スマホゲームで必要不可欠な存在となった倍速・オート機能
「タイムパフォーマンス」(時間対効果)という用語が象徴しているように、近年では1日の限られた可処分時間をどれだけ効率良く扱うことができるかが重要視されるようになってきた。
映画やゲーム、アニメ、ドラマ、漫画などが見放題・読み放題・遊び放題になるサブスクリプションサービスが溢れかえっている中で、今や動画を倍速再生するほか、動画を観ながらゲームをプレイするといったスタイルも珍しくない。
クロス・マーケティング(関連サイト)による動画の倍速視聴に関する調査(2021年)によると、20代は他年代に比べて動画を倍速で視聴した経験の割合が高いという結果が出ている。特に、20代男性は54.5%と、半数以上が動画コンテンツを倍速で視聴した経験があるとのことだ。
動画配信サービス「Netflix」や動画配信サイト「YouTube」では、倍速再生がデフォルトの機能として導入されている。Netflixは1.5倍速まで、YouTubeは2倍速までの動画再生が可能だ。普段の倍以上のスピードで流れゆく映像を楽しめるかどうかは人によると思うが、短い時間でより多くの情報に触れることができる時代になったことは確かだ。
ショートムービープラットフォーム「TikTok」は、2021年7月に世界の総ダウンロード数が30億回を記録。同月には長さ動画の制限が60秒から3分に延長するといった変更が加えられているが、短い時間内に情報が詰め込まれた動画の需要も高まってきていると言える。
スマホゲームでは、RPGやシミュレーションゲームの戦闘パートにおいて、当たり前の倍速機能やオートモードが導入されている。ストーリーパートにおけるキャラクター同士の会話シーンなどは丸ごとスキップすることができ、空いている時間にまとめて再生するといった機能が実装されている作品も多い。
リリース後10か月で1,200万DLを突破したほか、日本ゲーム大賞2021優秀賞や「ネット流行語100」2021年間大賞など様々な賞を受賞した『ウマ娘 プリティーダービー』にも、ゲームスピードを倍にする機能が実装されている。
ウマ娘の育成パートを倍速で進めることができ、レース中の様子はもちろん、レース後のウイニングライブもスキップができるなど、ユーザーが待ち時間無く能動的なプレイができるよう徹底して配慮されている。
『原神』や『モンスターストライク』、『パズル&ドラゴンズ』、『Fate/Grand Order』など数多くの人気アプリゲームがある中、複数のアプリを切り替えながらプレイしているユーザーも多い。今後も大作アプリが続々とリリースされていく中で、いかにプレイヤーが手に取りやすい環境を整えることができるかが焦点となっているのだ。
500時間遊べるゲームに不満が噴出してしまう理由
1993年にチュンソフト(現:スパイク・チュンソフト)よりリリースされた『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』は「1000回遊べるRPG」というキャッチコピーで話題を呼んだが、今ではネガティブな反応が返ってきてしまうかもしれない。
2022年2月4日リリースされたオープンワールドアクションRPG『ダイイングライト2 ステイ ヒューマン』は公式Twitterにて、プレイ時間が最大で500時間に及ぶというメッセージを発信。作品のボリュームに期待の声を上げるファンがいる一方で、「プレイ時間が長すぎる」といった否定的な意見も多く寄せられていた。
『ダイイングライト2』の価格は、8,778円(税込)。約9,000円を支払って500時間も遊べることは、本来であれば「コスパが良い」と歓迎されそうなものなのだが。1本をクリアするのに500時間もかかってしまうことは、ユーザーによっては“コスパが悪い”ならぬ「タイパが悪い」とマイナスに捉えられる危険性も孕んでいるのだ。
これにはもちろんタイパが悪いという問題だけでなく、「作業感の強いクエスト的な要素を多く含んでいるのではないか」などの不安もあってのことだろう。公式Twitterはその後、「普通のプレイヤーであれば100時間以内でストーリーとサイドクエストを終えることができる」というメッセージを発信している。サービス精神から発せられたメッセージが、思わぬ形で捉えられてしまった一例だ。
やり込み要素のある作品といえば、日本一ソフトウェアの「魔界戦記ディスガイア」シリーズだろう。本作は「史上最凶のやり込みシミュレーションRPG」というフレーズ通り、キャラクターの最大レベルは1000万を超えて成長を続けていく。強敵を倒せば新たな強敵が現れるため、さらにキャラクターを強化させる理由が生じるといった、まさに底なしのやり込み要素が用意されているタイトルだ。
そんな「魔界戦記ディスガイア」シリーズも、最新作『魔界戦記ディスガイア6』では倍速機能とオート戦闘が実装されていた。戦闘は32倍速にまで対応してくれるうえ、ステージを自動周回してくれる機能まである。
ゲームを起動して放置しておけば、AIが自動でレベリングを続けてくれる。気が向いたときにゲーム画面をチェックしては数値の増え幅を見て楽しむ、放置ゲームやクリッカーゲームに通ずる楽しさが備わっているとも言えるだろう。
オート機能を取り入れた理由について、日本一ソフトウェアの代表取締役社長である新川宗平氏は、配信中のアプリ『魔界戦記ディスガイアRefine』にて実装した自動戦闘が快適だったことを説明している(関連記事)。スマホゲームで実装した機能を、コンシューマーゲームに逆輸入したというわけだ。
新川氏はまた、アンケートやネットの書き込みなどからリサーチを行っており、プレイ時間が長くかかってしまうことや、操作の煩雑さといった先入観を無くすことも目標に掲げていたそうだ。
同じくシミュレーションRPGの『スーパーロボット大戦30』(以下,スパロボ30)についても、「遊び方を今の時代に合わせる」というコンセプト(関連記事)のもと、家庭用シリーズ初となる「AUTOバトル」が導入されている。
AUTOバトルは『スパロボ30』がリリースされる前にサービスが開始されたスマホゲーム『スーパーロボット大戦DD』(以下、スパロボDD)に既に導入されていた。『スパロボ30』にAUTOバトルの導入を決定した経緯には、『スパロボDD』でのユーザーの反応がポジティブだったことも背景にあるのだろう。
スマホゲームにおいて、ほぼ必須の機能と化している倍速・オート機能だが、コンシューマゲームにおいても無視することができない存在となってきていると言える。
タイパにおける最適解は倍速・オート機能だけではない
オート機能において大胆なアプローチを試みていると感じたのが、アドベンチャーゲーム『大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟- 』だ。プレイヤーは弁護士として事件の真相を追求していくというのがゲームの主な流れとなるが、本作には謎解き要素も含めて、全てのパートが自動で進行できる機能が用意されている。
ストーリー中の謎解きを楽しむ作品ではあるが、頭を悩ませる時間すらもったいなく、ストーリーだけを抜き出して楽しみたいというニーズもあるわけだ。
「THE GAME AWARDS 2021」にて「Best Role Playing Game」を受賞した『テイルズ オブ アライズ』も、オート戦闘を採用。戦闘の難易度は7段階に細かく分けられており(無料DLCで追加された要素を含む)、高難度ほど獲得できるSP(キャラを強化するために必要な経験値のようなもの)が向上する仕組み。ストーリーをサックリ楽しみたいユーザーからゲームを隅々まで遊び尽くしたいユーザーまで、幅広いニーズに対応がされている。
一方で、2021年10月にリリースされた『Voice of Cards ドラゴンの島』のように、作品の世界観を重視するために、あえてゲームスピードを落とすという試みも行われたケースもある。本作は、マップ移動や敵との戦闘など、様々な演出のほとんどをカードで表現するといった、一風変わったRPG作品。
テーブルトークRPGのゆったりとした雰囲気を楽しんでほしいという制作陣の思いから、意図的に遅めのスピードに設定がされていた。が、敵との戦闘を繰り返すRPGにおいて、ゲームスピードの遅さは当然ながら賛否両論を呼ぶ。その後はアップデートにより、ゲーム速度を「高速」に変更できる機能が配信。作品の世界観より、ユーザーの声を重視する形となった。
倍速再生機能はまた、レトロゲームないしは過去にリリースされた作品に、新たな価値を付与してくれている側面もある。例えば、『ファイナルファンタジーⅦ』(1997)、『ファイナルファンタジーⅧ』(1999)、『ファイナルファンタジーⅨ』(2000)のPC版は、ゲームスピードを約5倍にまで跳ね上げる高速モードを採用している。
倍速だけでなく、HPやMPが常に最大になるほか、移動中に敵が出現しなくなるといった便利機能も実装。昔のゲームを手軽に楽しみたいというユーザーから、プレイ済みのゲームを手軽に楽しみたいという方にもアプローチしている。近年流行している異世界への転生をテーマにしている作品のように、チート能力でファンタジー世界を無双したいといった欲求を満たすこともできるだろう。
そのほか、コーエーテクモゲームスの『モンスターファーム1&2 DX』やアトリエ“不思議”シリーズの『ソフィーのアトリエDX』、『フィリスのアトリエDX』、『リディ&スールのアトリエDX』では、いずれもゲーム速度を倍にする機能が実装されている。
また、倍速機能こそないが、Nintendo Switchにもゲーム攻略を有利に進めることができる便利機能が備わっている。ファミコンとスーパーファミコンのタイトルがプレイできる「ファミリーコンピュータ&スーパーファミコン Nintendo Switch Online」には、「巻き戻し」機能が実装。ゲームオーバーやミスをしてしまった時など、失敗する前に戻ってゲームをやり直すことができるようになっているのだ。
高難度から敬遠されがちなレトロゲームでも、巻き戻し機能があるなら挑戦してみようと考えるユーザーは少なくない。チート機能と違い、あくまでゲームのやり直しを行っているだけのため、便利機能を使用する抵抗感も少ないことだろう。
2021年10月より開始されたオンラインサービス「Nintendo Switch Online +追加パック」では、さらにメガドライブとNINTENDO64のタイトルが追加。ファミコンとスーパーファミコンが好評だったのか、メガドライブも巻き戻し機能に対応してくれている。
利便性の高い機能の功罪
タイムパフォーマンスを求める時代への回答として、倍速やオート機能のほか、攻略が有利に進められる便利機能の導入が挙げられることは、これまで紹介してきた通りだ。
しかし、例え長時間のプレイを要したとしても、そこに濃密な体験が存在するならば、これらの機能が実装されていること自体に、拒否反応を起こす人も少なからずいるだろう。
“ソウルライク”という言葉で広く知られるアクションゲーム「ダークソウル」シリーズは、倍速・オート機能が実装されていなくとも、理不尽なまでの高難度アクションと、その先に得られる達成感が味わえることもあり、世界中のゲーマーたちから評価されている。
ここに倍速やオート機能に関連した”ユーザーを手厚くサポートする利便性の高い機能”が実装されていたらどうだろうか。おそらく実装されている時点で、そして選択肢のひとつとして存在している時点で、緊張感が欠如するだろう。そういう意味では、利便性の高い機能はときにゲームコンセプトを覆すことにも繋がりかねない。
ちなみに最新作にあたる『ELDEN RING』は発売前から「The Game Awards 2021」の「もっとも期待されているゲーム」のほか数々の賞を受賞。ユーザーは単純なゲームクリアだけでなく、果てしないトライ&エラーを繰り返しながら強敵を攻略していく過程にすら、大きな期待を寄せているのだ(『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作小説を手がけたジョージ・R・R・マーティン氏が関わっていることもあり、ストーリー面でも期待されていることももちろん承知している)。
今後も倍速・オート機能の需要は高まり、ゲームを楽しむひとつの形となるだろう。
一方、日々膨大なコンテンツが誕生し、ユーザーのニーズが多様化していく中で、それがセオリーになるとも言い切れない。企業側としては、ユーザーがコンテンツを高速で消化してしまうという懸念点もあるのだから。悩みを解決する「便利さ」と、粋な「不便さ」が求められる。