ゲーム業界に特化した動画広告サービス「Mr.GAMEHIT」取材、制作過程や市場課題からトレンドを探る

 

 2021年、インターネット広告媒体費は2兆1,571億円にのぼり、うち「動画広告」は5,128億円(前年比132.8%)と大きく伸長した。インターネット広告媒体費全体では、実に23.8%を動画広告が占めたという(電通調べ)。初の5,000億円を突破した動画広告市場だが、2025年には1兆465億円に達する見込みとなり、さらなる成長が期待されている(サイバーエージェント調べ)。

 そして、動画広告市場の拡大を背景に、ゲーム業界でも動画広告の存在感は年々高まりつつある。TikTokの隆盛を機に縦動画の需要が高まり、その他SNSを中心とした動画広告からの流入など、ゲームマーケティングにも変化が求められている状況だ。

 そうした折、メイラボの動画制作事業内から切り分ける形で2020年6月にスタートした「Mr.GAMEHIT(ミスターゲームヒット)」は、ゲーム分野に強い動画広告制作事業として業界内で注目を集めている。同事業は2022年9月に広告運用サービス「Mr.GAMEHIT AD」を正式リリース。訴求力の高い動画を数多く制作している動画制作サービス「Mr.GAMEHIT CR」と両軸で顧客のユーザー獲得をサポートしている。

 ゲーム業界の動画広告で最前線を走る同社の戦略・取り組みはいかなるものか。事業担当者である佐藤昭博氏、KASMARIO氏、牧野真児氏の3名にお話を伺った。

企画・取材:原孝則
執筆:森口拓海
撮影:岸波崇

 

ゲーム業界に特化した動画広告サービス

本日はよろしくお願いします。まずは御社のサービス「Mr.GAMEHIT」について教えてください。

Mr.GAMEHITは「地球上をゲームプレイヤーで満たす」をミッションに、ゲームを愛するガチなゲーマー集団が、動画広告における企画・戦略から制作・分析・クリエイティブ・運用・改善まで一気通貫でご提供するサービスです。

過去5,000本以上の制作ノウハウをもとにした「動画制作」と、ゲームプレイヤー心理を理解した分析を行う「広告運用」を通じて、CTR・CPAなどを改善し、ゲームプレイヤー数の増加をサポートしています。

「ゲーマー集団であること」、「ゲーム業界に特化していること」、そして「成果の出る動画広告」という3点が強みとなっています。具体的な実績として、過去にはCTR 2倍、CPI 40%削減を達成しています。

※「Mr.GAMEHIT」によるゲーマーの定義は、「10ジャンル以上のゲームをプレイしたことがある」「30タイトル以上のゲームを各100時間以上プレイしたことがある」「1タイトルのゲームを1000時間以上プレイしたことがある」 の全てに該当する者(アナログゲームを除く)。

【Mr.GAMEHIT 事業部 責任者 / ディレクター 佐藤昭博 氏】ゲーム動画広告制作では過去5,000本以上のディレクション経験あり。短尺動画で最大の効果を出すことを得意としている。好きなゲーム:Apex Legends。

ゲームの動画広告を制作するだけでなく、広告運用面でもレポーティングを行って、成果改善に取り組んでいらっしゃるのですね。

はい。動画広告を扱うサービスでは、その成果までは見ないことも多いのが現状ですが、広告をただ用意するだけでは価値提供として少し意味が浅いと考えています。重要なのは動画・クリエイティブの運用において成果を見ることで、本質的な改善に繋げていくことです。

▲「Mr.GAMEHIT」紹介動画

 

ゲーム配信歴12年以上や、元ゲーム開発者らが在籍

Mr.GAMEHITの強みのひとつである「ゲーマー集団であること」は、実際のチームメンバーの構成にも表れているのでしょうか。

はい。そもそも私は前職から制作会社に在籍し、複数の大手広告代理店のクリエイティブチームを担当していました。多くのゲーム動画広告を制作し、なおかつ成果を出すことにもこだわってきました。KASMARIOも同様のキャリアを積んでいます。

ええと、クリエイティブリーダーを務めていらっしゃるのは、その「KASMARIOさん」でしたよね。

はい。あ、なぜそんな名前なのか疑問ですよね(笑)。

その辺りをお伺いできればと思います(笑)。

私はもともとニコニコ動画を中心にライブ配信をしており、そのときに使っているハンドルネームが「KASMARIO」です。ゲーム実況をはじめ、クリアまでのタイムを競うRTA(Real Time Attack)など、かれこれ配信歴は12年以上になります。

【Mr.GAMEHIT 事業部 クリエイティブリーダー KASMARIO 氏】ユーザーの期待に沿えるクリエイティブ制作を得意とする。ゲームのクリアスピードを競う競技「RTA」で世界記録を6タイトル取得しており、ゲーム配信者としても活躍中。好きなゲームジャンル:FPS、音ゲー、アクション。

12年! ゲームの腕前はもちろん、知識や魅力の伝え方までまさに「ゲーマー集団」の筆頭ですね。

前職では数千本ほど制作してきました。そのおかげで動画制作のノウハウや制作スピードも上がったと思います。

なるほど。牧野さんもおふたりと同じくディレクター、およびクリエイターとして参加されていらっしゃるのですね。

はい。私はもともとゲーム開発をしていた経験があります。 Mr.GAMEHITでは、ゲーム開発者としての知見も活かしてディレクションに臨んでいます。

【Mr.GAMEHIT 事業部 ディレクター / 動画クリエイター 牧野真児 氏】ゲームの制作経験を持ち、ゲームの訴求ポイントを見つけることを得意としている。 何を食べても美味しいと感じる安舌を持っている事が自慢。好きなゲーム:美少女ゲーム、FPS、TPS、テーブルカードゲーム。

みなさん、クリエイティブの制作経験が豊富なクリエイターだけでなく、ゲーム業界に直接関わりのある開発者だったり、コアゲーマーなストリーマーだったりすると、Mr.GAMEHITが謳う「ガチゲーマー」というのは伊達ではありませんね。

 

動画広告制作のインハウス・アウトソースの是非

Mr.GAMEHITを利用している企業の声を聞くと、皆さんが「早い」、「安い」、そして「クオリティが高い」と、三拍子揃った評価を行っているのが印象的です。特に納品までのスピード感(最短5営業日)に関しては、こだわりを感じます。

そうですね。スピード感を求められるのは広告代理店に携わっていた経験上、強く感じていたところです。「動画が欲しい」となったときのお客様の感情としては、やはり「早く欲しい」ですから。そのニーズには応えていくべきだと思っていますので、スピード感は重視しています。

納品の早さとクオリティの高さは、どのように両立させているのでしょうか。

5,000以上の制作実績を活かして、経験をナレッジ化する仕組みを構築しています。あとは、50項目以上のチェックリストで品質を管理しています。

そのチェックリストには、どのようなものがあるのでしょうか。

「トンマナが合っているかどうか」、「ユーザーの視聴体験に基づいて動画を見ているか」、さらにモバイルで映る広告であれば「実際にモバイルからクリエイティブを確認しているか」というものなどさまざまです。

 

マニュアル化が出来ていると。

いえ、ガチガチのマニュアルに落とし込んでいるというわけではないですが、チェックリストを活用して品質を担保しつつ、効率的な制作フローで時短することによって、比較的高速で作ることが可能になっています。

なるほど。「動画制作」と「広告運用」に関しては、セットで依頼されることが多いのでしょうか。

最初は、「直近で使用するクリエイティブが欲しい」というご依頼が多いですね。そこから、「納品されたクリエイティブを用いて運用をやってみたい」と発展していくことが多いです。逆に、「広告運用だけやってほしい」というご依頼のパターンもあります。

制作における料金というのは。

最低5万円から発注が可能です。

お手頃ですね。そこからは本数や、秒数によって変わってくるのが主でしょうか。

はい。まず、絵コンテをこちらで作るかで大きく料金が変わってきます。絵コンテなど構成案をいただくと、その分の工数や予算も抑えることができます。ただ多くの場合、絵コンテの段階から発注されることが多いですね。

いわゆる中小の方、なんなら個人の方でも発注できる価格帯なのが驚きです。

実は最近ですと、インディーゲーム事業者の方からのご相談も増えていて、実際に納品するケースが多くあります。費用感的にも一番手を出しやすいので、「広告を試してみたいのに、まだクリエイティブがない」という方にご依頼いただくパターンが多いですね。

特に、ユーザー獲得にはデジタル広告からプロモーションに入るのが一番やりやすいので、まずそこを試してみたい方が多いです。あとは、大手の上場企業がこれから出すカジュアルゲームでも、「(動画広告の)ノウハウがないからやってほしい」というご依頼もあります。

 

たしかに、ここ数年はハイパーカジュアルゲームの波が来ていますが、上場企業でも少人数のチームをつくって、グローバルで1位を取りたいという動きがあります。ただ、広告運用が必須な点で、ノウハウがないというパターンは大いにありうる話ですね。

それから、動画広告の制作をインハウス化(内製化)する取っ掛かりとして利用するケースも増えてきています。

今までの大手では、代理店に制作から運用までを全部丸投げすることが多かったのですが、「自社で(動画広告の)制作・運用のチームを作ってノウハウを蓄積したい」という企業が増えてきています。チームを立ち上げるための知見を得るために、まずはMr.GAMEHITをチームに加えるという流れです。

動画広告を自社で制作・運営する場合と、Mr.GAMEHITのような専門のサービスにアウトソーシングする場合、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

自社制作のメリットは、「ゲームへの愛をクリエイティブに盛り込める点」が最も大きいですね。あとは何より、アウトソーシングした場合だとクリエイティブやKPIを確認するやり取りが必要になるので、自社であれば権利確認なども含めて素早く行えるところがメリットと言えます。さらに、制作原価を抑えられる可能性もあります。

一方、アウトソーシングでのメリットだと、業界における他タイトルの実績や、類似しているタイトルの実績を持っているので、自社運用だけでは得られない知見を取り入れられたり、最適なクリエイティブを制作できるところが挙げられます。また、PDCAを正確に回せるところもメリットですね。

 

そして、自社で行う場合に陥りやすいこととして、クリエイティブを制作した際に、どうしても客観的な訴求の確認が抜け落ち、自社のゲームの一番良いと思っている要素でクリエイティブをたくさん作ってしまうことがあります。これが自社制作のデメリットで、逆に制作原価が高くなる可能性すらあります。

ゲーム会社の視点で一番良いクリエイティブになっていると思っていても、客観的に見ると「実は他のシステム・キャラクターの方に訴求力がある」というパターンがあったりするので、アウトソーシングであれば客観的な視点を持つことができます。

もちろんアウトソーシングにもデメリットはありまして、制作意図や目的の丁寧なすり合わせが必要ですし、Feeが追加で発生し、制作単価が上がるケースもあります。

 

実際にPickUPs!のサービス動画をもとに制作フローを公開

次に事例を踏まえながら、制作フローについてもお伺いします。動画広告はどのような手順で制作を進めていくのでしょうか。

まずはお客様のヒアリングから始まります。その後は「該当タイトルがどういうユーザーに訴求できるか」という観点から、ジャンルやゲーム性の分析を始めます。

 

では、実際にそのゲームを遊ぶと。

はい。たとえば、アクションゲームであれば派手なシーンが多いので、映えそうなところは積極的に使用します。ただ、無闇にシーンを選出するのではなく、「このゲームの一番訴求したいところ」、「このゲームだから魅力に感じるところ」を深掘りして、そこを丁寧に見せるようにしています。

それから、制作するクリエイティブが横画面なのか縦画面なのかも重要です。横画面であれば、周りの余白を最大限に生かして、ゲームの雰囲気を全面に出しつつ制作します。

【事例:Koch Media『SAINTS ROW』】派手なシーンが多いゲームのため、大画面で迫力のあるシーンを厳選しつつ、映画の予告のように制作している。家庭用ゲームの販売がメインなので横画面で制作。世界観を壊さない程度の演出も加え、よりゲームタイトルに合った動画に仕上げたという。

【事例:ふんどしパレード『バズーカ・ロワイヤル』】スマートフォンで遊べる縦型の動画で制作。縦型を考慮した動画クリエイティブを意識している。対戦ゲームであるため、白熱を感じる演出に。突然広告が流れてきても、数秒でゲーム全体の雰囲気やキャラクターの魅力が伝わるように構成されている。

 

まず前提として、動画広告はほとんどのユーザーにとって突然出てくるものですよね。本来見ているコンテンツから外れて「ながら見」の状態で見られるものですから、最初の2.5~3秒で離脱してしまいます。だから、全ての動画に共通の意識として、最初の2.5秒を一番作り込まないといけません。そこでゲームの味を出せる要素があれば、絶対に採用していきます。

なるほど。ディレクターは、ひとりで複数を担当されているのでしょうか。

はい。基本的にはディレクターが絵コンテを切り、その後にクリエイターと一緒に話し合いを挟みます。そこからお客様に確認して、問題なければ編集・チェックに入るという流れですね。

【Mr.GAMEHITの動画制作フローまとめ】

弊誌「PickUPs!」の動画を特別に制作いただいたので、こちらの制作過程も併せてMr.GAMEHITの動画制作フローをまとめていく。

①クリエイティブ分析
まず打ち合わせ前にヒアリングシートを記入してもらう。そのヒアリングシートを元に実際に打ち合わせをして内容を確認しつつ仕様を決める。その段階でスケジュールも作成する。

▲実際の弊誌の動画制作では、佐藤氏らがヒアリングシートを確認しながら、動画の構成や仕様などの方針を固めていった。

②企画・訴求ポイント選定
その後に内容に基づいて該当タイトル(サービス)の訴求軸などを選定。

③構成(絵コンテ)
構成案をクライアントに確認してもらった後、可能な場合はゲームデータを提供してもらい実際にプレイする。この段階で新しい発見があった場合はそれを構成に反映させる事もある。

▲実際に制作いただいた絵コンテの一部。

④素材収集
プレイ動画は基本的にMr.GAMEHIT側で録画。ゲームの面白い部分を実際にプレイしているからこそ出来る部分として、訴求軸、構成に合わせて一番良いと思った部分を採用する。

⑤動画編集
素材が揃ったらクリエイターと打ち合わせして実際に編集に取り掛かる。出来上がった動画をディレクターが確認して、その後にクライアントに提出して確認。フィードバックなどあれば修正して納品という流れ。

そして完成したのがこちらの動画!

 

⑥改善提案
納品後も制作動画の成果を分析して、今後のクリエイティブ改善方針を提案。

【スケジュール】
・最短5営業日で納品
・15秒の動画だと6〜8営業日

※なお、今回は東京ゲームショウ2022の出展の際に、来場に向けて配布していた「ゲームの動画制作 1本無料キャンペーン」枠で動画を制作して頂いた(現在はキャンペーン終了)

 

では広告運用の方もお伺いできればと思います。運用フローに関しては、掲載期間中の成果は全部見てレポーティングをすると思いますが、アフターフォローなども行うのでしょうか。

掲載期間が終わったとしても、該当アプリに流入したユーザーがどう行動していたかは数週間かけて(お客様に)トラッキングしていただいています。その報告により、広告の掲載が終わっても改めてレポーティングをするというサービスがあります。

インストールだけでなく、流入したユーザーがロイヤルユーザーかどうかまで見られていると。

はい。インストールはただの窓口なので、その先のチュートリアル突破から課金までをきちんとトラッキングしていきます。最終的なKPIなどは該当タイトルが成長期なのか、停滞期なのかで若干の違いが出てきますが、基本的にはセールスを上げる、ロイヤルユーザーを増やしていくことになります。

運用方法については、クライアントの要望でカスタマイズが出来るのでしょうか。

もちろんです。今の動画広告の配信先となるメディアは、YoutubeとTwitter、TikTokがメジャーのため、よくあるご要望として「TikTokのユーザーをもっと獲得したい」というお話が挙がります。その場合は、TikTok用にカスタマイズされたターゲティングやクリエイティブをご提案します。

 

やはりメディアによって提案するクリエイティブは異なってくるのですね。

そうですね。ここは特に広告運用でおさえておくべきポイントです。たとえば、TwitterとTikTokでは、前提として再生する際の音の有無が違います。TikTokでは基本的に音ありで再生されますが、Twitterではタップもしくはクリックしない限り音が再生されません。こうしたメディアの違いを理解して制作に臨むのは重要ですね。

 

ゲーム好きだからこその「こだわり」

改めてMr.GAMEHITが作る動画広告には、どのようなこだわりがあるのでしょうか。

Mr.GAMEHITは、実機でゲームをプレイすることを意識しています。当たり前のことかも知れませんが、ほかの量産体制を敷いている制作会社の場合、ただPVなどの資料を寄せ集めて構成することがままあります。やはりコンテンツに対しての理解が浅いと、お客様にとっても「クリエイティブが微妙」と感じられてしまう可能性があります。

またMr.GAMEHITでは、本当にゲーム好きが集まっています。私個人でいえば、開発者目線でそのゲームの魅力や面白いところを見つつ構成案を作ります。そして一番刺さるキャッチコピーや言い回しを模索しつつ、構成したものを先方とすり合わせ、実際にKASMARIOや制作チームに依頼して、最適解の演出を探します。

その際に、ディレクション側で一コマずつ細かく指示を出す、といったことはなく、ある程度クリエイターの個性に任せています。それで完成したものは、毎回最高なものなので。フローのどの段階にしても、ゲーム好きという目線から見ているので、どこにもズレがない。これが良い物が出来る秘訣なのではないかと思っています。

 

弊社は全員がゲーマーなので、この辺りの価値観は一致しています。そのため社内の制作会議も短時間で済みます。前述のことを共通認識として持っているため、すぐに作業に進むことができるのです。

「全員がゲーム好きだから行き着く先が同じ」。細かな指示出しがなくとも、結果的にクリエイティブの最適解に繋がっているのが面白いですね。そういえば、先ほどチェックリストの話をした際に、「マニュアル化」という表現をやんわり回避していらっしゃいましたね。

ええ。実はクリエイティブに関しては、言語化が難しいのが正直なところです。つまり、マニュアルなどで言語化したところで、再現性がない。

基本はコミュニケーションでカバーしつつ、あとはクリエイターの感覚で作っています。そのクリエイターがゲーマーなので、自分たちがやりたくなる広告が出来上がると、ユーザーも必然的にゲーマーなので、やりたくなるものに仕上がるということですね。

最終的には、「自分たちがやりたくなる広告」を作るということが、判断基準の最低ラインになるということでしょうか。

そうです。それが最低ラインですね。

「自分たちがやりたいか」という基準を重要視しているのは、私の経験にも基づきます。

実は私がゲーム実況している際に、自分が思っていたことを配信で言うと視聴者の方が「わかる~!」と好意的な反応を示してくれたのです。それはつまり、共感です。そのときの経験から「ユーザーと自分の感覚が一致することはポジティブに作用する」ことを学び、現在の制作にも活かされています。

それから、ご依頼いただくお客様のオーダーと、成果が出る動画は異なることもあります。たとえば開発者としてはここを使ってほしい、あるいはカッコよく見せたいという気持ちがあって「ビジュアルの良い動画」をオーダーされたとしても、それだけで実際にユーザーが集まるかというと、そうでもない。

お客様から言われたことをその通りに作ることが一概に良いという訳ではなく、我々なりの成果の出る分析を当て込んだ動画を制作して、ようやく完成します。だから、そういう時は積極的に提案させていただいております。

そして、実際に作る際は、ビジュアル面などの要望も叶えつつ、成果の出るものになるように頑張ります。

みなさんが持つこれまでのノウハウを活用して、最適解になるよう提案していくと。

その観点で言うと、お客様は自社のゲームのデータしか持っていないわけですよね。複数タイトルを持っているところもありますが、自社の運用しているゲーム、運用しているジャンルのデータしか持っていないので、動画広告の運用に関しても同じです。

でも弊社の場合、多種多様なジャンル、大手・中小などの企業情報、バラエティに富んだタイトルのデータを保有しているので、より最適解がわかっている。そこでお客様には、弊社のデータに基づいて、こういう動画を作らせていただきたい、という提案をします。

事例を見る中で、本当にスピード感と費用感が早くてかつ安いですよね。例えば、StudioZの『SHAMAN KING ふんばりクロニクル』の事例では、プロジェクト期間が2週間、ふんどしパレードの『バズーカ・ロワイヤル』に至っては1週間と短いです。

 【事例:StudioZ『SHARMANKING ふんばりクロニクル』】原作が漫画のゲームなので、漫画の一ページの様なレイアウトに。キャラクターが魅力的なので前面に押し出し、プレイ動画と演出を加えて完成させたとのこと。近年、映像クオリティの高いゲームが出てきており、このタイトルもその一部。プレイ動画とマッチする装飾や演出を意識して制作している。

 

短期間のスケジュールで実際にゲームをプレイして、クリエイティブを制作して……となると、みなさんの中で作業工数のバランスを取るのは相当に大変なように思うのですが。

納得のいくものを制作したいというのは全員共通なので、もしクリエイティブを優先するのであればもうそれは相談ですね。「時間を掛けるだけの価値があると思いますがどうでしょう」という感じです。

スケジュールに関する交渉は本当によくしますね。この期間くらいは、魅力を洗い出すまでの時間として絶対に必要だ、という話をします。

 

あとは、そのゲームのすべての要素を扱おうとすると、全体を把握することが難しくなるので、一部の要素を全推しで行く、みたいなことはあります。

お話を聞く限り、案件ごとに臨機応変な対応をされている印象があります。今までに起こった突発的な追加用件などに対して、なにか対応したエピソードはありますか。

急遽、動画にナレーションが必要になり、パートナーシップを結んでいる声優事務所の声優さんのサンプルをお客様に送って、「この方どうですか」とご提案したことがあります。

声優事務所とパートナーシップを結んでいるのですね。普通であれば声優さんのスケジュールをおさえてボイスを録るとなると、かなり工数が掛かりそうなことですが、迅速に対応することができたと。

はい。弊社でご依頼できる声優さんは多くいらっしゃいます。収録方法はクラウドで音声だけをいただくパターンとスタジオで収録をするパターンの2つを使い分けています。やはりスピード感を求められるので、音声だけいただいて納品することが多いですね。

ほかにも、用意された素材がPV一本や画像一枚しかなかったのですが、なんとか柔軟に対応したこともあります。画像一枚からは30秒の動画を作ったのですが、その画像からなんとか雰囲気を抽出して、デザインからレイアウト、配置などをゼロから制作しました。結果、お客様にはご満足いただけたので良かったです。

素材が少ないのは大変ですね。しかし少なくとも、PVひとつ、画像ひとつあれば、試行錯誤しながら対応はできると。

さすがにゲームの概要を伝えるものがなにも無ければ難しいですが、ゲームを伝える要素として極端な話、画像一枚あればゲーム広告として機能させるものは作れます。

 

動画広告のトレンドは「TikTok」を含む縦動画

ゲームの動画広告は今後、どのようなクリエイティブがトレンドになっているのでしょうか。

メディアの消費行動変化に合わせて、広告クリエイティブも短尺が主流になってきています。2~3年前までは15秒くらいの尺で「ゲーム概要→詳細→CTA(行動喚起)→ゲーム内イベントのぶらさがり」という構成が多かったですが、短尺化と機械学習により、1要素(キャラ/イベント/ゲーム概要)とCTAで数を増やす事が多くなってきています。

短尺になっている分、ユーザーに認知させたいポイントが絞れているか、そのポイントが良質ユーザーの獲得に繋がっているかが重要視されます。

また、TikTokに配信する際はUGC(ユーザー生成コンテンツ)風の広告も増えていますね。もともとツール系アプリで多く見られた形式ですが、最近ではゲーム広告にも定着しています。

トレンドとして、出稿数はTikTokが一番多いのでしょうか。

はい。ただ、全体のバジェットで言えばGoogle、Youtubeが一番多いです。

動画の形についても、TikTokの隆盛やInstagramのリール、Youtubeのショート動画によって、縦動画が今後ますますトレンドになるのではないかと思います。弊誌でも縦動画をサイトに導入したのですが、Mr.GAMEHITが手掛ける案件も縦動画が増加しているのではないでしょうか。

おっしゃる通り、縦動画広告の制作は増えてきていますね。Youtubeでは動画を視聴する際に、縦型の動画広告を観るときだけ画面が切り替わる配信システムにも対応していますから、今後も縦動画は増えてくるでしょうね。

 

しかしながらTikTokを見ていると、Twitterと同様の(横画面<または正方形>の)広告をベタ貼りしている動画も多いので、意外と縦動画のクリエイティブを作ることが浸透していないイメージもあります。

そこにはひとつ分水嶺があると思っています。動画を作るときはまず横画面で制作し、そこから縦画面にリサイズしていくので、ある程度の工数が発生していきます。そうなると実は、縦画面にリサイズするよりも、横画面を縦画面にあてはめるベタ貼りで作る方が本数を多く制作できる側面があるので、どちらがいいかというのはケースバイケースで相談するところですね。

 

「詐欺広告」は断固反対、Mr.GAMEHITらしい訴求を

最近では「実際にプレイしてみたら全然違う内容のゲームだった」という動画広告が増えてきています。主に海外発のタイトルに多く、ユーザーからは「詐欺広告」と揶揄されています。市場調査を行う米Sensor Towerの統計では、一定の効果が出ていることも明らかになりました(関連記事)。一方、日本のタイトルは詐欺広告を制作してない印象です。

▲画像はSensor Tower「《2022年全球手游广告投放趋势洞察》- 解读美日韩及东南亚市场最新的手游投放趋势及热门广告素材」より。広告の内容では、「広告内のデモプレイで失敗例を示し、ユーザーのプレイ意欲を掻き立てる」タイプのクリエイティブがメジャーになっている。また、一部のゲームでは、実際に存在しなかった「ピンを抜くパズル」を広告で見せて話題となり、後からゲーム内に実装するという事例もあった。

 

我々は「詐欺広告」に関しては断固反対です。

 

今はゲームの動画広告を制作する立場ですが、もともとゲーム業界の発展を見ることを信念として持っているので、考えられないことですね。

何より「詐欺広告」はゲーム開発者に失礼ですし、ゲーム業界の発展にも良くない。「ゲームは目に悪い」のように、10年、20年前に根拠なくゲームが悪者として扱われていた時代に戻ってしまいかねないですよね。

あれは、日本と海外の考え方の違いだと思っています。実際に効果が出ているという事例もあるのであれば、たしかに一概に否定できるものではありません。

ただ、そういう成功事例があることは受け止めつつも、「本当のゲームの魅力を伝える」という我々らしい方法で対抗していくという意味で、結論として「やらない」というだけです。

「詐欺広告」もそうですが、英国や韓国で組織されている広告協議会で、ゲームの広告についてのガイドラインが制定される動きが出てきています。英国では、実際に某モバイルタイトルが不適切であると取り締まられる件もありました。そのときは主にキャラクターの露出があまりにも激しい「性差別的」なものや、ジェンダー・ステレオタイプなものが対象となっていました。

【関連記事】
韓国GSOKが「ゲーム広告自律審議基準」を公開 不適切な表現やゲーム内広告の表示方法などを提示し自律規制活動を本格化
英・広告基準協議会(ASA)、「ジェンダー・ステレオタイプ」及び「性差別的」なモバイルゲーム広告3件を取り締まる

広告はゲームを遊んでいない人を含めた、さまざまな人の目に触れるものですから、行き過ぎた表現になると、KASMARIOさんがお話したように、ゲームに対して「すごく不適切なもの」という印象を人々に与えてしまいかねない。その辺りはみなさんも倫理を持って制作に臨んでいる気概を感じました。

そもそも詐欺広告や過激すぎる広告だとゲームは長続きしないと思います。それに、お客様が本当に欲している成果とも別物になってしまう。

 

炎上効果も、ひとつの広告効果と見ることはできますが、一過性の効果でユーザーが入ってきても、だいたいの人はすぐに離脱してしまう。そうなるとゲーム自体の寿命も短くなってしまうので、本末転倒みたいな結果になってしまいます。ゲーム本来の楽しさや中身をブレさせてしまうという意味で、求めている成果にはたどり着けません。

まさにその通りですよね。

そのゲームのコンセプトとして、「半年運用できればいい」のであれば、ユーザーを初動だけ増やすのに効果的ではあるかもしれないですけどね。それでも、ユーザーがプレイして「実際に思っていたのと違う」となったら、課金することはないでしょうし、長く遊んでもらえないでしょう。

今のところ、弊社にご依頼いただけるお客様は「ゲーム好きを感化させたい」「ゲームを長く続けてもらえるユーザーが欲しい」といった芯に迫った部分のお話をしてくださるので、詐欺広告を作ってくれという話はありませんね。

現在、一般論として、「詐欺広告」の流行やワンパターンな訴求方法によって、ユーザーの動画広告への印象はあまり良くないですよね。ですが広告は本来そういうものではなくて、内容によっては流入だけではなくて感動を与えることもできますから、みなさんのクリエイティブが、市場を浄化するきっかけになることを願っています。

 

2023年はMr.GAMEHIT ADの認知獲得を目指す

最後に、今後の展開とロードマップについて教えてください。

我々は「地球上をゲームプレイヤーで満たす」をミッションとして掲げており、それを達成するための手段として、現在はゲームの動画広告でNo.1を目指しています。

その目標のもと、2022年9月には「Mr.GAMEHIT AD」という広告運用サービスを正式リリースしました。東京ゲームショウへの出展でも大変好評でした。直近ではこれに注力して、2023年も認知拡大を目指してまいります。

また、インディーゲーム開発者の方もお気軽にプロモーションを始められるようなプランも検討しております。それ以外にも、「Mr.GAMEHIT BLOG」や公式Twitter(@Mr_Gamehit)では、再現性のあるゲームのマーケティングノウハウを惜しみなく定期発信中ですので、是非ご覧になっていただきたいです。

本日はありがとうございました。

 

企画・取材:原孝則
執筆:森口拓海
撮影:岸波崇

この記事が気に入ったら
いいね ! お願いします

Twitter で
原 孝則(Takanori Hara)
原 孝則(Takanori Hara)https://pickups.jp/
PIckUPs! 編集長。出版社で雑誌とWebメディアの編集を経験した後、大手ゲーム会社で多数のマーケティングプロジェクトに携わる。2015年にSocial Game Infoの副編集長に就任。2017年に起業し、独自のニュースサイト「PickUPs!」を立ち上げ、現職。

PickUP !

シリコンバレー銀行破綻、長期的には日中印の海外進出に影響か?

ハイリスク・ハイリターンなゲームビジネスにとって、シリコンバレーバンクはかけがえのない支援者だった。今後ゲーム業界ではどのような影響があるのか。

急成長のNextNinjaが全職種積極採用! 代表・山岸氏が本気で求める人材像とは

[AD]飛躍の時を迎えつつあるNextNinjaは今、全力で新たなチャレンジャーを探している。「全職種積極採用」を掲げる組織戦略と、求める人材像とはいかなるものなのか。代表の山岸氏に直接話を聞いた。

【特集】ポスト・メディアミックス時代で躍進する中国、カギは放置ゲームと安心感

2022年のモバイルゲーム市場を分析。『ウマ娘』以降のポスト・メディアミックス時代において、中国系パブリッシャーが躍進した背景とは。

Related Articles

Stay Connected

TOP STORIES