メタバース参入企業が目指すデジタルユートピア。これまでの動向を振り返る

 2021年10月28日、Facebookが社名を「Meta(メタ)」に変更したと発表した。ビッグ・テック(Google、Apple、Facebook(Meta)、Amazon、Microsoft)の一角を占め、同年には時価総額が1兆ドル(約110兆円)を突破した大企業の社名変更は大きなニュースとなり、社名を変えてまでMetaが注力する方針を示したメタバース事業にも大きな注目が集まった。

 しかし、メタバース事業の関心が高まり参入企業も増えているなか、各社の「メタバース」に対する解釈と取り組みは多岐に渡っており、その定義は曖昧なのが現状だ。

 本記事では、メタバース事業に乗り出している企業の一例と、そのアプローチ方法をまとめていくことで、各社が採る戦略の違いを明らかにしたい。

 

そもそもメタバースとは

 Facebookの社名変更、およびCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が多く活用したことでバズワードとなった「メタバース」。

 そもそも、語源としての「メタバース」(メタヴァース)とは、SF作家ニール・スティーヴンスン氏が1992年に発表したSF小説『スノウ・クラッシュ』で、インターネット上の仮想世界を指す言葉として生み出した「メタ」(meta:超越)と「ユニバース」(universe:宇宙、世界)を由来とする合成語。

 米国の調査会社Emergen Researchのレポートによると、世界のメタバース市場は、2020年の476.9億米ドルから2028年には8289.5億米ドルへと、43.3%のCAGRで拡大すると予想されている(プレスリリース)。

  

火付け役となったMeta

 Facebook 改めMetaは、2014年5月に買収したVRハードウェアおよびソフトウェアを開発する企業Oculusを軸に、xR技術(「AR(拡張現実)」、「VR(仮想現実)」、「MR(複合現実)」といった仮想空間・拡張空間を実現する技術の総称)によるメタバース構築を目指す。CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が2021年に大きく世の中に仕掛けたのは、同技術が成熟し、普及できる段階に進んだと判断されたのが要因のひとつだと考えられる。

 同社は「VRがメタバースにアクセスするための最も没入的な方法」とのスタンスを示しており、2022年1月末、同社の代表的なVRヘッドセット「Oculus Quest」のブランド名も「Meta Quest」に変更。Metaの製品としてその存在を認知させる動きが見られる。

【関連記事】
「Oculus Quest」が「Meta Quest」へと表記変更。Meta社の製品であることを明確にしていく狙い

 実際に同社が現行のVRヘッドセット「Meta Quest2」(旧称:Oculus Quest 2)で行っているVRサービスとしては「Horizon Workrooms」が挙げられる。

 「Horizon Workrooms」は、アバターを使って仮想のミーティングルームで仕事ができるVR会議ツール。没入感を重視するMetaらしく、対応するキーボードを仮想空間における自身の手元(デスク)に反映し表示することで、タイピングなどの操作を自然に行える点が特徴。

 なお同社はxRという分野ではARにも力を入れており、2021年3月にはヒューマン・コンピュータ・インターフェース(HCI)を目指したリストバンド型のウェアラブルARインターフェースの存在を明らかにしている(映像)。

 ゲーム分野としては2021年6月にゲーム作成プラットフォーム「Crayta」を手掛けるUnit 2 Gamesを買収。「Crayta」はUnreal Engine 4上に構築されたプラットフォームで、クラウド上で複数人による作業が可能な点が特徴。Metaが手掛けるゲームプラットフォームにおいて、クラウドゲーミングを強化する形だ。

 没入感を重要視するMetaは、メタバースの基盤を築くべく今後もxR技術をリードしていくものと見られる。

   

プラットフォーマーを目指す各企業の取り組み

マイクロソフト

 マイクロソフトは2021年11月、同社が「メタバースへの入り口」と位置付けるサービス「Mesh for Microsoft Teams」を発表。2022年前半の提供開始を予定し、会議や交流イベントなどさまざまな用途に対応する仮想空間が使用できる。

 また、マイクロソフトのXbox(ゲーム)部門責任者であるフィルスペンサー氏は2021年7月、イギリスのメディア「Guardian」のインタビューにおいて「今後、ゲームにおけるユーザー生成コンテンツはさらに増えていくだろう」とコメントしているのも印象的だ(wccftech)。

 実際の動きとして2021年10月、Xboxのクラウドゲーム開発における、マイクロソフトの専門知識を活用した「Azure PlayFab UGC」のパブリックプレビューを開始。

 ユーザー生成コンテンツ (UGC) とは、オンラインを活用した生活におけるさまざまな側面が含まれる、幅広い意味を持つ用語。同社の説明によればツイート、写真、ビデオなどは、すべてUGCの一例とされ、ゲームの世界では MOD(テクスチャーパック、キャラクタースキン、ゲームプレイの拡張など)が同義と見なされている。

 マイクロソフトは「Azure PlayFab UGC」のようなUGCサービスを通じて、クリエイターコミュニティの発展を促進する狙い。同社のゲームにおけるメタバースは、無料または商業的に利用できるユーザー生成コンテンツが重要な要素になると見られる。

 同社は2022年1月18日、アメリカのゲーム開発大手であるActivision Blizzardをゲーム市場で世界最大規模となる687億ドル(約7兆8,700億円)で買収(関連記事)。メタバース構築も含めて、急速に動き出している。

 

Epic Games

 ゲームエンジンの「Unreal Engine」や人気バトロワタイトル『フォートナイト』などで知られるEpic Gamesも本格的にメタバース構築に乗り出しているゲーム企業のひとつ。

 同社は2020年7月10日、ソニーがその完全子会社であるSony Corporation of Americaを通じて2.5億ドルの出資を受けた。その後、2021年4月にはソニーの追加出資(関連記事)を含む総額10億ドルの調達に成功。調達資金をメタバース構築に充てる方針となっていた(ニュースリリース)。

 Epic Gamesはかねてより『フォートナイト』内での音楽イベント開催など、ゲームプレイに留まらない試みを行ってきた。

▲2021年8月にはアリアナ・グランデが出演するスペシャルイベント「リフトツアー フィーチャリング ARIANA GRANDE」を開催。

 2021年11月23日には、「ギターヒーロー」や「Rock Band」シリーズなどを手掛けた音楽ゲームの開発スタジオであるHarmonix Music Systemsを買収(関連記事)。メタバースの構築に向けて音楽の体験、制作、配信の方法を再構築していく狙いを示している。

 同社はこれまでに、サッカーとカーバトルが融合したスポーツゲーム『ロケットリーグ』を開発したPsyonixや、バトロワ系パーティゲーム『Fall Guys: Ultimate Knockout』を開発したTonic Gamesなども買収し、ポートフォリオを拡充してきた。

 そして2021年末、Epic Gamesは「Megaverse」(メガバース)という商標を申請したと報道されている(Video Games Chronicle)。「Megaverse」がどのような内容で構成されるかは明らかになっていないが、2022年は同社のメタバース戦略からも目が離せない。

  

Roblox

 Robloxが提供する「Roblox」は、ユーザー自身がゲームを作成したり、他のユーザーが作成したゲームを遊んだりできるオンラインゲームプラットフォーム。スマートフォン・Xbox One・PCで利用可能。ゲーム内通貨「Robux」と現金(米ドル)が換金可能な仕組みになっている。

 そのコミュニティは2021年、180カ国で5000万人近く(11月時点。2020年のDAU数は3260万人)にまで増加(VentureBeat)。同年、「Roblox」はNikeやGUCCIなどの世界的なブランドが続々とコラボレーションによって参入している。

 Robloxは同社のブログ内で、メタバースの定義を「何百万もの3D体験の中に人々が集まり、学び、働き、遊び、創造し、交流することができる没入型共同体験プラットフォーム」としている。ゲーム内では膨大な量のUGCをユーザー間で共有できるほか、ユーザー同士のコミュニケーションが可能で、Valveが提供するPC用VRプラットフォーム「SteamVR」にも対応。自社のコンテンツをメタバースのビジョンとして明確に打ち出している。

▲画像はGoogle Playストアより

 

グリー

 「なりたい自分で、生きていく。」というビジョンのもと、個人ユーザー向けにバーチャルライブ配信アプリ「REALITY」の運営や、法人向けに3DCGやXRテクノロジーを活用したメタバース構築プラットフォーム「REALITY XR cloud」を展開。

 2021年8月、同社はREALITYが展開してきたライブエンターテインメント事業をメタバース事業と再定義し、さらにグローバルで100億円を投資。ゆくゆくは数億ユーザーを目指す構えだ。

 REALITYは2021年12月22日、最大8人までアバター同士で通話可能な「ビデオチャット」機能を提供開始。ユーザー間の会話を活性化させることで、メタバース内のコミュニケーションが広げていくことを目的としている。

 同サービスが目指すメタバースは「アバターを通じたリアルタイムコミュニケーション」と、3D空間による「空間的な広がり」、そしてユーザー生成コンテンツを通じて「現実世界の収入を得られる」という3つの要素で構築される。

 今後、仮想空間を自身の手で創造・拡張し、オリジナルアイテムの作成や販売を通じて現実世界の収入を得られるクリエイターエコノミーなどを実現するための新機能の開発を行っていく。

【関連記事】
REALITY、アバターで通話できる「ビデオチャット」の提供開始。メタバース内のコミュニケーションを強化する取り組み

 

バンダイナムコホールディングス

 バンダイナムコホールディングスは、2022年2月に発表した新中期計画のなかで、ファンとつながるための新しい仕組み「IPメタバース」の開発を表明している。今後3年間で150億円をデータ基盤の構築(データユニバース)、およびメタバースに向けたコンテンツの開発に投資する方針だ。

 バンダイナムコが目指す「IPメタバース」では、「ガンダム」であれば「ガンダムの情報が集約されたメタバース」として、ファン自らがアバターに扮して情報にアクセスできるという。

 メタバース内のコンテンツには、フィジカルな商品や場とデジタルが融合するバンダイナムコならではの仕組みも想定。また、ファンやパートナーがつながるオープンなコミュニティとしての役割も担う。ここでの「フィジカルな商品や場」とは、「ガンダム」で例えるなら公式ガンプラ総合施設である「THE GUNDAM BASE」やその商品などを指す。

 

 バンダイナムコは「IPメタバース」で形成されるコミュニティや、実装されるコンテンツを通じ、ファンやパートナーと長期にわたって深く、広く、複雑につながる関係を構築することで、IP価値の最大化を目指す方針だ。

 同社は今後、IP軸戦略を進化させるための継続的な投資を推進し、新規IPの創出も含めて3年間(2022~2024年度)で400億円を投入する。うち、150億円で「IPメタバース」の開発とデータ基盤となる「データユニバース」の構築を行う。

 

メタバース= VRではない

 Metaが大きな名乗りを挙げたことで、VRヘッドセットを軸とした「メタバース」の在り方に異を唱える企業も存在する。

 VR技術によって表現される仮想空間は実在性(没入感)を高めるという意味では親和性の高いものだが、多くの企業がメタバースのビジョンとして掲げるユーザー同士のコミュニケーションや、経済活動可能な点という視点から考えればメタバースの構築にVRが必須だというわけではない。

  

セカンドライフ

 アメリカのIT企業、LindenResearch社の開発スタジオであるLinden Lab(リンデン・ラボ)が手掛けた「セカンドライフ」は2003年に誕生し、現在まで存続しているサービス。

 仮想世界で社会活動・経済活動が可能でゲーム内通貨を米ドルに換金できる仕組みがあり、メタバース事業の先駆けとも言える存在だ。仮想世界での土地に巨額の値が付くなど、投機性を帯びたブームも起きていたが、2008年には沈静化していた。

 そして2022年1月14日、現在もサービスを継続しているセカンドライフに、創業者であるフィリップ・ローズデール氏がメタバースの流行に合わせて復帰。Metaが目指すメタバース構想に対して、「大企業がVRヘッドセットを配り、広告主導のメタバースを構築しても、すべての人のためになる単一のデジタルユートピアは生まれません。」原文)とコメントし、批判的な姿勢を示した。

   

Niantic

 『Ingress』や『ポケモンGO』を手掛けるNianticは、「現実世界のメタバース」を掲げている。これは、仮想世界(≒メタバース)ではなく、現実世界にAR(拡張現実)によるレイヤーを重ね合わせてデジタルとの融合を実現し、人同士を直接つなぐことを目指したもの。同社のゲームは「探索」、「発見」、「人々との繋がり」がコンセプトとなっており、位置情報とAR技術を活用したタイトルを運用している。

 ナイアンティックは2021年11月初め、『Ingress』や『ポケモンGO』などの世界規模で展開するタイトルを支える基盤となる技術をまとめた開発者向けキット「Niantic Lightship ARDK」を提供開始。ローンチパートナーには、Coachella、Historic Royal Palaces、Lifull、PGA of America、Science Museum Group、集英社、ソフトバンクなどが名を連ね、現実世界のメタバース構想を共有している。

【関連記事】
集英社、「超越現実」を目指しNianticとパートナーシップ契約を締結。XR組織をT&Sと組成

  

より簡単に参加できる「スマホメタバース」

 VRを使ったチャットや配信サービスに加え、ユーザーの参加ハードルがより低い、スマホなどの身近なデバイスでメタバースを構築しようという動きもある。

 

ミラティブ

 ミラティブは、同社が提供するゲーム配信サービス「Mirrativ」において、2021年12月のユーザー課金売上のうち、ゲーム体験とライブ配信が融合した「ライブゲーミング」関連の売上のみの合計が、月間1億円を突破したことを明らかにしている。

 同サービスでは、配信者がMirrativの収益化の仕組みを用いることで、売上の一部を配信者に還元。ミラティブはこれをPlay to Earn(=ゲームを遊びながらお金が稼ぐ)の構図として「スマホ版メタバース」の確立を目指し、配信者や視聴者といったユーザー・開発者・プラットフォームが共生していくエコシステムを構築していく方針だ。

【関連記事】
ミラティブ、「ライブゲーミング」関連売上が月間1億円を突破。22年は大規模な投資を実行し“スマホ版メタバース”を目指す

     

HIKKY

HIKKYは「プラットフォームの壁を超えたオープンメタバースの実現」を掲げ、世界最大級のVRイベント「バーチャルマーケット」の主催やVR開発エンジンの提供を行う企業。

 ここで提唱されているオープンメタバースとは、以下の4要素を実現したものを指す。

  • プラットフォームの壁を超えて人々が行き交う環境
  • オープンワールドにおける大人数での体験やコミュニケーション
  • 独自ドメインでオリジナルのコンテンツ展開
  • デバイスフリー&アプリレスでの簡単なアクセス

 これを実現する支えとなるのが、自社開発のエンジンである「Vket Cloud」(ブイケットクラウド)の存在だ。

 HIKKYは2021年8月17日にVRコンテンツ開発エンジン「Vket Cloud」をリリース。専用アプリのインストールが必要なく、スマートフォンやPCのブラウザから利用できるのが特徴。URLリンクをクリックするだけでアクセスが可能でマルチプレイにも対応しており、ボイスチャットやテキストチャットで同空間内にいる他のユーザーとのコミュニケーションもできる。

 HIKKY は2021年11月15日、NTTドコモ(以下ドコモ)を引受先とした第三者割当増資により65億円を調達。両社は2021年10月20日に資本・業務提携を締結している。大手携帯会社もメタバース構築に乗り出している形だ。

 調達した資金はVR関連サービスの開発体制の強化、同エンジンを用いたオープンメタバースの開発・運営、バーチャルマーケットやVket Cloudを含むVRサービス事業の国内外への拡大、組織基盤強化などに充当する方針。

   

2022年のメタバース市場に注目

 各社がそれぞれの手法で臨むメタバース構築。

 REALITYが「ライブエンターテインメント事業」を新たに「メタバース事業」と再定義したように、現在は各々のビジョンによってメタバースを解釈している、もしくはキャッチ―な言葉として利用しているため、大まかに「経済活動が可能な、仮想空間におけるコミュニティ」といったくらいの共通点しか見受けられず、目指すエコシステムは全く異なるものになると思われる。

 ユーザーにとっても、メタバースに求めるデジタルユートピアはそれぞれ異なる。むしろ、現状はメタバースによって得られるメリットがユーザーに対して明確に伝わることが重要かもしれない。

 参入企業の動きによってメタバースによる恩恵が明確化されることを期待しつつ、2022年のメタバース市場における動向に注目だ。

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森口 拓海(Takumi Moriguchi)
森口 拓海(Takumi Moriguchi)
雑誌やWEBメディアを中心に記事を執筆。ゲームは雑食で多様なジャンルを好み、業務の延長でアプリ分析も得意。恩のあるゲーム業界に貢献すべく日々情報を発信。

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