英語版・韓国版がリリースされることも決定した。「ニーア」シリーズは海外からの評価も高く、国内以上のヒットが予想される。
これまで『リィンカネ』の課題などを挙げてきたが、それ以上にポテンシャルを秘めているタイトル。「ニーア」シリーズはユーザーを驚かせる仕掛けを毎作取り入れており、『リィンカネ』でもナビ役のママを100回タップするとジェム3000個を獲得できるなどの隠し要素を仕込んで話題を呼んだ(リリース早々にユーザーが発見)。
一般的なスマホ向けRPGの枠にとどまらない、ユーモアとセンスが光る本作は、今後も安定した運用とさらなる成長、そして予想の斜め上の施策でユーザーを驚かせてくれることに違いない。
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