開発遅延、処理落ち、販売停止…サイバーコネクトツー初パブリッシング作品『戦場のフーガ』に学ぶ少人数・短期開発の課題と対策

 11月27日(土)から28日(日)までの2日間、ゲームクリエイター向けのカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2021 ONLINE」が開催。コンピュータエンターテインメント開発技術者やクリエイター、ゲーム業界を目指す学生を対象に、デジタルエンターテイメント技術の講演が行われた。

 本稿では、11月28日(日)に実施された講演「自社初パブリッシングタイトル『戦場のフーガ』開発に学ぶ短期開発の課題と対策」の模様をレポートしていく。

【講演者】

松山 洋(まつやま ひろし)氏
株式会社サイバーコネクトツー 代表取締役​
1970年生まれ。博多にある元気なゲーム制作会社サイバーコネクトツーの代表兼ディレクター。 開発の傍らで毎月、60冊の漫画誌を読んでいる大の漫画好き。アニメや映画、もちろんゲームも漫画も幅広く、こよなく愛している。非常に“濃く”“熱い”人間である。​主な作品:「NARUTO-ナルト- ナルティメット」シリーズ、「.hack」シリーズ、「ドラゴンボールZ KAKAROT」など。​

 本講演は、短期間開発を予定していた『戦場のフーガ』を事例に、ゲーム開発中やゲーム発売後に直面した問題と課題に対しての対策術、またサイバーコネクトツー(CC2)ならではのゲームクオリティーアップの過程やチームマネジメント術、プロモーション手法などが語られる内容となった。

 

   

自社IP制作の経緯

 おさらいになるが、CC2は代表的な開発タイトルとして『.hack』シリーズがあり、『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズや『ドラゴンボールZ KAKAROT』、『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』などコミックが原作のIPタイトル開発でも知られる企業。

 これまではゲームソフトの企画・開発が主な事業だったが、初の自社パブリッシングタイトル『戦場のフーガ』を皮切りに、パブリッシャーとしての道も歩み始めた。なお、本作および同社のIP戦略については以下の記事でも取り上げている。

【関連記事】
『戦場のフーガ』開発背景にも…サイバーコネクトツーが掲げるIP戦略「ネクストプラン」を改めて紹介

 そもそも、今回のように自社オリジナルIPを制作するきっかけとなったのは、松山氏自身が2016年ごろに感じていたゲームビジネスの変化だという。その変化とは、パッケージとダウンロード販売の比率が大きく変化してきていること、世界に向けてゲームがリリースしやすい環境になってきたことが挙げられる。

 前者については、松山氏は任天堂を例に挙げつつ「ダウンロード販売の比率は半分以上を占めていて、今後もその流れは加速していく」と5年前から推測。

 実際に任天堂の直近の流れを見てみると、FY21/Q1のゲーム専用機のソフト売上高に占めるデジタル売上高の割合は55.6%、FY22/Q1は46.9%を占めていることが分かる(参考:任天堂の2022年3月期第1四半期 決算説明資料)。

 上記、昨年度の数字はコロナ禍における巣ごもり需要の影響を大きく受けているが、地域やタイトルによってはダウンロード優勢であることが明らかになってきている。そして、ダウンロード販売が主流になってきていることが、後者に挙げられた変化に繋がっていく。

 具体的に説明すると、パッケージ版を海外で売る場合、輸出には関税がかかり、現地メーカーとの契約ではロイヤリティが発生するため、どうしても薄利になってしまう。しかし、ダウンロード版であれば比較的少ないコストで日本から直接販売することができるため、世界のユーザーに向けてゲームを届けやすくなっているということだ。

 そういう背景のもと開始されたオリジナルIP制作では、企画募集コンペを行うにあたっていくつかのルールを定めていたという。

 ひとつはCC2の原点となる1998年に株式会社バンダイ(現・株式会社バンダイナムコエンターテインメント)から発売されたPS用ソフト『テイルコンチェルト』からの世界観を共有する「リトルテイルブロンクス」と呼ばれる構想の作品であること。

 もうひとつが、少人数かつ短期開発という前提で作ることだ。

 同社がこれまでに開発してきた大規模なIPタイトルでは、数百人規模のチームで2~3年を掛けて制作することが多かったとのことで、対照的な方針と言える。

 自社オリジナルIPに関して、松山氏はPS2やニンテンドーDSのタイトルを開発していた時代をイメージしたそうだ。「何でも詰め込むのは無理だけど、ヒットを狙える丁度いい規模感」ということで、10人~20人、制作期間1,2年の少人数・短期開発方針が採られたようだ。

    

開発に3年…『戦場のフーガ』制作裏

 再びおさらいになるが、『戦場のフーガ』は2021年7月29日にマルチプラットフォームで発売。可愛らしいビジュアルとは裏腹に、戦争や復讐といったハードな題材を扱っているのが特徴だ。

 その設定や音楽、デザインに関してかなり反響があったようで、リリースから4ヶ月が経過した現在、松山氏も「世界中からご好評をいただいている」と手ごたえを感じている様子だった。

 そんな『戦場のフーガ』は、前述の通り少人数・短期開発で制作がスタートしたのだが……

 1,2年を制作期間に定めていたつもりが、最終的には制作に3年かかってしまったのだとか。ここから先は、なぜそんなに時間がかかってしまったのか?ということも含めた内容が語られる。

     

▲「公開反省会のようになってしまいますが」と苦笑する松山氏。

 まず制作にあたって始めた企画コンペでは、なんと100件近いアイデアが寄せられたという。だが、スタッフの熱量が高すぎたのか、とても少人数・短期開発に収まる企画ではなかったのだそうだ。

 そのためコンペでは制作タイトルが定まらず、小規模タイトル制作の模範を見せるために松山氏本人が提示したのが『戦場のフーガ』だったという。いろいろな要素を詰め込むのではなく、“ソウルキャノン”と呼ばれる最終兵器にまつわるエッジの効いた設定を用意することで、小規模ながら印象に残る体験ができるものを目指した。

▲1回目のコンペは狙っていた結果に繋がらなかったが、その経験も次回の糧になるということなのだろう。

 そうして制作を開始した『戦場のフーガ』では若手育成を視野に入れた施策として、ベテランと若手を組み合わせたチームを編成。完全分業制で進められる大型タイトルでは若手が経験を積みにくいため、小規模タイトルを任せることで成長を促す意図だが、経験不足ゆえの不手際が多数あったという。

 また、社内のプログラマーをアサインできなかったことから、プログラム部分をすべて外部に委託する形を取ったが、的確な依頼・発注を行うことができず開発遅延の遠因となった。

 なお当時、社内のプログラマーは別プロジェクトに割かれていたため、開発スタッフが不足していたそうだ。

 上記のようなスタッフの経験不足、人員不足に加え、複数拠点にチームが分散した結果、確認待ちやコミュニケーション不全が原因の遅延が多数発生してしまった。複数拠点によるリモートワークは昨今では珍しくないものの、遠隔のメリットを活かすことができず、仕様上の不備などもあって難航する事態となった。

 そうした問題が重なって、方針転換を行ったのが3年目。若手育成の観点はすこし切り離し、ベテランのスタッフを指揮者に据えた。また、スタッフが分業に慣れていたため、セクションごとの細かい役割分担も行った。さらに、ようやく社内のプログラマーがアサインでき、一気に仕上げを行うことが可能に。結果、チームの体制を大きく方針転換してから1年足らずで発売に至った。

▲昨今ではディレクター職だけでも複数の分野で分かれていることが少なくないため、どれもこれも担当する小規模スタイルに慣れていなかった。

   

オンメモリ19GBを4GBまで削減…制作上の工夫

 開発が佳境の中、マルチプラットフォームに対応する上での問題も浮き彫りに。前提として、世界中のユーザーに届けるために『戦場のフーガ』は現行のハードすべてでの展開が決定していたが、ハードによっては処理落ちや進行停止バグが多発したという。松山氏によると、本作ではローディング時間を最大限に減らすため、すべてのデータをメモリ上に展開するオンメモリ処理を目指していたのだが、一時期はなんと19GBまで膨らんでしまっていたそう。

 そこでゲーム内のモデルをチェックしていくと、データ上の無駄がかなり多いことが発覚。最適化はもちろん、工数やデータの削減に関しては制作前に決まりを作っておくべきところだったが、そこが曖昧に進んでしまっていたことが反省点として挙げられた。

▲制作の後半は松山氏自らがモデルデータをチェックし、削減すべきところを指示したそうだ。

 実際にデータ削減のために使った手法も紹介。

 当初から取り入れていたのは“書き割り”の手法で、『戦場のフーガ』では画面を手前から最近景・近景・中景・遠景・最遠景の5段階に分け、それぞれ平面的なイラストを配置して立体的な表現を実現している。カメラが固定されている2Dの作品ではよく採られている手法となる。

▲斜めからの視点。ゲーム上で見ることはない。

     

 また、作中に登場する巨大戦車“タラニス”やその他の戦車、キャラクターについても表示上の工夫が施されている。

▲迫力のある巨大戦車のアニメーションはかなり緻密で、ファンからも好評。

 これに関しては、ゲーム中に戦車の裏側が表示されることがないため、モデルデータを削減することで軽量化。PS用ソフトを制作していた時代から使っている手法を使うことで、ポリゴン数を10,000以上減らすことに成功している。

▲戦車の裏側。
▲ほかの戦車も同様。

 また、キャラクターは画面上で表示される大きさを考慮し、ポリゴン数を削減。ゲームの仕様に合わせた取捨選択が行われている。以下の例ではゲーム中、キャラクターに対してカメラがズームアップすることもないため、目や口などの繊細過ぎる表現をカットしている。

 これらの工夫により無駄なデータが整理され、全機種でオンメモリ処理(起動時に読み込んでしまえば後はロードを一切必要としない)が可能になった。

 ここまでのまとめに、松山氏は若手スタッフの傾向として、無駄なデータを削減する意識が欠けていることを指摘。そのため、社内ではベテランが中心となってデータの抜き打ちチェックを必ず行っているという。

 なお講演内では、開発初期と製品版の比較画面も公開。

    

バトル画面
▲初期よりも見やすいつくりに変化。

    

巨大戦車“タラニス”内
▲断面の表現などが強化されている。

   

クオリティアップを図る評価会を実施

 次に、すべてのゲーム制作で欠かさない取り組みとして実施している評価会(モニター会)の話題へ。

 CC2では、例外の無い絶対的なルールとして全7回のチェックが行われているという。タイミングはαテストやβテストのタイミング。評価は、対象のプロジェクト外のディレクター職、マネージャー職、および業務部から総務や経理の担当といった人物が十数人集まって行う。

▲社内の人間が容赦なく判断を下し、改善すべき点を客観的に洗い出す。

 『戦場のフーガ』の場合、想定クリア時間が15時間であることを考慮して、評価を行う担当が2営業日かけてプレイ。全12章の内容を1章ごとに、エクセルで用意した入力フォームで細かく記録していく。それをもとに、想定したつくりになっているかどうかを判断するという流れ。

 松山氏もモニター会に参加し、実際に遊んでの肌感と現場の意見をすり合わせてパラメータを調整していったという。仮に現場のディレクターが独断で調整したとしても、客観的な視点でプロジェクト外の人間が意見を出せる仕組み。

 また、評価会、おとびモニター会を複数回実施する中で、毎回メンバーを半分程度入れ替えることで、「前回からの改善に気付ける人物」と「初見のためユーザー目線で意見を出せる人物」が混在するように調整しているそうだ。

    

初パブリッシングの苦労話

 ここからは、CC2が初めて挑戦したパブリッシングの話となる。これまでは企画・開発が中心的な事業だったため社内にパブリッシングに関するノウハウがなく、多くの苦労があったようだ。

 まず『戦場のフーガ』の戦略としては、これまでパブリッシャーと組んで制作してきたタイトル等で得たデベロッパーとしての経験から、多言語での発売を目指したという。

▲ローンチの段階で7言語に対応し、後に2言語が追加。松山氏によると、今後も言語のさらなる追加を行っていく予定とのこと。

 松山氏は多言語展開について、「より多くの人に遊んでもらうことを考えると、ゲーム開発にかかるコストよりもローカライズにかかるコストの方が安く済む」と説明。せっかく自社のIPを創出するのであれば、世界中のユーザーに遊んでもらえるローカライズは絶対にやるべきだと強調した。

 ただ、戦略はともかくパブリッシングには大きな壁が。自社で開発から販売まで全て行う場合、当然ながらマスター後にも各プラットフォームのストア配信手続き、審査、そして発売後のサポート業務など、さらに多くの作業が発生する。

▲「今まではこんなにたくさんの事をパブリッシャーさんにやってもらっていたんだな」と松山氏。

 『戦場のフーガ』は現行の全プラットフォームでの展開を目指していたため、それに伴って作業量も増加。開発経験が豊富だったことから、制作自体は問題なく進んだものの、ストア配信に際しての審査で大きく苦労することに。

 ストア審査は、設定項目の複雑さなどかなり手間がかかる作業であることに加え、細かいルールの違いなど、プラットフォームごとの違いで基準を満たせないケースが頻発したという。また、プラットフォーマーによって対応の仕方や連絡方法などもさまざまだったそうだ。

▲審査に関する膨大かつ難解さを目の当たりにし、「バンナムさん今まで生意気言ってすみませんでした!」と松山氏。

 実際に『戦場のフーガ』のPS4/PS5版では、ストアでの価格設定に入力ミスによる不備があったのだが、事前にチェックする方法もなかったことから発売日当日にようやく発覚し、一時販売停止に陥るトラブルに見舞われた。

 以上のことから、「ストア審査には思わぬ落とし穴が多数存在している」と松山氏は注意を呼び掛けた。

 そして、CC2のパブリッシャーとしての経験不足を感じたことから、社内で“わからないこと”を徹底的に潰すための定例会議を毎日実施するように。各プロジェクトで開発責任者、QA、ストア担当、宣伝、営業といったすべての担当者を集め、進捗と抱えている問題をひとつひとつ“指さし確認”する時間を設けているようだ。

▲プロジェクトの完成が近づいてくると、30分程度の会議を毎日実施。

 また、海外ユーザーの声を拾うために、同社の翻訳チームと宣伝チームが連携して海外向けSNSを運用。こちらも毎日会議を行い、海外PRチームとしてキャッチアップを行っている。

▲CC2にはモントリオール拠点など、海外に籍を置くスタッフも多いため、そうした外国籍スタッフの意見を参考にすることも。

 さらに、発売後のサポートに役立てるため、不具合の情報収集を行っているという。カスタマーサポートに寄せられたものはもちろん、SNSも徹底的にサーチ。いわゆるエゴサによって、『戦場のフーガ』に関する投稿はほぼ全て確認されているそうだ。確認された投稿は全てエクセルにまとめられ、再現性なども検証しつつどのパッチで対応していくかを決定していく。

▲重複した情報もひとつにまとめて管理。松山氏もエゴサで情報収集に参加しているのだとか。

   

 まとめ。ここまで初パブリッシングの苦労と取り組みが挙げられたが、初めての挑戦で80カ国での発売を達成したのは、やはりサイバーコネクトツーのデベロッパーとしての積み重ねが功を奏したと言えるだろう。

▲今後、より多くの地域で発売を目指すと意気込みを語る松山氏。

     

プロモーション施策にはヨコオタロウ氏も起用

 続いて、本作のプロモーション手法を紹介。ゲームのプレイ動画や、スピンオフ的に楽しめる「マンガ動画」など動画コンテンツを中心に展開。公式コミカライズも2021年12月から連載予定で、横軸で楽しめる仕組みとなっている。

      

 また、海外向けにSNS施策やインフルエンサーへのレビューコード送付などを実施。ただ、レビューコードに関しては転売問題がやはりあるようで、616本送信したレビューコードのうち、10本ほどしかレビューに使用されなかったという。

▲自称インフルエンサーによるレビューコード詐欺問題は、別の機会に語る機会を設けるとのこと。

 最後に、総まとめとして「改めて、パブリッシャーさん、今まで失礼なことばかり言って申し訳ありませんでした!」と切り出した松山氏。パブリッシャーへの感謝と敬意を改めて示す形で、講演は締めくくられた。

 以上、当初の想定通りには行かなかったことが赤裸々に明かされたCC2の初パブリッシングタイトル『戦場のフーガ』。

 小規模タイトルならではのエッジが効いた一点突破スタイルによる、ユーザーの印象に残るゲーム内容が好評の反面、立ち上げから発売後に至るまで様々な課題が浮かび上がった。本講演で紹介された対策の数々が、自社パブリッシングを考えている企業にとってのヒントになるかもしれない。

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森口 拓海(Takumi Moriguchi)
雑誌やWEBメディアを中心に記事を執筆。ゲームは雑食で多様なジャンルを好み、業務の延長でアプリ分析も得意。恩のあるゲーム業界に貢献すべく日々情報を発信。

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