“カッコかわいい”ウマ娘達の3Dモデルキャラクターはいかにして実現できたのか。3DCGモデル制作におけるワークフローが公開に

 2021年11月13日(土)から11月14日(日)までの2日間、Cygamesによる技術カンファレンス「Cygames Tech Conference」がYouTubeチャンネルにて配信が行われた(アーカイブ動画は公開され次第、こちらのほうでも掲載していく)。

 本稿では、11月13日(土)に実施されたセミナー「ウマ娘 プリティーダービー 3DCGキャラクター事例~基本設計とウマ娘ならではの表現について~」の模様をレポートしていく。

【講演者】

渡辺 皇士 氏
デザイナー部 3DCGアーティストチーム 3DCGリードキャラクターアーティスト

本間 俊介 氏
デザイナー部 3DCGアーティストチーム 3DCGサブリードキャラクターアーティスト

中野 俊寛 氏
デザイナー部 3DCGアーティストチーム 3DCGサブリードキャラクターアーティスト

 

 

 

キャラモデルを制作していく上で重視すべき要素とは

 偉大な競走馬たちの名前と魂を受け継いだウマ娘たちが織り成すクロスメディアコンテンツ『ウマ娘プリティーダービー』(以下、ウマ娘)。実在した競走馬のエピソードがキャラクターのストーリーとして表現されており、ゲームのみならずTVアニメーションや漫画作品、リアルのライブイベントなどゲームの世界観を様々な形で広げている。

 そんな『ウマ娘』に登場する魅力的なキャラクターたちは、どのような工程を経て開発が進められてきたのだろうか。

 3DCGアーティストチームの渡辺氏は、ウマ娘のキャラモデルを制作していく上で大事な要素について、「感情表現を表す表情」「躍動感を表現する髪や衣装の動き」「よりリアルな骨格や布の質感を表現する造形」「臨場感あふれるレースを演出するための濡れ・汚れ」の4点を追及したという。

 キャラクターが可愛いさを大切にしつつ、レースやライブなどでのカッコ良い姿、また3Dのキャラクターモデルとして最先端でハイクオリティなモデルを作ることをミッションに設定したと続けた。

 『ウマ娘』は定期的に更新されていくスマートフォン・PC用のゲームのため、スケジュールに紐付いた運用に耐えうる効率化も考慮する必要がある。開発期間が長くなると初期に作ったモデルについて、古臭さを感じさせてしまう恐れがあるからだ。

 アップデートを繰り返しながら開発を続けた結果、ルック1つ見ても理想的なクオリティーのキャラクター表現が可能になったそうだ。

▲開発当時のキャラクターと現在のキャラクターとを比べると、目元をはじめとした各種パーツの違いが分かる
▲顔は正面だけでなく、3Dモデルとして多角的に調整していくことが最も重要。また衣服の揺れの動き方や衣服の形状、存在感などもより見栄えの良いものに調整がされている

 1キャラクターの構成要素について、マテリアルは合計で6つで構成されている。ポリゴン数はこれらの合計が2万ポリゴン弱。骨数はキャラクターごとに異なるが、共通部分では約160ジョイントが使用される。テクスチャは、合計で20枚程度。1頂点あたりに割り当てられている骨数(インフルエンス数)は2つとなっている。

 モデルの色・質感を表現するテクスチャーは、大きくカラーマップと制御用マップの2つに分かれている。アニメのような陰影表現のために、『ウマ娘』では2枚のカラーマップを使用。ディフューズテクスチャで通常色、シャドウカラーテクスチャーで鍵色を指定している。

▲2枚を見比べるとシャドウカラーテクスチャーは全体的に暗めの色を使用し、その上で反射や二段階目の影などが足されていることが分かる。また、単純に暗くするのではなく、パーツによって彩度や色相も細かく調整が行われている

 制御用マップは、ライティングや影・光沢・形状・映り込みの調整に使用。2枚の制御用マップにより、以下の5つのチャンネルが利用されている。

▲左の画像にはシャドウマスク、スペキュラマスク、カットオフマスクを格納。右の画像には環境マスク、リムマスクを格納している

 

①シャドウマスク
 文字通り影をコントロールするためのマスク。形状に即した陰影では、アニメ的な影形状を表現することは困難。ポリゴン数などの兼ね合いから細かな陰影を表現することにも限界があるため、シャドウマスクで補助している。

▲マスク調整をする前と後の画像。右の画像ではシワや落ち影などが足され、臨場感が増している

 

②スペキュラマスク
 髪の毛の艶や金属類など光沢感が必要な箇所に使用。アニメ的なテイストでは必ずしも物理的に正しいハイライトが望む結果を生むわけではないため、スペキュラマスクを用いて直接ハイライト形状を作っていく。

▲スペキュラマスクにより、金の装飾の質感が感じられる仕上がりになった。

 

③カットオフマスク
 細かな形状の表現のために使用。テイエムオペラオーの場合、腰やマントの板状のモデルが切り抜かれ、装飾の立体が明瞭になっている。使用できるポリゴン数が限られる中、クオリティーを追求する上で重宝されるチャンネルだ。

 

④環境マップ
 光を反射する素材の環境反射を表現するのに使用。スペキュラマスクと適用箇所が類似しているため、この2つのチャンネルを併用しながら見た目の調整を行うことが多いとのこと。角度に応じて様々な表情を見せてくれるが、狙った見た目を作る際は扱いが難しいそうだ。

▲金の装飾部分に映り込みの反射が追加されているのが分かる。金属部分に環境反射が足され、質感がより伝わりやすくなった

 

⑤リムマスク
 リムライトとは逆行的な光のことを指し、立体感を強調するために使用する。『ウマ娘』では常にキャラモデルにリムを入れて立体のシルエットを強調しているが、全ての箇所に入ってしまうと情報過多になるため、裏面や入り組んだ箇所を始め悪目立ちしそうな箇所について調整が行われている。

▲画像では首元や脇の下あたりなどが該当。適用前では全体的にリムが黒く見えるが、発生箇所を限定することで、画面全体のまとまり感が出ている。ウマ娘ごとにライブで照明が変化したり演出での環境が変わった際にも自然に見えるよう、各テクスチャーの調整が行われている

 

 キャラクターの頭部では絵的なシェーディングを実現するために、ディティール制御用マスクが追加されているという。通常のシェーディングとは別に制御でき、ライトの角度と組み合わせて補正をかけることで多様な影の表現が出来る。

 ライトを動かした際の陰影を見ると、調整する前は影が歪んでしまうが、ディテールマスクなどで調整することで、より絵的で綺麗な陰影を付けることができる。このように、シェーディングではアニメ調モデルとしての自然さを担保するための調整がメインで行われているそうだ。

 また、アニメ調な絵づくりにおいて重要な役割をもつ要素・アウトラインを綺麗に出すためには法線調整を行う必要があるが、法線情報が一つでは完璧な見た目が作ることが難しいという問題もある。

 大元のモデルにシェーディング用の法線を持たせ、アウトライン用の法線調整を施したアウトライン用モデルから大元のモデルのUVsetの中に移し替えることで、それぞれに適した法線情報を両立させたそうだ。

▲画像はアウトライン用の法線を使用した場合と、シェーディング用の法線を使用した場合での比較。シェーディング用ではアウトラインが所々途切れてしまっている。逆にアウトライン用の法線では、線を綺麗に出ているものの、リムや陰影が乱れているのが分かる

 アウトラインについては、法線の角度を調整。自社ツールなどである程度効率化は行っているそうだが、基本的には地道な手作業になってしまうとのこと。髪の束など面が急激に切り替わる部分などは、特に綿密な調整が必要となるそうだ。

▲左の調整前の画像では前髪の線が途切れてしまっているが、右の調整後の画像では前髪の線がはっきりと表示されている

 ちなみに、アウトラインの色はアニメ調で利用される表現に近づけるために、シーンごとの演出に合わせて変更が行われている。オグリキャップのスキルカット演出では、アウトラインが白く発光したような見た目に変化しているのが分かる。アウトラインの色は、ディフューズカラーと指定された色を混合することで色味を制御している。

 スキルカットなどの演出時には合成色、ブレンドの割合、合成方法などを変更できる。このように、アニメ調に見せるためにアウトラインの設定は他のモデルの中でも非常に重要な役割を担っているというわけだ。

 

埋まり・ライト・衣服と髪の動きの対策

 続いて、開発工程で新たな基本仕様となった事例と対策について、「埋まりの対策」、「ライトの対策」、「衣服と髪の動きの対策」の3つの順に解説が行われた。

 キャラクターの腕が衣服に埋まってしまうような問題に対しては、IK(Inverse Kinematics)コリジョンで解決していく必要がある。コリジョンとは、日本語では衝突を意味しており、ある物体が別の物体に当たったかどうかを判定するプログラム処理のこと。

 IKコリジョンを仕込むことで、同じ動きでもウマ娘ごとの見栄えを保ち、調整の手間を減らすことに繋がっている。

▲IKは回転で制御するFK(Forward kinematics))と異なり、ジョイントの終点をコントロールし移動で制御する方法

 続いて、ライトの対策について。ウマ娘はライブを行う他にもレースなど様々なシーンが存在しており、演出・表現方法が全く異なっている。そのため、キャラモデルにはシーンごとに対応した対策を行う必要が生じている。

▲開発初期のライブ演出。開発が進むにつれてよりドラマチックなライトの演出を導入することになり、キャラモデル側にも対応を施す必要があった。

 対策としてフレアコリジョンを設置し、光によるキャラクターの貫通を防ぐように。フレアコリジョンによりキャラクターとライト、カメラをより自由に配置する事が可能となり、ライブ演出の幅が格段に広がったそうだ。

 3つ目は衣服と髪の動きの対策。開発初期はダイワスカーレットのスカートに布の柔らかさが無かったり、ツインテールが浮き上がるなど、不自然な挙動が多くみられたという。

 違和感を払拭するために重力や抵抗力、素材としての硬さや柔らかさを細かく調整。それぞれのウマ娘や衣装ごとに設定することで、違和感のない自然な揺れものの動きが再現できたそうだ。

▲開発初期と現在の揺れものを比較。スカートや髪の毛が以前よりもなびき、硬い印象が無くなっている

 

ウマ娘たちの個性を引き出す感情表現について

 ストーリーへの没入感を与えるためには、 ウマ娘それぞれの個性を引き出し、プレイヤーに感情移入させることも重要な要素。そこで、3DCGアーティストチームでは、ウマ娘たちの表情のバリエーションを引き出せるような仕組みを制作したそうだ。

 感情表現の仕組みは「ベース部分」と「補助的に使用」する要素に分けられている。ベース部分にあたるフェイシャルは眉毛・目・口の3つのグループがあり、これらを組み合わせることでフェイシャルのバリエーションを表現していく。

 ベース部分ではお笑い・怒り・悲しみ・喜びなど、様々な表情を用意。会話をする際の口のパターンや、場合によってはブレンド率を変えたりして複数のパターンを掛け合わせることも可能となっている。

▲画像では怒った表情のパターンに対して、ほっぺを膨らませる表情を混ぜ、よりムスッとした印象を加えられている
▲ベースを活用した例。会話シーンなども自然なやり取りになっている。

 フェイシャルパターンの中には、単独では使用せず複合することを前提としている内容もある。特に顕著なのが、眉と口の項目にあるスケール&オフセットと呼ばれる要素。スケールは各フェイシャルの変形をより顕著にするために拡大・縮小することができ、オフセットは形状を維持したまま位置をずらすことができる。

▲画像はスケールを使用した例。口元に注目すると、ニュアンスを維持したままより大げさな表情になっているのが分かる
▲まゆや口の位置も定位置よりずらし、表情を表現

 漫画目は通常のフェイシャルでは表現が困難な、よりコミカルでデフォルメの効いた表現を行うための仕組み。漫画目は瞳を隠し、その上に各種のフェイシャルをアタッチすることで表現している。

 涙は目の下に溜まる涙、流れる涙、目じりの涙の3種類がある。これらを用途に合わせて使用していく。

▲ライブの「ささやかな祈り」では、目にたまる涙と流れる涙がとても象徴的に使用されている

 チークは照れた際や、激しく運動した際などに使用される。あらかじめキャラモデルごとにチーク用のメッシュを配置し、使用する際は任意の濃さで表示している。テクスチャは1キャラモデルあたり2種類用意されている。

 青ざめは血の気が引いた表現などに使用されるもので、キャラモデルの顔に青いグラデーションが入れられる。キャラモデルの頭部の任意の2点でグラデーションをかけるように指定されている。

 瞳はキャラクターを魅力的に見せるための大切な要素だが、ウマ娘では特にハイライトに関する表現が追求されている。瞳はディフューズステクスチャーの他に、ハイライト単体のテクスチャを持っており、これらを組み合わせることで多彩な瞳の表現ができる仕組みだ。

 ハイライトでは、縦・横移動・回転のほか、ハイライトそのものの強度を変えることが可能。ウマ娘の感情が高ぶって泣きそうな時などはハイライトが大きくなったり、ハイライトの粒が増えたりなどといった具合。逆に、ハイライトは無くしてしまうこともできる。

 ハイライト単体のアニメーションとして、「うるうる」と「きらめき」の2種類が用意されている。これは通常のフェイシャルとは異なり、単体で時間軸を持つアニメーションデータ。ウマ娘の感情が高まって瞳がうるうるした時や、感動して瞳がきらめいた時などに使用される。

▲スマートファルコンのスキルカット。ラストの決めカットでは、豪華なエフェクトと一緒にハイライトの輝きも増しているのが分かる
▲ライブ中のライスシャワー。しっとりと歌い上げるシーンなため、細やかな表情の変化と相まって効果的に使用されている
▲ウイニングチケットのストーリーレース勝利時。うるうるときらめきの2種類が同時に使用されているほか、チークなども合わさり活き活きとした表情になっている。

 

濡れ・汚れ・汗により臨場感や緊迫感を表現

 白熱したレース場や熱狂的なライブ会場での演出について印象的なのが、キャラクターの濡れ・汚れ・汗による臨場感や緊迫感の表現だ。

 濡れは主にレースシーンの天候が雨や雪の場合に使用される表現。濡れ表現により、天候の曇りとの差別化がはっきりできるようになっている。

▲左が通常のモデル、右が濡れのモデル。濡れのモデルでは衣類の各所に水が染み込んだ表現が確認できる。濡れ表現は、キャラモデルに使用されている各テクスチャーを塗れ専用のテクスチャーに切り替えることで実現している。

 汚れについてはマスクテクスチャが用意されており、RGBチャンネルの3つの要素に分けられている。レッドチャンネルとグリーンチャンネルはそれぞれ違った汚れが描画されており、レース展開によって時間差で発生。

 ブルーのチャンネルはレースの進行に合わせて足元に汚れが発生するように設定。これらの手法により、レース中のリアルな状況を表現することに成功している。

▲レースの動画。ウマ娘の衣服に注目すると、レースの進行に合わせた汚れの変化が確認できる。序盤・中盤・終盤とレースの展開が進むにつれて衣服の汚れがだんだんと広がり、色濃くなっていく。

 汗は主に育成やレース、ライブなどウマ娘が激しく動いた時の表現として使用。一見あまり目立たないように見えるが、汗の有無で印象がかなり異なる。

 キャラクターの頭部に汗オブジェクトが配置されており、任意のタイミングでそれらを表示している。汗の位置はウマ娘によって顔の形状が異なるため、完全に一致しているわけではないが、どのウマ娘でも共通の演出を行う必要があるため、ある程度同じ配置となっている。

 

 渡辺氏は最後に、CG制作の内容をまとめつつ、「私たちはこれからもカッコかわいいウマ娘達を作り続けます!」と挨拶し、セッションを締めくくった。

 長期にわたる開発期間の中で度重なるアップデートを繰り返し、エンジニアやテクニカルアーティスト、イラストレーターなど多くの部署で協力して現在のキャラモデルのクオリティに到達した『ウマ娘』。本セミナーのような技術面を含めて、本作がどのような展開をしていくのか注目したいところだ。

© Cygames, Inc.

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島中 一郎(Ichiro Shimanaka)
島中 一郎(Ichiro Shimanaka)https://www.foriio.com/16shimanaka
ライター。ゲーム・アニメ業界を中心にニュース記事の執筆、インタビュー、セミナー取材などマルチに担当。ボードゲームが趣味であり、作品のレビューや体験会のレポートを手掛けるほか、私生活で会を催すことも。無類のホラー好き。

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