「IP」を徹底解剖。ストーリー→キャラ→世界観…成長・ヒットの過程でIPの方向性が変貌する【CEDEC2021】

 2021年8月24日(火)から26日(木)までの3日間、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス「CEDEC2021」(CEDEC=セデック:Computer  Entertainment Developers Conference 主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会、略称CESA)が開催。昨年に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大を防止する観点から本年もオンラインで開催された。

 本稿では、8月26日(木)に実施された講演「キャラクター経済圏とIPクリエーションの視点から望む、ニューノーマル時代におけるメディアミックスの新パラダイム」の模様をレポートしていく。

【講演者】

中村 彰憲
立命館大学映像学部教授。日本デジタルゲーム学会会長。立命館大学ゲーム研究センターセンター長。博士(学術)/名古屋大学大学院国際開発研究科修了。主な著書に『中国ゲーム産業史』(Gzブレイン)『ファミコンとその時代』(NTT出版、共著)、『なぜ人はゲームにハマるのか』(ソフトバンクパブリッシング、共著)、『中国ゲームビジネス徹底研究』(エンターブレイン)など多数。
イシイジロウ
ゲームデザイナー、原作・脚本家。リクルート関西支社やカルチュア・コンビニエンス・クラブで広告・宣伝担当を経てゲーム業界に転職。チュンソフト(2000年入社)、レベルファイブ(2010年入社)において、おもにアドベンチャーゲームのシナリオ・監督・プロデュース、ディレクションを務めたのち、2014年に独立。2015年株式会社ストーリーテリング設立。独立後はビデオゲームだけでなく、アニメーションや舞台、ドラマ作品などでも活躍。代表作は『428 ~封鎖された渋谷で~』『タイムトラベラーズ』『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』『文豪とアルケミスト』『新サクラ大戦』『マジカパーティ』など。
中山 淳雄
エンタメの再現性を追求し、経済圏を創出する(株)Re entertainment代表。DeNA、デロイト、バンダイナムコスタジオ、ブシロードで北米、アジア向けのメディアミックスIPプロジェクト推進、アニメ・ゲーム・スポーツの海外展開を推進。現在は早稲田大博士課程に在籍しながら慶応大学/立命館で客員研究員。著書に『オタク経済圏創世記』『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)ほか。

 

  

 

時代と共に変わる、キャラクター経済圏の中心軸

 日本のゲーム企業は、これからの時代にグローバルでメディアミックスを展開するうえでどのような戦略をとるべきか。本講演では、それぞれの知見を最初に発表したうえで、ディスカッションを行うという流れで進行した。

 まず中山氏による、ゲームから生み出されるキャラクター経済圏についての解説からセッションが開始。クロスメディアやメディアミックスをはじめ、総体として「大きな物語」を展開するトランスメディアストーリーテリング(以下、TMS)など、ひとつの作品から映画やテレビ・ゲームというように商品化しながら、どのようにキャラクターが経済を作っていくかが語られた。

▲中山氏の著書である『オタク経済圏創世記』に記載されている世界のキャラクター経済圏マッピング。基本的に、日本と米国が大量のキャラクターを作ってきた歴史があり、キャラクター経済圏は米日主導の発明品であると解説した。

 一例として、『ポケットモンスター(以下、ポケモン)』のキャラクター経済圏規模が紹介された。『ポケモン』は単独で10兆円の経済圏を作っており、生まれてから最初の5年間で1兆円規模の市場が形成されている。

▲『ポケモン』のゲーム市場推移。

 『ポケモン』は、ゲームはもちろん、カードゲームやマーチャンダイジング(MD)といった様々な形で展開しているが、ゲームの市場推移を見ると、家庭用(ハード)はやや縮小気味だったのに対し、モバイルや家庭用(ソフトオンライン)といったオンラインコンテンツが、過去5年で急激に成長している。

 また、時代に合わせてゲームが生み出されるプラットフォームも変化しており、玩具やMDからといった時代から、アニメ・映像PKGへと移り、近年は配信からゲームが生まれる時代になっている。さらに現代では、IPの商品化展開のひとつとして生まれるゲームと、『マリオ』シリーズや『Minecraft』のようにゲームからIPが生み出だされるという形へと変化している。

▲1982~2020年のゲーム市場の推移。

 このように、IPを生み出すキャラクター経済圏の中心軸も、20年単位で変異していると語った。

▲メディアミックスプロジェクト『BanG Dream!(バンドリ!)」のユーザー基盤育成の表。アニメを発射台として、ゲームやイベントなどを使いながら、ユーザーの母数を増やしていくという形になっている。このように、時代の移行に合わせてキャラクター経済圏もオンライン化しており、デジタルメディア(SNSやアプリ)を使用したDailyでのサービスアップデートが、ユーザー育成の肝になりつつある。

 次に中山氏が考案した、アニメ製作委員会を中心としたキャラクター経済圏を、恒星と惑星に見立てて表現した図によって解説。

 上画像の図を使用して、『ドラゴンボール超』の経済圏形式を解説。全体を合わせて約2500億円の金額をひとつのアニメから作り出しているという。また、1個の商圏が作り出す経済規模の大きさを見ると、約6割をアプリゲームが支えている状況となっているが、これをどのように維持していくことが、次の課題になっていくとした。

 ここまで解説した様に、最初は単一商品の販促だったキャラクター経済圏が、各商品展開によってユーザー規模を最大化することがミッションになってきていることを説明した。

 さらに、ユーザーを引き付ける者として「多種類の商品供給」や「継続的なストーリー展開」、「統一したストーリーの深み」などがある。これらが生み出すクロスメディア・メディアミックス・TMSといったものが、キャラクター経済圏の未来を創るものであると思っているとして、発表を締めた。

 

3つの分類から見る、ヒットしたIPの形とは

 続いてゲームデザイナーのイシイ氏の解説に移る。同氏は、物語の作り方からIP・世界観について、『アイアンマン』をはじめとするマーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)が成功する背景について、とある法則があることを見つけたという。

▲イシイ氏の著書である『ストーリーのつくりかたとひろげかた』。

▲イシイ氏の著書である『IPのつくりかたとひろげかた』。

 そもそもIPとは知的財産権を略したもので、エンターテイメント業界では、発明やタイトルの商標などを組み合わせたものを示している。たとえば、『ディズニー』や『ポケモン』のように、単体のタイトルではなく、シリーズやキャラクターといったものが拡大し、知的財産になったものをIPと考えるのが、作り手としてはわかりやすいと表現した。

 イシイ氏は、そんなIPを「ストーリーIP」「キャラクターIP」「世界観IP」という3つに分類した。もともとストーリーIPだったものからキャラクターIPに育ち、世界観IPになっていくとのこと。つまり、最初から世界観IPになっているケースはほとんどないそうだ。

▲代表的なストーリーIP。昔のヒット映画というのは、ほとんどストーリーIPから生まれて成功しているという。
▲日本の興行収入を見てみると『タイタニック』やジブリ作品など、ほとんどがストーリーIPとなっている。

 このようなストーリーIPの弱点として、続編が作りにくく、もし製作しても成功しない、長く続かないという点があるそうだ。『ターミネーター』や『エイリアン』といったヒットシリーズでさえも、どうしても印象に残るのは初期作になってしまう。

 この弱点を超えられるのが「キャラクターIP」だ。

▲代表的なキャラクターIP。

 キャラクターIPは、世界のなかでも日本が強いというイメージがあるという。なかでも、週刊少年ジャンプなどを発行する「集英社」が強いと思われるが、実際には週刊少年サンデーや月刊コロコロコミックを発行する「小学館」が得意としているそうだ。

 キャラクターIPの歴史というのは古く、シャーロック・ホームズをはじめ、007(ジェームズ・ボンド)やハリー・ポッターなど、今でも続編が作られているものが多い。また、歴史が古いキャラクターIPは、演者の世代交代が成功しているという特徴があり、歴史を超えて活躍できるようになるという。

 このように、キャラクターIPは非常に強いIPではあるが、クリエイターや演者に縛られてしまい世代交代がうまくいかない場合がある点や、メディアミックスが難しい部分が弱点である。これを超えられるのが「世界観IP」になる。

▲代表的な世界観IP。スター・ウォーズは映画で世界観IP化を失敗したが、TVシリーズで持ち返している。
▲世界の興行収入を見ると、ほとんどが世界観IPであり、ストーリーIPはほとんど無くなってきているそうだ。

 また、世界観IPに移行するためには、世代交代が必要になる。クリエイター・演者・主人公に加えて、ファンの世代交代が実現すれば、真の世界観IPとなると解説した。

 世界興行収入TOPとなった『アベンジャーズ/エンドゲーム』と、日本興行収入TOPの『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』には、「単体で見てもストーリーがわからない」という共通点がある。これは特殊な状況であり、これから世界のエンターテイメントを支配していく作品の方向性のヒントになるとして、解説を締めた。

 

登壇者による、TMS型作品をテーマにしたディスカッション

 ここからは中村氏、イシイ氏、中山氏によるディスカッションの内容の要点を、抜粋して記載する。

◆経営者として見る際、ハリウッドが行っているようなTMSを、
 日本で実施する際の懸念点

 様々なメディアで世界観を展開するMCUのような世界観IPを、もし日本で行うとなった際に可能なのか。

 この問いに対し、中山氏は、「イシイ氏が話していたとおり、IPはストーリーIPからキャラクターIP、世界観IPへと進化していくと解釈しており、最初から世界観IPを作ろうとしても上手くいく確率が低く、実際に行っているのは見たことがない」と解説。ストーリーから始まって2作目・3作目でようやく世界観IPになっていくのではと語った。

 またイシイ氏は、「IPは作家性や属人性といったものから生まれるもので、最初からビジネスでIPを立ち上げるとうまくいかない。作家が積み上げてきたものがストックされた時に、それがMSTの材料になる」とのこと。

 例として、『Fate』シリーズでMST的な動き方をしたのは、原作者である奈須きのこ氏ではなく、虚淵玄氏がシナリオを担当した『Fate/Zero』であるという。

 原作者から属人性を微妙に廃して、別の『Fate』が立ち上がった『Fate/Zero』をきっかけに、いろいろな作家が参加する流れを作ったところで生まれたのが『Fate/Grand Order』だと解説した。この次のステップとして、原作者が参加しなくても同じようなクオリティを提供できるようになれば、現状の『ガンダム』のような位置に入れるのではと語った。

 また、MCUを成功させたプロデューサーのケビン・ファイギ氏のような動きを日本でしているのは、『ガンダム』シリーズのプロデューサーをいくつも担当している小形尚弘氏であるという。しかしそれが成功しているのは、その世界を生み出した富野由悠季氏といったクリエイターの属人性があってこそであると解説した。

 

◆オンライン配信サービス(OTT)全盛時の現在、
 TMS型作品が続々と生まれるのはなぜなのか

 中山氏は、MCUや『スター・ウォーズ』のような、世界観を広げて次々と作品を輩出していく形は、ネットの普及による情報入手の手軽さと、NetflixのようなOTTのプラットフォームが非常に大きいという。日本では資金のかけ方に限界があるので、難しいとも説明した。

 イシイ氏は、なぜTMS型作品にOTTが向いているのかを、TMS型作品が映画の三幕構成に収まり切れない情報量であるからだと解説する。

 単純に物量を多く出せるからであり、MCUがこの形にシフトしているという。また日本でTMSに向いているのは、4クールのアニメシリーズやノベルゲームのようなボリュームがある作品であり、この位の情報量がないと、TMSのベースとなる部分が足りないそうだ。

 

◆メディア・フランチャイズ(シリーズもの)を、
 トータルな物語体験として批評することはできるのか

 セッションの最後に、登壇者の3人がそれぞれシリーズとして展開している作品のTOP10を事前に選択したものを、順に紹介した。

▲中村氏の選ぶ作品。
▲中山氏の選ぶ作品。
▲イシイ氏の選ぶ作品。

 これを含めて、マニアックかつディープに残るという点で、クトルゥフ神話体系や『三国志』なども世界観IPに該当するが、TMSは基本的に商品であり、IPは誰かが所有していなければいけない。そのため手法的には同じだが、IPとは言えないため若干異なると説明した。

 

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寺村 一也(Kazuya Teramura)
ライター。ゲームに関連した書籍・WEBメディアで記事を執筆する傍ら、ゲーム実況・VTuber文化にも精通。幼少期からゲームを遊ぶ時間に制限があったものの、説明書や攻略本など関連書籍を読み漁りゲームの魅力に触れていく。その経験からプレイ以外の「観て楽しむ」という実況文化を学ぶようになる。

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