2021年8月24日(火)から26日(木)までの3日間、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2021」(CEDEC=セデック:Computer Entertainment Developers Conference 主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会、略称CESA)が開催。昨年に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大を防止する観点から本年もオンラインで開催された。
本稿では、8月25日(水)に開催されたセッション「銃器と装備、戦術戦技を専門家の視点から解説」の模様をレポートしていく。
【講演者】
作品にリアリティを生み出すために必要なこと
本講演では、元警察 RATSの田村氏の視点から見る、”ゲームにリアリティを持たせるにはどうすればいいか”という観点から、銃器の取り扱いや装備・戦術などについての解説が行われた。なお、公演中は、元陸上自衛隊 特殊作戦群の長田健治氏、元陸上自衛隊 SBU&PSCのRYU氏が、サポートとして登壇している。
まず紹介されたのが、銃の簡単な歴史。銃は850年の中国において、煉丹術の副産物として火薬が発見され、紙・印刷・羅針盤に並ぶ中国の四大文明のひとつに数えられる。火薬の発見から、中国からモンゴルを通してヨーロッパに伝えられたという。
その後、15~19世紀の間に銃の発射機構が発達し、18世紀の中ごろから19世紀前半にかけてカートリッジ(薬莢)の開発・発展があり、今も使われている銃の原型ができたと言われているそうだ。
状況に合わせた装備品の選定
ここからは「個人装備品の選定」についての解説に入る。ここで大事なのが「シーンに合わせた装備品」ということで、どういったタイミングの装備なのかを考慮しないと、シーンがおかしく見えてしまうそうだ。
単独行動の場合は、目的に合ったものかつ自分に合っているものを使用するのだが、部隊行動の場合は目的にあったものに加えて、部隊に迷惑にならない使いやすいものを選ぶのだという。
たとえば、音を出したくない隠密作戦のような場合、音がする装備を付けていたりすると、自分だけが強い状態を保てていたとしても、部隊に迷惑をかけてしまう。こういったものはプロは決して使わないとのこと。
続いて解説するのが「活動場所の状況」について。温度の高低や、水に濡れるのか、汚れるのか、音が出せるのかといった、状況や任務に合わせて装備を変えていくことが、リアリティを出すために必要だという。
たとえば、イラクなどの暑い環境での装備の場合、素材によっては装備が溶けて、使い物にならなくなってしまうという。そのため、環境に耐えられるような素材の装備でなくてはいけない。このように、環境に適した装備を設定しないと、おかしく見えてしまう。
また、任務時間も装備品の選定に大事な要素。たとえば、自衛隊の長期任務にはバックパックが装備されるが、警察の短期任務では装備されない。短期任務で音を出したくない場合は、拳銃一丁を腰につけるだけという場合もあるそうだ。
リアル感を出すために必要な「銃口の管理」
次に、専門的な動きについての解説に移る。まず大事になるのが「マズルコントロール」という銃口を管理する技術のことだが、ここがおかしいとカッコ悪く見えてしまうという。しかし、ほとんどの映像作品では、これができているものの方が少ないそうだ。
マズルコントロールには大きく分けて、①ローレディー②コンバットレディー③シューティングレディー④ハイレディー⑤タイトレディーの5つに分かれており、状況に合わせて使い分けると、かっこよく見えるようになるとのこと。
拳銃での構え方もここで紹介。
体を斜めにして構える「ウィーバースタンス」がドラマや映画などで常に使用されているが、これは物陰に隠れながら撃てるのが利点で、移動しにくく脇腹を撃たれてしまうという弱点があり、常に使用するものではない。そのため、開けた場所で拳銃を撃つ際は、真正面に構えて、もし撃たれてもボディアーマーで受けられる「アイソセレススタンス」が有効だと解説した。
ちなみに、映画「ジョン・ウィック」の主人公のような構えは「CARシステム」といい、短く構える形が有名だが、カーシステムの中にもいろいろなものが混ざっているという。ぱっと狙いやすかったり、短く持つため銃を取られにくいという利点はあるが、部隊行動にはあまり向かない構えであるとも説明した。
続いて解説されたのが、銃口を意識する「マズルコンシャス」について。これは、レベルによって意識するものが変わっていくという。
上級になると敵を倒すことが安全管理になり、味方を撃たない意識を優先しすぎると敵にやられてしまうので、場合によっては味方や人質に銃口を向ける場合もあるそうだ。しかし、これは初級・中級がしっかりできていることを前提として行われると語った。
また特級と記載されているのは、とある国の特殊部隊で採用されているもので、前述したハイレディーやローレディーの際に生まれるスキを無くすため、普通に味方に銃口を向けているところもあるという。とはいえ、安全管理は指だけになるので、田村氏はいくら自分が上達しても、採用しようとは思わないそうだ。
ここで、「マインドセット」の解説に移る。マインドセットは、部隊の周囲に対する状態のようなもので、主に4つにわかれている。
もしグリーンの状態から急に戦闘態勢に入る場合は、1秒ほどの時間がかかる。この1秒は生死に関わるので、何かおかしいとなった際は、すぐにイエローの状態にしておくとのこと。
作品作りの際は、ブリーフィングの際のみグリーンの状態を作り出したほうが良いそうだ。現場に行ってからグリーンになるのは絶対にありえず、普通に喋る、タバコを吸うといった行動は本来の現場では一切しなくなる。ストーリー上どうしてもやらなければいけない場合は別だが、プロは絶対にしないことを念頭におくといいと語った。
突入時に必要な要素と、仲間との意思疎通
ここからは、部隊戦術についての解説に移る。
最初の話題は突入(ダイナミックエントリー)について。人間の反応速度、たとえば、トリガーに指をかけている状態で敵を発見してからトリガーを引く時間は、概ね0.3秒だという。
つまり、多くの映像作品やゲームで行われている、突入してから次々と敵をなぎ倒していくようなダイナミックエントリーは、本来はできないそうだ。しかし、現実でもダイナミックエントリーのような戦術を実行している事例は、たくさんあるとのこと。
実際のダイナミックエントリーに必要とされているのは、S=スピード、A=アグレッシブ、S=サプライズ、このSASの3つ。この要件がしっかりと整っている場合のみ、ダイナミックエントリーが成功するそうだ。
スピードは、ダイナミックエントリーは急襲なので、相手がびっくりしている間に反撃する暇を与えてはいけないため、特に必要になる。
アグレッシブはどう猛さ、相手を威圧し何も行動を起こさせずに終わらせることを指す。
サプライズは、相手に気づかれないようにする重要さ。気づかれている状態でダイナミックエントリーを行っても、待ち伏せされてしまうためだ。
では、どのようにしてダイナミックエントリーを成功させるのかというと、サプライズを自分たちで作り出す「デストラクション」が重要だという。これには、DDと呼ばれるデストラクションデバイス(強力な光を放つ閃光手りゅう弾など)を使用するのだが、閃光手りゅう弾を使用すると気絶するだとか、5~6秒動きが止まるという話は、現実ではないと語った。
現役時代、実際に閃光手りゅう弾を喰らった時の田村氏の感覚では、普通の家屋に投げ込んだ場合、止まるのは精々1~2秒ほどだそうだ。
しかし、この1~2秒がかなり大きいそうだ。人は認知→決断→行動というようなプロセスで動くため、待ち伏せて撃ってやると待ち構えている(決断している)敵は、入ってきた隊員を前述した0.3秒で撃つ(行動する)ことができる。この状態を、デストラクションデバイスなどを使用して認知の状態まで戻せれば、わずかなスキを作り出せるという。
ただ、デストラクションデバイスが無い状態でダイナミックエントリーを行わなければならない場合もある。その際もやり方はたくさんあるのだが、そのひとつに「相手に話しかける」があるという。
待ち構えている敵に対して「要求を言って見ろ」とか、逃走車両を用意しろと返答された場合は「どこのメーカーのどの車種とか、要望があったら教えてください」という感じで、ネゴシエーターのように聞くそうだ。そうすると、相手は考える(認知)ところまで戻されて、スキが生まれる。そこを突いて、返答しようとした一言目で突入するといったものを、実際に行うと語った。
次に解説されたのが、部隊間での意思疎通の方法。これには声を出す、ハンドサイン、無線やプレストークなど、様々な方法がある。
ハンドサインの解説では、一例として田村氏が実際に使用していたものを披露した。ハンドサインは部隊によって決めればいいため、どのような形でも大丈夫とのこと。
しかし、相手がすぐそこまで接近している状況などでは、ハンドサインは使用しないという。そこで行うのが無線を決まった感覚で叩くプレストーク。遠くにいる部隊に対してこれをうまく成功させるためには条件があり、プレストークを行う部隊、それを受け取る部隊のほかに、プレストークを受け取って言語化し届ける3つ目の部隊が必要になるそうだ。
ほかにも、ケミカルライトやフラッシュライトを使用するといったものが意思疎通の手段になるが、本当に近い距離であれば、言葉やサインを使用しなくても意思疎通ができるのだという。
たとえば、一緒に行動していた前の味方が、ドアなどを前にして止まったとき。これは銃を向けておかないと敵が出てくるかもしれないため、そこに標準を定めるガンロックというものを行っているのだが、この時にガンロックすることを声に出して味方に教えてしまったら、敵にも聞こえてしまう。そのため、ガンロックしたことを察知してカバーする。
ほかにも、前の味方が座った場合。それはダブルガンというふたりで敵を狙う体制になりたいという意味なので、味方の後ろについて構える。このように、まったく喋らなくても意思疎通は行えるのだそうだ。
さまざまな状況に対応した戦技
ここからは、CQC、CQB、MOUTといった、実際の戦闘で用いられる戦技についての解説に移る。
まずCQC(近接格闘)について。これは、法執行機関やミリタリー(日本で言う自衛隊)などが使用する、合理性のみを求めた格闘技術のこと。特徴として、離脱・拘束・武器の取り上げ・相手の殺害などがメインであり、ルールや武器の制限がない部分だそうだ。多くの場合は、自分が銃やナイフを持っている状態での格闘になるので、素手対素手の技術とは少し異なるという。
次にCQB(近接戦闘)について。これは、狭い場所や家屋などで行われる近距離戦闘のことで、基本的に狭い場所で行われるため、敵の位置を把握しやすいという特徴がある。
また、プロと素人の差が埋まりやすいという点もあり、離れた場所でプロと素人で撃ち合った場合はプロの方が勝つ可能性が高いが、近い場所ではどちらの弾も当たるため、細かな動きを洗練していかないと、プロでも勝つことができないという。
続いてMOUT(市街地戦闘)。街中での戦闘のことを指し、CQBに比べて場所が広くなるため、敵の位置や危険個所がわかりにくいという特徴がある。また銃器だけで戦う際は、10~20人の部隊で行っても、危険個所を抑えきれないため、待ち構えている方が圧倒的に有利な場合が多いという。映画などでは、ダイヤモンドという体系を組んで進んでいく場面があるが、あのような動きはまずできないと語った。
リアルな作品を作るために抑えておくべき要点
最後に、ここがしっかりしていると映像の質が上がるという部分の解説で、「危険個所と部隊員の数でスピードを変える」ことが大事だという。
たとえば、部隊員が5人いる場合、攻撃が来そうな箇所を5カ所まで抑えられる。このように、危険個所を抑えきれる状況の場合は、水が流れるようなスムーズな行動を取らせると良いという。しかし、攻撃が来そうな箇所が5カ所以上ある場合は、隠密またはできる限り素早い行動をさせると良いという。
この2点を踏まえたうえで、前述したマズルコントロールやマズルコンシャスを徹底すると、作品のリアル感が高まると語った。