今回は、スマートフォン向けパズルゲームアプリ特集。昨今の同ジャンルの主流となるパズル&デコレーションの上位タイトルから、『ガーデンスケイプ』(Playrix Games)、『ホームスケイプ』(Playrix Games)、『プロジェクト・メイクオーバー』(Magic Tavern)の3タイトルを比較・分析していく。パズルゲームの流行り廃りはいかに。
世界中で急成長のパズル&デコレーション
スマートフォン向けパズルゲームといえば、マッチ3の火付け役「キャンディークラッシュ」シリーズ(King)をはじめ、スコアを競い合うソーシャル性と爽快感抜群の操作性で国内大ヒットを記録した『LINE:ディズニーツムツム』(NHN PlayArt)などが挙げられる。パズルをコアゲームに据えたRPGを含めれば『パズル&ドラゴンズ』も含まれるだろう。
これらのタイトルは現在もロングセラーを記録しているが、昨今のスマホ向けパズルゲームの主流とはやや異なる。現在は、パズルゲームに加えて、そのステージ報酬を用いて家や庭などを装飾する「パズル&デコレーション」ジャンルが人気を博している。
同ジャンルの多くは、「キャンディークラッシュ」シリーズ同様にマッチ3を採用しており、それに加えてデコレーションとして箱庭系のコンテンツを取り入れている。たとえば、『ガーデンスケイプ』ではステージをクリアしていくことで★が手に入り、その★を消費して庭を清掃したり、修理したり、豪華にしたりと、物語と成長要素を兼ね備えているのだ。
パズル&デコレーションは、国内はもとより世界中で破竹の勢いで成長している。
同ジャンルの先駆けタイトルでもある『ガーデンスケイプ』(2016年リリース)は、2020年にプレイヤーの消費額が過去最高の年となり、前年比78%増の約9億5,900万ドル(約1,053億円)を記録した。本作は、全世界で(当時)9位の収益を上げ、10位のソニー・アニプレックスの『Fate/Grand Order』を上回っており、累計売上額は30億ドル(約3,294億円)を優に超えたそうだ。
なお、『ガーデンスケイプ』の国別の累計売上では、米国が最も高く11億ドル(約1,208億円)、収益全体の約37%を占めている。第2位は日本、第3位はドイツ。また、中国のApp Storeにも進出しており、中国での売上高は第4位となっている。
実は、直近の数字として2021年上半期を見てみると、1位『ホームスケイプ』、2位『ガーデンスケイプ』、3位『Fishdom』と同ジャンルの売上TOP3を開発会社のPlayrix Gamesが席巻している。1位と2位に関しては、ゲームのコアプレイはほぼ変わらず、別のパズルステージと、庭が家のデコレーションにアレンジされているだけだ。
そんなPlayrix Gamesに続くのが、『プロジェクト・メイクオーバー』(4位)や『マッチングトン・マンション』(5位)を開発したMagic Tavernである。パズル&デコレーションジャンルに関しては、これらの会社が二強といっても過言ではない。
パズル&デコレーションは、どういうユーザーが遊んでいるのか。そして、国内ではどのように評価されているのか。
今回は前述したSensor Towerの売上推移を鑑みて、直近(2021年上半期)にスポットをあてて、関連タイトルでカニバリズムの有無を確認するため『ガーデンスケイプ』と『ホームスケイプ』、そして世界観の違いでユーザー層にどう変化があるのかを調べるために『プロジェクト・メイクオーバー』という3タイトルを「iGage」と「LIVEOPSIS」を用いて紐解いていく。
ユーザー数と売上(ランキング)推移の相関を見る
まず各タイトルにおける、アクティブユーザー数の推移を覗いてみよう。
3タイトルともリリースから数年が経過しているだけに、いわゆる凪の状態が続いている。「スケイプ」シリーズだけ徐々にWAU(Weekly Active Users)は減少しているが、『プロジェクト・メイクオーバー』に関しては4月を機にV字回復を果たしている。この原因については後述する。
続いて、3タイトルのWAUを並べてみた。
V字回復を果たした『プロジェクト・メイクオーバー』だが、さすがに「スケイプ」シリーズと比較するとWAUは2倍以上の差が付けられている。該当期間において『ホームスケイプ』はWAU約90万前後、『ガーデンスケイプ』はWAU約70万前後、『プロジェクト・メイクオーバー』はWAU約30万前後といったところか。
次にセールスランキングの推移とアクティブユーザー数の相関をMAU(Monthly Active Users)で調査した。まずは『プロジェクト・メイクオーバー』から見てみよう。
『プロジェクト・メイクオーバー』は2021年4月・5月とMAUが上昇しているにもかかわらず、セールスランキングの順位はそこまで変わらなかった。
一般的なスマホゲームのマネタイズは、ガチャを軸としてユーザーの増減や季節要因(ゲーム内イベント)で大きく左右されることがあるものだが、パズルゲームのマネタイズはステージの攻略に役立つアイテムやスタミナ回復が中心のため、過度な課金につながらない。
つまるところ、ユーザー増減や季節要因の影響を受けることが少ないのだ。
現に『ガーデンスケイプ』『ホームスケイプ』も同様にセールスランキングが乱高下することなく、一定の推移を保っていることがわかる。
「スケイプ」シリーズはMAUが減少傾向にあるものの、セールスランキングの推移は変わらない。これを実現できている背景に、定期的なコンテンツ(ステージ+箱庭要素)の追加が挙げられるだろう。
同ジャンルのゲームに対するモチベーションは、ステージ踏破(進行)である。というのも、海外のマッチ3系タイトルにも、ゲーム内の期間限定イベントはあるにはあるのだが、積極的に課金を促す施策やゲーム全体がイベント一色になるケースは稀(まれ)だ。
なかでもパズル&デコレーションは、家・庭・部屋・人物の装飾が徐々にきれいに仕上がっていく過程を楽しめるため、従来の3マッチパズルゲームにある「次のステージに進みたい」だけではなく、「対象物をきれいに仕上げたい」という楽しみを後押ししてくれる。
奇をてらった施策を展開しなくとも、定期的なコンテンツの追加や安定的なアクティブユーザー数を持ってすれば、十分にセールスに寄与するというわけだ。
幅広い年齢層の女性から支持を集める
次に各タイトルのデモグラフィック(人口統計学的属性)を調査。まずは「スケイプ」シリーズから。
アクティブユーザー数に関しては、若干『ホームスケイプ』に軍配が上がったが、男女比と年齢×性別に関してはあまり変化が見られない。後述するクロスプレイの際にも言及するが、同じユーザーがシリーズを横断してプレイしていることが予想される。
一方『プロジェクト・メイクオーバー』はどうだろうか。
同じパズル&デコレーションではあるが、 『プロジェクト・メイクオーバー』は9割以上が女性ユーザーなどの明確な違いが出た。また、同作は比較的若い層からの支持も集めている。「スケイプ」シリーズのボリュームゾーンが40代女性である一方、『プロジェクト・メイクオーバー』は20代女性の層が厚い。
同作は、タイトルの通り「メイク」をテーマにして、女性キャラクターの部屋や身なり(ファッション)、化粧を含めた変身要素を“デコレーション”として取り入れているほか、海外ドラマ風のストーリー展開も女性から多く支持されていることが予想される。とはいえ、実際にゲーム内では男性キャラクターも登場し、なにも「女性のメイクだけ」に主眼を置いているわけではない。
『プロジェクト・メイクオーバー』しかり、「スケイプ」シリーズしかり、コアプレイは3マッチパズルとデコレーション要素のため、そう大きな変化はない。あとはビジュアルやデコレーション要素をなにで据えているのかなど、見た目のテーマによってデモグラフィックに変化が生じているのかもしれない。
なお、調査期間(2021年2月22日~8月2日)における各タイトルの平均プレイ時間は40分前後だった。
【平均プレイ時間】
・ガーデンスケイプ:約44分
・ホームスケイプ:約48分
・プロジェクト・メイクオーバー:約40分
広告クリエイティブの功罪
期間中のユーザーのプレイステイタスも覗いてみよう。
「スケイプ」シリーズは、一定数存在する(休眠)復帰ユーザーによってアクティブユーザーの減少を抑えている印象だ。
パズルゲームで特徴的なのは、復帰ユーザーが一定数キープしていることだ。あくまでも仮説だが、パズルゲームは他ジャンルと比較したとき気軽に始められるほか、偶発的な連鎖で爽快感が得られるなど、ふとした瞬間に再開するケースがあるのかもしれない。
一方『プロジェクト・メイクオーバー』には動きが。
同作では、2021年4月12日週に新規ユーザーが倍近く伸びているのが分かる。以降も新規ユーザーの流入は一定数をキープし、さきに挙げたWAU増加の要因でもある。
実は、該当週では有名ゲーム実況者が『プロジェクト・メイクオーバー』の動画を投稿していた。チャンネル登録者数350万人を超える「キヨ。」氏の動画である。
最初の動画を2021年4月13日に投稿し、380万再生を記録。以降も『プロジェクト・メイクオーバー』に関する動画を定期的に投稿、毎回100万再生を記録している。なお、動画の概要欄に「提供」の文字はないため、いわゆる案件動画ではないようだ。
キヨ。氏の動画では、パズルゲームはもとより、デコレーション要素に重きを置いた構成になっている。パズル&デコレーションでは、少しばかりだが複数の装飾から選び、自分なりのカスタマイズを楽しむこともできる。
『プロジェクト・メイクオーバー』でも部屋の装飾やキャラクターのファッションなど、選択肢から選ぶことになる。そして、ステージクリア後には自身が選んだ装飾で部屋とキャラクターがきれいに揃い、独自の結果を目にすることができるのだ。
キヨ。氏もデコレーション要素にとことんこだわったことで、パズルゲームではあるが別の観点から同作の魅力が間接的に視聴者へ伝わった可能性が高い。
ただ、動画のサムネイルとタイトルに関しては、SNSを中心に流れる動画広告を揶揄したものを採用している。同作の動画広告は、ゲーム本編と乖離した内容に加え、嫌悪感を抱くクリエイティブを採用するなど、たびたび槍玉に挙げられていた。
それは「スケイプ」シリーズの動画広告にも言えることだ。
たとえば、下記は『ホームスケイプ』の広告クリエイティブ。
純粋にマッチ3や箱庭要素をアピールするのではなく、場面場面でアイテムを使用するアクションゲームのような内容になっている。ピンを抜いてキャラクターを助けるミニゲームに関しては、「ゲーム本編と違う」という指摘に対抗するためか、実際に後追いでその機能を実装するほどの徹底ぶり。
現在も「スケイプ」シリーズは安定してアプリストアのダウンロードランキング上位に位置していたり、さきに挙げた新規・復帰ユーザーの流入が安定していたりと、その広告クリエイティブに一定の効果はあるのかもしれない。
ただ、期待していたゲーム内容とは異なるため、ユーザーの反感を買うだけではなく、タイトルとしてのブランドも著しく低下させる恐れがあるのも事実。今回挙げた3タイトルは、いずれもパズルゲームのなかでは最高に面白いタイトルだ。だからこそ誤解のないプロモーション施策を検討するべきだと思う次第である。
パズルゲーム同士で相互相客は起こるのか
最後に調査期間(2021年2月22日~8月2日)における3タイトルのクロスプレイ状況(同時プレイアプリ)を見てみよう。まずは「スケイプ」シリーズから。
当初仮説では、「関連タイトルでカニバリズムが起こるのではないか」と危惧していたが、実際には見事な相互相客につながっていることが分かった。両作とも同時プレイ率が2位から20%も離しており、お互いのタイトルが1位にランクインしている。
パズルゲームの離脱タイミングはスタミナの枯渇が挙げられる。しかし、同シリーズに関しては片方のスタミナがなくなれば、もう片方のタイトルを起動するというサイクルが起こり得るのだ。
なぜ「スケイプ」シリーズがランキング上位をキープできるのか。その答えは、離脱後の受け皿をもう片方のタイトルがきちんとカバーし、飽和状態の打破や可処分時間のシェアにつながっているのが要因だろう。
ほかの同時プレイ率に関しては、圧倒的なアクティブユーザー数を誇る大ヒットパズルゲーム『LINE:ディズニーツムツム』をはじめ、人気パズルゲーム(デコレーション含む)が軒を連ねる。タイトルラインナップから見てライトユーザー層の印象を受ける。
ちなみに、ゲーム内施策には違いはあったのか。App Storeセールスランキング推移とゲーム内施策を一覧で閲覧できるLIVEOPSISの「イベントカレンダー」で確認してみた。
若干『ホームスケイプ』のほうが施策の手数が多い印象だ。
「スケイプ」シリーズのゲーム内施策において、売上に直結するのは期間限定パックの販売などが挙げられる。カレンダー上ではピンクの帯で表記しているが、『ガーデンスケイプ』は月2回開催(2週間毎)である一方、『ホームスケイプ』は月6回開催(約1週間前後)だった。
ゲーム内イベントの開催の頻度も一目瞭然で『ホームスケイプ』のほうに軍配が上がった。ゲーム自体のコアプレイに変化がないため、一概にゲーム内施策の頻度では優劣を決められないが、恐らくシリーズ最新作にあたる『ホームスケイプ』の運営に注力しているように思える。
続いて『プロジェクト・メイクオーバー』のクロスプレイ状況について見てみよう。
突出したものは見られないが、こちらも同様にパズルゲーム(デコレーション含む)が上位を占める。「スケイプ」シリーズも漏れなくランクイン。
異才を放っているのは4位の『ディズニーツイステッドワンダーランド(以下、ツイステ)』、10位の『どうぶつの森 ポケットキャンプ(以下、ポケキャン)』だろうか(『モンスト』は「スケイプ」シリーズにもランクインしているので割愛)。
ディズニーの悪役たち(ヴィランズ)を題材とした『ツイステ』は、RPGのバトルと育成要素、さらにはリズムゲーム要素を兼ね備えたタイトル。カジュアルなパズルゲームジャンルと比較して、ややミドルコアタイトルの分類に入るだろう。
育成やストーリー、キャラクターの魅力などに重きを置いたタイトルのため、『ツイステ』に時間やお金をさき、スタミナの枯渇などひと段落したタイミングで『プロジェクト・メイクオーバー』をはじめとしたパズルゲームが選ばれているのかもしれない。
つまるところ『プロジェクト・メイクオーバー』は、パズルゲームなどのカジュアルジャンルでサイクルする「スケイプ」シリーズのユーザー層とは異なり、(女性の)ミドルコアユーザーに支持されていることが今回の同時プレイ率から読み取れる。
海外パズルゲームの新勢力と日本の状況
昨今のパズルゲームアプリは、国内と海外で異なるゲームデザインで共存している。
海外タイトルはパズル&デコレーションが隆盛を極めて、「スケイプ」シリーズのPlayrix Gamesは『Fishdom』『アンティークハント』を、『プロジェクト・メイクオーバー』のMagic Tavernは『マッチングトン・マンション』など、いずれも関連タイトルが国内でもスマッシュヒットを記録している。
なお、現在は新勢力としてトルコのゲーム会社Dream Gamesの『Royal Match』が、急速に成長している。
内容は定番のマッチ3パズルゲームとなっているが、王国の城を再建する建築要素が取り入れられているのが特徴。パズルステージをクリアすることで星が獲得でき、王城を発展させるなど、いわゆるパズル&デコレーションタイトルのひとつとして数えられる。
【関連記事】
マッチ3パズル『Royal Match』の総売上が1億ドルを突破。過去6ヶ月間で急速に成長
同作をプレイした弊誌記者が分析しているように、『Royal Match』はさらにカジュアルさを追求したタイトルである。ストーリーやデコレーション要素を楽しむタイトルと、ひたすらパズルステージをクリアしていくタイトルの中間あたりに位置しているのだ。
国内では、App StoreセールスランキングTOP100圏内にランクインしており、徐々に人気と知名度を上げてきている。3マッチでは珍しい縦画面を採用しているほか、ゲーム内のテンポやUI/UXの妙が今日のヒットに結実しているのであれば、海外パズルゲームの新たなトレンドを構築するタイトルとして今後も注目すべき存在だ。
一方、国内デベロッパーのパズルゲームは、NHN PlayArtの独壇場といっていいだろう。同社は『LINE:ディズニーツムツム』や『妖怪ウォッチ ぷにぷに』『アイドルマスター ポップリンクス』、そして2021年12月リリースの『ドラゴンクエスト けしケシ!』の開発会社であり、いずれもヒットを記録している。
一見パズル×IPの型で人気を集めているかと思えば、実際はタイトルごとに斬新なゲームシステムを導入し、ビジュアルだけではなくゲーム自体のクオリティも高い。また、消すコマにキャラクター性と育成要素を織り交ぜて、パズルゲームでは珍しいガチャなどのマネタイズを実現しているのが特徴といえる。
パズル&デコレーションの海外、パズル×IP×育成の日本。双方同じパズルゲームではあるが、内容や方向性は異なることが分かった。
今後リリースされるF2Pのパズルゲームについては、このどちらかに該当する可能性が高く、そのときには上記で紹介した既存のヒットタイトルが立ちはだかることは覚えておく必要はあるだろう。もしくは、これらに当てはまらない新たなパズルゲームの型が生まれるのか。