動画共有アプリ「TikTok」を運営するバイトダンス(北京字節跳動科技)の日本法人が、約2年前から、Twitter上でインフルエンサーに報酬を支払い、指定した動画をあたかも通常の投稿であるかのように紹介させていたことが、読売新聞の報道で明らかとなった(外部リンク)。
広告であることを明示せず、一般の口コミを装って商品やサービスを勧める宣伝はステルスマーケティング(通称:ステマ)と呼ばれる。報道によれば、今回のケースでは広告表記がなかったため、ステルスマーケティングにあたる可能性があるという。
バイトダンス日本法人は、報道のあった2022年1月24日同日に「投稿に広告表記が必要だという認識はなかったが、利用者を誤認させる可能性があり、再発防止に努める」と釈明。なお、報酬額などの「契約の詳細は明かせない」とし、中国のバイトダンス本社の関与についても「わからない」とコメントを控えた。
ステルスマーケティングは、国内の広告会社などが加盟する「WOMマーケティング評議会」が消費者を誤解させる行為として運用を禁止している。広告料等の金銭を受け取っている場合はPRであることを明記する必要がある。また、Twitter社も、一般の投稿を装った広告は禁じており、ステルスマーケティングであることが確認されれば、削除または利用停止の対象になる。
TikTokは今最も勢いのあるWebサービスだ。アメリカのCloudflareによれば、その人気はGoogleを抜き、ソーシャルメディアとしてもFacebookを超えている(関連記事)。ゲームビジネスにおいても様々なマーケティングに活用されるようになり、最近ではセガのソニック誕生30周年を記念したコラボレーションが展開されたばかりだ(関連記事)。
ステマがマーケティングとしては全くの逆効果であることは、多くのマーケターにとって自明の理だろう。“マーケティングの神様”のフィリップ・コトラーは「マーケターの役割は、認知から最終的に推奨に至るまで、カスタマー・ジャーニーの間中、顧客の道案内をすることである」と言っており、マーケティングとは、いかにファンの推奨行動を引き出すか、というアプローチにシフトしつつある。
だが推奨行動が正しく機能するには、その推奨が本当にファンによる自律的な行動でなければならない。マーケティングは推奨に対する信用を前提としている。にもかかわらず、ステルスマーケティングはその信用を失墜させる行為だ。マーケティングを危機に陥れるような悪質なやり口に、ゲーム業界のマーケターたちは大いに怒るべきであろう。
過去の事例に見る、ステマの背景
残念ながら、ゲームビジネスにおいてもステルスマーケティングが行われたケースがある。
2019年、コロプラがセールスランキングの順位を操作するために、取引先の広告会社に850万円を渡し、ゲーム内で有償アイテムを購入させていたことが判明した。
事態を重く見た同社は第三者による調査委員会を設置し、事件発覚から約2ヶ月後の2019年8月13日に調査報告書を公開した。30ページ以上にわたる報告書には、不正を働いた社員とその関係者の生々しいやり取りが記録されている。
その内容に眉をひそめる人も多いだろうが、重要なのは、なぜ不正が見過ごされたのかという点である。
調査委員会は不正の発生原因のひとつに「役員・従業員間における牽制機能の不十分さ」を挙げ、コーポレート・ガバナンスの脆弱性を指摘している。当時のコロプラでは、発注額が500万円以上1,000万円未満の場合は本部長決裁を原則としていたが、広告宣伝費は例外的に予算額以内であれば稟議手続がなくとも発注が可能だった。
さらに、具体的な発注内容や証憑を共有する体制が不十分だったため、他の部署からの牽制・管理が及びにくく、不正の隠蔽が行われやすい状況であった。
報告書を読む限り、不正の原因は組織の隠蔽体質にあったと言えるだろう。何をやっても隠し通せるとわかっているからこそ、不正が常態化するのだ。ステルスマーケティングの「ステルス」とは隠密行動を意味するが、ステルスマーケティングはまさしくマーケティング部門の隠し事、隠蔽体質そのものである。
TikTokが長期に渡ってステルスマーケティングに手を染めてきたのならば、その隠蔽体質も相当に根が深いはずだ。隠蔽体質を克服するには情報公開しかない。
コロプラの場合、不正が発覚した後の対応は実に迅速かつ的確であった。詳しい経緯と具体的な改善策を提示することは、再発防止はもちろん、ブランドの保護にも繋がる。
しかしTikTokは今回のステルスマーケティングについて、今もなお何一つ明らかにしていない。ガバナンスの杜撰(ずさん)な企業に自社のブランドを本当に任せても良いのだろうか。いくら人気のSNSとはいえ、今後は慎重な判断が必要になるに違いない。