2021年モバイルゲーム市場トレンド総括 『ウマ娘』ヒットの裏で募る日本市場への危機感

 2021年も新型コロナウイルスは私たちの生活に多大な影響を及ぼした。2月に新型コロナワクチンの接種が始まったものの、夏になって変異株「デルタ株」が猛威をふるい、感染者数は急増。医療体制は逼迫し、東京近郊は一時医療崩壊寸前に陥った。

 7月には緊急事態宣言下で東京オリンピックが開催された。開会式でゲーム音楽が起用されたことが話題となったが、ゲーム音楽が国威発揚のために――と言っても、相次ぐ不手際のせいでむしろ国威は減退するばかりだったが――都合よく利用されてしまったのは非常に残念でならない。

 ゲームを魅力ある輸出産業だと位置づけるならば、政府はもっと積極的にゲーム産業をサポートすべきだろう。好景気に見えるゲーム産業だが、ゲームに対する不当な規制やバッシングは未だに無くならない。人材育成、学術研究への投資も充分とは言い難い。

 このような種々の問題はゲーム会社の経営課題として扱われてきたが、今日の巨大化したゲーム産業においては一企業の努力によってどうにかなるような規模ではなくなってきている。オリンピックでの楽曲提供は各社の善意による貢献だったのかもしれないが、唯々諾々と応じたために政府との交渉のチャンスを逸したとも言えよう。

 来年以降、国内のゲーム業界各社は勝ち筋の見えない“冬の時代”を迎えることになるかもしれない。少なくとも今年の国内モバイルゲーム市場が厳しい展開であったことは、これから紹介するデータが示している。

 今や競合相手が日本の企業とも限らない。本格的なグローバル化に日本のゲーム会社はどのように対応したのか、あるいは対応できなかったのか。今年のモバイルゲーム市場を総括する。

企画・執筆:原孝則、神谷美恵

 

新作タイトルから見える市場トレンド

 一般的なマーケティングツールを使えばセールスランキングの順位はもちろん、売上高からユーザー属性、アクティブユーザー数までかなりの精度で推測できるようになった。

 しかし、それでも変化の激しいモバイルゲーム市場はトレンドを把握するのが難しい。特定のタイトルをデイリーで追跡しても市場のダイナミクスは見えてこないからだ。

 セールスランキングの順位は重要な指標ではある。だが、『モンスト(モンスターストライク)』が1位になったところで今更誰も驚かないように、定番タイトルが何回1位を獲得しても市場へのインパクトは案外限定的だ。そこから新しいトレンドが生じる可能性は低い。

 むしろ注目すべきなのは、今年リリースされた新作が、安定的な地位にいる人気タイトルにどれだけ食い込むことができたかという点だ。

 そこで本企画では、モバイルゲーム市場を専門とするリサーチ企業スパイスマートの協力のもと、今年リリースされた新作タイトルの中から有力なものを精選し、それらのセールスランキングにおける推移から市場トレンドを調査した。なお、データはすべてiOS App Storeの日本リージョンで取得したものである。

 スパイスマートが提供する調査ツール「LIVEOPSIS(ライブオプシス)」は、海外タイトルを含めて常時200タイトル以上の運営型モバイルゲームを対象に、ゲーム内施策とセールスランキングの推移を追跡している。

 さらに公式Twitterアカウントと公式YouTubeチャンネルの運用状況を可視化する新機能が実装され、ゲーム内外の主だった施策をセールスランキングと照らし合わせながら横断的に調査できるようになった。

 LIVEOPSISの追跡対象はアナリストの判断に基づいて毎月改定が行われている。セールスランキングで上位30位以内に初めてランクインしたタイトルの中から、ゲーム自体の完成度、マーケティングの実施状況、ユーザーのロイヤルティ(Loyalty)など様々な観点からアナリストが審査し、一定以上の評価を得たものだけが追跡対象に選ばれる。

 また、それまで追跡対象となっていたタイトルでも、一定期間内の順位が平均70位以下で、その他の審査項目でも低水準と判断された場合は調査が打ち切りとなる。したがって、LIVEOPSISを使えば、収益性と運営力に秀でたモバイルゲームにフォーカスを絞って、長期的な追跡調査を行うことができるのだ。

 

セールスランキングは順位の下落が激化

 2021年にiOS App Storeの日本リージョンでリリースされたモバイルゲームの内、LIVEOPSISの追跡対象として選抜されたのは26タイトルだった。その一覧と、各タイトルのリリース日から12月20日までのセールスランキング順位の月間平均を以下に示す。

▲2021年タイトルの追跡対象一覧(クリックで拡大)※レビュースコアは12/29時点のもの

 

 前回調査(2017年)と比較すると、全体的に順位の下落が激しくなっていることがわかる。

 リリース後3ヶ月間の推移を見ると、2017年では34本中8本が50位以内を維持できていたのに対し、2021年では26本中4本に留まった。また、100位以下に転落したことのあるタイトルは2017年では34本中9本、2021年では26本中14本にのぼった。

 リリースの翌月から徐々に順位が下がっていくという傾向は共通しているが、100位以下に低下するまでの期間は、2017年では平均でリリース後4.1ヶ月間だったのに対し、2021年では3.2ヶ月間と短くなっており、順位の下落ペースが上昇している。4年前と比べ、新規ユーザーの獲得と定着がより難しくなっているようだ。

 なお2021年の新作が2017年のものより面白さに欠けていたとは考えにくい。iOS App Storeでの評価は軒並み高く、どのタイトルもプレイしてみれば十分満足できる出来栄えだからだ。レビュー欄に「無課金でも楽しめる」「お金をかけてプレイする価値がある」といったコメントが寄せられていても、それだけではセールスランキングで順位を維持できないというシビアな現実がある。

 競争激化を示す一例が、スクウェア・エニックスの『NieR Re[in]carnation(ニーア・リィンカーネーション)』だ。

 同作は、2010年発売の『NieR Replicant(ニーア・レプリカント)』から続くニーアシリーズのフランチャイズタイトルである。リリース直後から同じフランチャイズタイトルの『NieR:Automata(ニーア・オートマタ)』(2017年, PlayStation4)とのコラボイベントを開催し、ニーアシリーズのファンを一気に取り込んだ。

 さらに公式チャンネルではコラボ施策を通じて『NieR Replicant ver.1.22474487139…』(2021年, PlayStation4、『ニーア・レプリカント』のリメイク作品)を紹介するなど、IP全体の活性化を狙ったプロモーションを打ち出した。

 リリース当初はこれらの施策が奏功し、あっという間にセールスランキングで1位を獲得。そのままトップ層の常連タイトルになると思われた。

 

 ところが、4月中旬頃からセールスランキングで100位以下に転落する日が多くなり、乱高下を繰り返しながら徐々に順位は下がっていってしまった。11月には市場への影響力を失ったと判断され、LIVEOPSISによる追跡が終了した。有力なIPを起用し、要所を押さえたマーケティングを展開してもなお、成功がおぼつかないのが現状だ。

 アニメ・コミックス系IPのタイトルはゲーム系IP以上の苦境に立たされた。

 『僕のヒーローアカデミア ULTRA IMPACT』(バンダイナムコエンターテインメント)、『コードギアス Genesic Re;CODE』(博報堂DYメディアパートナーズ)はどちらもリリース翌月には順位が急激に低下し、その後全く復帰できていない。

 『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 -魂の絆-』(スクウェア・エニックス)は、原作の「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」が1991年以来約29年ぶりに再アニメ化されたことで当初有力視されていたものの、現在まで低迷が続いている。

 早期にサービス終了へと追い込まれたタイトルもあった。

 『終末のアーカーシャ』(NETEASE)は初動が悪く、リリース後から半年でサービス終了が告知された(2022年2月14日サービス終了)。これは異例の早さである。

 本来、新作は初動が多少伸びなくとも構わないはずだ。時間をかけて認知を高め、ファンを増やしていくのが正攻法だからだ。にもかかわらず、配信元のNETEASEが早々にサービス終了を決定したのは、日本市場は正攻法が通用しないほどに厳しい状況だと見ているからだろう。海外では日本市場に対する危機感が密かに高まっているのかもしれない。

 

ゲームビジネスのバランス崩壊

 『ウマ娘プリティーダービー』(Cygames)による空前のヒットに市場は沸き立つばかりだったが、同作の成功はむしろ市場の行き詰まりを示唆していると言えよう。

 確かに『ウマ娘プリティーダービー』はあらゆる面でハイクオリティだ。だがそれは当然でもある。3年にわたる配信延期の末にリリースされたタイトルなのだから、抜群の出来栄えでなければファンが許さなかっただろう。

 膨大な開発遅延を抱えながら、TVアニメ、コミックス、YouTube番組、ラジオ番組、ファンイベントなど、多方面でのメディアミックスを展開し続けることができるのはCygamesをおいて他にない。『ウマ娘プリティーダービー』の成功は、Cygamesが勝てるまで投資を続けた結果であり、必然だったのだ。

 同社がメディアミックスに莫大な資金を投下したのは、それだけ競争が激しかったことを意味する。Cygamesの資金力には驚くばかりだが、そこまでしなければ、もはや国内モバイルゲーム市場ではトップ層に入り込むことはできない。競争の激化によって、チャンスよりもリスクが、利益よりもコストが増大し、ビジネスのバランスが崩れ始めている。

 国内モバイルゲーム市場が過当競争に陥った最大の原因は参入過剰だ。

 ストアには遊びきれないほどゲームが並んでいる。しかし、大抵の場合はすでにお気に入りのゲームが決まっていて、それもプレイを始めて数年が経つ。ゲームの内容にはそれなりに満足しているため、わざわざ新しいゲームをインストールする理由が見つからない。――このようなインサイトはデータにも表れている。

 LIVEOPSISの追跡対象のうち、セールスランキングの月間平均が30位以内だった月が3ヶ月以上あるタイトルは25本だった。その一覧を以下に示す。

▲LIVEOPSISの追跡対象のうち、セールスランキングの月間平均が30位以内だった月が3ヶ月以上あるタイトル一覧(クリックで拡大)

 

 上の表にあるとおり、セールスランキングのTOP30は『パズドラ(パズル&ドラゴンズ)』(2012年, ガンホー・オンライン・エンターテイメント)をはじめ、既存タイトルが名を連ねている。運営期間が長いタイトルはファンの定着化が進み、順位が安定的に推移しているのが見て取れるだろう。

 TOP30の常連タイトルは運営4年以上のタイトルが半数を占める。ということは、かなりの数のユーザーが長期運営タイトルに定着しており、プレイを継続しているタイトルに対して数年分の時間的・金銭的埋没コストを抱えていると推察される。

 新作がズルズルと順位を落としていってしまうのは、長期運営タイトルのロックイン効果が働くためだ。いくら魅力的な新作が出てきたとしても、ユーザーはなかなかスイッチングできない。プレイ継続期間が長くなるほど埋没コストは大きくなり、ユーザーはより強くロックインされる。

 つまり、今年よりも来年、来年よりも再来年、新作がTOP30に入り込むチャンスは少なくなっていくのだ。

 

来る“冬の時代”をユーザーと共に乗り切るために

 “冬の時代”を前に業界各社はどのような戦略を取りうるのだろうか。

 まず考えられるのは、非常にシンプルではあるが、コスト削減である。セールスランキングでトップ層にランクインできなくとも、低コストで開発・運営できれば毎月それなりの利益は確保できる。いわゆるハイパーカジュアルゲームのビジネスモデルだ。

 アカツキ、ポノス、カヤックといった企業がすでにハイパーカジュアルゲームに進出している(関連インタビュー記事)。ただしハイパーカジュアルゲームから得られる収益は1タイトルで多く見積もっても累計で数億円程度だろう。小規模〜中堅ディベロッパーがサブドメイン(副業)として営むのであれば割の良いビジネスと言えるが、大手ゲーム会社にとっては大した収益源にはならないかもしれない。

 もうひとつの戦略は世界展開だ。世界に打って出るのは決して簡単ではないが、日本市場で過当競争に巻き込まれるよりも、ワールドワイドでユーザーを増やしていく方がまだ賢明だろう。ハイパーカジュアルゲームが中小企業向けのやり方であるのに対し、世界展開は大企業ならではの戦略である。

 たとえば『Pokémon UNITE』は日本リージョンでの順位は高くないが、フィリピン、シンガポールなどの東南アジア地域と、チリ、ペルー、ベネズエラなどの南米地域ではTOP30に入り、好調を維持している。

 また、『Pokémon UNITE』はテンセントとの共同開発タイトルということもあり、中国でも期待が高まっている。中国政府の承認さえ得られれば、中国市場を席巻するタイトルになるに違いない。

 端的に言えば、2021年はモバイルゲームが売れなくなった年だ。ゲームビジネスに携わるすべての人々は来年に向けて気を引き締めねばならない。なぜなら、多くのゲーム会社にとってモバイルゲームは大事な収益源だからだ。収入が先細れば、当然経営は苦しくなる。ただゲーム会社の倒産や合併が起きるのはさらに数年先の話ではある。

 ゲーム会社の経営者は遣り手(やりて)揃いだ。キャッシュを蓄え、市場のマイナス成長に備えているだろう。しかし、時間も費用もかかる人材育成には消極的にならざるを得ない。確実に利益を得るためにラインナップは定番化し、イノベーションが起こりにくくなる。R&D部門は縮小され、技術開発も立ち遅れる。そうなれば、どんなゲーム会社ももはや単独で存続することはできない。

 ユーザーとのレレバンスを大切に扱い、ユーザーとともに生き抜く戦略を描けなければ、じきに淘汰されてしまうだろう。業界各社の実力が今最も問われている。

企画・執筆:原孝則、神谷美恵

 

※本記事の無断転載および改変を禁じます。webサイトや動画で引用する場合は、出典元として本記事のURLを必ず表示してください。また、本記事に掲載の文章またはデータを用いて収益を得ることを禁じます。

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原 孝則(Takanori Hara)
原 孝則(Takanori Hara)https://pickups.jp/
PIckUPs! 編集長。出版社で雑誌とWebメディアの編集を経験した後、大手ゲーム会社で多数のマーケティングプロジェクトに携わる。2015年にSocial Game Infoの副編集長に就任。2017年に起業し、独自のニュースサイト「PickUPs!」を立ち上げ、現職。

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