坂口博信氏と吉田直樹氏が「RPG」の魅力と可能性を語る。最新作『FF16』のシステムについても言及【TGS2021】

 コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、ゲームイベント「東京ゲームショウ2021 オンライン(TGS2021 ONLINE)」を9月30日~10月3日の期間で開催中。

 本稿では、10月1日(金)に行われたファミ通プロデュースの主催者番組 「RPGの魅力と可能性 ~坂口博信 × 吉田直樹/TGS2021 ONLINE 特別対談~」の内容をレポートする。

 番組は、「ファイナルファンタジー(FF)」シリーズの生みの親である坂口博信氏と、MMORPG『FF14』のプロデューサー兼ディレクターおよび、現在開発中のシリーズ最新作『FF16』のプロデューサーも務める吉田直樹氏が対談を行う内容。

 「RPGの魅力と可能性」をテーマに、さまざまな内容が語られた。モデレーターは、KADOKAWA Game Linkageファミ通グループ代表の林克彦氏が務めた。

【出演者】

坂口 博信氏
MISTWALKER CORPORATION
ミストウォーカー代表
1962年生まれ。『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親。『ブルードラゴン』『ロストオデッセイ』『テラバトル』など多数のRPGを手がける。スクウェア(現スクウェア・エニックス)設立時から開発部門を統括し、2004年、ゲーム制作会社ミストウォーカーを設立。最新作『FANTASIAN』がApple Arcadeで配信中。
吉田 直樹氏 
スクウェア・エニックス 取締役
『ファイナルファンタジーXIV』プロデューサー兼ディレクター
『ファイナルファンタジーXVI』プロデューサー
1973年生まれ。2005年スクウェア・エニックス入社。『ドラゴンクエストX』ではチーフプランナーを務め、2010年、『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターに就任。2015年から執行役員として開発部門を担当。2018年から取締役に選任。現在はプロデューサーを務める『ファイナルファンタジーXVI』を開発中。

 

 

『ファンタジアン』ジオラマ制作話

 番組のはじめ、2人の接点から話題がスタート。

 坂口氏と吉田氏の出会いは、『FF14:新生エオルゼア』をローンチするタイミングで、食事の席を設けたところから始まった。それまで「ドラゴンクエスト」作品に携わっていた吉田氏の「『FF』ってどうしたらいいですか」という問いに、シリーズ生みの親である坂口氏は「あなたのゲームだから好きにしたらいい」と返答したという。

 挨拶に来た吉田氏に対して坂口氏は第一印象として「指輪がジャラジャラしていてちょっとビビった」そうだ。しかし話してみると「まじめな人なんだな」と、ギャップのある印象を抱いた坂口氏。

▲吉田氏といえば、多数のシルバーアクセサリーがトレードマーク。

 そして、対談最初の質問は坂口氏の最新作『FANTASIAN(ファンタジアン)』に関するものに。同作はApple Arcadeに前後編でリリースされ、ゲームのフィールドが手作りのジオラマを元に制作されているのが特徴的な作品。

 まず挙がった質問は「なぜジオラマで作ろうと思われたのでしょうか?」というもの。

 「作り手からするとめちゃくちゃ大変」と続ける吉田氏に、「本当ですよね」と坂口氏。時間が経つとジオラマに使用する粘土が色落ちしたり溶けたりと劣化し、再撮影の際に全く違う風景になってしまうなど、制作時の苦労話も飛び出した。

▲実際に使われたジオラマ

 しかしながら「昔からジオラマが好きだった」と語る坂口氏は、高解像度のデータを使えるようになったことで、ジオラマの写真を利用できるようになったことを理由にあげた。

 また、手作りによる混沌としたアナログの要素と、秩序だったCGやプログラムというデジタルの要素が、本作の “混沌と秩序” というテーマに世界観的にもマッチしていることが理由のひとつになった。

 制作時は工数的な理由でCGによるモックアップを作らず、コンセプトアート数枚と、地図データを用意してジオラマを発注。そのため、完成したジオラマがイメージと異なっていた場合はシナリオに融通を効かせる形で進行していったという。

 次に吉田氏は「ジオラマ撮影はレンズに特殊な効果を入れているんでしょうか?」と質問。

 CGであれば背景をゲーム画面に落とし込む際にポストエフェクト等で処理するが、今回ジオラマ撮影を行った際はLEDを組み込むことで光を入れ、それを処理して使用したという。写真の場合でも後からエフェクトで光を追加することは可能だが、ジオラマを制作する作家のこだわりによってLED電球がジオラマ内に設置され、特有の雰囲気を生み出すに至った。

▲CGのキャラクターとジオラマの背景が合わさり、本作特有の雰囲気が醸し出されている

 ゲームシステムについても言及。『ファンタジアン』では、敵とエンカウントしてもその場で戦わずに30体まで敵をストックし、後でまとめて戦える「ディメンジョンバトル」が採用されている。

 プレイヤーの好きなタイミングで戦うことができるので、スマートフォン向けのゲームを遊ぶユーザー層にマッチしているシステムとなっているのだが、これは今の世代の遊び方を意識した結果ではなく、坂口氏自身が「引退作のつもりだったので、自分の好きなように作った」と発言。「テストプレイ中にジオラマを歩いているとき、エンカウントがジャマだなと思った(笑)。」という率直な気持ちを明かし、その際にジオラマをじっくりと満喫できる今のシステムを採用することに。

 坂口氏曰く「僕の作り方の良くないところで、結構スクラップ&ビルドで決めていくことがある」という。上記のシステム以外にも、自身の操作によって攻撃の軌道を調整でき、複数の敵を攻撃できるバトルシステム「エイミング」にも大幅な変更があったそうだ。

 最初は物理演算で弾を投げるようなシステムだったものが、テストプレイの中で段々と仕様を変更していき、今の形になった。また、最初はバトルがリアルアイムで進行する「ATB(アクティブ・タイム・バトル)」の要素も取り入れていたが、「エイミング」と相性が悪いことから撤廃し、従来のターン制バトルに仕上げていったという。

▲実際に遊ぶ中でシステムを練り上げていくスタイルの坂口氏は「プログラマーが大変だと思います」と苦笑。

 そんなスクラップ&ビルドの結果、戦略性が高く、テンポの良いバトルに仕上がった『ファンタジアン』。吉田氏は本作を「面白さと遊びやすさが徹底されている」と評した。ちなみに、制作期間はシナリオを書き始めてから、3年ほどでの完成となったとのこと。

  

MMORPG好きの坂口氏が『FF14』をプレイ

 続く話題は『FF14』のことに。今回の対談を機会に坂口氏も『FF14』をプレイ開始。これまでプレイしていなかった理由は、自身が無類のMMORPG好きだからこそのようで、「一度始めたら出て来られなくなるから」と理由を語った。

▲かつて社員全員にMMORPG『EverQuest』(1999年にリリースされ、後の作品に大きな影響を与えた作品)をやるように指示したという伝説を持つ坂口氏。『FF14』を始めたところ、マイチョコボを獲得した時点で早速「出て来られなく」なってしまったそうだ。

 坂口氏は『EverQuest』と同様、一番小さい種族であるララフェルを選んでプレイ中。

 なんでも、戦闘中に小さすぎて自分のキャラクターを見失うこともあるそうで、「どうして背の高い種族にしなかったんだろう」とこぼす一幕も。松野泰己氏(オウガバトルシリーズを手掛け、『FF14』でも一部コンテンツのシナリオを担当)に手ほどきを受けながら、非常に楽しんでプレイしているようだ。

 周りのプレイヤーと記念撮影を行うなど、MMORPGらしい楽しみ方も満喫している坂口氏は、「そこに世界がありますよね」とコメントしつつ、『FF14』のシステム的な面にも触れた。

 「古いMMORPGのタイトルはなんでもできてしまう分、いろいろと問題もある。『FF14』はその部分がこなれていて、優しい気持ちと、ある程度ソロプレイのような感覚でMMORPGの世界に入っていけるので、これは考えたなと思いました」と分析。

 『FF14』のゲームデザインに関して、「入り口は遊びやすく調整されているが、進めていくと多くの要素が解放され、掘れば掘るほどハマっていく底の深さがスゴイ」と評価した。

 また、ストーリー上に登場するキャラクターについて、「MMORPGで“心の友”ができる感覚は初体験」と語る坂口氏。吉田氏は「そこについてはスタンドアローンの『FF』を意識していて、いつも通りストーリーが追えるようなコンセプトになっている」と返答。

 「たしかに『FF』感がある」と話す坂口氏に、「『FF』のテーマパークというコンセプトもある」と説明する吉田氏。『FF14』には「FF」シリーズでおなじみの要素が、さまざまな形で登場するのが特徴のひとつ。装備や敵、マウント(乗り物)など、シリーズ作品のもので溢れている本作に、坂口氏は「まさしくテーマパークという感じ」と納得した様子だった。

 さらに、吉田氏は「初代『FF』で、橋を渡った後にタイトルが出るシーン」を思い出に挙げ、『FF14』でもタイトルを出すタイミングにこだわっていることを説明。坂口氏は「なるほど」とうなずきつつ、「プレリュードのアルペジオが流れてきた瞬間に素晴らしい!と思った」と、プレイしながらFFの世界に入り込むことができたと語った。

 

『FF16』の制作状況

 そして、話題はシリーズナンバリング最新作の『FF16』へ。

 坂口氏はトレーラーを観た感想として「すごく本格的なファンタジーに持っていくのかなと。ということはシナリオはハードで、人間そのものに突っ込んでいくのかなという期待感がありつつ、大変そうなテーマだなと思った」とコメント。

 吉田氏によれば、『FF16』はメインシナリオのほか、キャラクターモデルなども完成し、残りは「サイド」と呼ばれるクエストを作りつつ、クオリティアップを残している状況なのだとか。

 制作期間は明かせないものの、少人数でシナリオ制作からスタートし、何を作るかを決めるまではできるだけ人数を増やさない方針で動いたという。また、アクション要素の強い作品のため、開発初期はスクラップ&ビルドも多かったそうだ。

 前述の通り『FF16』のメインシナリオはすでに完成しているそうだが、ここで坂口氏が「ヨコオさんがシナリオを書かせてくれと言っていたじゃないですか。僕も書きたい」と発言。「もう(シナリオ)あがっちゃってます(笑)」と吉田氏が返すと、「いいよ、ちっちゃいクエストだけ書かせてよ」と冗談めかして詰める場面がみられた。

 そこで、吉田氏が「『FF14』なら機会がございます」と逸らすと、坂口氏は「松野と勝負する気はない(笑)」と回避する姿勢。さらに続けて、「ヨコオさんに勝てるという意味ではないですが、松野と勝負すると『FF14』で手ほどきを受けられなくなっちゃう」と、エオルゼアでの生活を守りたい様子。「松野にゲーム内でテレポ代(ファストトラベル時に少量のゲーム内通貨が必要)をせがんだら、ポンと100万ギルを恵まれた」というエピソードを明かした。

 

なぜRPGを作るのか

 『FF14』のエピソードに花が咲いたところで、対談の本題でもある「RPGの魅力と可能性」の話に。長きにわたってRPG作品の制作に携わる坂口氏は、そもそもなぜRPGを作りつづけているのだろうか。

 「もともと空想好きな子どもだった」と坂口氏。それがゲームという形で実現できたことが嬉しくなったのだという。

 坂口氏は続けて「世界観と、その世界のルールやキャラクター、乗り物などを妄想し、それが具体的になるのが楽しい」と語る。また、自分にとって思いもよらないものがスタッフによって付加されたとき、楽しさを感じるのだとか。チームで作ることを大事にしている坂口氏は「スタッフの熱が作品にこもる瞬間が好きです」と熱弁した。

 そんな坂口氏の話を聞いて、吉田氏は「坂口さんが生み出した“熱”は今でも社内に残っている」と話す。現在『FF16』のディレクターを務める高井浩氏が、「坂口さんの号令によって全員にこもる“熱”が『FF』を作ってきた」とよく語っているのだそうだ。それを聞くと、坂口氏は「あれだけ言うことを聞かなかったやつが……」と言いながらも、うれしげな表情を浮かべていた。

 吉田氏はRPGに携わっていることに関して「小学生のときに『FF』と『ドラクエ』をプレイしたことが大きい」と語る。もともと話を書くのが好きだったという吉田氏は、「ゲームの中でもこんなにお話を表現できるんだ」と感銘を受け、ゲーム業界を目指したそうだ。

▲映画などの他媒体は、それはそれで素晴らしいものだが、一方的に受け取ることしかできない。吉田氏は「自分の手で物語を進めていける」からこそ、ゲームを作り続けているという。業界に入る直前には、松野氏の手掛ける『伝説のオウガバトル』に衝撃を受けたそうだ。

 そして、RPGの魅力について坂口氏は『ファンタジアン』のスキルツリーを例に挙げつつ、「システマティックなものが物語や世界観と組み合わさっていて、進行に合わせてツリーが解放されていく瞬間」が楽しいと分析。何かしらの成長の瞬間を自分で作り出せるところが、RPGというジャンルがゲームとして発展してきた理由のひとつではないか、と続けた。

 一方、「RPGを定義するのは難しい」と吉田氏。「成長があるかどうか」くらいでしか共通点がなく、開発中の『FF16』も既存のジャンルに当てはめることができない作品であるそうだ。

 その中で、「『FF16』にも、先ほど出たようなスキルツリーのシステムがあるので」とポロリ。「『FF14』のようにプレイヤー=主人公のパターンがある」と前置きしつつ、「第3者として物語の主人公になりきる作品でも、自分なりの成長軸(≒スキルツリー)がある方が、楽しみ方の幅は広がる」と、詳細は明かさないながらも、新作におけるシステムの一端を匂わせた。

▲思わず『FF16』の情報を引き出し、喜ぶ坂口氏。

 坂口氏はプレイヤー=主人公の作品である『FF14』について、「MMORPGという性質上周りのプレイヤーも全員「光の戦士」(=主人公)なのに、自分が一番選ばれた存在に感じられる」と、システマティックな仕様に物語性を付与することで、特別感を得られるゲームデザインに驚嘆したことを明かした。

 この「自分が主人公。自分が最強」と感じられる仕組みについては、「坂口さんたちのゲームを遊んで習ったこと」と返す吉田氏。飛空艇で旅立つ際にNPCから見送られる演出など、こだわりを持って制作していると語った。

 やはりそういった飛空艇などのシーンは坂口氏の心に残っているそうで、「初めて飛空艇に乗った時は松野に急かされながら記念撮影をした」と微笑ましいエピソードを披露した。

 

坂口氏「『FF16』か『FF14』で衣装をデザインしたい」

 最後に、RPGのこれからの可能性についての話題が挙がった。

 坂口氏はちょうど『FF14』をプレイ中だったため、「登場するミニオンやマウントをARで表示して、現実世界にRPGを広げる」といった想像をしたそうだ。

 一方で吉田氏はグラフィックスのコストが上がりすぎていることを指摘。リアルな表現になっていくほど“嘘”がつけなくなり、結果として物語のスケールが小さくなってしまうという。

 「大きく広がる世界をどのように表現していくのか、割り切るところは割り切って、コンセプトをまとめていかないと、完成しきらなくなってしまう」と解説し、世界を股にかける冒険といったような、壮大なスケールの作品をビデオゲームで制作するのが難しくなってきていると語った。

 また、自動計算で作られる疑似世界について、AIの技術も進化してきているものの、吉田氏自身は「あまり面白くない」と感じているようだ。

 AIによるレベルデザインも話題に挙がるが、坂口氏も「お手伝いにはなるけど、無理ですよね」とコメント。世界をただ広く作っても、遊びがなくなってしまう。

 吉田氏は「『ファンタジアン』は、ジオラマのそれぞれに世界があって、そこに物語を感じられる。手作りによって、作り手のクリエイティブが乗っているから、冒険している感じや住民が生きている感じがより味わえる。ただ、これをツールを使って壮大なスケールで作ったとき、果たしてその感じが出るのだろうか」と語った。

 トークの最後、坂口氏から「『FF16』のシナリオが無理だったら、『FF14』か『FF16』の衣装をデザインしたい」と急な提案が。「衣装!?」と最初は驚いた様子の吉田氏だったが、「本編からちょっと先のものでも大丈夫ですよね」と何やら確認し合った様子の両氏。今後実現に向けて話が進むことを期待せずにはいられない一幕となった。

▲「本編からちょっと先」が何を指すのかは気になるところ。『FF14』の追加パッチか、『FF16』か……。
▲現在、『FF14』はレベル60まで無料でプレイ可能。だいたいRPG2作品分くらいのボリュームが楽しめる。

 2021年11月23日には、『FF14』の最新拡張パッケージ『暁月のフィナーレ』が発売予定。坂口氏も「『ファンタジアン』で引退しよう思っていたが、次の話も沸いてきたので、また近いうちに何か作り出せたらいいな」とコメントした。

 互いにリスペクトを欠かさない両氏の対談は、驚くほど濃密な50分となった。そしてどうやら、2人の作品はこれからもまだまだ楽しむことができそうだ。

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森口 拓海(Takumi Moriguchi)
雑誌やWEBメディアを中心に記事を執筆。ゲームは雑食で多様なジャンルを好み、業務の延長でアプリ分析も得意。恩のあるゲーム業界に貢献すべく日々情報を発信。

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