コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、ゲームイベント「東京ゲームショウ2021 オンライン(TGS2021 ONLINE)」を9月30日~10月3日の期間で開催中。
本稿では、9月30日(木)に行われた基調講演 「それでも、僕らにはゲームがある。」の内容をレポートする。この番組ではゲームの世界に起こっている大変革について、国内3社のゲームクリエイターが語った。モデレーターは、KADOKAWA Game Linkageファミ通グループ代表の林克彦氏が務めた。
【登壇者】
現実の再現を越えた“想像できないゲーム体験”へ
ひとつ目のテーマは、“デジタル革命に伴う「体験装置」としてのゲームの進化”。
登壇した佐藤盛正氏は、『バイオハザード7 レジデントイービル』ではメインシナリオのほか、ゲーム/レベルデザイン全般に関わり、『バイオハザード ヴィレッジ』ではディレクターも兼任した人物。「バイオハザード」シリーズといえば今年25周年を迎えた、歴史あるサバイバルホラーの金字塔だ(奇しくもTGSも同じく25周年を迎えたタイミングとなる)。
シリーズ25年の積み重ねの中で、最新作では光の屈折や反射などを演算する「レイ・トレーシング」や、360度どこからでも音の来る方向がわかる「3Dオーディオ」が採用されるなど、その技術・手法は多様に進化してきている。以前の作品と比べると、表現力は段違いに跳ね上がっていると言える。
そんな中、佐藤氏は自身が手掛ける『バイオ7』、『バイオ8』の中でフォーカスを当ててきたのは「いかにリアルで生々しい、インパクトのある体験を提供できるか」という部分。恐怖や嫌悪感、痛みなどをプレイヤーが自分自身で味わっているように感じられることを目指したという。
そして、近年のゲームにおけるビジュアルやサウンドの進化は、リアルと見分けがつかないレベルまで段々と到達してきた実感がある、と佐藤氏は評価。VRなどのデバイス的な進歩も含めて、現実の再現という意味ではゴールが見え始めてきているのが現況だ。
リアルな表現がゴールに向かう一方、ゲームとはそもそも双方向的でインタラクティブな特性を持つもの。佐藤氏は、プレイヤー自身が関わる“遊び”としての部分にはまだ進化の余地があると見解を示した。「見る・聞く」という受動的な体験だけでなく、能動的に動くゲームならではのプレイ体験に、さらなる可能性を見出しているという。
そう考える背景には、「リアルの追求にとどまらず、全く想像のできない体験を実現したい」という想いがあるようだ。現実の再現それ自体は素晴らしい目標だが、“現実そのもの”は実際にリアルを生きる自分たちにとっては、想像ができてしまうものとなる。
佐藤氏は「妄想の混じる贅沢な話」と前置きしつつも、想像の範疇にない体験を期待していると語り、人間の感覚や知覚をゲーム上で拡張できないかと考えているそうだ。
例えば、犬の嗅覚は人に比べて数千倍から1億倍優れていると言われ、そうなると人間とは違う世界が広がっていると考えられる。そこで、ゲームのインタラクティブな機能を遣えば、それを疑似的に体験することができるのではないか。
他の例で言えば、音が視覚的に感じられるなど、複数の感覚を同時に知覚できる“共感覚”(一部の人が持っていると言われる)を、ゲームを通じて再現できるのではないか。といった具合だ。
現在、上記の体験を実現する術は明確でないとしつつも、「今の我々にとっての常識を覆す力がゲームにはあるのではないか」と佐藤氏。なによりも、そういった可能性をビジョンとして持っているかどうかがこれからの技術の進化には重要だと語った。
ゲームコミュニケーションは開発段階から始まっている
続いて、“デジタル革命で拡張する、ゲームコミュニケーションの未来”をテーマに、「鉄拳」シリーズなどを手掛ける原田勝弘氏が登壇。ここで言うゲームコミュニケーションとは、開発者とユーザーの間で生まれるコミュニケーションを指す。
かつてメーカーとユーザーのやり取りといえば、家庭用ゲームに関しては電話やはがき、FAXなどの手段に限られ、開発者に対して一方向でしか伝達する方法がなかった。
アーケードゲームにはロケテストがあるため、生の声を拾う機会があったものの、地方など全域をカバーすることが難しかったのは想像に難くない。
言うに及ばずだが、インターネットが普及した現在では、ゲームのログによる定量的な裏付けと、ネットでのユーザーの直接的な声がキャッチアップできるようになり、ユーザーのアイデアがゲームを大きく変化させることも少なくなくなった。
では以上の流れの中で開発者は、ユーザーとのコミュニケーションをどれだけ重要視しているのだろうか。
原田氏は、開発段階から信頼を得ることが重要な時代になってきている、と見解を示す。クローズドベータテスト(CBT)が開催できる時代になり、開発者とプレイヤーの間でコミュニケーションが密になることで、そこで得られる声はゲームの改善に大きな影響を与えると共に、コアなファンのコミュニティに対して、アピールする場にもなるという。
ゲームのジャンルによって考え方は変わるが、特にプレイヤー同士が協力・対戦する形式のゲーム(原田氏の「鉄拳」シリーズはまさにそれにあたる)については、そもそもプレイヤーコミュニティがゲームを快適に遊べる環境になっているか、また非プレイヤーにおすすめしやすい仕組みになっているかが重要となる。
CBTの段階でプレイヤーに対して期待感を与えることができれば、コアなファン同士が盛り上がり、プレイしていない人に対しても「このゲームは絶対に買いだ!」という熱が波及するようになる。結果、発売を待たずにコミュニティが形成され、好発進を狙える環境が出来上がるというわけだ。
また、「定量的なデータは、定性的なものと組み合わせて拾い上げなければ意味を持たないと実感している」と原田氏は語る。プレイログなどのデータだけでは、なぜその行動を取ったのかという、裏側にある感情まではわからない。そのため、ゲーム実況やSNSでの感想もキャッチアップすることが必要になるようだ。
原田氏といえば、TwitterやYoutubeチャンネルなどで積極的に発信している印象があるが、以前は顔出しもNGで、取材を拒否していたこともあるという。
しかし、海外の開発者が開発費などの情報を開示し、意見が言える環境を用意するなど、コアなファンとの信頼関係を築く事例を多数目の当たりにしたことで考えが変化。マスメディア向けの広告で流行を作るだけではなく、「この開発チームだから買おう」という状況を作り出すことが重要だと感じたことで、現在のように発信力を高め、ファンとの交流を深めているそうだ。
娯楽が溢れ、可処分時間の奪い合いになっている現代だからこそ、ファンと直接的なコミュニケーションを取ることの重要性は高まっていると言えるだろう。
サッカーゲームは“メタバース”を目指す
最後のテーマは“デジタル革命で変化する、ゲームエクスペリエンスの未来”となる。登壇したのは、大胆なリブランディングをはかる「eFootball」シリーズのプロデューサー・木村征太郎氏。
講演が行われた9月30日は、マルチプラットフォームで提供される『eFootball 2022』リリースのタイミング。日本では1995年に誕生して以来、「ウイイレ」の略称で親しまれた「ウイニングイレブン」シリーズを改称し、「eFootball」として再スタートする。
改称の経緯となったのは、PS5を始めとした次世代機が発売されるタイミングで、新しいサッカーゲーム用のエンジンを作るプロジェクトが立ち上がったことから。
家庭用、PC、スマホといったクロスプラットフォームで展開するのは、eスポーツのデジタルプラットフォームとして大きなものにする意図があるという。スマホしか持たない層に対してもリーチするためには、こういった形がベストという判断だ。
また、市場環境の変化を鑑みて、従来のパッケージを販売するスタイルから、ビジネスモデルはF2P(基本プレイ無料)にチェンジ。参加する際に発生する価格という障壁を取り払い、ユーザーを増やすためのシフトとなる。会社としてもモバイルアプリの開発経験を積んできたことで、成功を確信しての変更だと木村氏は語る。
これら大きな変化が重なったことで、「ウイイレ」ではなく、新しく生まれ変わったものとしてリブランディングすることになったようだ。
当然、ブランド名の変更についてユーザーからは「寂しい」という声も聞こえ、木村氏自身もそういった感覚があったが、変化する市場の中で新しい挑戦をするため、大きな決断に至った。ちなみに、「ウイイレ」は海外では「Pro Evolution Soccer」というタイトルで知られており、eスポーツ化の流れの中で、名称を統一する意味合いもあるという。
「eFootball」シリーズは今後、デジタルプラットフォームとして、定期的にアップデートを実施しながら運営されていく。将来的にはサッカーゲームとしての役割を軸として、プレイヤー同士のコミュニケーションの場、情報交換の場として、SNS的な働きも含んだ“メタバース”のような存在を目指すという。木村氏は「未来のゲーム体験を提供したい」と意気込みを語った。
時代に合わせた変化を果たした「ウイイレ」改め、「eFootball」シリーズ。競技性を意識して進化したゲームシステムはもちろん、長期運用を前提とし、ユーザーは好きなデバイスで気軽に始められるようになったことで、どのような体験をもたらすのか。ついにリリースされた本作に注目したい。