映画に求める“バイオらしさ”とは何か。『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』公開を機に考える

 1月28日より、映画『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』の日本公開がスタートしている。本作は、シリーズ累計の販売本数を全世界で1億2,300万本を記録した(2021年12月31日時点:関連サイト)「バイオハザード」シリーズを原作とした作品だ。

 「バイオ」シリーズ25周年を迎えた2021年に情報が解禁された本映画は、“原作を忠実に再現”するリブート作品として発表が行われていた。上映前に公開された予告映像では、ゲームの舞台である洋館や警察署を再現したセットをはじめ、ゾンビがこちらを振り向く場面など、ゲームシリーズを代表するシーンをふんだんに収録。

 予告映像はシリーズファンを中心に話題を呼び、動画再生数は317万再生超えを記録。公式Twitterによる予告編解禁ツイートは、1.2万リツイート、1.9万件のいいねを記録するほど注目を集めていた。

※以下、映画のネタバレを含む

 

 原作の再現度の高さが注目を集めていた本作だったが、実際にはストーリーやキャラクターに変化が加えられていたり、設定の深掘りを行おうとする試みも多数盛り込まれていた。具体的には、ゲームシリーズの『バイオハザード』(リメイク版)と『バイオハザード RE:2』のシナリオが1本にまとめられていたため、それに合わせてキャラクターや舞台の設定に変更が加えられている。

 「バイオ」シリーズ2タイトルを1本にまとめるというアレンジが加えられているものの、原作の設定を忠実に再現するという施策は、はたして上手くいったと言えるのか。その他、シチュエーションや登場キャラクターとクリーチャー、美術面など、原作ファンが映画に求める「バイオ」らしさとは何か、考えていきたい。

 

原作の魅力を最大限に活かした
ヨハネス・ロバーツ監督の映画作り

 「バイオ」シリーズを映像化した作品と言えば、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演の実写映画シリーズを思い浮かべる方も多いだろう。ミラ扮するオリジナルキャラクター・アリスと、アンブレラ社との戦いを描く内容で、2016年の最終章『バイオハザード:ザ・ファイナル』までに全6作が上映。全世界興行収入は1,200億円を突破する大ヒットシリーズとなった。

 作品を絶賛する声が多い一方、シナリオが原作と大きく異なっていたこと、ゲームキャラクターたちがあくまでゲスト的な扱いに留まっていたことから、「バイオ」ファンにとっては物足りなさを感じたという声も多かった。

 特にシリーズ2作目以降は、ミラが超能力が扱えるようになったり、自身のクローン軍団と共にアンブレラ社の襲撃に向かったりと、アクション要素が強化(関連記事)。常にギリギリの戦いが強いられるサバイバルホラー的な展開を期待していたゲームファンにとって、好みが大きく分かれる作品となったことは確かだろう。

 

 ミラ版『バイオハザード』シリーズの一件もあり、原作重視で製作が進められた新作映画『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』は、ゲームファンたちの関心を大いに集めることに成功していた。

 原作と同じく、映画の舞台として選ばれたのは1998年夏のラクーンシティ。クリス&クレア・レッドフィールドやジル・バレンタイン、アルバート・ウェスカー、レオン・S・ケネディなど、原作の人気キャラクターたちが集結している。

 監督を務めるのは、これまでに『ストレンジャーズ 地獄からの訪問者』や『海底47m』シリーズなどを手掛けたヨハネス・ロバーツ氏。ゲームシリーズの大ファンだというロバーツ氏は、映画公開前のインタビューにて原作愛を爆発。『バイオハザード5』の最終局面にてクリスが岩を殴打するシーンについて言及するなど、映画の構成について「とにかく入れたいものがたくさんある」旨をコメントしていた。

 実際に映画では、ゾンビが振り向くシーンだけでなく、窓からゾンビ犬が飛び込んでくるシーン(映画では車の窓ガラス)やヘリの墜落シーン、『バイオハザード CODE:Veronica』のキャラクターが登場するシーンなど、原作をオマージュした場面がとにかく多い。トラックの運転手とセットで登場するチーズバーガーや孤児院の門に描かれた子どもの絵、警察署のキーアイテムなど、美術面も細部に至るまでこだわりぬかれている。

 筆者は本映画を字幕版、吹き替え版の順で観ているが、2回目の視聴の際には1回目では気付かなかった多くのイースターエッグを発見することができた。本作の登場キャラクターであるシェリーの部屋には孤児院の門に描かれていたようなような独特なデザインの絵が飾られており、「門の絵はシェリーが描いたものなのでは?」と、ついつい妄想が膨らんでしまう。映画を観返すたびに新しい発見が得られ、世界観の奥行きを感じさせてくれるのは、本作の美術が優れている何よりの証拠だろう。

▲小道具やゲームの再現度に言及したインタビュー動画

 

 また、予告映像でも話題となっていた「かゆい うま(映画では「ITCHY TASTY」と英語表記)」のシーンについても言及しておきたい。「かゆい うま」の元ネタは、『バイオハザード』にてアーカイブとして読むことができる「飼育係の日誌」の一節だ。

 ウィルスに侵された飼育員がだんだんと意識が混濁していく中で書いたと思われる内容で、日誌の最後は「かゆい うま」という言葉の意味を成さない文言で締めくくられている。すぐ近くのクローゼットには日誌の持ち主と思われるゾンビが潜んでいるというオマケも用意されており、当時のプレイヤーに強烈な印象を与えたシーンだ。

 この一連の流れはそのまま映像化しても成立するようにも感じるが、本映画ではゾンビが窓に血文字で「かゆい うま」と書くという演出にアレンジされている。今にもゾンビが窓を突き破ってきそうな切迫したシーンから一変、ゾンビが血文字でメッセージを伝えてくるというシュールなシチュエーションに。

 元ネタを知っている人なら思わず頬を緩めてしまいそうな場面だが、次の瞬間、街の生存者が勢いよく部屋のテーブルの下に潜り込み、顔を見せぬまま主人公に逃げるよう(遠回しに)忠告を与えてくるからドキリとさせられる。そうして緊張感が最高潮になったタイミングでゾンビが窓を突き破り、主人公の元へと勢いよく襲い掛かって来るのだ。

 この驚きは、「かゆい うま」と書かれた日誌をただ朗読するシーンから体験することは決してできなかっただろう。観客の感情の起伏が見事にコントロールされた、映画ならではの名場面に昇華されていると言える。ゲームファンの需要にしっかりと応えながらも、そのファンにとって予想を超えるものを見せようとする、ヨハネス監督の手腕の高さがうかがえるシーンだ。

 もちろん、窓に「かゆい うま」と書かれるシーンに作為的なものを感じ、興覚めしてしまったという意見も理解できる。何より予告映像が公開された時点で既にネタバレしてしまっているため、事前情報を知ろうとチェックする熱心なファンほど嬉しいサプライズを奪われてしまうといった、皮肉なシーンになってしまっていることも確かだ。

▲「かゆい うま」のシーン(公開されている予告編)

 

「もっと観たかった」というポジティブな欲求不満が残る

 原作をリスペクトしている部分が多い一方で、至る部分でオリジナルの設定が盛り込まれているというのは前述した通りだ。登場人物の外見はゲームキャラクターに寄せられておらず、映像作品としてのリアリティを重視したビジュアルに。レッドフィールド兄妹は幼少期にアンブレラが関与する孤児院で育ったという設定に変更されており、アンブレラとの関係が深く掘り下げられたストーリーとなっている。

 原作では「ゲス野郎」とまで呼ばれたブライアン・アイアンズ署長の傍若無人な性格ぶりはスクリーンでも遺憾なく発揮されており、レオンとの掛け合いはスラップスティックな笑いを誘う。「S.T.A.R.S.」隊員を交えた作戦会議が行われる場面は、バイオファンがまさに観たかったシーンの1つだろう。ウィリアム・バーキンとその妻・アネット、娘のシェリーが家族団らんで過ごす場面も、原作では観られない貴重な癒しのシーンだ(一瞬で崩壊してしまうのだが)。

 メインキャラクターの中でも特にウェスカーは、トレードマークであるサングラスを掛けていないなど、原作との差は大きい。序盤はダイナーで居眠りするレオンにちょっかいをかけるシーンがあるなど、ユーモアたっぷりなキャラクターとして再構築がされている。サングラスを掛けていないことから目の動きや表情を読み解くことができ、仲間との会話を心から楽しんでいる様子など、人間的な魅力が引き出されているのも本作ならではの特徴だろう。

 仲間との強い絆で結ばれていたウェスカーが、何故ヴィランにその身を落としてしまったのか。本作はその理由について新たな側面から描こうとしていたが、残念ながらその試みはあまり成功していないように感じてしまった。メインキャラクターが5人も登場する都合上、それぞれの人物像について掘り下げていく時間があまり与えられておらず、「S.T.A.R.S.」隊員を裏切る理由について説明不足である印象が否めないのだ。

 フォローをしておくと、序盤のトラックの運転手とクレアとの会話や、ダイナーに立ち寄った警官たちの会話により、理由について暗示されてはいる。ただし、裏切りを決定づけるエピソードまでが描かれていないため、ストーリーの細かい部分については自身で想像し、脳内保管していく必要が生じてしまっていることは確かだ。

▲5人のメインキャラクター

 

 ウェスカーと同様に、上映時間の足りなさを感じてしまったのは、リサ・トレヴァーが活躍するシーンにもある。シリーズについて知らない方に簡単に説明しておくと、リサはアンブレラ社による生体実験によって生まれたクリーチャー。人皮を繋ぎ合わせた醜悪なマスクと、長い手足に枷をはめた不気味な姿が印象的で、いくら銃弾を撃ち込んでもひるまず襲い来る無限の生命力に畏怖したプレイヤーは多い。

 そんな難敵・リサが、本作ではクレアの強力な助っ人として登場するのだから、展開に驚いた方も多いことだろう。主人公たちをかばい、クリーチャーを撃退してくれるほか、キーアイテムを手渡してくれるという徹底した献身ぶりだ。

 これまでにも『バイオハザードII アポカリプス』ではネメシスが、『バイオハザード ディジェネレーション』ではリッカーが共闘してくれる展開はあったが、謎解きまで手伝ってくれる場面は無かった。意外性たっぷりな驚きを与えてくれている一方で、「何故ここまで尽くしてくれのか?」という強い疑問も抱いてしまう。

 一応の理由としては、地下の実験室を抜け出してきたリサが孤児院にいたクレアを気に入り、友だちとして認識したというエピソードが用意されている。一方で、クレアにはアンブレラの実験体として利用されそうになった経験から、リサに対して強い共感の念を抱いているという設定がある。

 そういった背景から2人は心を通わせることができたのだ……ということなのだが、その関係性を裏付けるシーンが抜け落ちてしまっている。例えば、クレアが徐々に幼少期の頃の記憶を取り戻していく過程の中で、実験体にされる寸前でリサに救出してもらっていたことを思い出すといった、分かりやすいエピソードが挿入されても良かったかもしれない。何にせよ、2人の関係についてもっと知りたいといった、ポジティブな欲求を抱かせてくれたことは間違いない。

 

 原作の設定を忠実に再現する一方で、「バイオ」シリーズ2タイトルを1本にまとめるという施策や原作では描かれなかった部分についてスポットライトを当てるなど、映像作品ならではのアプローチが行われていた本作。

 上映時間が107分という短さから説明や描写が足りないように感じてしまうものの、リアルな感情や決断力を感じさせるキャラクター描写、細部までこだわり抜かれた美術により、「もっと観たかった」という欲求を強く掻き立てる魅力ある作品に仕上がっていたと言えるだろう。

 『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』は、全国の劇場で絶賛上映中だ。

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島中 一郎(Ichiro Shimanaka)
島中 一郎(Ichiro Shimanaka)https://www.foriio.com/16shimanaka
ライター。ゲーム・アニメ業界を中心にニュース記事の執筆、インタビュー、セミナー取材などマルチに担当。ボードゲームが趣味であり、作品のレビューや体験会のレポートを手掛けるほか、私生活で会を催すことも。無類のホラー好き。

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