サービス終了危機からユーザー数15倍のV字回復及び優秀賞受賞するまで。『メギド72』で何が起こっていたのか【CEDEC2021】

 2021年8月24日(火)から26日(木)までの3日間、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2021」(CEDEC=セデック:Computer  Entertainment Developers Conference 主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会、略称CESA)が開催。昨年に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大を防止する観点から本年もオンラインで開催された。

 本稿では、8月26日(木)に開催されたセッション「「メギド72」の事例でお伝えする「こだわり」によってユーザーを熱狂させるスマホゲーム運営手法のエッセンス」の模様をレポートしていく。

【講演者】

早川 真央
株式会社 ディー・エヌ・エー ゲーム事業本部 マーケティング統括部 エンターテインメントサイエンス部 メカニクスデザイングループ グループリーダー。2014年4月にDeNAに入社し、複数のモバイルゲーム運営を経た後『メギド72』の開発/運営を担当。現在は新規タイトルの開発も行いつつ、メタゲーム/レベルデザインの分析/設計を担当するメカニクスデザイングループのグループリーダーを兼任している。
魏 健人
株式会社ディー・エヌ・エー マーケティング統括部 マーケティングプロデュース部 副部長。2019年4月にDeNAに入社し、『メギド72』のマーケティング(特に外部コンテンツ展開)を担当。引き続き『メギド72』を担当しつつ、新規タイトルにおけるマーケティング戦略の企画・立案、マーケティングプロデュース部の組織運営も行なっている。

 

 

 

なぜ『メギド72』の初速は失敗してしまったのか

 本講演では、「スマホRPGの最高傑作」との声もある『メギド72』の、独自のゲームデザインやプロモーションを掘り下げ、ユーザーを熱狂させる運営手法を紐解いていく内容になっている。

 『メギド72』は、リリース当初は一時低迷したものの、大改修を機にV字回復を果たした。また、2019年のゲーム大賞で優秀賞を受賞したタイミングや、2011年のハーフアニバサリーにおけるプロモーション施策で、大きくアクティブユーザーを増やすことに成功している。

 『メギド72』を支えるゲームデザインとプロモーションに共通するファクターが「こだわり」であるとし、ゲームデザインについてのこだわりを早川氏が、プロモーションについてのこだわりを魏氏が発表していった。

 今でこそ順調に運営を続けている『メギド72』だが、リリース当時はアクティブユーザーがゆっくりと減少し続け、一時はサービス終了を危惧する声もあがるほど低迷していた。

 ここで、DeNAはチュートリアルの改修や、初期のゲームサイクルの改善を実施し、ゲームを始めたばかりのユーザーが離れにくい環境作りに着手する。

 このタイミング運用方針も大幅な改善を試みており、アクティブユーザーの数は一気に上がり始める。下がりきった頃と比べて、アクティブユーザー数がおよそ15倍になるほどのV字回復を見せた。

 早川氏によるゲームデザインに関する講演は、このV字回復を生み出した運用方針の改善について詳しく語っている。

 そもそも『メギド72』の初速が失敗した理由は、各施策のこだわりがゲームサイクルとして機能しないことにあったと早川氏は振り返っている。

 ここで言う『メギド72』のこだわりは、キャラクターにレアリティ差分がないという点と、キャラクターに3Dモデルを使用しつつ全員に固有のモーションやエフェクトを実装しているという2点だ。特に後者のこだわりに関しては、非常に手間がかかるということが、ゲーム業界に携わる人間ならば共感できるだろう。

 しかし、一度は掲げたこだわりを取り下げるという選択肢はなく、『メギド72』開発チームはこのこだわりを貫き通すため、プロダクトとの向き合い方を変えていく。

 まずは、勢いや経験則に頼るのではなく、緻密な分析を実施するようになる。これはエンターテインメントサイエンス部という部門が担当し、組織を横断する分析専門の組織として活動している。

 そして、得られた分析結果を基にしたゲームデザインを設計できる人材をアサインし始めた。分析で得たデータはあくまでツールであり、それをゲームデザインに落とし込むためには専門家が必要になる。分析結果とゲームデザインの両立と人材育成については、メカニクスデザイングループというチームを割り当てたそうだ。

 そもそも、ここまでしてキャラクターのレアリティを無くしたり、グラフィックにまで凝ったのは、キャラクターを平等に扱いたいというこだわりが基になっている。

 しかし、レアリティを排除したゲームシステムだと、パラメーターによる強弱が作れない。さらに、キャラクターを平等に扱うということは、今いるキャラクターとこれから登場するキャラクターに差異を付けられず、時系列に沿ってインフレしていく手法も取れない。

 そのため、『メギド72』では、パラメーターに依存することなく、バトルでの魅力を持たせないことにはキャラクターの需要を作れないという答えに至った。

 そして、それらは属性やすくみ関係のような、既存のゲームにあふれている仕様ではなく、新しいバリエーションにする必要があった。

 そのために生まれたシステムこそが、『メギド72』独自のアーキタイプバリエーションである「タクティカルソート」だ。『メギド72』に登場するキャラクターには、このタクティカルソートが設定されているものがいて、それぞれが全くことなるバトルスタイルになっている。

 属性やすくみ関係とは違い、遊び方そのものが変わるため、ユーザーはより良い体験を得られる。ユーザーが理解できる範囲という制限はあるが、バリエーションを随時増やしていけるため、将来的な広がりも持たせられる。

 開発チームは、このタクティカルソートを運用するうえで、タクティカルソートが正常に機能するかどうかを測るためのマッピングを用意した。

 縦軸が戦術の難易度を表し、横軸がダメージ量を表すマップで、各戦術が想定通りに機能しているかどうかをチェックする。

 左上は、弱くて難易度が高い戦術ということになり、ユーザーから忌避されやすい。右下は簡単にダメージが出せる戦術として人気は出るが、ゲームバランスを著しく損なってしまうものになるため、まずはこの範囲内に入らないようにすることが大前提となる。

 例に挙げたマッピングでは、戦術EとFは難易度が高い割に戦術CやDと同等かそれ以下のダメージしか出せなくなっている。であれば、戦術EとFのダメージ量を上げることで、全体のバランスを取らなくてはいけないことがわかる。このように、調整を加えるべき戦術と、その方向性を割り出している。

 しかし、最適な調整をすればそれで終わりというわけではない。あくまでもユーザーにそのキャラクターを欲しいと思ってもらえなければ、結果にはつながらない。

 ユーザーの購買欲求を刺激するには、「このキャラクターを組み合わせると面白そう」、「この性能のキャラクターがこの先必要になるかも」といった、環境にマッチする”タイムリー”なキャラクターでなくてはならない。

 それはわかっていても、実際に開発を進めていくにあたり、制作期間が長期化してしまい、設計時とリリース時で環境やユーザーのニーズが変化してしまっていることがある。

 これを避けるためには、設計段階から精度の高い設定をしておく必要がある。精度の高い設定を実現するために必要になるものとして、早川氏は多種多様な分析を挙げた。

 具体的な分析内容として列挙したのは、前述したアーキタイプマッピングの他にも、ステージクリア時のデッキ分析や、PvPにおける対戦内容の分析といった、メタ環境を把握るためのものと、ユーザーがどの程度の資産を保持し、デッキが更新れているかといった、ユーザーの状態を把握するための分析の2種類だった。

 これらの分析結果から将来を予測していき、精度の高いゲームデザインを実現することで、こだわりを落とし込めるゲームデザインが可能になると早川氏は語り、これで早川氏による前半のセッションは終了した。

 以降は、魏氏による『メギド72』らしいマーケティング施策を紹介し、ケーススタディとする内容のセッションとなる。このセッション内では、特に効果が大きかったという2019年のゲーム大賞優秀賞受賞時の施策と、3回目のハーフアニバーサリー施策として打ち出した”メギドミー賞”について話している。

 

舞い込んだチャンスは迷わず使い倒す

 『メギド72』は、2019年にCESA開催のゲーム大賞で優秀賞を受賞した。この頃の『メギド72』は、アクティブユーザーの数は維持しながら、ゴールデンウィーク施策やアニバーサリー施策で一時的にアクティブユーザーを増やすことにも成功しているが、最大数があまり変わらず、伸び悩む時期が続いていた。

 もうひとつ上のステージを目指したいと考えていた運営陣のもとに舞い込んだニュースが、このゲーム大賞優秀賞(受賞)の知らせだった。スマホゲームでは唯一の受賞という付加価値もあり、これは非常に効果のある宣伝文句であると魏氏は考えた。

 しかし、これを使わない手はないと思い、施策の実施を提案したところ、社内からはあがってきたのはネガティブな意見だった。

 「ゲーム大賞を知らない人も多いのでは?」、「訴求がニッチすぎないか?」、「他の受賞タイトルは施策をしていないのでは?」というネガティブな意見に対し、当時のプロデューサーはこのチャンスは2度とこないものであり、他がやっていないのなら『メギド72』らしい事例として創出してしまえばいいと奮起し、この施策のゴーサインを出す。

 こうした経緯を経て、『メギド72』によるゲーム大賞優秀賞受賞の事実をとことん使い倒すという施策が生まれた。

 ゲーム大賞は毎年選出されるものであり、その期限は1年間となる。1年間しか使えないこの施策を新規のユーザーにも届けるため、ありとあらゆるメディアを使い、しつこすぎるほどにこのアイコン画像を見せつけていった。これにはこの施策を打ち出した本人ですら「ちょっとやりぎだったかもしれない」とこぼしていた。

 この施策において意識したのは既存ユーザーへの感謝で、リリース当初からの苦しい時期を支えてくれたユーザーに感謝を伝えるため、応援するゲームが大きくなったことを伝えて一緒に喜べるような、お祝いムードを伝えることを重視した。

 デジタル広告で訴求結果を分析しながらブラッシュアップを重ねていくうちに、この訴求は有効であることが実証された。その分析結果をもって、『メギド72』は年末年始もこの施策を中心にプロモーションを行なった。

 結果的に、アクティブユーザーは大きく増え、ついに停滞を続けていた状況を脱却。CVR、CPIともに目に見えて改善された。

 こうした、限られたタイミングしか実施できないような施策は、運営を続けていくなかで必ず出てくる。それをリアルタイムに取り入れる方法を考えることはとても重要であると魏氏はまとめた。

 

クオリティを追求したマーケ施策でユーザーの心を動かす

 次に、魏氏は”メギドミー賞”に話題を移す。これは、3回目のハーフアニバーサリーで実施された施策で、年末年始以降にじりじりとアクティブユーザーが減る傾向への対策として、ハーフアニバサリーのタイミングで年末年始並みに盛り上げることを目標にしている。

 実在する式典を模した、豪華で格式ある式典を追求した企画で、2ヶ月半という長期間にかけてユーザー参加型の投票コンテンツを展開した。

 投票を1次2次と分けたり、部門をたくさん用意したりと時間も手間もかかるこの形を採用した理由も、『メギド72』らしいキャラクターへのこだわりによるものだった。

 通常の人気投票のような形にしてしまうと、キャラクターに優劣を付けるような形になってしまいがちで、すべてのキャラクターにファンがいて、それぞれ持っている理由や観点が反映されなくなってしまう。

 それを解決する手法として生まれたコンセプトは、プレイヤー全員が投票するだけでなく、審査員となって受賞キャラクターを決めるという形式だった。

 この施策を実施するにあたって、PVや生放送といった動画コンテンツに最も力を入れることで、プロモーション全体がハイクオリティであるというイメージをしっかりとプレイヤーに伝えている。

 この施策の締めくくりとも言える、授賞式の生放送は、専用の3Dステージから作り、プレゼンターのキャラクターをモーションキャプチャーで動かし、フルボイスで作った映像を流していた。

 これだけの手間を割いただけあって、ニコニコ生放送の投票機能で、「すごく良かった」の評価が99.6%を占め、ユーザーから高い満足度を得られた。”メギドミー賞”の大成功をきっかけに、アクティブユーザーは爆発的に増えた。

 “メギドミー賞”の施策を通して、魏氏は施策全体に何かしらの軸があることが大事であり、こだわりを掲げ続けることで、ユーザーの心を動かすことができ、ユーザーたちが熱量を持って付いてきてくれるようになることがわかったと言う。

 そのことから、マーケティングにも開発領域と同等のこだわりが必要であると述べた。

 最後に全体のまとめとして、『メギド72』らしいこだわりを反映できるゲームデザインを貫いたことで、ヒットタイトルを生み出すことに成功し、施策にもこだわりを盛り込み、アウトプットのクオリティを磨き上げることで、想定以上の効果を得られることがあるとまとめた。

 

 なお、弊誌では過去に前プロデューサーにあたる宮前公彦氏にインタビューを実施している。ここでは、宮前氏のキャリアと共に『メイド72』の開発秘話なども語られているので、合わせてご覧いただければ幸いだ。

【関連記事】
難しさを楽しませる「勝算」 メギド72 プロデューサー・宮前公彦

 

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有馬 史也(Fumiya Arima)
有馬 史也(Fumiya Arima)
ライター。ゲーム、アニメに関連した書籍やWEBメディアで、取材から記事執筆までを担当。2011年からフリーランスとして活動を継続し、主にインタビューやレビュー記事を制作。

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