長年、ゲーム業界でユーザーを見守り続けている企業、イー・ガーディアン。トラブルを未然に防ぎ、ゲームに問題があれば、いつもユーザーの側で解決に当たってきました。そして、同社で活躍する堤 雄太郎さん(26)の下には、大手ゲーム会社からの相談が絶えません。
ユーザーから寄せられる膨大な件数の問い合わせに、いかにして対応し、心からゲームを楽しんでもらうにはどうすればいいか。
堤さんは入社してわずか3年の間に、20を超える人気タイトルのカスタマーサポートを設計し、劇的な改善を実現させました。「カスタマーサポートとは友情そのもの」と語る彼の目に、現在のゲーム運営はどのように映っているのか。
堤 雄太郎
イー・ガーディアン株式会社 事業本部 営業部 第1営業ユニット シニアスタッフ。新卒で同社に入社後、ゲーム業界を中心にサポート業務の支援に携わっている。
カスタマーサポートの現場
私たちイー・ガーディアンは、ゲーム業界を中心に1,000以上のクライアント企業にサービスを提供しています。けれど、ゲームユーザーの方にはそれほど知られていないかもしれませんね。
というのも、普段、私たちは「サポートの人」「運営の人」あるいは「中の人」なんて呼ばれているからです。最近では、サポート担当のキャラクターとして対応していた結果、そのキャラクター名で呼んでいただいたこともありました。実際に顔を合わせることはなくとも、皆さんの一番近くで、安全で快適なゲームプレイを支える仕事、それが私たちのサービス「ゲームカスタマーサポート」です。
イー・ガーディアンという社名はもちろんのこと、どなたからも「サポートの人たち」と認識してもらえたら嬉しいですね。ゲームの運営を支える一員として、皆さんから信頼していただけていることの証だと思います。
でも一方では、矛盾するようですが、イー・ガーディアンの取り組みをもっと広く知っていただきたい、と感じることもあります。拡大を続けるゲーム市場の影では、様々なリスクもまた増大しつつあるからです。
ゲーム市場は、今や国内だけで約1兆6,700億円という規模にまで成長しました。ゲーム人口は約4,900万人に達し、e-Sportsの流行によって家庭用ゲーム機やPC向けのゲームではユーザーがさらに増えていると聞きます。スマートフォン向けゲームにしても、これまでのような市場成長の勢いには陰りがあるとはいえ、この盛り上がりは今後もしばらく続くでしょう。
しかし、人とお金が活発に動く市場ほど、トラブルも発生しやすくなるものです。悪質なケースで言えば、チートツールの使用、アカウントの乗っ取り、他のユーザーのプレイを不当に妨害する「荒らし」行為などが挙げられます。それだけではありません。脅威はゲームの外にも及びます。
SNS、チャットサービス、掲示板などでは特定のユーザーに対する誹謗中傷が書き込まれたり、デマを拡散されたりする場合もあります。そして、もしも被害に遭ったなら、誰だって深く傷つきますし、事件が相次げば、やがて皆がゲームから離れていってしまうでしょう。社会的にも問題視され、そうなれば、ゲームはもはや、メインストリームのエンタテインメントという地位からの陥落は免れません。
つまり、ゲーム市場と文化の発展には、ゲームユーザーの安全・安心を維持することが何よりも重要なのです。そのために、イー・ガーディアンではAI(人工知能)を活用した投稿監視や、サイバーセキュリティ(脆弱性)の調査・診断など、あらゆるリスクを検知できるようサービスを展開しています。ゲームユーザーのお問い合わせからリスクを検知することも多々ありますので、イレギュラーなお問い合わせにも対応できるよう、応対スキルの向上に努めることもその一環であると考えています。
幸いなことに、違法行為や被害が生じるようなケースでご連絡をいただくことは非常に稀ではあります。しかし、それほど大ごとではないにしろ、ゲームをプレイしていて、「ちょっと困ったな」「よくわからないな」と戸惑った経験は、どなたにでもあるのではないでしょうか。
そんな時こそ、私たち「サポートの人」のことを思い出してください。ゲームに関する心のモヤモヤからテクニカルなご質問まで、的確に、迅速に、そして丁寧に、解決に向けてご案内いたします。質問やご依頼をいただくと、つい張り切ってしまうんです(笑)。やっぱり、そこが私たちの腕の見せどころですから。
窓口に寄せられるお問い合わせは、有名タイトルともなれば、1日で200件以上にも及びます。内容は多岐にわたり、それら一件一件について優先度を判断し、正しく対応しなければなりません。
たとえば、不具合に関してご連絡をいただいた際、既知の現象ならすぐに対処できますが、これまで報告例の無い不具合で、且つ、ゲームの進行を度々妨げるような内容であれば、早急に開発元へエスカレーション(報告)して調査を始めていただくようにしています。アイテム購入等の決済処理に関するお問い合わせも緊急性が高い案件ですね。
また、意外に多いのが、アカウントの復旧依頼です。ID、パスワードを紛失してしまったり、端末の機種変更でアカウントの移行が上手くいかない時などによくご連絡をいただいています。昨日まで楽しくプレイしていたのに、急にログインできなくなったのですから、ご心配も当然のことでしょう。
膨大なユーザー情報からたった1件のアカウントを見つけるには少々お時間をいただく場合もありますが、毎回、全力を尽くして探しています。アカウントとはユーザーにとって最も大切な資産です。だから、何としても見つけて差し上げたいですし、無事に発見できた時は私たちもモニターの前でホッと胸をなで下ろしています。
応対を完了した後も私たちの仕事は続きます。寄せられたご意見を取りまとめ、運営会社へレポートすることも重要な業務のひとつだからです。私たちのレポートでは、ボタンの表示位置からゲーム全体のレベルデザインに至るまで、ユーザーから寄せられたあらゆる改善ポイントを分析し、まとめています。あまりに詳細で運営会社の方々に驚かれるほどです。
さらに、イー・ガーディアンでは、それらの経験を活かしてユーザーと運営の両視点をもってゲームを分析、改善・改修プランをご提案するサービスも展開しており、それが大きな強みとなっています。
面白さだけでは生き残れない
イー・ガーディアンには新卒で2016年に入社しました。それから2年後にシニアスタッフへ昇格となり、現在はサポートサービス全般の営業とサービス開発を担当しています。ユーザーがゲームプレイの延長線上でワクワク・ドキドキを感じてもらえるようなサポートを実現することが、目下の課題です。
入社当時というと、ちょうど『パズル&ドラゴンズ』(ガンホー・オンライン・エンターテイメント, iOS/Android, 2012年)、『モンスターストライク』(ミクシィ, iOS/Android, 2013年)といった人気タイトルが運営3周年、4周年を迎えた時期で、それに続けとばかりに、リッチで手の込んだ造りの新作が次々と発表されていました。ところが、その多くが数ヶ月後には失速し、あえなくサービス終了となってしまいました。
ゲームとしての面白さは十分だったはずなのに、なぜかゲームユーザーが定着しない。成長著しいアプリゲーム市場であっても、「面白ければ売れる」という楽観視はもう通用せず、「面白さだけでは生き残れない」時代へと突入した。――それが2017年頃だったと考えています。
マーケティングのトレンドが変わったことで、カスタマーサポートに対する役割や期待も大きく変化しました。
元々10年ほど前まで、カスタマーサポートはサービス運営の付帯作業として扱われてきました。問い合わせに対しても、新人か、手の空いた人が片手間にこなしている企業もあったのが実情で、返信まで時間がかかったり、回答の内容も必ずしも的確とは言えないものでした。
その後、ソーシャルゲームブームが到来し、ユーザー数の爆発的な増加によって、対応件数も数倍に急増しました。さすがに仕事の合間に処理できるような量ではなくなり、この頃から専門部署が設立されるようになります。
しかし、それでも、カスタマーサポートはコストセンターとして位置付けられていました。積極的に投資すべき分野ではなく、コスト削減でしか事業に貢献できない部門。それが、カスタマーサポートに対する一般的な見方だったのです。
ところが、市場が成熟するにつれ、TwitterやFacebookの活用、YouTube上の動画施策などでユーザーとの繋がり、体験や経験を重視する施策が講じられるようになりました。新しい施策を展開する度、新しいメディアを活用する度にコンタクトポイント(顧客接点)は増えていきます。Twitterで告知を行うのであれば、公式Twitterアカウントが必要ですし、YouTubeで公式番組を配信するなら、公式チャンネルを開設しなければなりません。
例えば、最近はゲームタイトルがTVアニメ化されるケースが増えていますが、アニメ版の公式アカウントを新たに設けるのか、それとも既存の公式アカウントでアニメの情報も発信していくのかは、事前に十分な検討が必要でしょう。
いずれにしても、公式アカウントにはユーザーや視聴者が集まりますから、発信者が意識せずともお一人お一人とのコミュニケーションが生じます。
では、ユーザーとの繋がりを強くするためには、コメントに対して片っ端から返信すれば良いかというと、そうではありません。問題や疑問に対してきちんとした回答であることはもちろん、誰にとっても居心地が良く、ゲームを介した双方向の繋がりを感じられるような“場”を構築することこそが、カスタマーサポートの本来の目的だと見直されるようになったのです。
スマートフォン向けゲームに限らず、家庭用ゲーム機向けのタイトルでも、人気を長く維持しているタイトルは、このコンタクトポイントのマネジメントが非常に優れています。
海外展開においても、カスタマーサポートはまず最初に取り組むべき課題となっています。異なる言語でもその国の文化に沿ったサポートを提供できるかどうかが、海外展開の成否を分けるポイントだからです。
海外ユーザーへのサポートを行うスタッフは、英語、韓国語、中国語などを中心に高度な言語運用力を備え、さらに、その地域の生活習慣やゲーム周辺の文化についても深い知識が問われます。日本のユーザーには好評だった応対が、他では全然通用しないというようなケースは多々あります。その度に改善を重ね、海外のユーザーが普段どんなカルチャーに触れ、どのようにゲームと向き合っているのかを常に研究してきました。
細かいことを言えば、ユーザーがゲームをしながら摘まむお菓子の名前まで知ろうとする、それほどの関心と敬意をもって接しなければ、海外での成功はあり得ないのだと思います。社内には海外出身のスタッフもいるので、その国で今人気のゲームを一緒にプレイしたり、言葉や文化の違いについて話し合っているのをよく見かけるんですよ。
もちろん、業務上の情報共有ではありますが、これが結構楽しくて(笑)。私も含めて、やっぱり皆、ゲームが本当に好きなんだなって実感しますね。
「神対応」について思うこと
カスタマーサポートのありようを考える時、「神対応」という言葉を避けては済まないでしょう。問い合わせに対する返信が琴線に触れるような文面であったり、通常では考えられないような格別の対応が行われると、「神対応」として話題になり、賛辞の声が相次ぎます。
そういった事例は、私も学ぶところが多く、ただただ感服するばかりです。でも、本当のことを言えば、「神対応」という言葉に、私は若干の戸惑いを感じずにはいられません。確かに素晴らしい応対だけども、手放しには喜べないような、そんな気がしてしまうのです。
「神対応」は、ユーザーの方々にとって、神の御業(みわざ)のように見えるのでしょうか。ですが、カスタマーサポートに「神さま」はいませんし、そのように振る舞いたいとも思いません。こちらで誰かを選んで便宜を図ったり、気まぐれで特別に願いを聞き入れてあげよう、なんて甘い気持ちで十分な応対ができるはずもないからです。
初心者もベテランユーザーも、皆等しく、私たちの大切なお客様としてお迎えしたい。私たちが目指すべきは、お客様の状況に適した対応を行うことだと思うのです。質問に素早く回答できるのも、ご要望がサービスにきちんと反映されるのも、奇跡や偶然などではなく、スタッフ全員の研鑽とユーザーを想う気持ちの上に成り立っています。
その一方で、私たちが全能の「神さま」ではないために、応対に不備があったり、サービス障害などの様々なトラブルが起きてしまうこともあります。場合によっては、今すぐ対策ができないこともあるでしょう。
しかし、カスタマーサポートは最後までユーザーに寄り添うことを諦めてはいけない仕事なのだと思います。何事も、仕方がない、なんてことは無い。そんな思いで時間をかけて少しずつ乗り越え、イー・ガーディアンはゲーム業界でトップレベルのサポートスタッフを何人も育ててきました。ゲームをプレイする楽しみとユーザーの幸せを決して諦めない、最高のサポートチームだと自負しています。
もし、皆さんが「中の人」や「サポートの人」から丁寧で的確な返信があったなら、その応対をした人はきっとそれまでに沢山の練習と失敗を積み重ねてきたに違いありません。ユーザーの期待に応えられなかったり、悲しい思いをさせてしまったり、そういう苦い経験を抱えながら、モニターの前で、今の自分に出来ることを懸命に探して返信をお送りしたのでしょう。私もまだ経験豊富とは言えない年齢ですが、やはり色々と思い出されることがあります。
ですから、「神対応」なんて大げさに褒めていただかなくても構わないのです。ただ、「ありがとう。これからもよろしく」と返していただけたら、その一言の温かさが本当に嬉しい。自分は確かに役に立てたのだと。これまでの苦心が報われるような、そんな気持ちになります。
ステージを降りる
クライアント企業の方々からは、「エンゲージメントを深めたい」「ユーザーのインサイトを知りたい」といったご相談をよく承ります。ユーザーのことは、ユーザーの近くで仕事をしている人に尋ねるのがいいだろうとお考えだとは思いますが、私たちにとってもそれは最大の難問です。
実は、ユーザーへの応対の中で、「こんな些細なことに応じてもらえるとは思っていなかった」と驚かれることが多々あります。きめ細かい対応が奏功したとも言えますが、翻せば、サポート窓口に連絡しても「ダメで元々」ぐらいにしか思われていないのかもしれません。声を張り上げてアピールしないと見向きもされない。ということは、まるで広いライブ会場の出演者と観客のように、私たちとユーザーの間にまだまだ距離があるのです。
私は趣味でバンドをやっているのですが、ライブハウスの中はどこにいても大音量で演奏が耳に入ってくるんですね。もちろん、熱心なファンは最前列にきてくれますから、ステージの上でも様子がわかります。でも、それはほんの一握りの観客です。大部分の観客にとって、爆音の中で演者にわざわざ声を掛けようとするのは、ちょっと気が引けてしまうのではないでしょうか。
そして、ステージに立つ側も、客席を眺めているだけでは、観客を理解するのは難しい。盛り上がっている雰囲気は何となく伝わってきても、どの曲をどんな風に気に入ってくれているのか、何がきっかけでチケットを買ってライブに来てくれたのかはわかりません。「エンゲージメントが浅い」「インサイトがわからない」という悩みは、この状況によく似ています。相手の本当の気持ちを知りたいのなら、演奏を一旦止め、私たちはまずステージを降りなくてはならないのです。
ステージを降りると、どうなるか。別に大したことはなくて、いつもの友達に戻るだけ(笑)。人気のロックバンドともなれば事情は違ってくるのでしょうけど、最前列で応援してくれていた観客は大体が私の友人・知人で、打ち上げではライブの感想を聞かせてもらったり、音楽や仕事の話をしたりします。
その時にはもう出演者と観客という関係ではなくなっていて、お互いに相手を友達だと思っています。一緒にいて楽しいし、悩みがあれば良き相談相手になってくれる、そんなどこにでもある、普通の友情です。
一瞬の、ゆるい友情を紡ぐ
「困っているときの友こそ本当の友」といいます。それなら、カスタマーサポートとは友情そのものだと言えるのではないでしょうか。もっとも、実際にお会いするわけではないし、会話も数回の往復で済んでしまいますから、“友達”と呼ぶにはあまりに短い人間関係かもしれません。しかし、それでも、相手のために良かれと願う気持ちが確かにあるのです。
ゲームのメンテナンスが始まると、「おつかれさま」「がんばって」「待ってるよ」と、いつも励ましの言葉が寄せられ、それが運営チームの方々をどれほど勇気づけているでしょうか。少年マンガのような激烈な友情ではないにしろ、一瞬の、ある意味、ゆるい友情は少しずつ厚みを増していきます。
サポート窓口でも、顔文字をたくさん使った楽しいメッセージを送っていただくことがあるんですよ。読んでいると、思わず笑みがこぼれてしまうような内容で、そういうときは私たちも顔文字を使って気さくにご返信しています。
だって、せっかく楽しい気持ちを伝えてくださったのに、マニュアル通りの「お問い合わせありがとうございました」なんて寂しいじゃないですか。“友達”にそんなそっけない返信は送れませんよ(笑)。
私は、“友達”のようなカスタマーサポートがあってもいいと、そう思っています。ゲームで困っていることだけではなく、楽しかったことも、嬉しかったことも、大好きなことも、他愛ないことでも、何でも気楽に話せるような、そんな関係です。そして、相手のありようを認め合い、ゲームと共にいつも楽しく過ごしていてほしいと願うこと。
そんな“友情”を紡ぐサポートサービスを実現するのが、今の私の夢ですね。
編集協力:森口拓海、撮影:岸波崇