2021年8月24日(火)から26日(木)までの3日間、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2021」(CEDEC=セデック:Computer Entertainment Developers Conference 主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会、略称CESA)が開催。昨年に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大を防止する観点から本年もオンラインで開催された。
本稿では、8月25日(水)に開催されたセッション「それ、どれだけ売れるの?」キャラクターIPソシャゲにおけるIP商品力の定量化と取り組み」の模様をレポートしていく。
【講演者】
売上には原作の人気や知名度が影響するのか…
本講演では、キャラクターIPを使用したソーシャルゲームにおけるIP商品(=販売するキャラクター)の商品力を客観的に把握するための、運営上の取り組みについての紹介が行われた。
まずは、実務において発生したIP商品の売上リスクとその予測の難しさについて紹介。この売上リスクにどう対応していくのか、そして発生した課題に対してどのように取り組んでいったのか。
キャラクターIPのソーシャルゲーム(以下、ソシャゲ)を運営するにあたり前提条件として設定したのは、ヒット(売上等)に原作の人気や知名度が大きく影響するということ。
一般的なソシャゲの場合、キャラクターの容姿や動作はもちろん、パラメータやスキル、シナリオやボイスなど、ゲーム内の価値をつけて販売する。
キャラクターIPソシャゲにおいてもこれらは必要な要素だが、それよりも「原作におけるキャラの人気や知名度」が売り上げに大きく影響すると仮定したとのこと。これは、プレイするユーザーの多くが原作のファンであり、その先入観やイメージが強いと考えられるためだ。
上記の事柄を前提としてIP商品の選択をどのように行ったのか。
まずはファンコミュニティや人気投票、キャラクターグッズの販売状況などから、人気や知名度を予測したり、IP知見者から感想を聞くなどのヒアリングを行うこと。ここから、ゲーム独自の商品優先度、売れる順番を設定して、商品を決定したそうだ。
IP商品の選択ができたため、次は売上の予測に移行。これは、商品優先度と過去の売上実績を元にして予測し、各月の売上目標に合わせて商品を設定した。
これらの予測から実際にIP商品を販売したところ、予測に対して上がり過ぎ、もしくは下がり過ぎといった、ばらつきの幅がある結果が算出されてしまった。
売上予測は計画通りにすることがベストのため、ばらつきがあると計画通りに着地できないケースも考えられ、売上リスクがあることが判明し、この売上リスクを低減することが課題になっていったそうだ。
これまでIP商品の選択には「人気や知名度」といったデータを使っていたが、そのまま売上に直結せず、これだけでは売上予測には不十分だったという。では、人気や知名度以外で売上を作る力とは果たして何なのか、これを把握するために今回の取り組みが始まったそうだ。
個人レベルの売上からIP商品力を考えるために
売上を作る力に求められる要件とはどういうものなのか。
そのひとつ目は、IP商品の売上を作る力である「IP商品力」を把握したうえで算出される、わかりやすい定量的指数であること。
ふたつ目は、IP商品の人気や知名度だけでは測れなかった売上を反映する指数であり、簡単に売上予測や検証に使えるものであること。これらを要点として、売り上げから逆算して各IP商品の売上を作る力を推定し、指数を作っていったそうだ。
指数作成はIP商品力の定量化を考える前に、商品ごとの売上データがどういう構成になっているかを把握するところから始まる。
商品ごとの売上は、その時々のある集団から発生するものであるが、集団は個人の集まり。つまり、商品の売上が発生するプロセスには個人レベルの様々な違いが含まれ、それが個人の支払額として商品の売上に反映されている。
さらに、商品販売のタイミングの違いによって、集団の個人と人数は変化することも考慮する必要があるとのこと。
このふたつの構造をまとめると、売上データからIP商品力を推定するには、個人レベルの売上データを考える必要があるという結論に至ったそうだ。
個人レベルの売上からIP商品力を考えるためには、IP商品力以外での要素で、個人の売上データに影響があるものを考える必要がある。
ここで解決しなければならないふたつの課題が生まれた。それが「①個人の売上データの観測メカニズム上の問題」と「②個人の売上に影響する他の要因の存在」だ。
まずは「①個人の売上データの観測メカニズム上の問題」。個人の売上額は、商品を入手して得られる利得が、商品を入手する際に支払っても良いと想定されるコストを上回ったときにのみ観測される。このメカニズムを無視して各商品のIP商品力を考えると、バイアスがかかってしまう。
しかし、実際の支払い額が0円より上かどうか、0円と結果が出ているが果たして本当にそれは0円の支払いなのか、という疑問が発生する。この問題を考慮するために、ある商品に対しての個人の売上数値が、0なのかそれ以上なのかという部分を説明できる必要があるという。
続いては「②個人の売上に影響する他の要因の存在」。個人の売上に影響する要因を分解して考えると、IP商品力に加えてそれに影響のある「販売たてつけ」や「ユーザー購買力」なども考慮する必要がある。
販売たてつけとは、販売方法と販売タイミングなどの仕組みの違いのこと。ソシャゲでは、とりわけIP商品力の強い商品を販売する機会・いわゆるフェスと呼ばれるものと、その合間に販売するものがある。この販売の仕組みの違いを考慮する必要があるとのこと。
ユーザー購買力、つまり個人の購買意欲は、時間的な違いや人の質的差(お財布の差)などによって異なる。これらは常に変化するため、考慮する要因のひとつであるとしている。
しかし、購買力がユーザーのひとりひとり明確に定量化されているわけではなく、あくまで抽象的な概念だ。そこでRFM(購買データや分析の手法のこと。R=最近いつ買ったか、F=何回買ったか、M=いくら買ったか)のように、見える購買のデータから、「購買しやすさ」と「購買額のパラメータ」を作って代用する。
商品選定による売上リスクを減らすことに
ここまでにより、個人の売上からIP商品力を考えるにあたってデータに存在していた「①個人の売上データの観測メカニズム上の問題」と「②個人の売上に影響する他の要因の存在」を算出したため、ここでそれらの影響を画像上のようにモデル化する。
このモデルを想定して統計的な処理を行うことで、IP商品力を推定していくそうだ。このことを「タイプ2Tobitモデル」と呼ばれているとのこと。
ここで、推定したIP商品力指数の推定結果が実際に使えるものなのかを評価する方法の解説に。評価の仕方は主に2種類に分かれている。
ひとつ目は「推定したIP商品力で、元にした数値を統計的に予測できるか」という部分で評価する。算出したIP商品力指数で、売上予測がまったくできないようであれば、最初に定めた要件を満たすことができないとのこと。
ふたつ目は「人間が利用することを考えて、IP商品力指数が人間の感覚とあっているか」で評価する。人間が新しい商品の指数をある程度予測できなければ、IP商品力指数を吊っても意味がなくなってしまうそうだ。
ここからはIP商品力指数を使った、実際の運営上の利用と利点に話題が移る。
算出されたIP商品力指数は、売上予測やラインナップの組み立てに活用しているそうで、従来の予測方法では不足していた部分を今回の予測で補ったり、チェックに使用して売上予測の信頼性を上げることに繋がっているという。また、チーム内でIP商品力を予測しあうなど、数値の意識が向上するといった副次的な効果もあったようだ。
また、従来の予測方法では人間的な感覚で予測を補正することが多く、精度としては不十分だったのが、IP商品力指数を活用したことで計画・予測が容易になったそうで、商品の売上予測と結果で50%以上あったばらつきを7割も削減でき、売上リスクの低減へつながったと説明した。
まとめとして、IP商品の売上リスクにはIP商品毎に売り上げを作る力を定量的に表すことで対応。売上データ・RFMデータと統計的手法を用いて定量指数化し、売上の予測妥当性と利用性で指数を評価することで、IP商品力の定量指数化の課題を解決。振り返りや計画にIP商品力指数を用いることで、商品選定による売上リスクを減らすことに役立てられたとした。