マイクロソフトがActivision Blizzardを約8兆円で買収。AAAタイトルの優先・独占販売、垂直統合の強化が狙いか

 

 Microsoftは2022年1月18日、アメリカのゲーム開発大手であるActivision Blizzardを買収すると発表した。買収額は687億ドル(約7兆8,700万円)で、ゲーム市場では世界最大規模のM&Aだ。買収完了は2023年を予定している。

 Microsoftによれば、今回の買収によって同社はテンセント、SONYグループに次いで、世界第3位のゲーム会社になるという。

 Activision Blizzardは、母体であるActivisionとBlizzard Entertainmentが2008年に合併して設立された、世界最大のゲームソフト開発会社である。

 もともとActivisionは、“ビデオゲームの父”として知られるノーラン・ブッシュネルのアタリ社出身のゲーム開発者らが1979年に興した会社であり、1983年のいわゆるアタリショックを乗り越え、創業当時から優れたゲームを開発してきた。現在は『Call of Duty』(2003年, PlayStation3 , Xbox360, PC)シリーズ、『Overwatch』(2016年, PlayStation4 , PC)シリーズなどで世界的人気を誇り、特にe-sports向けのゲームを得意としている。

 ActivisionはこれまでM&Aを仕掛ける側であった。

 『Call of Duty』シリーズの開発元・Infinity Wardを2003年に買収し、さらにSledgehammer Games、Treyarchを次々に傘下へ取り込んだ。2015年には『Candy Crush』のKingを約59億ドル(当時で約7,120億円)で買収し、モバイルゲームにも進出している。

 企業買収によって事業を拡大し続けてきた同社だけに、今回のMicrosoftによる買収は多くのゲームビジネス関係者を驚かせた。

 Microsoftはこれまでに『Minecraft』の開発元・Mojangを25億ドル(当時で約2,600億円)、『Fall out』シリーズなどのBethesda Softworksを75億ドル(約7,800億円)で買収している。

 近年は有力ディベロッパーの買収が続いており、昨年はSIE(Sony Interactive Entertainment)がFiresprite、Bluepoint Games、VALKYRIE ENTERTAINMENTの少なくとも3社を買収した。

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 そのほか、2021年11月には中国・NetEase Gamesが須田剛一氏の開発スタジオであるグラスホッパー・マニファクチュアを傘下に入れ、さらに直近では今月10日にアメリカのゲーム開発会社Take-Twoが、ソーシャルゲーム大手のZyngaを127億ドル(約1兆4,618億円)で買収することを発表したばかりだ。

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 相次ぐM&Aにはもちろん理由がある。そのひとつが、プラットフォームの越境だ。

 これまでゲーム市場は主にハード性能とジャンルによってセグメントが区切られていた。ところが、この棲み分けは曖昧になってきている。ゲームコンソールの専売特許だったRPGは今やモバイルゲームを主戦場としているし、MMORPGですらモバイル端末で十分に楽しむことができる。『原神』のようにマルチプラットフォームを公式に謳うゲームもある。

 ハードをまたいで自由にゲームを遊べることは、ユーザーとパブリッシャーにとっては朗報かもしれないが、プラットフォーマーにとっては悩みの種だろう。彼らを自社のプラットフォームに繋ぎ止めておく、新たな“鎖”が必要だ。それが独占タイトルとサブスクリプションである。

 サブスクリプションはほとんどのプラットフォームで採用されている。SONYのPlayStation Plus、MicrosoftのXbox Game Pass、任天堂のNintendo Switch Online、モバイル向けにはAppleのApple Arcadeなどがあり、プラットフォーマーにとって、ハード販売と並ぶ主要な収益源となりつつある。そして加入者を増やすには優れた独占コンテンツが欠かせない。

 これまではハード性能や開発ツールの提供といった技術面での囲い込みが主だったが、それが突破されてしまったために、今度は資金面での囲い込みが始まったのだ。

 Microsoftが今回、文字通りケタ違いの買収に踏み切ったのは、資金面から垂直統合を強化し、優れたゲームを独占的に配信することでサブスクリプション加入者を増やすという戦略を描いているのではないだろうか。

 MicrosoftとSIEがディベロッパーを買い占める一方、それを牽制するかたちで大手パブリッシャーも資本の投下を推し進めている。テンセントが各国のディベロッパーに次々と出資しているのはよく知られているが、NetEase Gamesも同様に才能あるクリエイターへの支援は惜しまないようだ。優れたゲームを数多く保有できれば、プラットフォーマーによる支配を退け、あらゆる方面に交渉力を発揮することができる。

 プラットフォーマーは最も有力な支援者であり、最も厄介な支配者にもなりうる。市場のイニシアチブを握るのは、サブスクリプション戦略を採るプラットフォーマーか、コンテンツ勝負のパブリッシャーか。そして、M&Aの余波を日本のゲーム会社はどのように受け止めるのかが、今後の焦点となるだろう。

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神谷 美恵(Mie Kamiya)
神谷 美恵(Mie Kamiya)https://pickups.jp/
大手SIerに就職するも、旧態依然とした組織に落胆して数年で退職。クラウドサービスを展開する企業に転職し、プロジェクトマネジメントとマーケティングのスキルを磨く。2017年に原 孝則と共同で起業。現在は経営工学を学びながら記事の執筆にあたる。

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