日本産ゲームの海外市場進出を成功に導くために「Facebook Gaming」が掲げる戦略。ユーザー獲得とマネタイズが焦点【TGS2021】

 2021年9月30日(木)から10月3日(日)までの4日間、ゲームイベント「東京ゲームショウ2021 オンライン」(以下、TGS2021)が開催。新型コロナウィルス感染拡大を防止する観点から、オンラインを中心に行われた。

 本稿では、9月30日(木)に実施されたTGSフォーラムセミナー「日本のゲームを世界へ! 海外進出成功のためのFacebook活用戦略」の模様をレポートしていく。

【講演者】

新井 陽介氏
フェイスブック シンガポールクライアント・パートナーマネージャー、 グローバル・ゲーミング
只隈 茂朗氏
フェイスブック シンガポールフェイスブック オーディエンスネットワーク ジャパン リージョナルマネージャー
鈴木 哲郎氏
アップスフライヤージャパンセールスディレクター

 

 

Facebook Gamingのグローバル市場におけるゲームトレンド

 世界30数億人以上が利用するまでに人気を集めたFacebookにおいて、ゲーム業界は大きな成長要因のひとつ。ゲーム業界のサポートを目的に誕生したFacebook gamingでは、より多くのゲーム企業の海外進出の成功事例を増やすべく、様々な施策が行われている。

 セミナーの前半では、そんなFacebook gamingのグローバル市場におけるゲームトレンドについて、アップスフライヤーの鈴木氏から説明が行われた。

 2020年はコロナ渦で人々がソーシャルディスタンシングを強いられた状況を背景に、モバイルゲーム市場が新たな高みに到達した年だといえる。前年と比較しても売上、インストール数の両方で大きな上昇を見せた。

 2020年は特に、上四半期でのインストール数の上昇が目覚ましく、オーガニックそしてのノンオーガニックの両方で3月と4月以降ピークを迎えている。最も伸びたゲームはカジュアルゲームとハイパーカジュアルゲームで、インストール数は前年比で30%以上も増加している。

 ほぼ全ての国々でゲームアプリへの需要が高まっている中、最も成長著しいのがインド、ブラジルの2つのマーケットだ。インドでは、2020年にゲームが爆発的に普及。年間を通じて、90%の成長を示している。特に巨大なユーザーベースを持つインドの中で、第2四半期以降のマーケティング活動が急成長している。

 さらに、インドの国民的スポーツであるクリケットのトーナメント期間中に行われたオーガニックのプロモーションにて、さらなる成長の促進が見られたという。結果、インドは2020年グローバル全体のインストール数のうち、12%のシェアを占めるまでに成長。鈴木氏によれば、「インストール数において、インドがアメリカを抜いたという瞬間」でもあるという。

 収益に関しても、インドのIAP(アプリ内課金)による収益は3倍まで増加。アメリカなどのティア1国と比べるとまだまだ低い値ではあるが、同時に獲得コストも非常に低いため、「インドの大きなユーザーベースと費用対効果を考えると、無視できない数字となっている」と鈴木氏は続けた。

 その一方で、世界的なゲームアプリへの需要の伸びにも関わらず、アクティブユーザーの伸びは緩やかであるという。こういった減少について鈴木氏は、「ユーザーが様々なゲーム、特に複数のカジュアルゲームをプレイし、短期間でゲームを渡り歩いてるという傾向がある」と推測。

 アプリ内収益については、iOSの課金ユーザーの割合が高く、課金率は3.5%ほど維持して年間を通じて増加傾向にある。対してAndroidの課金ユーザーはおよそ2%で、前年と比べてもあまり上昇の傾向は見られない。国別で見ていくと、韓国、日本、アメリカが年間を通じて課金率が特に高く、逆にインストール数が爆発的に増えたインドやブラジルなどでは、課金率については大きな変化は見られなかったとのことだ。

 しかし、プレイヤー数が大幅に増加したことも原因し、総収益を見たときはインドで3倍、ブラジルで1.25倍の成長になっている。CPIに関しては特にiOSが高騰しており、グローバルでは平均20%の上昇に。結果としてiOSのノンオーガニックインストールが35%も減少する結果となった。

 CPIが高騰した要因について、鈴木氏は2つの理由が挙げられるという。1つ目はコロナ渦でモバイルゲームの可処分時間とその需要が増加したことによって、その需要に目を付けた各社がプロモーションを強化したこと。

 2つ目は、2020年の初頭からiOS 14.5のユーザープライバシーに関する話題が出たことだ。限定的な広告追跡や、ターゲティング可能なユーザーの母数が減少したことも重なり、キャンペーンのCPIが高騰したという。

 特にiOSのシェアが高い国ほどこの影響は大きく、アメリカでは平均のCPIは20%上昇、そして日本でも16%上昇するという結果になっているとのこと。ちなみに、Androidのコストはそれほど変わっておらず、特にエマージングマーケットを中心に全体のインストールを牽引する結果となっている。

 コロナ渦でさらに複雑化するゲームマーケットの中、iOS 14.5以降でのプライバシーの強化などの変化もあり、市場はさらに影響を受ける形に。コストが上昇していく中でのマーケティング活動について、鈴木氏は獲得のチャネルと、獲得の市場を多様化していくことを勧める。

 Androidユーザーが多い市場ではiOSのCPIの高騰の影響を受けにくいため、「インドやブラジル、インドネシア、中東、ラテンアメリカなどの現在急成長している新興の地域に獲得の場を広げていくということも重要」だと鈴木氏は続けた。

 また、アンインストール率は獲得の初日に最も高い傾向があるため、最初のユーザー体験が出来る限り摩擦が無い状況にすることが大切だという。ユーザーが広告内のクリエイティブや、オウンドメディアで発見したアプリ内コンテンツへと、よりシームレスに移動ができるよう、ディープリンクを活用したり、ダウンロードから初回起動、そしてその後のプレイまで一貫したプロセスを提供し、ユーザの離脱を防ぐことがポイントだと話した。

 鈴木氏は最後に、「エンゲージメントの高いユーザーを提供するチャネルやキャンペーン、クリエイティブ、地域についての可能な限り詳細な計測と、そこから得られるインサイトにより、どのようなアクションを行っていくのかを判断することが、さらなる複雑化、そして競争が激化するゲーム社会の中で成功する鍵となっています」とまとめた。

 

FacebookのグローバルUA戦略とは

 続いて、新井氏によりFacebookのグローバルUA(ユーザー獲得)戦略について説明が行われた。

 日本のゲーム市場は緩やかに伸びてはいるものの、その多くが海外企業によるもの大きく、日本のゲーム企業の日本国内のシェアは年々縮小傾向にあるという。一方でグローバル市場におけるモバイルゲームの市場規模は日本の約6.2倍といわれ、日本よりも高い成長率を持続しているそうだ。

 このようなグローバル市場における機会を最大化するため、Facebookでは海外の特性を考慮したグローバルUA戦略と、後述するマネタイゼーションの2点を重要視していると新井氏は続ける。

 グローバルUA戦略についてFacebookが提案しているセッションのひとつが、「ワールドワイド・ターゲティング機能」。Facebookの広告ソリューションでは海外市場への効率的な配信を可能にするために本機能を用意しており、これにより広告主は全世界のユーザーに対して、効率的に広告を配信することが可能となっている。

 そのほか、Facebookは2020年にアプリの自動広告をローンチ。アプリインストール広告を実施するための新しい方法で、過去にマニュアルで行っていた設定作業の多くを自動化することにより、少ない労力でのビジネス拡大が期待できるとのこと。

 ターゲットのアプリストアと国、最適化目標、クリエイティブを送信するだけで機械学習が機能し、最もパフォーマンスの高いクリエイティブを、最も関連性の高いオーディエンスに配信することが可能となると新井氏は説明した。

 しかし、アプリの自動広告のようにマーケティングの自動化が進んだとしても、世界各国のユーザーとのエンゲージメントを高めるためには、クリエイティブにも工夫が必要となる。

 そこで新井氏が推奨するソリューションが「The Big Catch」だ。本ソリューションはゲーマーがゲームを行う動機を8つに分類し、広告主のクリエイティブ制作のサポートが可能に。ターゲットとするメインの配信国において、これら8つの動機の内、最もゲームプレイと関連性が高い動機を抽出し、様々なユーザーに適したクリエイティブを作成できようになっている。

▲「The Big Catch」の実例。シミュレーションゲーム『Hotel Empire』は、プレイヤーの8つの動機のうち最も強力な4つの動機を選択し、動機を生かした独自性のあるクリエイティブを作成している。

 ゲームプレイの動機の観点から様々なユーザーに適したクリエイティブを用いることにより、該当ユーザーに対して適切なクリエイティブを届けることが可能になる。ユーザーとのエンゲージメントを高めることで、グローバル配信において広告パフォーマンスを最大化が狙えるとのことだ。

 また、新規ユーザーのエンゲージメントを高める施策として、ARフィルターを活用する事例もあるという。このような新たなフォーマットを用いることで、従来のゲーマー以外の層に対してもアプローチが可能となっている。

 実際に『サマナーズウォー: Sky Arena』では、『ストリートファイター』とのIPコラボレーションにおいて、複数のARフィルターを活用。通常の広告に比べてインストールの獲得効率が約2倍、またブランド認知獲得のコストポイントが約3倍と、非常に良いパフォーマンスを出すことに成功。新たなクリエイティブフォーマットを活用することで、新規および既存ユーザーとの接点を増やす事に成功した事例だと言えるだろう。

 コロナの影響で多くの広告主のデジタル化が進み、オンライン広告の利用が増加したことや、ユーザープライバシーへの関心が高まったことにより、新規ユーザー獲得のためのメディアコストが上昇。そのため、ゲーム内でのユーザーとの接点構築、つまりはコミュニティの活用が新たなエンゲージメント手段として注目されていると新井氏は言う。

 コミュニティに属するゲーマーの方がそうでないゲーマーに比べて、2~4倍ほど1日3時間以上ゲームをしやすいというデータもあるそうだ。特に日本のコミュニティユーザーの場合は3.7倍と他の国に比べても高く、いかにコミュニティの形成が大事であるかが分かる。

 1ユーザーのゲームプレイ時間が長くなるほど、マネタイズの機会が増えるだけでなく、彼らの周辺にいるユーザーに対しても影響を与える機会が増え、結果としてより多くの新規獲得に繋がる可能性がある。

 コミュニティゲーマーの調査によると、コミュニティを有した友人同士のエンゲージメントは、彼らにゲームのダウンロードや、ゲームをプレイする意思決定に最大で7倍影響する可能性があることが判明したという。プレイ時間だけでなく、コミュニティゲーマーの方が日本だと約3倍課金しやすいというデータもあるそうだ。

 Facebookでは前述したようなコミュニティ形成を促進するため、Facebookページ、グループ、ライブ機能など様々なツールを用意しているとのこと。新井氏は最後に、「今後海外進出をお考えの際は、ぜひFacebookコミュニティツールの活用をご検討いただければ」と呼びかけた。

 

マネタイゼーションでは海外の特性とゲームジャンルを考慮

 セミナーの後半では、多田隈氏によりマネタイゼーションについての説明が行われた。まずはiOS14.5のリリース後のアプリ内広告収益について、IDC(インターネットデータセンター)の資料を用いて紹介。

 パブリッシャーに支払われるモバイルゲームの広告収入の年平均成長率は前年比17%と増加しており、2021年におけるiOSの変更を考慮しても、「2022年には全世界でパブリッシャーに支払われるモバイルゲーム内収益は、440億ドルに迫る」とIDCは予測している。

 ゲームアプリ内の広告収益が増加しているだけでなく、動画リワードに対するハードコアとミッドコアのモバイルゲームプレイヤーのセンチメント(市場心理)が、特に高いということも明らかになったそうだ。

 価値あるゲーム内リワード獲得できることがその理由で、IDCが2020年2月に公開したレポートによると、70%を超えるハードコアゲームのプレイヤーが動画リワードについて「好き、または構わない」と感じているそうだ。

 マネタイズ方法はゲームジャンルによって異なると言われており、多田隈氏は「カジュアルやハイパーカジュアルだと、動画リワード、インターステイシャル、アプリ内課金のミックスが最適」だと説明。その一方で、ミッドコアやハードコアゲームの場合は、動画リワードとアプリ内課金のミックスが最も使われている収益化手段となっているとのこと。

 Statista(スタティスタ)のレポートでは、カジュアルでは約40%、アーケードでは63%が広告となるケースが多いという結果が出ている。

 広告マネタイズというと広告収益に目が行ってしまいがちだが、アプリの滞在時間の増加も期待ができると多田隈氏は言う。世界各国で広告マネタイズSDKのインストールから1か月で合計滞在時間が増加したという結果が出ており、3ヶ月で合計滞在時間の変化の割合がさらに拡大していると説明した。

 多田隈氏は最後に、iOS14.5以降はWaterfallの管理が複雑化していることから、「Facebook Audience Networkではアプリ入札への切り替えを勧めている」と紹介し、セッションを締めた。

 グローバル市場への進出について、ゲームトレンドやUA戦略、マネタイズ面での取り組みが語られるなど、いかにFacebook Gamingの活用が重要かが良く分かるセッションとなった。

 Facebook Gamingでは現在、UAやマネタイズのサポートだけでなく、デベロッパーとユーザーを繋ぐためのプラットフォームを提供しているほか、メタバースに関する取り組みも行っているとのこと。興味のある方は、Facebook Gamingまで問い合わせてみてはいかがだろうか。

Facebook Gaming公式サイト:https://www.facebook.com/fbgaminghome?locale=ja_JP

 

この記事が気に入ったら
いいね ! お願いします

Twitter で
島中 一郎(Ichiro Shimanaka)
島中 一郎(Ichiro Shimanaka)https://www.foriio.com/16shimanaka
ライター。ゲーム・アニメ業界を中心にニュース記事の執筆、インタビュー、セミナー取材などマルチに担当。ボードゲームが趣味であり、作品のレビューや体験会のレポートを手掛けるほか、私生活で会を催すことも。無類のホラー好き。

PickUP !

急成長のNextNinjaが全職種積極採用! 代表・山岸氏が本気で求める人材像とは

[AD]飛躍の時を迎えつつあるNextNinjaは今、全力で新たなチャレンジャーを探している。「全職種積極採用」を掲げる組織戦略と、求める人材像とはいかなるものなのか。代表の山岸氏に直接話を聞いた。

Related Articles

リニューアル及び新サイト移行作業につき更新一時停止中

具体的な日時は調整中ですが、リニューアル及び新サイト移行作業が完了した際には、PickUPs!上でもお知らせ致します。またメールマガジンにご登録していただいた方には優先して告知致します。

Stay Connected

TOP STORIES