3つのローカライズ注意点や昨今のプロモ施策等にも言及。Yostar、2020年の展望

 2019年12月末、株式会社SHIFT本社において、2019年のスマートフォン向けゲーム(以下、スマホゲーム)業界を振り返るセミナーが開催されました(主宰者:アリババクラウド、SHIFT、メタップスリンクス)。

 ゲスト登壇者に株式会社Yostarの代表取締役である李衡達氏を迎えたほか、現在のゲームマーケット事情に詳しい第一人者が登壇し、テーマ別に講演。師走にも関わらず、大勢の業界関係者で会場を埋め尽くしました。

 原も取材記者として参加。ヒットタイトル仕掛け人の新作をはじめ、重課金者の動向から市場概況まで、知見が詰まった2時間でした。記事では、講演ごとにその内容を伝えていきます。まずは、李氏が登壇したトークセッションについて。

李衡達
株式会社Yostar 代表取締役

明治大学大学院を卒業後、中国系アプリメーカー「miHoYo」の第2代社長を経て、有志と共に2017年にYostarを設立し、代表取締役に就任。 同年にはヒット作『アズールレーン』をリリース。2019年には『Epic7』をリリースし同じくセールスランキングの上位にランクイン。さらに『アズールレーン』のTVアニメを制作・放送。現在は、中国でのメガヒット作『アークナイツ』の日本版の配信を控えている。

「会社として生き残る」

 テーマタイトルは、「アークナイツ配信まであと何日!?大ヒットゲームパブリッシャーYostar の李さんにお聞きする、2019 年の Yostar の振り返りと 2020 年の野望」。司会進行にメディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏を迎えて、Yostarの新作の動向から、社の振り返りと展望について語られました。

 Yostarの躍進は『アズールレーン(以下、アズレン)』と共にあります。同作は、プレイヤーが指揮官となり、歴史上に登場する艦船を擬人化した少女達を育成していくスマートフォン向けシューティングゲーム。2017年9月にリリースされ、App Storeのセールスランキングでは(最高で)1位にランクイン、現在も安定した推移を記録しています。

 『アズレン』は中国発のスマホゲームを国内向けにローカライズ(及びカルチャライズ)したタイトルですが、ユーザーファーストを据えたゲーム設計や顧客対応でリリース当初から話題を呼び、たちまちその年を代表する1本となりました。たとえば、顧客対応では、緊急メンテナンスやエラー発生という不足の事態にも、その後の障害報告を詳細に説明。迅速かつ真摯な対応でユーザーからの信頼を得ました。

 そして、2019年11月リリースの『Epic Seven-エピックセブン-』もApp StoreのセールスランキングでTOP10入りを果たすなど、大ヒットを記録。

 このように設立から2~3年の企業が、レッドオーシャンのスマホゲームアプリ市場において、海外発のオリジナルタイトルを“2本も”ヒットさせたことに、業界から注目を集めたのは言うまでもありません(年の瀬に本セミナーに駆け付けた業界人の数を見れば)。

 しかし、当の本人である李氏はいたって冷静。そもそもYostar設立当初から掲げてきた目標は「会社として生き残る」とのことで、それは今も変わっていないようです。また、売上順位についても「弊社ではセールスランキング100位以内にランクインすれば、大ヒット(李氏)」と謙虚なコメント。

 Yostarの母体は、中国の上海悠星網絡科技有限公司という会社です。主にアジア圏のタイトルをグローバル向けにパブリッシングしており、日本配信・運営を李氏らが担当。ここで気になるのが、Yostarによるパブリッシングタイトルの選定、いわば目利きです。

「タイトルは自分ひとりが選んできたわけではない。中国本社には、ゲームに精通したマニアが多数おり、彼らと意見を交わしながらタイトルを選定している(李氏)」とし、さらには「あくまでもゲームを作っているのは我々ではない」と言葉を添えました。

 実際に『アズレン』のヒットを機に、Yostarは有名となりましたが、彼らはあくまでもパブリッシャー。ユーザーが抱く「アズレン=Yostar」という認識は決して間違いではないが、李氏が繰り返し「開発会社ではない」と説明するのは、開発会社に対するリスペクトを感じます。

 続いて話題は「ローカライズの注意点」について。李氏いわく、日本向けに配信する際には、下記の3点を心掛けているとのことです。

・法律の知識
・ユーザーから反感を買わない
・きちんと日本語を書く

 法律の知識は言わずもがなですが、残りの2点も重要度が高いです。今は全くありませんが、昔の中国発の一部スマホゲームは、顧客対応の問題でユーザーの不満が噴出したり、ローカライズが中途半端に行われていたりと、“中国スマホゲーム”という理由だけでネガティブに感じるユーザーも少なくはありませんでした。

 ですが、『アズレン』では先の2点を意識してか、リリース当初からユーザーからの評価が高く、なかには「日本のゲームと遜色ない」と語られるほどに。現在は、中国の開発力が伸長しており、ことスマホゲーム市場においては、開発を担当した国を色眼鏡で見る行為は減少してきました。

 

TVアニメは「いい勉強になった」

 2019年の『アズレン』は、PS4用ソフト『アズールレーン クロスウェーブ』が8月に発売されたり、TVアニメが10月に放送されたりと、話題に事欠かない1年でした。

 PS4版は「想像以上の反響があった」と李氏。なかでも会話劇を含むアベンチャーパートでは、ユーザーはもとより、スタッフも笑みをこぼしながらプレイしていたとのことで、満足のいく出来栄えだった様子。

 一方、TVアニメについては「いい勉強になった(李氏)」と振り返りました。TVアニメを通じた集客力はまだ判断できないとしたが、それ以上に、原作の窓口を担う大変さを感じたという。

李氏は、2019年における怒涛の展開を振り返りつつも、「儲けだけを考えているわけではない。ユーザーを楽しませたいし、なにより我々も楽しみたい」と行動の源を吐露してくれました。

 

『アークナイツ』を第3の柱に

 新作『アークナイツ』は、中国のHypergryph社が開発を担当しています。セミナー当日は、具体的な配信日は明かさなかったものの、2020年1月8日に開催されたプレスカンファレンスで同年1月16日に国内正式サービス開始することを発表。

 『アークナイツ』はタワーディフェンスゲームです。といっても、そのタイプはさまざま。たとえば同作は、互いの砦に目掛けて進行する『にゃんこ大戦争』のような平面型ではなく、上下左右に拡がるマス目上を舞台に、敵が味方の防衛ラインまで突き進み、適切にキャラクターを配置して敵の進入を食い止めるタイプ。

 同作が採用した後者のタイプは、スマホゲーム黎明期の頃から買い切り型アプリとして人気を博していましたが、昨今のF2Pの運用型としてはあまり見受けられないため、ユーザーには新鮮なゲームシステムとして映るかもしれません。当然、『アークナイツ』独自の斬新なゲームシステムも取り入れており、前評判も上々。

 さて、『アークナイツ』の事前登録は、すでに同社が定めた特典付与の20万人を突破しています。他社タイトルと比較して、低く見積もっているとのことですが、李氏は「各社いろいろな手段で事前登録数を上げているが、我々は故意に増やすことはしない」ときっぱり。

 露出のためにSNSキャンペーンや広告は展開しますが、事前登録数を上げるためだけの施策は講じないとのことでしょう。実際に100万人の登録者数を記録したところ、転換率が悪いという話もよく聞きます。自己満足や社内目標のためにプロモーション費用を投資するのではなく、李氏は「どんなゲームで、どういう魅力があるのかを誠実に伝えること」の重要さを説きました。

 また、李氏は事前登録期間があまり長期化しないようにも心掛けているという。「ユーザーの熱は時間の経過と共に落ちていく。発表から期待値をあまり下げないように、なるべくなら1ヵ月ほどでリリースしたい」と語りました。

 中国では2019年4月末にリリースされ、これまでApp Storeのセールスランキングで何度も首位を獲得するなど、大ヒットを記録している『アークナイツ』。中国のヒットを受けて、李氏は「プレッシャーは感じる。中国市場のヒットも予想の5倍以上の成果だった。ただ、先ほども述べたように弊社はセルラン100位以内に入れば大ヒットなので少しは気が楽」と、現在の想いを語ってくれました。

 実際に中国市場におけるヒットは、ローンチタイミングや運も大きく影響していると李氏は語ります。「当時は『アークナイツ』のような(リアル系ではない)サブカル要素を含むビッグタイトルが不在だった。そのため、数多くあるゲームアプリのなかで選ばれる1本となった。本当に恵まれている(李氏)」と分析。

 設立当初から水面下で進められた『アークナイツ』の配信ですが、中国のゲーム版号事情が取り巻く市場感や、開発リソースの変化などを理由に、リリースまでに時間がかかったもよう。

 とはいえ、李氏の理想は、先に述べた通り「ユーザーの手元に良いものを早く届けたい」、その一心です。2020年の動向ついては、「ゲーム業界は計画が後ろ倒しになることが多々あるが、今後はなるべくスムーズに遂行したい。また、『アークナイツ』も既存タイトルに続き3本目の柱にしたい(李氏)」と、展望を語ってくれました。

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TAKANORI HARA
角川でゲーム雑誌とWebメディアの編集を経験した後、大手ゲーム会社でマーケティング、広報など多数のPR業務に従事。その後Social Game Info 副編集長、Sp!cemart 編集長を務める。2017年に独立・起業。現在はゲームビジネスに関連した企画・取材記事を、自社メディアで発信。

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