11月27日(土)から28日(日)までの2日間、ゲームクリエイター向けのカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2021 ONLINE」が開催。コンピュータエンターテインメント開発技術者やクリエイター、ゲーム業界を目指す学生を対象に、デジタルエンターテイメント技術の講演が行われた。
本稿では、11月27日(土)に実施された講演「体験型エンターテインメントとは何か? ~広がるゲーム的手法~」の模様をレポートしていく。
【講演者】
急拡大する「体験型エンターテインメント」市場
脱出ゲームやマーダーミステリー、XRコンテンツなど、近年では日常空間やリアルメディアを使った体験型・参加型のエンターテインメントが流行している。石川氏はこれらのコンテンツについて「体験型エンターテイメント」と定義し、全く新しいジャンルとして現れた「新規型」と従来のエンターテイメントの延長から現れた「発展型」の2つに分類。
新規型の体験型エンターテイメントとして、石川氏はARG(代替現実ゲーム)や謎解きゲーム、マーダーミステリーを挙げる。演劇からインマーシブシアターが生まれたり、書籍から体験型書籍が生まれたり、遊園地からテーマパークが生まれたりといった内容は発展型に分類されると説明した。
「2020 Immersive Entertainment Industry Annual Report」のデータによると、体験型エンターテイメントは2019年の時点で618億ドルもの市場規模になっているという。その内テーマパークが占める割合は520億ドルと、圧倒的に大きい。XRは20.6億ドル、脱出ゲームは6.5億ドル、イマーシブシアターや体験型ミュージアムは2,800万ドルと続いている。
また、中国のマーダーミステリーは2021年予想で約2,737億円の市場規模に。2020年に関連企業は3,200社あり、リアル店舗4万店、利用者は941万人にも上る。2023年には市場が5,500億円超まで拡大していくという予想も出ている。
石川氏は「中国のエンタメは政府の意向で急速に沈むことがあるので、本当に2023年にこの規模になるかどうか分からない」としつつも、「中国でも体験型エンタメが大きな市場を持ってるという情報にはなる」と続けた。
体験型エンターテイメントをビデオゲームデザインからの視点で考えると、石川氏は「リアル空間でどう能動的なエンタメを成立させるかのアイデアや工夫に溢れており、ゲームデザインとしての広がりや刺激を与えてくれるジャンル」だと説明。
体験型エンターテイメントにはゲーム性や双方向性が取り上げられていることが多く、ビデオゲームが通ってきた道で、その知見を共有することで体験型エンターテインメントにもメリットがあるはずだと続けた。
体験型エンターテイメントをジャンルごとに紹介
体験型エンターテイメントは謎解き系ゲームやARG(代替現実ゲーム)、オンラインの体験型イベントなど非常に種類が多い。石川氏は主要な体験型エンターテイメントについて、以下のようにジャンルごとに分けて説明を行った。
●謎解き系ゲーム
リアル脱出ゲームから始まり、今や世界規模のコンテンツとなってる謎解き系ゲーム。日本において特徴的なのは、低学年の年齢層にもブームが広がった点。これには『ポケットモンスター』や「おはスタ」など、低学年向けの番組で紹介されたというのも大きいという。
ゲームは高難易度で謎解き能力を競う「謎解き重視」と難易度は低いが物語体験を重視する「体験型重視」の2つの方向性に分かれていると石川氏は言う。例えば、東京ミステリーサーカスで開催された『閉ざされた雪山からの脱出』は、雪山風に作られたセットの会場内にテントが用意されている。
ゲーム中に冬山キャンプで使用する道具が登場するなど、本当に雪山から脱出するような感覚が味わえる仕組みになっているというわけだ。
●ARG(代替現実ゲーム)
プレイヤーは現実にあるメディアを使って情報を収集し、その情報を元に物語体験が出来る仕組みの作品。最近は日本的なARGが多く生まれており、ARG初心者でも楽しめるような内容が増えてきている。
女子高生バンドが謎の殺人事件に巻き込まれていく『Project:;COLD case.613』は、そのストーリー性もさることながら、『ドラゴンクエストIX』と『ドラゴンクエストX』ディレクターの藤澤仁氏が総監督を務めたことでも話題になった。
●オンライン体験型イベント
コロナの影響でリアルイベントの実施が難しくなったことから誕生したジャンルのイベント。リアル型をオンラインに置き換えただけの内容が多かったが、2020年後半からオンライン環境を活用した内容が登場。
1万人規模で同時参加できる『オンラインパパラッチ』や、LINEアプリを使って実際にチャットや音声で話しながらプレイする『イキサキ探し』などが人気を博した。オンラインイベントは場所の制約を受けないため、言語の壁が課題となりつつも、ワールドワイドの展開も可能となっている。
●マーダーミステリー
プレイヤーそれぞれが物語のキャラクターになりきり、調査や協力をしながら犯人を見つける推理ゲームで、国内では2020年からブレイク。少人数で制作できることもあり、ジャンルの枠に収まらない実験的な作品が増えている。
●LARP(ライブアクションRPG)
元々はテーブルトークRPGを生身で体験することを目的としたイベントで、現実世界でゲームの登場人物となって物語や戦いを楽しむといった内容だった。近年はジャンルが広がっており、例えばファンタジーやバトル要素がない内容も登場している。
●イマーシブシアター
舞台と観客の仕切りをなくすことで、没入体験が得られる演劇形式。参加難易度が低く、自分だけの体験感が高いことが特徴。
日本では、お台場で常設イマーシブシアターの『Venus of TOKYO』が実施されているほか、墨田区のかつての街向上とその母屋を舞台に繰り広げるスパイは3度、ベルを鳴らす』の上演が行われている。
●XR系(AR・MR・SR・VR)
現実世界と仮想世界が融合する技術全般を扱った内容で、『ポケモンGO』や「Oculus Quest 2」のヒットで一般に浸透した。
Facebookがメタバースに注力することから社名を変えたり、現実世界をそのままを仮想世界に移してしまう「ミラーワールド」という概念があったりと、何が飛び出してくるか分からないびっくり箱的なワクワク感のあるジャンル。
●物語系ボードゲーム
一般的なボードゲームと異なり、一度しか遊べないかわりに謎解きや物語体験が楽しめる作品。グループSNEの『シャーロック・ホームズの追悼』や、ホビージャパンの『ザ・イニシアティブ 日本語版』といった作品がある。
●体験型書籍
書籍を使った体験型の試みは、リアル世界でお宝探しと連動した内容や書籍型のARG、本物の証拠品を封入したミステリー書籍など、非常に多い。例えば道尾秀介氏の小説『N』は6章のそれぞれ独立した小説なっており、読み進める順番によって物語体験が変わるギミックの小説となっている。
●体験型映画・テレビ
メジャーなエンターテインメントジャンルということで、昔から様々な試みが行われている。例えば、映画の上映と映画世界を再現した体験イベントがセットになった『シークレット・シネマ』が大成功しており、興行としての期待が高まっている。
●テーマパーク
遊園地に対して没入感の高い遊戯施設だったが、近年は特にインタラクティブ性や体験を高める方向にある。2022年3月にディズニーワールドで開場予定の「スター・ウォーズ:ギャラクティック・スタークルーザー」や、USJの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」などがある。
●アトラクション・イベント
アトラクションやイベントに絞った例も増えている。従来の受動的な娯楽作品を参加型にする試みや、イベントに能動性を付け加えた内容の2つの傾向がある。
●体験型アート
メディアアートやインスタレーションを中心に、様々な内容が登場。例えばゲームブック形式の『演劇クエスト 白昼のバスケット冒険団と不思議な依頼者達』は、ゲームブックの内容を実際に街で体験するような形のコンテンツとなっている。
●音楽系
音楽が1曲単位で配信されアルバムのコンセプトが重視されない時代に、複数のメディアを用いて世界観を共有しようとする試みがある。例えば、「BTSオン・ザ・ロード」は、BTSの世界観がトランスメディアで構成されていることを解説。『ヨルシカ 盗作』はCDのほかに小説やカセットテープを用いて、1つの世界観を共有する試みがされている。
イマーシブシアターのゲームデザインについて
前述したイマーシブシアターについて、大きく「フリー型」と「ツアー型」の2つのタイプに分けられる石川氏は言う。フリー型は基本的に自由に歩き回れるという形式で、任意の役者を追いかけて別の部屋に移動することが可能。どのシーンを見るかが参加者に委ねられているため自由度は高いが、物語が分かりくなる危険性も孕んでいる形式ではある。
ツアー型は、基本的に誘導に沿って決められたルートを回る方式。ルートが固定されているため物語は分かりやすくなる一方で、体験型としては制限が出やすいというデメリットもある。
ビデオゲームとイマーシブシアターとの違いについて石川氏は「常にライトな能動が意識しない形で行われてる」ことが挙げられると説明。例えば、ゲームではモンスターを倒す時に魔法を使うか攻撃するか、天下統一のためにどの国に攻め込むかもしくは内政を重視するかといった要素だ。
イマーシブシアターの場合はどの役者を追いかけるか、どの位置でお芝居を見るかなど、参加者が能動的な行動を行っている。こういった行動が、「選択のストレスを意識せずにインタラクティブな体験に結びついている」と石川氏は続けた。
また、演劇にはキャストの違いや観客位置によって、同じシーンでも違う体験をしているかのような非再現性がある。参加者の一部(多くは1人)が選ばれる「1 on 1」というイベントもあり、参加できなかった人からすると、「自分も体験したい」という次回参加のモチベーションに繋がりやすい構造になっている。
イマーシブシアターが持つ欠点として、石川氏は「ビデオゲームのような主人公としての体験感や世界の没入感が弱くなってしまう」ことを挙げる。その対策として、プレイヤーに世界観を分かりやすくアプローチするほか、ルートを固定するといった方法があることを続けた。
石川氏は最後に、「体験型エンターテイメントの世界はこれからもまだまだ広がっていくと思います。ぜひ皆さんも体験したり制作したりして、知見をどんどん積み上げていきましょう」と呼びかけ、セッションを締めた。
体験型エンターテインメントのトレンドについて幅広く網羅できる、学びのあるセッションとなった。