2021年5月24日、NCSOFTの新作『トリックスターM』が韓国Google Playのセールスランキングにて、3位を記録した。1位に『リネージュM』、2位に『リネージュ2M』に次ぎ、1位から3位までNCSOFTが占めたのだ。
その後、すぐセールスランキングは落ちて、今では『トリックスターM』は10~20位ぐらいだが、『リネージュM』と『リネージュ2M』は相変わらずトップの順位を記録している。
韓国におけるNCSOFTの実績は、2020年の売り上げは2兆4,162億ウォン(日本円にして約2,263億円)、そのうちモバイルゲームの売り上げは1兆6,784ウォン(1,572億円)だ。
日本市場の1/3と言われる韓国市場の規模を考えると驚異的な実績で、もちろん「リネージュM」シリーズのゲーム性と課金モデルを真似しようとする競合作も相次いでいる。本稿では 韓国で話題になっている「リネージュ型課金モデル」と共にNCSOFTの状況についてお伝えしたい。
無限競争とPKを軸にする「リネージュ型課金モデル」
『リネージュ』は1998年にリリースされたPC向けオンラインゲームだ。PK(Player killing – ほかのプレイヤーに攻撃する行為)とギルドとなる血盟同士の戦いが特に人気で、高価なゲームアイテムのRMT(Real Money Trading – 仮想または現実の通貨を売買する行為)や暴力マフィアの参戦なので、さまざまな社会問題を起こしたゲームでもある。
2017年にリリースした『リネージュM』は、PC版とほぼ同じ2Dのグラフィックスと、PKと血盟戦などの同様のゲーム性でスマホゲームとしてリリースし、韓国で大ヒットを記録した。そして、フル3Dグラフィックスの『リネージュ2M』も同様に成功を収めた。
その成功要因のひとつとして、韓国ゲーム業界では「”リネージュ型課金モデル(通称)”の存在が大きい」と分析している。「リネージュ型課金モデル」とは、“PKと血盟戦によって狩り場(モンスターが登場する場所)の独占が起こり、その利権を狙う集団をターゲットにした課金モデル”のことを指す。いわば、「狩場独占のために強くなりたい(課金する)」という流れだ。
『リネージュM』シリーズでは、高レベル向けの狩り場になるほど、PKが可能なダンジョンになっている。さらに、いろいろなサーバーが同時に接続してPKができるダンジョンも存在する。それらのダンジョンは強い血盟から一番いいところを独占して狩りをするという構造だ。ゆえに、各血盟はより良い狩り場を求めるために、強力な装備品やアイテム獲得などの多額な課金につながるという。
決して特定の商品を売っているわけではないが、安定した狩場を確保するためには、それ相応の強さ(もとい課金額)が求められるわけだ。ゲーム内には、PKによるデメリットとして性向のペナルティ(ステータス減少など)や、任意のプレイヤーを警戒対象に追加するなどの対策方法は存在するが、それでも強い血盟が狩場を独占する構造は変わらない。
前述しているように「リネージュ」ブランドは1998年から始まっているが、「リネージュはすごくお金がかかるゲームだ」という認識は韓国で20年以上続いている。同様に『リネージュM』でも、「リネージュでトップランカー=大金持ちでイケている」というステータスになっている。
『リネージュM』の韓国におけるARPU(Average Revenue Per User、全体のユーザーに対する1人あたりの平均課金額)は40万ウォン(約38,000円)を超えていると言われており、YouTuberの中には『リネージュM』に70億ウォン(約6億5,600万円)以上かけたユーザーも登場するほどだ。

他社でも真似するNCSOFTの戦略
韓国市場のモバイルゲームユーザーは約2,647万人だが、月間アクティブユーザーが100万人を超えるゲームは限られている。特にコアなRPGのアクティブユーザーは10万を超えれば多いと言われるほどだ。世界4位のモバイルゲーム市場の割には極めて少ないユーザー数とも言える。
そこで高収入者や、富豪層にアピールできている『リネージュM』の課金モデルを学ぼうとするゲーム会社も増えている。少ないユーザーでも十分な利益が狙えるからだ。
こうした高ARPU戦略は別に韓国だけ行われているものではない。しかし、PvPシステムによってダンジョンを特定の集団が独占でき、その利権を巡って血盟対血盟、サーバー対サーバーで無限に戦いが繰り広げられるゲーム性とそれを連携した課金誘導は、NCSOFTが得意とする分野だ。
韓国の他のMMORPGはただ真似して終わりではなく、実際に結果も出している。
2021年6月29日にリリースされ、7月2日にGoogle Playセールスランキング1位を獲得した『Odin: Valhalla Rising』や、7月6日を基準に11位を記録している『R2M』などなど、他社の韓国MMORPGたちもNCSOFTの戦略を真似して結果を出している。
ただ実績とは別に、韓国内でユーザーたちの評判は最悪だ。
『リネージュM』は、Google Playのレビューで2.3点を記録しており、同じ課金モデルだと言われている『Odin: Valhalla Rising』も事前予約段階でレビュー点数が3点ぐらいだった。こうしたユーザーの評判は長期的には悪影響が出るだろうと言われている。



海外では通用しない限界も…
ただ「リネージュ型課金モデル」のデメリットも存在する。というのも、今のところ海外で通用したのは台湾だけということだ。
日本でも『リネージュM』は大ヒットには至っていない。『リネージュ2M』は元になっているPC版『リネージュⅡ』が日本でも人気だったこともあり、ある程度の順位(アプリストアのセールスランキング)には入っているものの、NCSOFTが期待した結果ではないだろう。
NCSOFTの売り上げを見ても2020年の2兆4,162億ウォン(約2,263億円) のうち、8割を超える2兆130億ウォン(約1,886億円)が韓国だけの売り上げだ。
海外は北米&ヨーロッパが944億ウォン(約88億円)、日本が548億ウォン(約51億円)、台湾が359億ウォン(約34億円)になっている。台湾でセールスランキング1位を記録したといっても、売り上げの規模はかなり小さい。なお、中国は版号の承認をまだ得ておらず、中国でどうなるかはまだ分からない状況だ。
韓国国内では1~3位をNCSOFT占めるほどの影響力を持っているが、これからさらに成長するためには海外での実績が必要なところだろう。


執筆:Finley
協力:スパイスマート株式会社